第67話 走馬灯
森田の目の前に鬼獄長の拳が迫る。
(しまっ……)
鬼獄長のパンチが到達するまでの一瞬で森田は走馬灯のように沢山の思い出が頭を過ぎった。
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森田がこの地獄にやって来たのは20年程前である。
生前の彼は名門大学を卒業した後証券会社に就職した。森田は入社して直ぐに頭角を現し大手との取引に漕ぎつけ、入社してたった数年で同期や先輩を出し抜いて課長のポストに付いた。
仕事は忙しかったが、頑張った分だけ自分のキャリアに繋がっていることを実感できたのでとても充実していた。
そんなある日、一人の女性と出会い付き合い始めた。付き合って半年で結婚した。
さらに息子も産まれて森田は仕事においても家庭においても充実した毎日を送っていた。
しかしそんな森田に悲劇が起こった。
ある日の仕事終わりの日、愛する妻と息子にプレゼントを買って家路に着こうとしたその帰り道にて歩道に乗り上げて来た自動車に轢かれ森田は命を落とした。
気が付くと森田は霊界に居た。
森田は絶望した。もう二度と愛する妻と息子に会えない。
審判中も絶望のあまり閻魔の話も頭に入って来なかった。
『あの……ちゃんと話を聞いていますか?』
『えっ?あっ、すいません。何でしたっけ?』
閻魔は頭を抱えた。しかし直ぐに切り替えて話を続ける。
『貴方は30歳で亡くなったので、ギリギリセカンドチャンスが適応されます。ここまでいいですか?』
『セカンド………チャンス……?』
『……全然話を聞いていないようですね……セカンドチャンスというのはもう一度生き返って人生をやり直す制度の事です。』
生き返るという話を聞いて森田は飛び付いた。
『生き返る!?生き返ることが出来るのですか!?』
森田は閻魔の話に飛び付いた。生き返ることができるならもう一度妻と息子に会いたい。閻魔の提案を受け入れる。
『生き返ります!!もう一度妻と息子に会いたいです!!』
森田の言葉を聞いた閻魔は大きくため息をついた。
『これもさっき言いましたが、生き返るのは全くの別世界になります。簡単に言えば異世界転生って奴です。ピンと来てくれました?』
『い……異世界……なんですか?』
森田の物分りの悪さに閻魔は深くため息をついた。
『簡単に言えば今までとは違う世界で生きてもらいます。勿論違う世界なので貴方の愛する妻と息子には会えません。ここまではいいですか?』
閻魔の話を理解した森田は絶望した。結局妻と息子には会えないのか。会えないのならば生き返る意味はない。このまま審判に委ねよう。
『生き返りません。妻と息子に会えないのならば生き返る意味はありません。』
『そうか、ならば地獄で苦しむがいい!』
閻魔は机の上のチャンネルを森田に向けてスイッチを押す。
すると森田の足元がパカッと開きそのまま下に落ちた。
その日から地獄での拷問生活が始まった。初日から鞭打ち、針山など様々な拷問を受けた。
下鬼に案内された監獄部屋で意外な人物にあった。
『海澤か!?海澤じゃねぇか!!』
『森田!何故ここに!?』
高校時代の同級生だった海澤と再開した。まさかこんなところで再開するとは思って居なかった二人は話に花を咲かせた。
『懐かしいな。五年前の同窓会以来か。』
『五年!?もうそんなに経つのか!?』
海澤はこの地獄について色々教えてくれた。朝昼夜の時間の概念がないこと。だから時間の感覚が分からなくなっていた。
『………って事があってオイラ死んじゃったんだよね。』
『そうか……それはキツイな。奥さんと息子もきっと泣いてるぜ?』
『そういえば海澤は何で死んだんだ?』
『入社した会社がブラック企業でさ。サービス残業は当たり前で上司からのパワハラも酷くて精神病んで首吊ったんだよ。』
『マジか……そいつはご愁傷様。』
そうして同じ監獄部屋になった二人は拷問時間には仲良く拷問を受け、ねんねの時間には鬼にバレないように話をする毎日を送っていた。
そんなある日、ねんねの時間に話をしていたら突然監獄部屋の床が開き囚人が現れた。
囚人について行くと地下の広場だった。
そこでこの地獄の真実を藤彦と名乗る男に全てを聞かされ脱獄計画に加担することになった。
森田達に与えられた任務は信用できそうな囚人を探すこと。口が固くて脱獄計画に乗ってくれそうな囚人を見つけ出す。
特に入ったばかりの新入りを用心深く調べるのが主な任務だった。
しかしそんな囚人を見つけ出すのは中々難しい。中々引き入れることが出来ずに20年の時が経った。
ついに見つけた。口が固そうで脱獄計画に乗ってくれそうな囚人を。名前は肉浩とマイコー。早速藤彦に報告する。
そうして二人を脱獄計画に引き入れ遂に脱獄計画を実行する。監獄を抜け出した。もう後戻りは出来ない。
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無限地獄、深淵地獄、漆黒地獄、そして極限地獄。
この地獄の旅は辛く苦しい旅だったが皆が居たからここまで頑張れた。しかしこの旅もどうやらここまでのようだ。
(皆済まない。私はここで脱落のようだ。皆の健闘を祈っているよ。)
森田は覚悟を固めた。
しかしいつまで経っても衝撃は来なかった。
森田は薄目を開けて状況を確認する。
鬼獄長の拳は森田の顔面スレスレを通っておりパンチは当たっていなかった。
鬼獄長を見るとこっちを見ずに明後日の方向を見ている。鬼獄長の見ている方向に視線をやると
「やらせねぇさ………」
肉浩がライフルを構えており、その銃口からは薄っすらと煙が出ていた。




