国王登場
突然の思いつきで始めました。
読んでいただければ、幸いです。
レナードの言葉に驚いてしまい、うっかり瞬きしてしまったジルベルトの鳶色の瞳から涙が零れた。
「……えっと、ありがとう…ございます?」
なんとかそれだけの言葉を絞り出したが、混乱したままレナードの様子を窺うと、何故か嬉しそうに微笑んでいる。
「ふふ。混乱しているのが、分かるよ」
ジルベルトの頬を滑る涙を指で掬い、それをあろう事かぱくりと口に含んでしまった。「甘いね」と呟くレナードの行動にジルベルトは耳まで真っ赤にしたまま固まる。その様子にレナードは更に笑みを深くする。
「ちょっと!!なんでレナードが男色家になってんの!!」
その様子をライラが煩く喚いて、水を差すものだからレナードは顔を顰めた。
「……君とは、また後で話そう」
そう言うと、ジルベルトの手を取るとそのまま手の甲に愛しそうにキスをした。
チュッとリップ音をわざとさせ、上目遣いにジルベルトの様子を伺う。
「!!!」
その行動にジルベルトの顔が一気に真っ赤になり、慌てふためいている。そのジルベルトの様子に益々、嬉しそうにレナードが笑う。その二人の様子を会場の人々は、顔を赤くする者、顔を青褪める者、異常に興奮している者、引き攣った顔をする者と様々な反応をしている。
そんな時、会場の扉の向こうから言い争っているような声が聞こえだした。
「陛下!駄目ですって!!」
「遠慮はいらないぞ。楽…ゲフン、ゲフン…んん、息子の様子を見に来たんだ。良いじゃないか」
「今、楽しそうとか、言いそうになってましたよね!!ねぇ!!陛下!!!」
「宰相殿は、細かいな。良いじゃないか。禿げるぞ」
「禿げたら全部、陛下のせいですからね!!」
「むしろ剥げれば良いのにね」
「意地でも禿げるもんかぁぁぁぁ!!!!!!」
「間に合ったかぁー!」
「話を聞けぇぇ!!!!」
扉の前で散々騒いで絶叫と共に飛び込んできたのは、このジェーリェヴォ王国の王であるグレン・ラディーチェだった。
金の髪は、癖っ毛で纏まりがなく、撥ねている。眉は凛々しく、表情豊かな瞳は濃い青色をしており、とても端正な顔をしている。白磁の肌は、興奮でうっすらと桃色をしている。十人が十人、見蕩れる美貌をした王は、三十代の男性だが、好奇心いっぱいの顔をしている為か、悪戯っ子の少年の様な印象を受ける。
その後に会場に入ってきたのは、疲れた表情のこの国の宰相であるナルサス・ストヴォールと王の近衛騎士達だ。
「…間に合ったみたいですね。生徒と保護者達を外に出しましょう」
そう言うと、宰相ナルサスは近くにいた近衛騎士に指示を出し、生徒達を外へと移動させる。
柔らかい亜麻色の髪は、急いでいたのかボサボサで、翠玉の瞳は光がなく虚ろだ。宰相であるナルサスはジルベルトの父で、常日頃から国王グレンの暴挙に付き合わされている。その為か、胃薬が手放せないのと慢性的な睡眠不足気味で残念ながら常であれば、彼の優しげな容姿は、人の目を引く程の美男子だが、今はその美貌が翳っていた。
「おや?来たんだね?忙しいから来ないかと思っていたのに」
呆れたような表情で出迎えるレナードにドヤ顔のグレン。
「ふふん。抜けてきた。楽…大事な式………いや、楽しそうだったからね!!」
言い放った言葉は、とても誇れるものではなかったが、彼のいつもの言動なので放置するレナード。ただ、宰相であるナルサスは聞き流さなかった。
「言い切った!!!言い繕うのやめたのかよ!!!この、快楽主義者がぁぁぁぁぁ!!!!!!」
喉が潰れるのではないかと思うほどの絶叫は広い講堂内を駆け巡り、ビリビリと空気を震わせた。
「父上、叫ぶと喉が潰れますよ?何か飲み物を持ってきましょうか?」
気遣うジルベルトへと顔を向けたナルサスは滂沱の涙を流し、この場に頽れる。
「うう…息子が優しくて癒される」
ドヤ顔の国王グレンに手で顔を覆って息子の優しさにさめざめと泣く宰相ナルサス、そんな父を心配そうに見ているジルベルトをレナードは手を繋ぐとナルサスの傍へと連れ行った。
「さて、…」
瞬間、レナードの姿が掻き消えた。
「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」
突然、絶叫が人のいなくなった講堂内中に響き渡る。絶叫の声の主は、ロイトとジョナサンとケネスだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
ちょっと、短いです。グレンが楽しそうです。