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酷い目にあうパート2



 鬼灯は死んでも狂うのだけはごめんだと思っていた。番を盾にするなんざとんでもない。それで狂うくらいなら、自分が死んだ方が億倍マシだと腹を抉られながら笑った。


 この度の経緯は赤金家の馬鹿娘が、番を得ながら白蛇の若君に横恋慕したことを発端としている。

 馬鹿娘こと、鬼灯の妹は自分の番が忌むべき獣であることを不満に思っていた。それも銀毛の狐。焦がれた相手も獣だと、鬼灯は懇切丁寧に嘲笑ってやったが、彼女は諦めなかった。それどころか、その若君の番である、若君と同族の女を罠に嵌めたのである。

 彼女の番は、いっそ哀れなほどに番に対する本能が強かった。奴隷のような扱いをされてもなお、鬼の女に恋焦がれた。狂うほどに。


 番の命令で食べるものを与えられず、閉じ込められて飢えと疲労で虚ろになった銀狐の青年の元に、白蛇の女は投げ込まれた。傷つけられ、もはや蛇の姿のまま変化することもできなくなった女は、神力を使えないほどに弱り、何も与えられなかった青年にとっては“生きるために必要な糧”に見えた。

 あとはもう、簡単だ。飢えた彼は彼女を食らった。


 その亡骸を見て、その若君は狂ったらしい。半狂乱で女を探していた彼は、絶望し、そのまま衰弱して亡き者となった。それを聞いて鬼灯の妹はお前のせいだと青年を罵った。


 なるほど、赤金家は狂っているらしいと鬼灯は妹を見ながら納得したものだ。



(愚かなのは俺も変わらんか)



 黒髪の少女。その泣き顔を思い出す。

 苦しむ顔が、声が、怯える身体が好ましく、どうあっても取れない忌むべき香りが煩わしかった。


 これ幸いと、似た臭いの存在に妹のやらかしを押し付けた。その結果がこれだというのだから笑う他ないだろう。

 ふと春陽の顔を見ると、呆然と立ちすくんでいる。もう居なくなった白蛇だが、この傷は治ることはないだろう。その牙には猛毒がある。そして、もう指先すら満足に動かせはしなかった。

 心のどこかで、あの優しい夜のような髪色の少女が誰かのものになるところを見ずに済むと安堵する。番なんて碌なものじゃない、と口元に笑みを浮かべた。



「鬼灯くん、鬼灯くん……」



 真っ赤な顔でぼろぼろと涙を零しながら、自分の名前を呼ぶ番の姿が、ふ…とあの黒髪の少女と被る。



「ああ、やはりお前の泣き顔は美しいな」



 一言、そう呟いて鬼灯は目を閉じた。

 春陽の内側から霊力と魔力が身体を食い破るようにせめぎ合い、表出する。亡くなった男を抱いて、春陽の姿は少し大人びた、しかしどこか虚ろなものへと変貌する。



「こ、ころさなきゃ」



──愛した男を殺したものを殺さないと。

──でも、あれ?


“それって、だれだっけ”



 番を目の前で失った少女はその身に宿る鬼の力のせいもあり、狂った化け物へと変わる。

 もし、鬼灯を見限っていれば。もう少し他者に目を向けていれば。死んだところを見なかったなら、そこまでにはならなかったかもしれない。

 ゆらりと立ち上がった彼女は、そのまま生きている周囲の妖力も霊力も奪い取って、赤金の家を出て。


 “悪鬼”として討伐された。


 彼女たちの死後、赤金家の行いは明るみに出る事となり、その死を悼むものは少なかった。

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