表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/144

八十三話 我こそは月読命様の神気を封じし闇夜の旋風…前編なんです

明日から帰省で暫く忙しくなるため、少し短いですが前後半に分けて投稿します。


 義母・輝子への挨拶を無事に終わらせた俺たちは、このまま小田原城で一泊し、明日の早朝に織田領へ向けて出発することとなった。


 夕食は氏政や三郎たちに招かれ、豪華なもてなしの料理を振る舞ってもらった。鈴はこんな豪華な料理を食べたことが無いと、一口ごとに感激しているのが非常に可愛らしかった。



 そんな日の夜のことだ。


 俺とミケは八畳間ほどの広さの客間を寝室として借り、そこで寝支度をしていた。

 ちなみに、ミケ以外に荷物持ち兼護衛で連れてきた夜鷹衆の配下三名は、この部屋の隣にある従者の控室のような、一回り小さい部屋を寝床として待機させている。

 ミケも護衛の一人ではあるが、年頃の少女を男性三人の中に混ぜ込むのもなんだし、だからといって一部屋借りるのもなんだったので、俺と同じ部屋ということで落ち着いた。別にやましいことは無いぞ。


 鈴は家族と過ごす最後の晩なので、今夜だけは輝子のところで過ごすようにと送り出してきた。なので鈴はここにはいない。



「なんていうか、旅館に来た気分ですにゃ」

「そうだな。夕餉もまるで老舗旅館の会席料理のようだったし、これで温泉さえあれば本格的に高級旅館ってカンジだったな」

「久助サマって本当に温泉がお好きですよね」

「生前の父親の影響だなぁ。サウナのような蒸し風呂も嫌いじゃないけど、やっぱ風呂は湯船に浸かってナンボだわ。帰りに箱根に寄って行くのもいいかもなぁ」


 ゴロンと布団に寝そべりながら、そんなことを口にする。


 箱根温泉が世間に一般的になるのは小田原征伐の際だと言われているし、きっとこの時代でも温泉を楽しむことが出来るだろう。

 

「(鈴がいるから往路よりはどうせゆっくりとした足並みになるし、特段急いで帰る必要もない。折角だし寄り道しちゃおうかな?)」


 ムフフとそんなことを考えて口元を緩ませていたら、襖の向こうから「トントン」と音が聞こえてきた。

 よっこいせ、と俺は体を起こして「どうぞ」とその音の主へ声をかける。


「夜分遅くに失礼致します。お水をお持ち致しました」


 そう言って入ってきたのは、一人の女中さんであった。

 この女中さんは、俺たち一行が小田原城に着いてからはずっと付きっ切りで世話をしてくれている、北条家側の女中さんだ。

 年齢は俺と同じくらいだろうか、常に落ち着いていて淡々と仕事をこなし、凛とした雰囲気を纏っている。なんとなく只者ではなさそうな鋭さを感じさせる美少女なのだが……。

 なんなのだろう、凄く気になるんだけど、聞いてもいいものだろうか。いいや、この際だから聞いてしまえ。


「ありがとうございます。それで、あの……それ(・・)は……?」

「はっ……?」


 「何かおかしなところでも?」みたいな表情をされたが、どう考えたって気になるよソレ。

 ミケも同様に思っているようで、どうやら俺がおかしいわけではないようだ。よかった。


「『はっ……?』じゃないよ! その眼帯! さっきまでつけてなかったでしょ!」


 俺とミケがどーしても気になってしまう女中さんのソレ(・・)とは……彼女の左目を隠すように付けられた、真っ黒な眼帯(・・・・・・)であった。



 夕餉の時に会ったときには眼帯など付けてなかったので、この数時間で怪我をしたのか?

 いや、それだったら別の女中に交代するなりして、眼帯までして客人の前に出てこないだろう。それに眼帯が真っ黒である意味がわからん。普通は清潔感のある純白だろう。

 じゃあ何なんだアレは。北条家の女性たちに流行りのファッションなのか?


 なんて脳内で考察を巡らせていると、眼帯の謎を指摘された女中さんは突然右手で眼帯に隠された左目を覆い隠す様なポーズをとった。


 おや?


「……クックック」


 そして謎ポーズのまま、小さな声と共に笑みを浮かべる。

 これってもしかして?


「……もしやその瞳には、隠されし力が」


 意を決した俺はブラフを仕掛ける。思いつく限り最悪の予想……、是非とも的違いであって欲しい推測を確かめるためのブラフであった。


「!?」


 が、残念なことに彼女は、見事なまでにそのブラフに喰いついてしまった。

 ピクンッと反応し、右目をカッと開かせた彼女は、口端を吊り上げて暗黒微笑(ほほえみ)を浮かべた。


「フッ……、貴様も感じるか。我が左目に宿る、月読命様の神気を!」




「(あっちゃ~~~!!)」


 思わず天を仰いだ。

 彼女に対する「凛とした美少女」とかそういう良いイメージが、音を立てて崩れ落ちた瞬間であった。


「えっ、貴様!? ええっ?」


 突然態度を急変させた彼女に、ミケはわけがわからない様子である。

 だが俺は……彼女を蝕む()に心当たりがあった。



「無理もない。この力を感じ取れるのは闇夜に選ばれし者のみ……。この†漆黒の封具(眼帯)†は、神気を抑えるための封印なのだからな!」



 うん、間違いない。


 この娘……厨二病だ!




1571年、春。

小田原城で久助たちのお世話をしてくれた「デキる女中さん」の本性は、「謎の厨二病少女」だったんです。

……何しに来たんだ、この娘。


こんなに書いてて疲れるキャラは初めてです。

ノリと勢いだけですが、若干後悔しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