スタンピード防衛戦?いえいえ殲滅戦です
戦闘にならない戦闘回です。
まぁ効果音の羅列だけの戦闘ではないのでちょっとは楽しんでいただけると思います。
……我ながら話の展開がジェットコースターでもうちょっと落ち着けたいです(届かぬ想い)。
魔物の気配がする方に駆け足で向かう、駆け足と言っても今のギルドの上位冒険者の全力疾走と同じくらいでルーチェも並走できるくらいだ。
「…魔物の気配がなんとなくわかるの、便利」
「こっちは精霊たちが教えてくれるからもっと楽だよお姉ちゃん」
「…む、何で私の方には精霊が来ないの?」
「そりゃあお姉ちゃんが最初にフラメに殺気を叩きつけたからフラメより下の精霊たちは怖がっているからだよ、フラメは精霊王だしその内慣れると思うけど今すぐはムリだと思うよ」
「!!…無念っ」
「私も一言言っとくからそんな残念がらないでよ……」
殺伐とした空気を冒険者たちは放っていたがそんな事は知らんと言うように二人の間の空気は和やかだった。
そうこうしている内に魔物対策の壁の外に出たので、
「…オークやオーガが多い、ルーチェはあいつらを倒しといて。私は…マンティコアを倒してくる」
「オーケーお姉ちゃん、あの気配はマンティコアだったかぁ、ここの冒険者たちじゃ倒せるかもしれないけど被害がやばそうだね」
そんなルーチェの一言を聞いた瞬間に踏み込んで加速する。一歩目の加速で最前線のゴブリンたちの前に出て次にオーガたちを抜かし、捕捉したマンティコアの首めがけて弾丸のように突撃する。
野生の勘かマンティコアが首を動かしたので小さな傷しかつかなかった。
私を認識した奴は戦闘態勢をとった。
「Gururuaaa!!」
己の体に傷をつけた者を八つ裂きにする為に一歩を踏み出そうとした……が、踏み出した足の力が抜けて踏ん張ることが出来なくなり転倒する。立ち上がろうとするが強い脱力感と痺れがそれを許さない。
「…少し効きが悪かった、やっぱり古かったかな?」
感情を感じ取りにくい声が響く。
「…まあいいや、マンティコアの毒もストックしておきたかった。尻尾の蛇が強力な麻痺毒を持っているんだ」
まあ、こんなもんだよね。…ついでに毒の効力の実験もしたんだけど大型モンスターにこれだと少し不安だね。倉庫に魔力で保護されてたんだけれどやっぱり効力は落ちてたみたい。
おっ、マンティコアの毒と私が入れた毒が混ざって新しく毒ができそうだ。ちょっと楽しみだ。
「…帰ってくるついでにルーチェが倒したであろうオークの死体を回収しよう、一応食肉だしね」
そうして戻ってみると、既にスタンピードは終わっていてひと段落がついたところのようだ。そこでルーチェを探そうとした所でルーチェに詰め寄っている魔術師風の男たちが目に入った。
っっ殺……お、落ち着け落ち着くんだkoolになれれr、向かう途中にルーチェが
「私は大丈夫だよ、お姉ちゃんがやりたい事を新しく見つけてよ」
と言っていたのだ。
前回のミスから学んだナハトはルーチェと男たちの間に入り目力だけで男たちを圧倒する。
「…私の妹に何の用?」
ギルドの出来事を知っていたらしく男たちは蜘蛛の子を散らすように走り去って行った。
「…ん~さっきよりかはマシだね、いい調子だよお姉ちゃん」
「……うん」
これではどっちが姉妹かわからないね、でもルーチェはこの世界で百年過ごしてるし私はある意味零歳児だから……うん、是非もないよね♪
ナハトがデレデレしている間にも他に比べても身長が低かったり目を引く容姿だったりで注目を集めている。
「…イライラする、はっ倒していい?」
「だめだよ!?ここの人たちは脆いんだからね!」
イライラして国王の所に行く気が失せたので回収したマンティコアの死体を案内してもらった解体場に置いておいてさっさと二人で帰った、国王の所に行くのは明日にしよう。
***sideギルマス
「……たった一撃、いや刃をかすらせただけでマンティコアを倒すなんて」
「山賊の時も無力化するだけだったし威圧も強力だったから只者ではないと思っていたが…」
「……っこ、ここまで…とはね」
アイザックはただ漠然と上位冒険者より強いとしか感じてなかったがクレアは気づいてしまった。上位冒険者たちは溢れ出る魔力のせいで威圧をばら撒きかねない為普段は魔力を抑えて生活しているがそれでも同じ上級冒険者ならば判別ができるぐらいだ。
