第17話 射撃訓練
肉浩と特別顧問の試合は肉浩の負けに終わった。
老いぼれと見下していた訳では無かったがそれでも自分がこれまで培ってきた技術や戦闘経験がまるで通用しなかった事実に落胆していた。
(何て強えぇ爺さんだ……手も足も出なかった。)
心にモヤモヤを残しているせいか、食事もあまり進まなかった。
それでもなんとか完食し、午後からの訓練に備える。
ニックは射撃訓練場へ向かった。
「えー、それでは午後からの訓練をする。」
特別顧問はおらず、レオン教官が訓練を受け持つ。
「えー、午後からの訓練は射撃訓練、本物の拳銃を使うことになる。使用には十分に気をつけること!」
話によると、射撃訓練が一番生徒達の負傷率の高い訓練なのだそうだ。
一番の原因が生徒同士ふざけあってあらぬ方向に発砲し、怪我をする。
それで過去に死者も出たことがあるため、この訓練自体廃止になりかけたことがあるが、やはり射撃は軍人として必須な能力になるため、なんとか残りこうして今でもこの訓練は存続している。
「えー、拳銃は非常に危険な武器なので皆取り扱いには気をつけるように。」
机の上には拳銃が十丁置かれていた。
「十丁しかないからな。それぞれ交代で打っていくように。」
まず最初の十人が拳銃を手に取り的目掛けて撃った。
30m離れた的に十人中三人が弾を命中させた。
生徒達は銃を握るのが初めてらしく、上手く撃てたことに安堵する生徒や銃の反動で腕を抑える生徒もいたり一人一人違う反応をしていた。
「さぁまだだ!一発当てて満足しているようでは戦場では生き残れんぞ!もう一度構えて撃て!」
教官は敢えて厳しい言葉を投げかける。全ては軍に送り出す生徒の戦死を一人でも少なくする為、一秒たりとも時間を無駄には出来ない。
生徒達は再び銃を構えて撃つ。30m離れた的に十人中六人が的に命中させた。
「さあ次、構えて撃つ!」
こうしてマガジンの中の弾が空っぽになるまでひたすら弾を撃ち続けた。
「よし、交代だ!次の生徒に銃を回せ!」
ニックは前の生徒から拳銃を受け取った。
「よし!次撃つ前に弾のリロードを教える!よく見ておけ。」
教官は拳銃からマガジンを取り出し弾を詰めてゆく。
「さぁ、同じ様にやってみろ。」
拳銃を渡された生徒達は教官のお手本通り弾を詰めてゆく。
全員無事に弾を詰め終わった。
「よし!では始め!」
教官の合図で生徒達は一斉に発砲する。
十人中、ニックを除く四人が命中させた。
「さぁ次!どんどん撃て!」
生徒達は次々に的目掛けて発砲してゆく。
他の生徒達もそうだが、ニックは初めて握る拳銃に苦戦していた。
(当たり前だけど、剣とはまるで勝手が違うな……)
普段から振り慣れてる剣とは違い拳銃はあまり得意ではなかった。
結果ニックは12発中、2発しか的に命中させられなかった。
(オイラには射撃の才能も無いのか………?)
ニックは自己嫌悪に陥りつつも次の生徒に拳銃を渡す。
次の生徒達が発砲する中、深層意識にいる肉浩が語りかけてきた。
『なぁニック、次撃つ番回ってきたらオイラに変わってくれよ。』
肉浩の言葉にニックは首を横に振った。
『せっかくの申し出だけど、オイラはオイラの実力でやりたいんだ。君の力は出来るだけ借りずにゆきたい、ごめんよ。』
『そうじゃないんだ。オイラ自身の射撃の腕前を確かめたくてな。それならいいだろ?』
『………まぁ、それならいいけど。』
『よし、決まりだな。』
ニックは肉浩とバトンタッチした。
そうこうしてる内に一周回って肉浩の順番が回ってきた。
「よし!では始め!」
教官の言葉を合図に生徒達は一斉に引き金を引いた。
肉浩は12発連続で撃ち切った。
「ニック訓練生!何をしている!一気に全て撃つとは!」
教官は肉浩が撃った的に注目する。
的に穴は一つしか空いていなかった。
(連続的して撃つから一発しか命中していないではないか……)
教官は呆れた態度を見せたのも束の間、ある違和感に気がついた。
(………いや違う!一発しか命中していないのではない!)
教官は違和感の原因を詳しく調べてみた所、全く同じ場所に1mmの狂いもなく正確に的の中心に弾丸を当てていたのだ。
(バカな!こんな事があり得るのか!?)
拳銃は一発撃つと反動で銃口の向きが微妙に変わるものである。
そのためズレた分を修正し狙いを定め直してから撃つものであるが肉浩は連続で撃ったにも関わらず1mmのズレもなく12発全てを的の中心に命中させたのである。
これには教官も信じられない表情を浮かべた。
「撃ち終えた者は次に回せ!」
全員撃ち終えていたので十人全員次に渡した。
『ありがとう、あとはニック、君がやるんだ。』
肉浩はニックとバトンタッチする。
こうして残り三周程してようやく訓練の終わりのベルが鳴り響いた。
「射撃訓練はここまで!解散!」
生徒達は射撃訓練場を後にした。
一人訓練場に残ったレオン教官は考えていた。
(ニック訓練生の二週目の射撃、あれは一体何だったんだ……?)
(そして二週目以外はごく普通の成績だ……何だったら他の訓練生よりも命中率が悪い位だ。)
「まるで、もう一人いるかのような……いや、流石に考え過ぎか……」
結局色々考えたものの何も分からずレオン教官は訓練場を後にした。
撃った反動のズレとかは完全に作者の妄想です。
拳銃を握ったこともない人間が書いていますので詳しい人からすると違和感あると思いますがどうか温かい目で見逃してくれると幸いです。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
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