第1話 あの世へようこそ
気が付くと少年は見知らぬ場所にいた。
何故こんな所にいるのか分からない。とにかく色々思い出してみることにした。
少年の名前は鈴木肉浩。
彼の人生を一言で現すなら『悲劇』だろう。
肉浩が物心つく前に母は病気で他界。
父が男で一つで息子を育てていた。
父は仕事が多忙であったため息子にかまってやれず、肉浩も内気な性格も相まって小学校では孤立し休み時間は自分の机で本を読んで過ごしていた。
それだけならばよかったが大人しい肉浩はすぐにいじめの標的にされた。
毎日いじめっ子数人に殴る蹴るの暴行を受けたが内気な彼は父にも先生にも相談できずいじめっ子たちの暴行に耐えるしかなかった。
小学5年生のときとうとう我慢の限界が来ていじめっ子たちを返り討ち、全員に全治数ヶ月の大怪我を負わせた。
当然これは大問題となり緊急で保護者会議が開かれ肉浩の父はいじめっ子たちの親たちに治療費と慰謝料を支払うことで示談が成立した。
父は肉浩を一切責めることはなかったがもう二度と人に暴力をしてはいけないよ。とそれだけを言ってこの話は終わった。
その後小学校での生活は暴力を振るわれることが無くなったが、いじめっ子たちを病院送りにした話は学校中に広まりより一層孤立を深めてしまった。
中学に上がると噂は更に広まり不良に目をつけられるようになった。
「お前がいじめっ子たちを病院送りにしたって噂の鈴木か?」
「オレは竹星、こんどオイラと遊ばね?」
竹星は肉浩を自分達のチームに取り入れるため肉浩に積極的に話しかけた。
肉浩は最初こそ邪険にしていたが小学生時代友達が居たことがなく例え不良でも話しかけてくれたことが嬉しく、肉浩が不良と仲良くなるのにはそう時間は掛からなかった。
父から喧嘩は禁止されていたが、チームに入ってからは喧嘩は絶えなかった。
そんなある日、肉浩が帰ってくると父がリビングで待っていた。
「ヒロ、そこに座りなさい。」
「今日、先生から電話で聞いたぞ、また喧嘩したんだってな…」
「これ以上悪い子達とつるむのはやめなさい。」
「おい!ヒロ!聞いているのか「うるせぇ!」
「初めて出来た友達なんだよ。オイラ小学生の頃友達出来なかったんだ。オイラがぼっちだったことパパ知ってたのかよ?友達いなかっただけじゃない。いじめられてたんだ。知らなかっただろ?ずっと仕事仕事でオイラと向き合ってくれなかったくせに。今までずっと放っといたくせにこんなときは放っとかないんだな。」
普段は温厚な父が怒り、肉浩は今までの不満が爆発し、大きな親子喧嘩になった。
お互いどう歩みよればいいのか分からないまま親子喧嘩は幕を閉じた。
2年生になると他校の生徒との抗争をするようになった。
肉浩は腕っぷしは強く、他校の生徒を返り討ちにし続け、界隈で有名になっていった。
もちろん他校の不良は黙っておらず、普段いがみ合ってる学校同士が徒党を組み連合軍を結成、肉浩を潰そうと戦争を起こした。総勢118人に対し、肉浩のチームはたったの6人、どちらが勝つか誰の目から見ても明らかだった。
結果、最後まで立っていたのは肉浩一人だった。
肉浩以外の5人は数の暴力ですぐに沈んだものの、肉浩は圧倒的な強さで次々と連合軍を倒していった。
途中連合軍の攻撃を何度も受け、瀕死の重症を負いながらも最後まで立っていたのだ。
戦争が終わったあとすぐに家に帰ると突然気分が悪くなり、意識を失った。
気が付くと病院のベッドにいた。
横では父が椅子に座っていた。
あんな大きな喧嘩して怒られると思ったが、父は何も言わなかった。
後で先生に聞いたところ、頭を釘バットで殴られた際に脳の血管がプチッと切れて非常に危ない状態だったらしい。
父がその日は珍しく早く帰ってきたおかげで一命を取り留めたらしい。あとほんの少しでも遅ければ亡くなっていたかもしれないということだ。
数ヶ月の入院生活を経て退院し、学校へ戻ったらチームのみんなは心配してくれていたようで、元気な姿を見せたらみんな安心したようだ。
オイラがいない間、不死身のヒロと異名が付き、喧嘩を売ろうとする奴らはいなくなったらしい。
おかげでだいぶ退屈になった。
喧嘩することも無くなったチームはしだいに集まることもなくなり3年生にあがる頃には先輩が卒業したことも相まってチームは自然消滅してしまった。
3年生に上がりいよいよ進路のことを真剣に考え始めた頃、悲劇の日はやって来た。
ある日、学校へ行く途中、公園でボール遊びをしていた子供がボールを追いかけ車道に飛び出し、巨大なトラックに跳ねられそうになった。
考えるより先に体が動き、子供を助けるため車道に飛び出し子供を突き飛ばした、オイラは子供の代わりにトラックに跳ねられ、気がついたらここにいた。
「……えっと、つまりここはあの世か?」