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おかしい。
宵月は自分たちの娘のはずなのに。
経済界で知らぬものはいないとも言われる黄金原家。神の血を引く一族に、彼ら夫婦の娘は迎え入れられたのだ。
──他でもない当主の番として。
けれど、それに旨味はなかった。
むしろ、今の会社では針の筵。春陽もあれだけ愛してやっていたのに、鬼の番に取り成しすらしない。
それでも、今まで宵月に対して無関心であったことを謝って、支援金を引き出せれば今までよりも豊かに暮らせる。彼らはそう信じていた。
「おかしな人たちね」
宵月は嘆願の手紙を読みもせずに蘭・凛・恋へとそれを渡す。人の形を取った子狐たちは不快そうにそれを見ると、ぽんと音を立てて火を出した。徐々に黒くなっていく封筒に「火傷をしてしまうわ」と水をかけた。
「そんなものはどうでもいいけれど、あなたたちの可愛い手に傷がつくのは悲しい」
「でも、腹が立ってしまって」
「苛立ってしまって」
「ムカつくので」
読まずとも、子狐侍女たちはわかっていた。彼女たちの仕える女の子が、この手紙の主に甘く見られていることを。謝りさえすればお金を引き出せるなんて思っていることを。
傷んでいた黒髪は今は艶があり、傷跡が残っていた身体も神力に馴染んだおかげかようやく全てが治りつつある。心まで幼いままようやく羽化し始めた主人を守るために、子狐たちはアイコンタクトを交わした。
そう、愛を晴明に求め始めた時点で宵月の興味、関心は両親と姉に向いてはいなかった。存在を認められず、守ってもらえず、家族の中心になんてなったことがなかった。はじめに捨てたのは自分達だと彼らは気が付きもしなかった。他に支えを得た少女に伸ばせるものなどすでにありはしない。自分達の行いが正しく自分達に返ってきたのだ。
だから彼女はきっと、何が起こっていたか知っていてもきっと助けはしなかっただろう。けれど、その心に罪悪感を抱えたかもしれない。
しかし、晴明は宵月の邪魔ばかりをするその両親を心の底から排除したいと願っていた。それに加えて、彼は宵月の安寧だけを願っている。彼女の心に罪悪感を抱かせることなんて望みはしなかった。
それ故に手紙を読みもしないことに喜んだ。どんな状況に置かれているかを宵月が知りたいとも思っていない。何をしようと彼女は関心を寄せたりしないのだ。
以降、宵月の元に手紙が届くことはなく、彼女が両親のことを思い出すことはない。母方の祖父母とは辛うじて交流を続けるものの、肝心の親のことを気にかけることはなくなる。
宵月は日を追うごとに“人”から外れていく。それは番の愛をその身に受けるが故であり、それを嫌がっていないが故だ。
それに伴い、彼女の精神性も人から外れていく。
柔らかく子狐たちに微笑む宵月の元に、晴明は帰る。白い蛇は鬼の妖に牙を剥くだろう。けれど、彼女はそれを気に留めることはきっとない。
「ただいま、宵月。土産だ」
「おかえりなさい!」
パッと花が咲くように笑顔を見せる。ようやく距離が近づいた。心の底から愛しいとでも言うように、晴明は宵月を見つめた。




