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かくれんぼダンジョン

皆さんどうも、ガクーンです。

では、お楽しみください。

「ここからが本番だ」


 蓮は人気が少ないとあるダンジョンへとやってきていた。



『ルベリックの新緑』


 危険度:3

 初回最速クリアタイム:8時間18分44秒

 最速クリアタイム  :5時間32分22秒


 クリア条件  :ボスを討伐

 隠しクリア条件:???


 

「ここも人気無いのか……まあそうだよな」


 このダンジョン……ルベリックの新緑ダンジョンは危険度3の中でも比較的簡単な部類のステージだ。ただ、報酬も渋く、経験値稼ぎにも適さないというのが一般常識なため、この様に放置されているんだろう……


 蓮は最速クリアタイムを見つめる。



 この世界の奴らは、隠しクリア条件というモノを知らないのか?


 蓮は呆れた様子で息を吐く。



 ステージは深い森の中となっており、そこからずっと森の奥に進んだ所にいるモンスター。ルベリックウルフを討伐するのがクリア条件。


 

 ルベリックウルフ:危険度2。緑の体色でまわりの木々に擬態し、手下を使って徐々に獲物を弱らせてから狩る。数匹のウルフ(危険度1)を引き連れ行動しており、森深くでウルフを見かけたら親玉である、ルベリックウルフが近くにいる事を考慮しなければならないだろう。


 

 危険度2に慣れた冒険者たちはモンスターに奇襲されるなんて事を考えていない事が多く、最初の攻略でルベリックウルフから命からがら逃げ帰ってきたなんてことも珍しくない。


 これまで話を聞く限り、ルベリックウルフって相当強いのかと思われてしまったかもしれないが、意外とそうでもない。


 まず、初めからルベリックウルフ本人が出てくることは滅多にないので、ウルフを数匹仕掛けてきた時に、そのウルフたちを一匹残らず倒してやる。するとそこからは簡単で、ルベリックウルフが焦って姿を現すので、そこを上手くついて討伐してやるとあっけなく終わるステージとなっている。


 ルベリックウルフ自体はウルフを少し強くしただけの性能なので、最初さえ間違わなければ大丈夫。でも、ルベリックウルフが現れる場所が最初のワープ地点から非常に遠いから時間だけはめっちゃかかるんだよな。


 だから、この世界の冒険者たちは、経験値も報酬も渋いこのステージをクリアしたがらないんだろうけど。


 蓮は隠しクリア条件へと目を移す。



 このステージの真価は隠しクリア条件にあるんだよな。


 蓮はニコッと笑い、ウィンドウを閉じて装備確認を始める。



 このルベリックの新緑ダンジョンはとある事で有名だったんだが……


 蓮がダンジョンについて語ろうとした時。



『RTAを始めますか?』


 なんか今日、アナウンスがせかしてくるな。


 脳内で説明していた蓮の元に、いつもより口調が強めのアナウンスがなされる。



 まぁ、説明はダンジョン攻略中にでもできるか。



「……始めてくれ」


『ダンジョン攻略を始めます。しばらくお待ちください……』


 蓮が声を掛けると同時に、辺りが真っ白になる。


 そして、徐々に深い緑が姿を現し。



『開始まで……3……』


 スタートまでのカウントダウンが始まる。



 まずは始めは、森の奥に行くだけで大丈夫。


 どっちに行こうかな……。よし、決めた。


 蓮は真正面を向いたまま、カウントダウンが過ぎるのを待ち。



『スタート!』


「――疾走」


 開始の合図と共に疾走を使い、木々の合間を縫うように走り始める。



 まずはある目印を探さなくちゃならないんだけど、その目印は森の奥にあるから。


 蓮は隠しクリア条件を達成するべく、ある目印を目標に森の奥へと進んでいく。



 ルベリックの新緑ダンジョン――クリア条件はルベリックウルフの討伐で、今の俺からしたら油断さえしなければ容易に倒せる相手。そして、このステージが前世で有名だった理由は隠しクリア条件のある報酬によるものだった。



 まわりの緑がより一層濃くなったな。


 走り続けていた俺は、とある地点から森の色がより一層濃くなったことを感じ取る。



 ということは……


 俺は一旦足を止め、周りの木々を見てまわる。



 何処かに必ず……あった。


 蓮は近くの木を一本一本、確かめるように見ていく。すると、とある木を目の前にして立ち止まる。


 

