洗礼
僕の名前はロイ=アルベルト。王都から少し離れた都市『アルベルト』を治める領主である父エリック=アルベルトと母カーリナ=アルベルトの次男として生まれた。父と母の子ども僕のほかに、長男のランド=アルベルト、長女のレイ=アルベルトの二人がいる。
この世界では10歳の誕生日に教会で洗礼を受けることで、職とステータスカードをもらい一人前として扱われる。
平民であれば教会で個別に洗礼を受け、職とステータスカードをもらうのだが、領主の子どもとなれば広場で大々的に洗礼が行われる。なんでも、領民を守る立場にあるのだから、領民から信頼されるように、職とステータスを公開しなければならないとの国の方針らしい。
長男ランドが騎士職を授かった時は、父がたいそう喜び三日三晩宴が続いた。それもそのはずである。父エリックは聖騎士職という騎士職の上位職についており、功績次第ではランドも同じ聖騎士職になる可能性があるからである。
長女レイが魔法使い職を授かった時も同じように父は喜び、三日三晩宴が続いた。そして母カーリナはレイが魔法使い職を授かってからマンツーマンで魔法を指導している。なぜなら、母カーリナが魔法使い職の上位職である魔術師という職についているからだ。
ランドもレイも領主の子どもとして幼い頃から鍛錬をしており、その時から騎士職、魔法使い職を授かる兆候があった。
ランドは7歳の時、警備団に交じって訓練をしていた際に、職を授かったばかりの相手とはいえ、15歳の剣士職を圧倒するほどの実力を持っていた。
レイも魔法使いではめずらしい火属性、水属性、土属性、風属性、雷属性の5つの魔法を扱うことができた。
長男が騎士職、長女が魔法使い職となると次男である僕もそれなりの職が期待されている。
「それではこれから我が家の次男ロイ=アルベルトの洗礼を始める。」
エリックが広場に集まった領民に向けて宣言する。
広場のあちこちから声がする。
「ランド様が騎士職、レイ様が魔法使い職。そうなるとロイ様も騎士職か魔法使い職か?」
「聖騎士様と魔術師様の子どもだどちらかを授かるだろうな。
「いや、もしかしたら魔法も剣も行ける魔法剣士の可能性も。」
「なんにせよロイ様も優秀な職を授かったらこの領地も安泰だな。」
領民が期待の眼差しを洗礼に向ける。
「それではロイ様、水晶に手をかざして祈りをささげてください。」
教会の司祭は水晶をロイの前に出す。
「我は望む。この世界で役目を果たすための職を。我に潜みし内なる力よ。現れよ。」
職を授かる祈りを捧げると水晶と司祭が持っていたステータスカードが光る。
どうやら無事に職とステータスカードを授かったようだ。
「司祭よ。我が息子ロイの職はなんなのだ?騎士か?魔法使いか?魔法剣士か?」
エリックは急かすように司祭に確認する。
それに対して、ステータスカードの職を確認した司祭は、ぎょっと目を開き、汗をかきながら答えにくそうに言葉を発する。
「エリック様、非常に申し上げにくいのですが・・・・。」
司祭はこの場で職を伝えてよいかわからず言葉が弱弱しくなる。
「その様子だと騎士、魔法使い、魔法剣士の職ではないな。しかし、他の貴族の子息にも料理人や商人といった職の子息はいる。それでロイは何の職を授かったのだ。」
ここまで言われてしまうと司祭もロイの職を領民に伝えるほかなかった。
「ロイ様の職は無職(仮)です。」
その言葉を聞いて僕はもちろん、父エリックも愕然としていた。