表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/14

木漏れ日の森ダンジョン

皆さんどうも、ガクーンです。

では、お楽しみください。

『木漏れ日の森』


 危険度:2  

 初回最速クリアタイム:3時間49分01秒

 最速クリアタイム  :1時間03分12秒

 

 クリア条件  :ボスを討伐

 隠しクリア条件:???




「うん。やっぱり同じだな」


 俺は前世と一緒のクリア条件が表示されて、小さく頷く。


 これで11個目のダンジョンだが、それら全てのクリア条件はブレイブダンジョンクエストと変わりなかった。


 もうそろそろ信じてもいいだろう。この世界はブレイブダンジョンクエストそのものなんだと。


 俺は今まで疑いながらダンジョン攻略をこなしてきた。もしかしたら、この世界はブレイブダンジョンクエストに似ているだけなのではないか……と。



 蓮は無意識に握りこぶしを作る。


 もしかしたら……ここはただの夢の世界で、寝て起きたら現実に戻されているのではないかと。


 昨日から何度も俺の脳裏にちらつき、その度に恐怖してきた。


 しかし、朝目覚めてもあの辛い現実に戻されること無く、ダンジョンRTAに勤しむことが出来る現在。本当に少しだけだが、あの頃の辛さを忘れる瞬間が増えてきた。



「ふぅー。今はこれぐらいにしておこう。何たって……今回からは討伐クエストだからな」


 俺は一瞬目を閉じ、小さく息をする。



 討伐クエスト――ある特定のモンスターを討伐する事でクリアとなるクエストの事を指す。木漏れ日の森ダンジョンではボスを討伐する事でクリアとなる。



「それに……」


 俺は隠しクリア条件という項目を注視する。



 隠しクリア条件――本来のクリア条件とは別に用意されたクリア条件の事。どちらのクリア条件を達成してもダンジョンクリアとなるが、隠しクリア条件の方が基本的に難しい条件が設定されていることが多く、その他にも条件が明確になっていない事から、正規のクリア条件に比べて苦労する事が多い。初心者は大人しくクリア条件の方で我慢しよう。



「今回も稼がせて貰うぞ……」


 悪巧みを考えているかのような笑みを浮かべる蓮。


 そして、表示されているウィンドウを次に進め。



『ダンジョンRTAを始めますか?』


「あぁ!」


 勢いよく返事をし、光に呑まれていくのであった。




~~~


「……森だな。思ったよりは木々が鬱蒼としていなくて先が見通せるが、死角は十分に注意しないと」


 ダンジョンの景色が急に変わる現象に慣れてきた蓮は、周りが森のステージに変わった瞬間、首を左右に振り、今回の舞台の状況を把握する。



『木漏れ日の森ダンジョン開始まで……3……2』



 光が指している方角は……こっちか。


 俺は唯一光が指す場所を見つけ、その方向に体の向きを変える。


 そして、カウントダウンは1を過ぎ。



『スタート!』


 人間味を感じさせないアナウンスがされたと同時に走り出す。



 今回のダンジョン、木漏れ日の森はブレイブダンジョンクエスト内で非常に有名な場所だった。


 それはブレイブダンジョンクエストが発売され、数年が経過した時。一人のユーザーがブレイブダンジョンクエスト専用の掲示板にとある内容を発信した事から始まった。



『木漏れ日の森ダンジョンの隠しクリア条件が分かった件について』


1:名無し

本当か?


2:

嘘っぽいよな

 

3:

ガチ勢たちが全力を尽くしても分からなかったんだ。今更何を言ってるんだ




「木漏れ日の森ダンジョン? あーあれか。ジャイアントラットを討伐するクエストの」


 この時の俺はゲームをやりながら、適当に見ていたブレイブダンジョンクエスト専用の掲示板で偶然にもこのスレを見つけたんだ。



 木漏れ日の森ダンジョンの本来のクリア条件はジャイアントラットと呼ばれる、危険度1のモンスターの討伐。そいつの住処は森の中心にあり、そこに隠れ住むジャイアントラットとこれまた危険度1のニードルラット数匹を倒せばクリアできるという、討伐クエストの中でも簡単な部類に位置していた。しかし、簡単なクエストにはある犠牲が付き物。



「でも、あのクエスト。報酬が渋いんだよな」


 それは報酬が激マズというものだった。そんなダンジョンでもあり、挑戦するプレイヤーはいつしかいなくなり、木漏れ日の森ダンジョンの隠しクリア条件というものが忘れ去られていた時だった。



12:

すまん。遅れた。俺が見つけたのは……


13:

>>12

マジかよ!?


14:

本当だったら凄い発見だな


15:

>>13

騙されるなっての


16:

>>12

嘘乙ww




「本当かよ……? でも、やってみる価値はありそうだな」


 スレに書き込まれた方法を実際に試してみた所。



「これホントだったのか」


 序盤の攻略で非常に助かるダンジョンへと様変わりしたのだった。


 そのスレに書き込まれた木漏れ日の森ダンジョンの隠しクリア条件とはこういうモノだった。




