試験
試験を受けるため冒険者ギルドにある訓練場に向かうとしたが、受付の会話が聞こえてきたのでロイは足を止めた。
「アルベルト家の無職が登録しに来てるって?」
いかつい冒険者の男がギルドの受付で話をしている。
(無職じゃなくて無職(仮)だ!)
俺は心の中で訂正する。
「それで、登録するための試験は終わったのか?」
「いやまだ試験はやってない。誰を試験官にするか迷ってる。」
「なら俺がやらせてもらおうか。」
「今まで面倒だからって一度も試験官をやったことがないお前が?」
受付の男はいかつい冒険者に確認する。
「アルベルト家の旦那には借りがある。無職だっていうのであればなおさら見逃せねえ。」
(父さんに借り?どう見ても過去にやりあって負けたとか、領地でトラブルを起こして追い出されたとかそういうことだろ。)
ロイはいかつい冒険者を見て心に思った。
「無職をいたぶるって言うのであればお断りだぞ、冒険者ギルドは無職をいじめる場所じゃない。」
「なーにちょっと痛い目を見て冒険者になりたいと思わなくするだけだ。」
そう言い放った男は不敵な笑みを浮かべる。
「はぁ、低ランクで試験官になりそうな冒険者は出払ってるし仕方ない。ちゃんと手加減はしろよ。あくまで試験だからな。そこは忘れるなよ。」
「というわけだ、こいつが試験官で問題ないか、アルベルト家の坊っちゃん。」
受付の男はロイの方を向き確認をする。
「俺の名前はロイだ。アルベルト家の坊っちゃんという名前じゃない。試験官は誰でも問題ない、冒険者としてやっていけそうであれば合格なのだろう?」
「まぁ、こいつ相手に善戦すれば冒険者としてはやっていけるだろうが、どちらかが降参するまでは戦ってもらうぞ。」
「それで問題ない。」
「アーシャちょっと試験監督をしてくるから受付を頼むぞ。」
受付の男性は、別の受付の女性へお願いする。
「わかりました。アランさん、あまり長くならないようにお願いします。」
アーシャはアランを見ることもなく淡々と返事をする。
「では訓練場へ行こうか、ロイ。」
アランの後に続いて訓練場へ向かう。
訓練場へ来ると先ほど試験官を名乗り出た男がすでに準備をしている。
「ロイお前は何の武器を使う。」
アランが確認してくる。
「俺は一応剣を使う。」
「剣か。ザック、ロイは剣を使うみたいだから木剣を用意してくれ。」
いかつい冒険者の名前はザックというらしい。
「剣か、アルベルトの旦那も剣を使っていたな。ほら、木剣だ。」
ザックはロイの足元へ木剣を放り投げる。
「両者武器を構えろ。」
アランが勝負の準備をさせる。
「一応、試験の終了について確認だ。どちらかが降参するか、戦闘不能と俺がみなした時だ。それ以外の場合はどんな状況でも待ったはかけない。魔物との戦闘を想定していると思ってくれ。」
アランが条件を確認する。
「無職が冒険者になりたいと思わないようにしてやるぜ。」
「先輩冒険者の胸を借りるつもりで頑張らせてもらいますよ。」
「それでは勝負はじめ!」
アランが勝負の開始を宣言すると、ザックは素早く動いた。
(あんな巨体で素早いのか。厄介だな。)
ロイはザックの動きを観察する。
「訓練だからって当たると痛いぜ。」
ザックはロイめがけて木剣を振り下ろす。
「残念だけどその攻撃は当たらないよ。」
ロイはザックの攻撃を簡単にかわす。
そのあともザックはロイへ攻撃をするが、ことごとくロイは攻撃をかわす。
「クソ。無職のくせになんでよけられるんだ。」
ザックはロイへ攻撃が当たらないためイラつき始めていた。
「俺の父へ復讐したくて試験官を名乗り出たのかもしれないが、俺だって無職(仮)というジョブを授かってから、アルベルト家の名に恥じないように努力をしてきた。怒り任せで当たるほど俺は弱くないぞ。」
「復讐?なに言ってるんだ。アルベルト家の旦那に恩義を感じても復讐なんて思ったことはないぞ。」
「はぁ?だって俺が冒険者になれないように痛めつけるんだろ?なんでそれが父への恩返しになるんだよ。」
「その話は試験に合格したら教えてやるよ。」
ザックは息を整え、ロイへの攻撃を再開した。
(このまま避けつづけても試験が終わるようには思えない。ザックの木剣をはじくしかないか。)
ロイはザックの隙を探す。
(攻撃自体は単調だから、その隙をつくか。)
ロイはザックが木剣を振り下ろしてきたタイミングで、ザックの木剣をはじき、ザックの喉元に木剣の先を突き付ける。
「勝負あったな。」
ロイはアランの方を向いて確認する。
「勝負あり、勝者ロイ。」
ザックは立ち上がり、ロイに握手と求める。
「さすがアルベルトの旦那の息子だ。無職でもやるなぁ。」
「ザックさんも手加減してくれたとは言え、かなり強かったです。」
「無職ってバカにしてすまなかったな。アルベルトの旦那が前に無職の子どもが冒険者を目指しているが何とかやめさせられないか愚痴ってたと聞いていたからな。どうにかして冒険者をあきらめさせて、家へ帰るように言いたかったが。」
「だから、俺に冒険者をあきらめさせることが恩返しか。だけど、冒険者になることは嫌々ながら認めてくれたぞ。」
「子どもがやりたいと言っているのに、ずっと反対はできないだろう。それに冒険者になればいつ命を落とすかわからないんだ。何とかしてあきらめさせたいだろ普通の親は。」
ザックはロイへ諭すように話す。
「まぁロイの実力であれば判断を間違えなければ問題ないだろ。アラン、ロイのステータスカードを登録してやってくれねえか。」
「手加減していたとはいえ、ザックに勝ったんだ。認めないわけにはいかないだろう。受付に戻ってからまたステータスカードを出してくれ。」
ロイたちは受付へ戻る。