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ぼちぼち酷い目にあう
両親が圧をかけられ、自業自得で頭を抱えている頃、春陽もまた腹を立てていた。
番であるはずの自分を放って、鬼灯は未だ妹に手を出したいと思っているようだった。その性根がどうであっても、どんな目的であっても彼女にとって、自分以外へと興味を持つことは裏切りにも等しい。
そんなある日、彼女は赤金家に連れて行かれた。鬼灯の妹が問題を起こしたせいで大変な騒ぎになっている。当人の部屋の前には銀髪の男が一人。縋るように女の名を呼んで泣いていた。捨てないで、と嘆くその姿はその優れた容姿も相俟って憐憫を誘う。
けれど、春陽は全くそれに興味を持たず、鬼灯の部屋へと急いだ。ここで彼の妹たちに興味を持てていれば彼女はこの先でもっとマシな運命を辿ったであろう。しかし、彼女の世界に必要なのは鬼灯ただ一人。忍び寄るものやその脅威に気づくことはなかった。そして、赤金家の悍ましさにもまた、彼女は気がついていなかった。
鬼とはいっても、全ての鬼が負の感情を糧にするわけではない。そして、全ての妖が本能に任せて他の種族へ危害を加えるわけでもない。
そんな中で、それを続けている彼らをおかしいと逃げることこそが本来、春陽にとっての最善の道だったかもしれない。
けれど、彼女は人間にしては珍しく、番を求める本能が強かった。先程、扉に縋って泣いていた青年と同じように。
だからこそきっと、逃げ遅れたのだ。
鬼灯の部屋に辿り着いた瞬間、赤金家の離れから火の手が上がった。妖は人間よりも身体能力が優れているし、妖力だってある。下手に近づくものではない、と変わらず気にしないまま鬼灯へと声をかける。
「鬼灯くん」
少し甘えたような声で愛しい男の名前を呼ぶ。けれど、鬼灯は厳しい表情で火の上がった方角を見つめている。良くも悪くも、彼は比較的番を求める本能は弱かった。
鬼が襲われていることを知った当主は、番を側に呼び寄せるように告げた。それは守るためでないことを鬼灯は知っている。彼の従兄弟のように、妻を大事にする男だっているが、当主の目的は「もし何かあった時は相手を盾にしてでも生き残れ」という最悪なものである。
(そもそも、鬼なんざの命にそこまで価値があるかよ)
当主は昔、それはそれは美しい銀狼にこっぴどく振られたらしい。それを誘因として、狼族を駆除しており、今はもう絶滅危惧種だという。多くの血の臭いを嗅いだからこそ、似たような獣。犬や狐などの存在を感じると咄嗟に殺しそうになる。だから、嫌いだった。
変にプライドが高く、間違いをそのまま貫く鬼が減ったところで大した問題ではないだろうに。そう思いながら春陽の名を呼んだ。
嬉しそうに春陽が笑った。
ああ、この笑顔を踏み躙ることができたなら。
その感情がおさえきれなくなる、その瞬間だった。地面から杭のようなものが現れる。春陽を抱えて、それを辛うじて避けた。小さく、「蛇…?」と怪訝そうに呟く。
「姉上……姉上、姉上」
地中から怨念の籠ったような声が聞こえる。その言葉にこの度の経緯を察して苦虫を噛み潰したような顔をした。どこから話が漏れたんだか、と呟いて彼は春陽を突き飛ばした。