 俺が見つけたかったのは……


 蓮が立ち止まった木は横に生え並ぶ木と色が明らかに違く、薄い光を放っていた。



 この木。名は妖精の木と言われている。



 妖精の木――妖精が住みついている木で、淡い光を放っている。



 ルベリックの新緑ダンジョン、隠しクリア条件はこの木から始まる。


 ルベリックの新緑ダンジョン……別名、かくれんぼダンジョンはかくれんぼ好きなとある妖精とかくれんぼをして、その妖精を見つけ出すという簡単なもの。



 隠しクリア条件:とある妖精を見つけ出そう。



「じゃあ、始めますか」


 蓮は淡い光を放つ木に手を触れる。


 すると、その木は徐々に強い光を放ち……光が落ち着くとそこには一人の羽を生やした小さな妖精が蓮をじっと見ていた。



『僕とかくれんぼしようよ!』


 来たな。かくれんぼ妖精。



 妖精――エルフと非常に友好的な関係を築いているとされており、一般的にエルフ以外には姿を現さない。しかし、この様に人間に友好的、あるいは興味を示す個体も一定数存在し、その中の一体がこの妖精である。



 隠しクリア条件はこのかくれんぼ妖精とのかくれんぼでこいつを見つけ出すこと。


 うん? こいつの名前か? 俺も知らん。



 蓮は妖精を見て、好戦的な笑みを浮かべる。


「いいぜ。今すぐしよう」



『ほんと!? やったー! じゃあ、始めよう。10数えたら僕を見つけに来てね! じゃあ、スタート!』


 蓮の返事に喜び、その場を無地邪気に跳ね回る妖精。


 ここはちゃんと乗ってやんないと。そうしないとクエストが始まんない。



「いーち。にー……」


 蓮は手で目を隠し、数を数えていく。


 ちゃんとしたかくれんぼに則ってクエストを行う。約束を守んなかったら何が起こるか俺にも分からないからな。


 そして、10を数え。



「もーいいかい?」


『もーいいよ!』


 よし、始まった。


 蓮は目を開き、歩き出す。



 次の目印は……あった。


 少し足を進めた所で立ち止まる蓮。



 ここからのかくれんぼは意外と簡単だ。


 蓮は地面に落ちているチカチカと光る粉を発見し、手ですくい上げる。



 これは妖精の粉といって、その名の通り妖精が羽をばたつかせる際に落とす、蝶々でいう鱗粉みたいなものだ。妖精の粉自体に価値は無いが、この粉が落ちているという事は、かくれんぼ妖精がこの場所を通ったという証明になる為、これから俺はこの粉を目印に森の中を駆け巡ることになる。



 蓮は手についた粉を振り払い、走り始める。


 待ってろよ! かくれんぼ妖精!



 それから蓮は粉のある方へ走り続け、粉を見つけては止まり、方向を変えて走り始めるという事を計10回ほどした時だった。



『ふふふ……人間さんはまだかな? まだだろうな……。かくれんぼ楽しいな』


 声が聞こえる……妖精か?


 静かな森の中でクスクスと笑う声が蓮の耳に入る。



 早めに見つかったな……今日は運がいい。


 いつもはもっと遠くに隠れたり、途中で妖精の粉を見失ったりして時間ロスする事が多いのだが、今日は近くに隠れていた事と粉を見失っていない事が重なり、好タイムが期待できる様子。



 蓮はゆっくり声のする方へと近づき。


 ……いた。


 木の窪みで口に手を当てながらじっとしている妖精を見つける。


 俺の気配に気が付いて、口を閉じてやり過ごそうとしているつもりなんだろうが……



 蓮は足音を立てずに慎重に妖精の背後につき。



「みーつけた」


『っ! 見つかっちゃった……』


 妖精は羽を広げ、蓮の周りを飛び始める。



『こんなに早く見つかっちゃったの初めてだよ! 人間さん、凄いね!』


「そりゃどうも」


 蓮は飛び跳ねて喜びを表現する妖精を目で追いながら。


 早く報酬をくれないかな……時間が過ぎていっちゃうだろ。


 内心、早く終わらないかと思っていた。



『僕と遊んでくれたお礼してあげる!』 


 よしきた。


 蓮は目をキラキラさせて報酬を待つ。



 これがルベリックの新緑ダンジョンが有名になった理由。精霊の報酬だ。


 精霊はこうやって、ダンジョンへとやってきた者にアイテムを授けてくれる時がある。


 それは気まぐれからであったり、こうして妖精の願いを聞いてやったりした時など、シチュエーションは様々だが。



『うーん! 開け―ゴマ!』


 妖精は空中で一回転した後に、何もない場所へ言葉をかけると、そこへ扉が出現する。


 出た。妖精の宝物庫。


 