~~~


 走り始めて十数分。


「疾走」


 目に見えて蓮の足の回転が速くなり、木々の間を縫うように通り抜けていく。



 いやー、疾走スキルがあって良かった。


 スキルは使用後にクールタイムがあるが、疾走スキルは数秒とクールタイムが短く、連発して使える優れもの。ただし、普通に走るよりも疲れが溜まり、数回連発した後は少し間を空けないと息が上がってしまう事が分かった。



 自分がキャラを動かしている時とは違うな。色々と分かっているつもりでも、実際にしてみないと分からない事が沢山ある。



 蓮は疾走スキルを無理ない程度に使いながら木々が鬱蒼としている場所を抜け、しばらくすると。



「ここか……」


 木々一つ生えていない、不自然に開けた場所へと到着した。



 目の前には古びた石像に小さな湖が一つ。


 道は間違っていなかったようだ。



「じゃあ、始めるか。えぇと……あった」


 俺は周りを見渡し、今のステータスでは到底持ち上げられそうにもない大きな岩を見つけると。



「ちょっと大きいか? でも、これ以外だと小さすぎるし……仕方ない……ふん!」


 周りを見渡しても丁度いい岩が無かったため、最初に選んだ大きな岩を目一杯力押しし、ズズっ、ズズっと音を立てながら湖の方へとゆっくりと押し始める。



「っ! 重すぎるだろ。でも、あともう少し……うりゃー!」

 

 そして、力一杯湖まで押していき。



「最後!」


 そのまま湖の中へと岩を落とす。



「はぁ、はぁ……。おぉ……ちゃんと落ちていってる」


 息を乱しながら、湖の奥深くへとゆっくり落ちていく岩を観察したのち。



「ふぅー」


 俺は仕事をやり終えたと言わんばかりにそこで横になり、休み始める。


 

 え? RTAはいいのかって? 大丈夫。もうすぐ……



「うわっ!」


 気を抜いてボケーっとしていた蓮の目の前にウィンドウが表示される。



「そう言えば、レベルが上ったらウィンドウが現れるんだっけ……。ちょっと今はRTA中だから表示を消してっと」


 レベルを確認したい気持ちをグッとこらえ、表示されたウィンドウを消し、その場で立ち上がると。



「お、出たな」


 クリアした事を示す、ポータルが俺の目の前に出現したのだった。




 ここで、皆はこう思った事だろう。何故、このダンジョンがクリアできたのか……と。


 確かに、初見の人からしたら十数分森の中を走って、大きな岩を動かして湖の中に落とした、ただの変人にしか見えないだろう。しかし、俺はその行動の中で、あるモンスターをちゃっかり討伐していた。


 そのモンスターとは……



「グランスライム……スライムの変位種だ」



 グランスライム――危険度3。水中の中で一生を凄し、最大で10メートル以上に成長する個体も存在する。スライム同様、中心にある核を破壊する事によって倒すことが出来る。しかし、水中から出てくることは滅多にないので、水中戦で倒す必要がある。



 この木漏れ日の森ダンジョンの隠しクリア条件はグランスライムの討伐。


 そのグランスライム本人は俺の目の前にある湖の奥底に生息している。


 ここまで言えば勘付く者も多いのではないだろうか。


 

 そうだ。俺はこの湖の中に大きめの岩を落としていた。



 普通ならこんなよわよわステータスではこのダンジョンのボスですら倒せるか怪しい。それなのに、その上を行く危険度3のグランスライムと真正面で戦ったりしたら……


「ぶつかっただけで終わりだな」


 だが、所詮はスライム。核さえ破壊すればどんなスライムの上位種だろうと一撃。


 しかも、この湖は下に行けば行くほど狭くなっていく構造な為、湖の上から大きめの岩を落とせば、コロコロと転がって誰でも簡単に危険度3のモンスターを倒せるようになっているんだ。



 あのスレを立ててくれた奴に感謝だな。



 そうして俺は、ポータル出現を予感していたかのようにニヤリと笑みを浮かべると、躊躇なくポータルへと入って行くのであった。



~~~


 俺が報酬部屋へたどり着くと、直ぐにウィンドウが表示される。



『ロード中……。NEW RECORD! おめでとうございます! グリード様のお名前を殿堂へと記録しますか?』


 思った通りNEW RECORDだな。記録はいくつだ?


 俺は手でスライドさせ、次の画面へと移る。



『記録 21分01秒』


 最速クリアタイム1時間03分12秒を優に超える記録が表示される。


 この最速タイムは馬鹿正直に正規のダンジョンボスを倒した結果だろう。それでも、ちょっと遅いけどな。



「初回にしちゃ、まぁまぁな記録。ステータスを上げれば20分切りも見えて来るな」


 そうして俺は前の画面にまた戻り。



「殿堂への記録はまた今度で……さてさて、報酬タイムの時間だ!」


 お待ちかねの報酬タイムへと移るのであった。

お読みいただきありがとうございました。

この話が面白いと思って頂けたら高評価等よろしくお願いします!

では、また次回お会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