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八十九話 小谷城攻略戦、開戦なんです

迷井豆腐先生の「黒の召喚士」という作品を読んでいたら、すっかり更新が遅れてしまいました。

もっとセンスがあれば……黒の召喚士みたいな面白いハイファンタジー作品を書いてみたいですね。


というわけで、今日も頑張って【雀の銃弾】更新です。




 浅井家の置かれた状況は、まさに八方塞がり、絶体絶命というべきものであった。


 小谷城以外の砦は悉く織田家の手に落ち、小谷城は孤立無援、もはや退く場所どころか逃げる隙間も存在しない、崖っぷちであった。

 

 しかし、こんな言葉もある。「背水の陣」「火事場の馬鹿力」「窮鼠猫噛」。

 逆を言えば、浅井軍の残された全ての戦力が、この小谷城一カ所に集結しているということだ。

 そのうえ、小谷城は小谷山の尾根に連なるように防御施設が造られており、攻める敵は真正面の細道の山道から連なる防御施設を順々に崩していくか、急斜面である横の崖を駆けあがるかの過酷な二択を迫られることになる。それ故に堅城として知られているのだ。


 そして戦力も、浅井三将として知られる海北綱親・赤尾清綱や、姉川で氏郷の猛追を凌いだ無名の将・藤堂高虎が未だ健在である。

 浅井家の命運は風前の灯火とはいえ、この城攻めは決して簡単な戦では無いのだ。




◇◇◇




 時は信忠・羽柴軍が小谷城を包囲してから三日目の夜である。

 両部隊は互いに連携の確認を取り合い、作戦決行の時を今か今かと待ち望んでいた。



 小谷城攻めの総大将である信忠は、総攻撃の決行に夜間を選んだ。

 その理由は二つある。


 一つは、一種のガン担ぎだ。

 俺たちがかつて臨んだ、北伊勢の堅城・大河内城攻め。そんな大戦の際に勝負を決めたのは、後に氏郷の英雄譚の一つとして語り継がれる、剣鬼・北畠具教との一騎打ち『魔虫谷の死闘』。……その発端となったのが夜襲作戦であった。

 以来(俺は元々忍衆なのでそういったことは当然得意だが)、氏郷を始めとした信忠軍は、夜襲戦に得意意識を持っているというか……、少なからず上向きな印象を持っているのは確かだ。

 だから得意な夜戦で勝負を決めてしまおう、というのが一つの理由だ。


 そしてもう一つの理由が、作戦上、夜間の奇襲の方が効果的だから……というものであるが。



「さぁ、久助。作戦決行の時だ」

「ん、あぁ」


 考え事をしていると、信忠の一言で現実に引き戻された。そうか、もうそんな時間か。


「さて、久々に改造されたコイツ(・・・)の出番だ。……腕は鈍ってないだろうな?」

「勿論よ、久助の旦那! あんまり暫くぶりの出番で、忘れられてないか心配だったくらいでさぁ!」


 確かにご無沙汰だなぁと思ったが、改めて考えたら五年ぶりか。


「悪かったよ。その鬱憤を存分に込めてブチかましてやれ、嘉隆」

「おうよ! 行くぜ野郎ども、『対城砲・鳴神(なるかみ) Mk‐Ⅱ(まぁくつぅ)』放てェ!」



振り下ろされる嘉隆の采配、それと同時であった。


 ガァァァァァァァァァァァァァアアアン!!!


 大気を揺らす轟音と共に火を噴く、改良型攻城兵器『対城砲・鳴神(なるかみ) Mk‐Ⅱ(まぁくつぅ)』。

 かつて北伊勢・高岡城の城壁に風穴を開けた怪物兵器が五年の時を経て姿を変え、生まれ変わった長距離砲撃兵器(国崩し)


 戦場の何処に立っていたとしても聞こえるであろう轟音は、浅井の兵たちを震え上がらせ、そして……。


 織田軍の将兵へ「作戦開始」を告げる、進軍の狼煙でもあった。




◇◇◇




「……砲撃の音、合図だな」


 闇夜を穿つ砲弾が小谷城下の櫓の一つに着弾し、火を噴いて崩れ落ちる様は、小谷城の後方・大嶽砦を占拠している羽柴秀吉の眼下にも届いていた。


 羽柴隊の役割は攪乱だ。

 浅井長政がいるであろう、小谷城の本丸の背後に位置する大嶽砦は、織田軍にとって絶好の位置にある砦であり、浅井軍にとっては目の上のたんこぶである。

 そこに陣取った羽柴隊が動きだせば、浅井長政はそちらに注意を向けざるを得ないのだ。


「(功績を譲るのは悔しいが、優先すべきは織田の勝利。我らは我らの役割をこなすのみよ)」


 秀吉はふぅっと深く深呼吸をし、そして刀を抜いて一声。


「先ずは我らの部隊が先陣を切る! 攪乱が任務とはいえ、加減する必要は無い。存分に暴れてやるのだ!」

「「「応ッ!」」」



 掛け声に答え、秀吉隊の精鋭たちが一斉に動き出し、小谷の山を駆け下って行った。




◇◇◇




 それと同刻、砲撃の合図と同時に動き出した部隊がもう一つある。


「ふぅ……。相変わらず、戦場の雰囲気は合わないな。緊張するよ」

「そんな泣き言は言っていられませんぞ、信康様。貴方は徳川家の当主なのですから」

「あぁ、わかっているよ。もういつまでも守られている訳にはいかないんだ。織田軍の一将として、能力を示さねばな」


 そんな言葉を交わし合うのは、徳川の若き当主・徳川信康と、その側近・酒井忠次だ。

 

