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探偵の推理

「依頼された?」

「そうだよ久住くん。ブリンガーは宝が埋まってるなんて与太話を信じたわけじゃない。ここの庭を掘り返してほしいと頼まれたんだよ。彼が隠しているのは依頼者の存在だ」

「ただ一瞬言葉に詰まっただけで、そこまで分かるのか?」


 天麗は、千紘が何故そこまで断言するのか疑問に思った。


「尋問が始まってそれほど経ってないが、この短い間の遣り取りでもブリンガーの人柄が大体見えてくる。理性的で感情的にならず、質問に対して明確に回答する。話し方にも荒々しさはない。目を覚ました時に拘束されていることに気づいても、酷く取り乱しはしないくらいには自分の置かれた状況を冷静に判断できるし、犯した罪も素直に認める。彼は短絡的な犯罪に走るような性格ではない」

「確かに。チンピラには見えませんね」


 梓は同意した。


「にもかかわらず彼が今回の愚挙に及んだ理由は何か。一人でこんな無謀な真似をするのは考えにくい。やるとするなら何か強い理由が必要だ。例えば、誰かに金を積まれて頼まれたか、あるいは逆らえないような相手から命令されたか。そんなところだろう。そしてもう一つ彼の振る舞いについて、おかしな点が挙げられる」


 菖蒲が不思議そうな表情を浮かべる。


「おかしな点? 何か変なところありましたか?」

「白坂先生が声をかけた時、彼は驚いた様子を見せたけど、ボクたちがいること自体には驚いていないように見えた。つまり、ボクたちがここへ来ていることを知っていたんだ。彼はボクたちがここへ到着した時の様子を、どこかに隠れて見ていたんだろう。でも、おかしくないかな? 何故、人がいるのを知っていながら犯行に及んだのだろう? 普段ここには誰もいなくて、デリアさんも離れた住宅街に住んでいる。誰にも見咎められずに掘り返す機会はいくらでもあったはずだ。ボクたちが帰るのを待てばいい」

「そもそも何で夜に決行しなかったんだよ。そっちの方がやりやすかっただろ」

「しかし、実際はわざわざ人にいる時に、それも昼間に忍び込んでいる。妙な話ですね」


 天麗と真琴が挙げた疑問の答えを、永遠は何となく理解した。


「……そうしなければならない理由があった?」


 永遠が千紘に視線で回答を求めると、彼女は言った。


「ここからは完全な憶測だ。ひょっとするとブリンガーはボクたちをライバル(・・・・)だと早合点したんじゃないかな?」

「ライバル?」


 歩はこてんと首を傾げた。


「ボクたちが来たのも宝を狙うため(・・・・・・)だと勘違いしたってことさ」


 その言葉に全員がはっと息を呑んだ。

 千紘は推理を続ける。


「ブリンガーは埋められた宝を掘り起こすために、朝ここへやって来た。彼の事情は知らないが、夜まで待てなかったのだろう。ところが今日に限ってデリアさんがいて、ボクたちが来訪していた。彼はきっと困惑しただろうね。何故今日この時に、とね。そこで彼は思ったんだ。もしかしてボクたちも同じ目的でここへ来たんじゃないかと。彼はボクらが“相応しき者”の試練に挑むつもりなんて思いもしなかったんだ。今まで誰も合格できなかったし、最後に挑戦者が現れたのも二年前だ。今になってまた誰かが挑戦する可能性なんて最初から捨てていた。だから彼は焦ったんだ。このまま夜まで待っていれば先に宝を回収されるかもしれないとね」

「成程! それで急いだんですね」


 梓が腑に落ちたという笑顔を見せる。だが、歩はまだ何か納得が納得できない様子だった。


「……一つ気になるんだけどさ。その考えが正しいとすると。ブリンガーは競争相手が現れてもおかしくないと踏んだってことだよね。僕たちを見て勘違いするくらいには。それってつまり、宝を狙っている人間が他にもいるかもしれないってこと?」


 永遠は歩が何を言いたいのかすぐに分かった。


「例の宝の噂が広まってるってことか?」

「そうなると話は変わってくるよね」


 今後も宝を狙ってやって来る不届き者が現れるかもしれない。歩が懸念しているのはそれだった。それは“守護者の家”を譲り受ける一年四組にとって無関係な話ではない。


 菖蒲はデリアの方を向いた。


「デリアさんは宝について心当たりはありますか?」

「全然。そんな話今初めて知ったわ。とりあえずその宝を埋めた幹部ってのが、私じゃないことだけは明言しておくわね」


 今この場にいる関係者からは有力な情報が得られないと分かり、生徒たちはがっかりした。だが、梓だけはそんなことは気にしない様子で千紘を褒め称える。


「それにしても、ちょっと見ただけでそこまで推察できるなんて、まるで探偵みたいですね!」

「みたい、じゃなくて実際に探偵だよ」

「え?」


 永遠は思わず千紘の顔を見た。彼女は堂々とした佇まいで言った。


「ボクは十一歳の時から私立探偵として活動している。お祖父さまが探偵社を経営していて、ボクも幼い頃から探偵としての手解(てほど)きを受けて育ったんだ。若輩者だがそれなりに実績を積んでいてね。警視庁をはじめ司法関係者にも伝手がある」

「じょ、女子高生探偵! 初めて見た!」


 梓が衝撃を受けたように口を開ける。その隣で歩が何かに気づいた素振りを見せた。


「……あ、中学の頃に聞いたことある。カルト宗教の《双冥教》で起きた大量殺人事件や、衆議院議員の三山(みやま)暁恒(あきつね)殺害事件の解決に寄与した中学生探偵がいるって話」

「ああ、ボクが解決した事件だね」


 千紘はそんなこともあったなという調子で言った。歩が挙げた二つの事件は、近年日本を騒がせたセンセーショナルな事件として知られている。永遠も事件当時に連日のようにワイドショーで取り上げられていたことを憶えていた。まさかその事件を解決した人物が身近にいるとは、思いもしなかった。

 天麗は心の底から感心した。


「妙に観察力やら洞察力やら優れてると思ったら……結構凄い奴だったんだなお前」

「これでもお祖父さまには全然及ばないけどね。まあ、そういうわけで人を見る目には多少自信がある。偶然か必然かこの世界に来て獲得したスキルもそうしたボクの性質を反映したらしい」

「そういえば陶山様のスキルは非公開でしたね」


 真琴はスキルを公開していない生徒の中に千紘もいたことを思い出した。


「別に隠す意図はないんだ。ただ、みだりに口外する必要もないと考えただけだ。今回はボクの推理を信じてもらうためにも話すべきだと判断した」


 千紘はそう言うと仲間たちの顔を一度見回した。


「ボクのスキルは『観察眼』――人の言葉や行動から、感情や心境の変化を微細なレベルで読み取ることを可能とする。ボクの眼は如何なる仕草も見落とさず、その背後にある真意を見抜くことができるんだ」

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