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尋問開始

 しばらく後、永遠たちは“守護者の家”の一階のある小部屋に集まっていた。

 永遠たち一年四組の七人とシーリア。シーリアに遅れて戻ってきたソニアとデリア。そして、部屋の中心には両脚を凍らされた上に椅子に拘束された侵入者の男。彼は未だ意識を取り戻さぬまま頭を垂らしていた。手の氷は既に解除されており、代わりに緑色の蛇に似た意匠が彫られた手枷が取り付けられている。スキルを封印する魔法道具『封力輪』だ。この手枷をはめられたスキル持ちは、誰であれスキルを使えなくなってしまうと、シーリアは永遠たちに説明した。

 ソニアとデリアが帰還したのは、シーリアが帰って来て間もなくだった。二人はすぐ近くの道端で合流し一緒に帰ってくると、庭の状況を見て驚いた顔を見せた。デリアは事情を説明された後、すぐに警邏隊に通報せずに一旦クランハウス内に移すことを提言した。そして移された先が“尋問室”と書かれたプレートが掲げているこの小部屋だった。


「白昼堂々不法侵入して地面を掘り返すなんて……何を考えているのでしょうか?」


 シーリアが呆れた調子で言うと、デリアは肩をすくめた。


「こそ泥がここに忍び込むのも久しぶりね。《累月》が解散してから数年の間に何度かあったけど」


 デリアは不届き者が現れたことを、それほど怒っていなかった。菖蒲が男について説明している間も、至って冷静に耳を傾けるだけだった。


「それにしても、一体何のために地面を掘り返してたんでしょうね?」


 梓が全員が気になっていることを口にした。永遠たちは揃って「うーん」と唸ることしかできなかった。


「どうします? スキル持ちの犯罪者って普通に官憲に突き出していいんですか?」


 永遠はソニアに訊ねた。スキル持ちの犯罪者はスキルを持たない人間にとって脅威であることを、この世界へ来てから四組は何度も言い聞かされてきた。一般的な犯罪者と同じ扱いをしていいはずもなく、どのように処理すべきなのか永遠たちはまだ知らなかった。

 すると、ソニアが彼らにとって思いがけないことを言い出した。


「突き出す前に私たちで尋問しませんか? 何の目的で侵入したのか気になりますし」

「尋問? 勝手にやっちゃっていいのそれ?」


 歩が驚いた表情で訊き返した。

 ソニアは「ええ」と答えた。


「探索者には限定的に警察権が付与されてるんですよ。スキル持ちの犯罪者にはスキル持ちで対抗するのが一番ですからね。勿論すべての探索者に与えられているわけではなく、迷宮管理局に認可された個人やクランのみですが。《青嵐》にも与えられていますよ」

「ちなみに迷宮管理局の職員にも付与されていますよ。職務上探索者同士のトラブルに立ち会うことも多いので」

「だからすぐ通報せずにここに移したのですね」


 真琴が納得した。


「でも、探索者なんて荒事に慣れた人が尋問したら、やり過ぎることもあるんじゃないですか?」


 永遠の質問に対して、シーリアは厳しい目を見せた。


「それも込みでの権限付与です。相手側の非が明白な場合であれば、多少の強引なやり口には目を瞑ります。スキル持ちが罪を犯すということは、それ相応のリスクを甘受するということでもあるんです」

「……スキル持ちってのは優遇される分、何かやらかしたら厳しい対処も受けるってことか」


 天麗は自分が手にした力への責任を感じ、身震いした。シーリアは優しく微笑んだ。


「大多数のスキル持ちには縁のない話ですよ。真面目に生きていれば心配する必要はありません」

「さて、それじゃあ今回の尋問はソニアさん主導でいきましょう。被害者の私より第三者が主導する形の方が都合が良いわ」

「分かりました。それでは私が担当させていただきますね」


 ソニアは了承した。


「では、私は記録を担当しましょう。迷宮管理局の業務で記録係を担当した経験もあります。デリアさんたちは隣の部屋から見守っていてください」


 シーリアは隣の部屋との間を仕切るように存在するガラスを見やった。ガラス越しに見える隣の部屋には椅子とテーブルが配置され、この部屋を監視できるような造りと内装だ。


「隣の部屋からこっちの様子を見られるのか。刑事ドラマで見た取調室みたいだな」

「向こうの部屋は魔法道具による障壁が作動しているから、万一この部屋で何かあっても大丈夫よ。じゃあ、移動しましょう」




 男が目を覚ましたのは十分ほど後のことだった。彼は微かに呻きながら顔を上げた。


「やっとお目覚めですね」


 最初に男の視界に入ったのは陰気な顔つきの女だった。彼女は男を冷たい目で見ている。


「ここは……」

「初めまして。クラン《青嵐》職員のソニア・ウィルフスです。貴方はデリア・サイレム女史の所有する土地に不法に侵入した罪と、暴行の罪を犯したとして、私の裁量で拘束しています」

