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クラン命名

 最初に声を上げたのは小松茶々だ。


「じゃあ《一年四組》で! シンプルイズベスト!」

ド直球(ストレート)にもほどがあるだろ」

「分かりやすいけどぴんとこないかな」

「えー!」


 近くに座っていた松永匠と黒崎勇人が否定的な意見を口にすると、茶々は不満そうに口を尖らせた。


「それなら《一年四組の愉快な仲間たち》はどうでしょう~?」

「よりダサくなってる!」


 東海林翼が案を出すも、すぐに駄目だしされる。

 続いて、因幡七曜が立ち上がった。


「安心しろ。我らの銘は既に考案済みだ。《天命背負いし災禍の使徒》――これより相応しい銘はない」

「中二っぽい語句適当に並べんな。天命と災禍の要素どっから来た」

「それに天命背負いながら災い振りまくの意味分からなくないですか?」


 天麗は仰々しい言葉を並べただけのアイデアを、ばっさりと斬り捨てる。そこへ宝田三雄が追撃をすると、因幡は落ち込んだように大人しく座った。


「《樹神迷宮産業》はいかがでしょう。僕が最初に起業する会社としては、名前はシンプルな方がいいですからね」

「なんでお前の名前冠してるんだよ。あと会社設立するわけじゃねえ」

「それだと貴様が代表者のようではないか。誰かの名前をつけるなら他に相応しい者がおると儂は思うがの」

「そうだ! 代表者を選ぶなら白坂先生以外にはいませんから、先生の名前をつけませんか? 菖蒲を英語にして《アイリス》というのはどうでしょう?」

「そ、それはちょっと恥ずかしいです! 教師権限で却下します!」

「《累月ver.2.0》で」

「手抜きすんな。デリアさん怒るぞ」


 樹神透、夏目緑、図師心が立て続けにアイデアを出すが、いずれも何かしらの反対意見が出された。生徒はああでもない、こうでもないと話し合う。


「トワは何か思いついた?」

「いや、全然。こういうネーミングセンスには自信なくて……」


 永遠も何か思いつこうとしたが、一つも浮かばなかった。ゲームでユーザーネームを考えることとは違う、責任ある仕事だ。手を抜けないというプレッシャーばかりが先立ち、思考を前に進めさせなかった。


 そこへ一石を投じたのは水城杏樹だった。


「ええと、それなら悠城学園からとって《悠城》というのはどうでしょう?」


 悠城。それを聞いて永遠は学園の名前を意識したことはあまりなかったなと思った。入学式の日に異世界へ飛ばされたせいで馴染みが薄いからだろう。彼に限らず生徒の多くはそうだった。違うのは担任教師の菖蒲くらいだ。


「《一年四組》ほどじゃないけど安直に思えるわね」

「でも、私たちを象徴する名前にはちょうどいいんじゃないかな?」

「なら、悠城に何か言葉を足してみる?」

「そのまま使うんじゃなくて少し変えるってこと?」


 湧井穂菊のグループが挙げた“悠城”の単語を基に新しい名前を考えるというやり方は、すぐに周りへ浸透した。一から考えるよりも中核となる単語から想像を膨らませていく方が、ずっとやりやすかった。


「悠城、悠城……悠と城か。何かいい単語ないか?」

「できればかっこいい名前が良いよな」

「ちょっとくらい気取った名前をつけるのも悪くないんじゃない?」


 永遠が考えあぐねる隣で、歩は発想力を巡らせた。己の感性を最大限発揮するのは彼にとって久方ぶりのことであり、歩は気合を入れて脳を働かせる。

 歩は何気なく食堂を辺りを見回した。クラスメイトは皆話し合ったり、思考に没頭したりしている。そんな光景を視界の隅に流していると、菖蒲の姿が目に入った。

 その時、彼は菖蒲の名前から着想を得て名付けようとした緑の発言を思い出した。


「名前……言い換え……」


 歩の呟きを、永遠が拾った。


「どうした帆足?」


 歩の顔がぱっと明るくなった。それは彼の頭に最高のアイデアが灯ったことを意味していた。


「《悠久の城》ってのはどう?」


 クラスメイトたちは一斉に歩の顔を見た。


「《悠久の城》? 悠に一字足して、後は城をくっつけただけか。文字だけ見ると悪くない気がするけど……」

「なんで悠久なんだ?」


 織田晴臣が吟味している横で、天麗が単語の選定理由を訊ねた。


「トワを見てたら閃いたんだよ」

「俺?」


 永遠は唐突に自分が話題に上がり、表情を変えた。


「そう。ほら、“永遠”に似た言葉に“悠久”があるでしょ? 字面も響きもかっこいいし、ちょうどいいかなって」

「自分の名前が由来になるの恥ずかしいんだけど……」

「いいじゃん! そのままトワの名前を使ってるわけじゃないし、そこまで恥ずかしくないって!」


 永遠は助けを求めるように周りを見た。これまでと同じように誰か一人くらいは反対意見を口にしてくれるだろうという期待があったからだ。だが、現実は無情だった。


「《悠久の城》ね。いいと思うぞ。私は賛成だ」


 天麗が最初に賛意を示すと、真琴と徳山真帆がそれに続いた。


「私も賛同いたします。末永く続くことを連想させる言葉を用いるのは好ましいと考えます」

「うちも文句あらへんよ。うちらの仲がずーっと続くいう意味に捉えられるやろ?」


 二人がそう言うと、あちこちから肯定したり追従したりする声が上がる。声を上げたのは、何も案を思いつかなかった生徒たちだ。彼らは誰かが挙げた悪くなさそうな候補を適当に選ぶつもりだった。そんな時に提示された歩の案に対して、一定の価値があると判断した時点で彼らは賛成を決めた。

 そこへ援護射撃を加えたのは杏樹だった。


「私も良い名前だと思います。どうでしょう?」


 若干上目遣いでねだるように彼女は同意を求めた。下心のない純粋な請願だった。穂菊たち仲の良い女子は、それで意思決定した。


「うん。私もそれでいいと思うわ」

「徳山さんの言うように、私たちがこれからも一緒って考えると縁起がいいとも言えない?」

「“悠城”学園の名と私たちの“友情”を図らずもかけているのが面白いよね」


 賛成派が増えると、それに乗っかるように賛成に回る生徒が増えていく。永遠が抗議の声を上げるよりも先に、リバーシの駒をひっくり返すようにして賛成意見が場を支配していく。既に案を出した生徒も異論はないようだった。

 永遠は最早自分の手には負えないと悟ると、なけなしの恨みを込めて歩を睨んだ。彼はただにっこりと笑い返すだけだった。永遠は不服そうに息を吐いた。


「……分かったよ。それでいこう」

「ありがとー」


 永遠が折れたことで臨時のホームルームは終わりを告げた。晴臣が立ち上がる。


「よし! それじゃあ俺たちは今日からクラン《悠久の城》だ! 目的は《メイリム都市迷宮》の踏破と“冥樹の果実”の獲得。そして、元の世界に帰る方法を見つけること。これらの達成を目指していくぞ!」


 晴臣の意気込みに応えるように歓声が沸く。

 それを眺めながら永遠は苦笑いするしかなかった。

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