だがナハトとルーチェには魔力を感じられない。この世界では全ての物に魔力は宿っていて例外なく魔力を持たないものはいないとされている。つまりナハトとルーチェはマンティコアを圧倒する力量を持ちながらそれを完全に制御していると考えられるのだ。魔力が無いとは考えられなかった。二人とも魔力を扱っていたからだ、ナハトは魔力でできた毒でルーチェはオークたちをなぎ倒した魔法で。
クレアはあの二人に対して正体不明の恐怖を抱いてるのだ。
「あの、すみませんギルドマスター」
「何ですか?マンティコアの方は終わりましたか?」
「それが……マンティコアの体内にある毒が解毒できませんでした」
「何ですって?マンティコアの方へ案内しなさい」
私は解体場へ向かいどんな毒でどんな解毒方法を使ったのかを聞いた。
「司教クラスの神聖魔法で解毒出来ない毒ですか……しかたないですね、治療院の方へ行って大司教を呼びましょう」
「ギルマスそれは……」
新人の職員が異を唱えた。無理もない、冒険者ギルドと傷の回復や解呪などが出来る神聖魔法を扱える者が集まる組織である治療院との仲は険悪だ、ギルド側は向こうを“金の亡者の狸親父たち”だと思ってるし向こうも向こうで“棒切れを振り回すだけの馬鹿”言っているし特に人間以外の種族に対しては本当に酷いもので「おやおや?森に帰らなくてよろしいので?二足歩行は辛いでしょうに四足で歩いてもかまわないのですよ」とエルフに言ってのけるのだから呆れを通り越して感心してしまった。
この国ではエルフが枢機卿がになっているので表立った対立は無いが末端の動きは流石に止められず、今回の件で治療院が関わると向こうからのちょっかいが増えることを危惧してるのだろう。
だが
「マンティコアの素材は貴重だわ、それこそ一般的な侯爵が一年普通に過ごせるだけの価値はあるの。冒険者ギルドは基本的に国に所属しているの、マンティコアの素材なんて国力増強のチャンスを国が見逃すことは出来ないわ」
私の一言に職員は静まり返る、皆も理解はしているのだ。ただ治療院に頼ることに納得できないだけなのだ。
「そうですか……わかりました。僕が治療院へ行って呼んできます」
と職員の一人が動こうとしたとき。
「その必要は無いよ」
「っ!陛下!!なぜ陛下がこちらに!?」
ギルマスが驚きのあまり素っ頓狂な声を上げているが周りの職員たちもギルマスと同じような間抜け顔をしていたのでギルマスの言葉がここにいる職員たちの総意であることが分かる。
……だが、そんな事に気が付いてないのか当の本人は悪びれることなくこう言った。
「いやね、報告で一撃でマンティコアを屠った少女とスタンピードの魔物たちの半数以上を殲滅した少女がいると聞いてね。気になってここに来たんだけど……」
「とりあえずマンティコアの解毒をしようか」
と言うや否やマンティコアに光が集まる。神聖魔法だ、しかしこんなに光り輝いているのは枢機卿のものでも見たことがない。
「おや?解毒できないね」
「陛下でも解毒不可能な毒何ですか?」
この国最強の存在であり神聖魔法にも精通している陛下が解毒不可能となると、解毒できる存在はいるの??
と混乱してると。
「…そういえば……さっき言った少女たちの名前を教えてくれるかい?」
「…ナハト様とルーチェ様ですよ陛下」
本来なら冒険者の情報を公開することはあり得ないのだが両者共にAランク相当の功績を出しており特にナハトは四人組のAランクパーティー三つで対応するマンティコアを単独で倒しておりSランクに近い。
Aランク以上は国に所属するのが基本なので言わざるを得ないのだ。
正確には二人はAランクではないのだが二人が陛下と友人関係であり二人も陛下に会いに行くつもりと話していたため教えたのだ、勿論陛下でない別の者なら絶対に教えることは無いが。
……陛下が静かだと思っていたら何やら考え事をしていたようで。
「…なるほどね、二人に明日マンティコアの毒の解毒と城に来るように言っておいてね」
「えっあへ、陛下!」
八十年ほどの付き合いがあっても陛下の突拍子の無い行動には慣れませんね。
もう帰ってしまいましたし……はぁ、後で彼女たちに遣いを頼みましょう。
***
「…あ、マンティコアにつけた毒の解毒をするの忘れてた」
「お姉ちゃん!?」
やっと愚かな貴族さんと関わるきっかけの一つが来ました。