 妖精の宝物庫――妖精にのみ自由自在に開け閉めできる宝物庫。妖精それぞれに別々の宝物庫があり、生涯をかけてその中に宝を収集していくという趣味を持っている。



『ちょっと待っててね』


 妖精はその宝物庫の中へと入って行く。



 このダンジョンを攻略する理由が、この妖精の宝物庫だ。


 妖精は本当に多くの貴重なアイテムをこの宝物庫保管している。


 それは金銀財宝だったり、珍しい武器だったりと様々だ。



 その中でも、俺が一番に狙っているアイテム。それが、スキルブック。


 スキルブックは基本、超低確率でモンスターが落とすアイテムとなっているのだが、これが本当に落ちない。


 しかも、モンスターによって落とすスキルブックはまちまちで、それらの殆どが使えないスキルブック。


 だが、このダンジョンの隠しクリア条件を達成した時にだけ妖精がくれるスキルブックの中で、俺が喉から欲しいものがある。


 それが、HP視認のスキルブック。


 このスキルブックは非常に有用で、これからのダンジョン攻略に必ず必要になってくるんだが。



 蓮を待たせる事数十秒。


『お待たせ!』


 妖精は手一杯にアイテムを抱えて宝物庫から姿を現す。



『はい! この中から選んで!』


「こ、これは……」


 蓮は妖精が持ってきたアイテムを見て、驚愕する。



 このアイテムたちは……


 目の前に差し出された3つのアイテム。


 

 蓮はドヤ顔している妖精とアイテムとを交互に見比べ。




 すげー要らないんだけど……


 蓮は冷めた視線をアイテムたちに向ける。



 なんだよこのアイテムは!


 蓮は一つずつアイテムを手に取り。



 びっくり茸に白涎鳥の羽?


 最後に至ってはただのウルフの牙じゃないか!



 やり場のない思いを内心にため込む。



 すると蓮は肩をがっくり落とし。


「白涎鳥の羽をもらうよ……」


 一見、ただの羽にしか見えないアイテムを選ぶ。



『分かった! じゃあ、また遊んでね!』


 そうして妖精は、他二つのアイテムを持ったまま宝物庫と共に姿を消す。



 蓮は妖精がいなくなった後の場所をじっと見つめ。



「はぁ……周回確定だな」


 小さなため息とともに、周回確定を確信し。


 その後すぐに出てきた帰還ポータルに入って行ったのだった。




~~~


『NEW RECORD! おめでとうございます! グリード様のお名前を殿堂へと記録しますか?』


 そんな気分じゃない。


 蓮は次の画面へと飛ばす。



『記録 2時間32分45秒』


 いい。凄く、いい記録なんだが……


 蓮は先ほどの報酬を思い出し。



 流石に報酬がこれだけって落ち込むよな……


 手に持つ白涎鳥の羽を見て、落ち込む。



 分かってた。分かってたさ。簡単に俺が欲しいものは手に入らないだろうと。


 前世でもこのダンジョンの周回を数えきれないほどやってきた蓮。



 その度にいらないアイテムと何度も顔を合わせて、モニター越しに文句をひたすら垂れ流しながらも攻略してきた日々を思い出しながらも。



 でも……これはあんまりだろ。何だよ、白涎鳥の羽って……


 内心で愚痴を爆発される。



 それから数分後。



「ふぅー。スッキリ。次いこう」


 愚痴を出し切って、すっきりした様子の顔。


 じゃあ、目的のアイテム。HP視認のスキルブックが出るまで周回し続けるぞ!



 これが地獄の周回チャレンジになるとは露知らず。蓮は今日という時間が許す限り、周回に明け暮れるのであった。

 

お読みいただきありがとうございました。

この話が面白いと思って頂けたら高評価等よろしくお願いします!

では、また次回お会いしましょう。

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