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迫る刃を防壁を張って防ぐと、舌打ちの音が耳に届いて、晴明は眉間に皺を寄せた。
防壁が刃を弾く音は大きかったが、その使い手が着地した音は静かだった。
紅蓮の髪がふわりと舞う。
晴明とはまた違う、どこか獰猛な光を宿した赤い瞳が不快そうに歪められた。
「獣臭いと思えば、獣そのものが出入りしていたとはな」
「我が番の私物は回収した。二度は来るつもりはない」
口角を上げて、不敵な表情を作る晴明の周囲に赤い炎。忌々しそうに睨みつける男が仕掛けてきたそれを「邪魔だ」と言うと風が左右にそれを分つ。
「もう来んと言っているだろうに」
「存在が気に食わん」
「それはこちらの台詞だ。貴様が宵月にしたことを私が許しているとでも?」
二人の間に火花が散り、晴明も獲物を出そうとした瞬間だった。
けたたましくスマホが鳴る。慌てて結界を張って、咳払いをする。
「宵月、どうした?」
『いえ、言っていた時間より遅いので何か事故でもあったのかなあ、と……』
出会いがアレだったので、と言い辛そうに口に出した。
気遣ってそう言ってくれる番に晴明は舞い上がって、「もう帰るよ、私の宵月」と告げて電話を切った。
「貴様の相手よりも早急に帰らねばならぬ用事ができた」
機嫌良さげに尻尾が揺れる。
その瞬間だった。青い火が辺りを包む。一瞬目を離したその間に、彼はさっさと帰ってしまっていた。
鬼が舌打ちをすると、「鬼灯くん?」と少し幼げな愛らしい声が響く。途端に表情が柔らかくなる。
「やっぱり鬼灯くんだ!私に会いに来てくれたの?うれしいっ」
きらきらと輝く瞳が鬼灯を映す。「春陽」と少女の名を呼んで、抱き寄せると彼女はぽっと頬を染めた。
「お前に会いに来たら獣がいた。あの暗い娘の番だという」
「つがい?」
まあるい目を大きく見開いて、それから首を軽く傾げる。
妹が貶されているというのにそのことをまるで気にもしていない様子だ。
春陽は番に依存する人間だった。
番が一番大切で、番が一番正しくて、番と一緒に居られることが何より大切だった。
だから血がつながっていても妹どころか家族だってどうだって良い。
(宵月と一緒にいると鬼灯くんってば不安定だし特に気にすることないかなぁ)
ふと目線を上げれば彼にしては珍しく怪我をしていてそのことに驚く。心配そうな表情で少し血の出た額に掌を翳すと、光が集まって傷が癒えた。
運命の相手というものは本当に力の相性がいい、と鬼灯も口角を上げる。春陽の霊力で行う治癒術はそう高い性能のものではない。だというのに一瞬で傷が消えるのは、相性の良い霊力は効果が非常に高いからだろう。
春陽は人間としては、番に関する感覚が非常に鋭かった。だから、悪意はなくとも妹を妹と思わないような行動をしているに過ぎない。
「そんなことより、私、鬼灯くんとご飯食べたいな」
あざとく上目遣いで強請る、自らの番に「良いとも」と笑ってその手を引いた。