「私は迷宮管理局所属のシーリア・ラングです。記録係として立ち会わせていただきます」


 男は不味いと言いたそうに表情を歪めた。彼は今自分が置かれている立場をすぐに理解した。彼女らは探索者の権限を以って尋問を行おうとしているのだと。


「これより貴方への任意聴取(・・・・)を開始します。ここでの発言はすべて記録され、本聴取の終了後、速やかに司法機関に提出されることを予め伝えておきますね。では、最初に貴方の名前を訊きましょう」


 男は少し間を置いてから答えた。


「……ホルト・ブリンガー」

「職業は?」

「《アイアス》って土木工事請負組織に所属してる」


 シーリアには《アイアス》の名に聞き覚えがあった。


「《アイアス》なら知っています。スキル持ちの作業員を複数抱えているところだったはずです。結構大きな組織でしたね」


 解説するような口振りなのは、隣の部屋で聞いている四組メンバーへ向けるためだった。ガラス越しに眺めていた歩が「へー」と言った。


「貴方はここの敷地内に所有者の許可なく侵入し、地面を掘り起こし、それを目撃されたことで逃走及び目撃者へ攻撃を加えたとして拘束されました。間違いありませんか?」

「……ああ、認める」


 ブリンガーは渋々といった様子で肯定した。


「何故ここへ侵入したんですか?」


 ブリンガーは一度床に目を落としてから、ソニアの顔を見た。


「噂を、耳にしたんだ。《累月》の拠点――“守護者の家”の敷地内に、《累月》が解散する前に隠した宝が埋まっているって」

「宝?」


 シーリアはオウム返しに言った。その顔はとても疑わしそうだった。


「ああ。前に酒を酌み交わした奴が言ってたんだ。そいつの友人に《累月》の下っ端職員だった奴がいて、クランが解散してから数年経った頃に教えてくれた話らしい。その話ってのはこうだ。ある夜に《累月》の幹部が妙に綺麗な箱を持って庭に出るのを、その職員が偶然目にした。そいつは気になってこっそり後をつけ、その幹部が庭に箱を埋めているのを見たっていう話だ。で、その場所は温室の東側の空いたスペースらしい」

「それが貴方が掘り返していた場所だったんですか?」

「ああ、そうだ。《累月》の幹部が隠した物なら何か金目の物かもしれないと思って、掘り出してみようと思ったんだ」


 その時、男の証言に耳を傾けていた千紘の両目が細くなった。


「それを話した人物の名前はご存じですか?」

「いや、そこまでは知らない。会ったのはその時だけだ」

「貴方はそんな与太話を本気にして侵入したんですか?」

「信憑性のある話だと思ったんだ」


 千紘はガラスから離れると、尋問を見ていた仲間たちを集めた。


「どうしましたか陶山さん?」


 菖蒲が訊ねると、千紘は眠たそうな瞳をぱっちりと開いた。


「ホルト・ブリンガーは隠し事をしている」


 彼女の言葉には確信の響きがあった。永遠、歩、天麗は一瞬驚いたが、千紘が断言するからには何か理由があるのだとすぐに悟った。


「根拠は?」


 天麗は手短に問いかけた。


「侵入の理由について語る時に、最初に少しだけ言葉に詰まったのは憶えてるかい? その後はすらすらと答えていた。あの時彼はどこまで話すべきか(・・・・・・・・・)悩んだんだ」

「どこまで話すべきか、ですか?」


 梓が首を傾げる。


「目を覚ましてすぐの尋問だから頭はすぐに回らないだろうし、予め答えを決めていたとも思えない。ほとんど淀みなく答えているなら、彼の発言はまず間違いなく真実とみていい。だが、彼はすべてを語らず部分的に伏せた。それが宝の噂を聞いたという部分だ」

「具体的にどんな隠し事をしているか、推測はできてるのか?」


 千紘のスキルに当たりをつけている永遠は、既にその隠し事の内容にも見当がついているのではないかと考えた。彼の予想を裏付けるように千紘は答えた。


「彼の表情と発言を照らし合わせれば、凡そは見当がつく。ホルト・ブリンガーは宝の噂をただ単に聞かされたわけじゃない。誰かからその隠された宝を掘り起こすように依頼されたんだ」

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