 信康を大将とし、徳川家四天王・酒井忠次と榊原康政が属する部隊の役割は、小谷城正面からの侵攻だ。

 多方面からの同時侵攻作戦に参加する三部隊のうちの一部隊であり、他の羽柴隊、蒲生隊と同様に、全ての部隊が主力軍と言えるほどの一級品の戦力を携えている。


 そんな一軍を任されるという大役を務めることとなった信康だが、その顔にはもう不安の色は無く、忠次が見たそれは、覚悟を決めた一人の男の顔であった。


 立派になられた……と、忠次は安堵した。

 先代当主・家康が、後継ぎの信康と、徳川四天王を始めとする何名かの家臣を残して織田家を裏切ったと知った時、忠次は徳川家の終わりを覚悟したという。いや、残された徳川家の誰もが、彼と同じ末路を想像しただろう。

 しかし信康だけは諦めていなかった。皆の想像を超え、信康は光明を掴み取って見せた。織田家への臣従という形で、徳川家の命運を繋いで見せたのだ。


 その日その時から、徳川家家臣団は信康を新たな当主と認め、彼への忠義を誓った。



「三河武士は健在也と、武働きで示すのだ! 徳川隊、出撃!」


 信康の号令に従い、徳川軍の猛攻が始まる。これが新たなる徳川家の第一歩であった。




◇◇◇




 そして、主力部隊の三軍のうちの三つ目。蒲生氏郷が率いる蒲生隊は、他の二部隊より少々遅れて動き出した。


 決して足並みが揃わなかったわけではない。蒲生隊は、羽柴隊と徳川隊の侵攻によって前後に守備兵が集中した小谷城のどてっぱらを叩くべく、あえて出撃を遅らせていたのだ。


 蒲生隊の作戦は、小谷山の斜面を駆けあがり、浅井長政の守る本丸・浅井久政の守る小丸の間にある『京極丸』という砦を占拠することだ。

 当然の如く浅井軍もそれを警戒し、山の斜面の所々に『曲輪(くるわ)』と呼ばれる防御拠点を築き、警戒していた。

 しかし勝算はあった。それは浅井長政の親族である浅井井規(いのり)という将の寝返りだ。

 氏郷たちはこの浅井井規から城の守備の情報を掴んでおり、守備の薄い場所を突いて一気に奇襲をする作戦を組んでいたのだ。

 この部隊の作戦の成功が戦の行く末を左右するため、実質的にはここが本命の部隊である。



「いよいよですね、蒲生様!」

「おう、あんまり張り切りすぎるなよ」


 そういって落ち着かない様子を見せるのは、蒲生軍の一員として成長し、本日遂に初陣を迎える若武者・井伊万千代だ。

 彼も蒲生隊の一員として、過酷な奇襲作戦に参加する将の一人である。

 本当は初陣であるので、信忠隊か徳川隊に配属し、安全な場所から手柄を立てさせてやろうと考えていたのだが……。


「一益様や氏郷様、長可様は、初陣で先陣に立ち、敵を斬り伏せたと聞きました! 某も負けたくありません! やれます!」


 と、万千代君の必死の懇願に根負けし、ついつい許可してしまったのだ。


 彼の師匠である忠勝は「死んだらそれまで。此奴の力不足故よ」とか言ってるし。

 彼の兄弟子で上司の氏郷は「まぁ、万千代なら大丈夫だろ!」と笑っていた。



そんな蒲生隊は、脳筋共を纏め上げる頭脳担当……つまり軍師の景虎、そして本多忠勝、井伊万千代、森長可といった、織田家が誇る猛将が勢ぞろいする精鋭中の精鋭揃いだ。


「そろそろ行くよ、氏郷」

「いよっし、そんじゃ一丁暴れてやるとすっか!」


 氏郷たちは闇夜に紛れてゆっくりと動き出した。目指すは小谷城の大動脈・京極丸砦だ。






1572年、春。

本編でおおよそ八十話ぶり、年数にして五年ぶりとなる、久助の秘密兵器・鳴神の砲撃によって、戦の火蓋は切って落とされた。

羽柴・徳川・蒲生の三部隊による怒涛の攻めが、堅守の浅井軍に襲い掛かるんです。


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