七十九話 振り返りと結婚騒動なんです
おおよそ一週間ぶりですね、お待たせしました。
第六章のサブタイはまだ決まってないので、まだ未定でお願いします。
1571年、三月の上旬。
非常に長く感じた第一次信長包囲網の戦乱も落ち着き、春の陽気が感じられる季節がやってきた。
昨年秋の戦以降、織田家は各地の戦後処理や外交に追われた。
もはや久助の知っている戦国とは全く違った歴史を辿りつつあり、流石の久助やミケでもてんてこ舞いの忙しさであった。
ではここで、改めて各方面での戦の結果とその後の展開を振り返ってみよう。
◇◇◇
先ずは南近江・坂本の宇佐山の戦い。織田軍の森可成が宇佐山城に籠り、浅井・朝倉・比叡山・徳川の軍勢を相手取った戦いだ。
徳川家康が反旗を翻したことによって史実以上の窮地に立たされた宇佐山城であったが、織田家が誇るリアルチート・前田慶次が天下無双の大立ち回り。浅井家の重臣・雨森弥兵衛などの将を討ち取る戦果を挙げ、また森長可隊の援軍もあって盛り返し、織田軍の奇跡的勝利に終わった。
織田軍に多くの兵の損失はあったものの、宇佐山城の防御を務めていた森・青地・織田信治の三将は健在。宇佐山城という要所も守り抜いた。
対して早々に撤退を決めた朝倉勢には大きな被害はなく、浅井勢も雨森を失ったものの、深刻な打撃を与えるには至らず、各勢力とも未だ健在である。
最も被害を被ったのは徳川軍であった。琵琶湖を突っ切って援軍に駆け付けた森長可の猛攻に晒され、多くの家臣を失いつつ敗走。その後木下秀吉によって捕捉され降伏。後日大垣城にて斬首され、家康派の徳川勢は滅亡した。
この戦いで最も目立った功績を挙げた前田慶次であったが、「俺は出世にも領地にも興味はねぇ。それよりも好きにさせてくれ」と報奨を固辞。彼に与えられる予定であった報奨は可成・青地・信治の三将と長可に与えられたようだ。
次に駿河・稲子の戦い。久助・氏郷が率いる織田軍と、信康が率いる信康派徳川勢、そして氏政率いる北条軍の連合軍が、信玄が指揮する武田軍と激突した戦だ。
前哨戦として織田・徳川軍は遠江から、北条軍は相模から駿河大宮城へ向け、武田軍の砦を攻略しながら進軍。武田軍の将・原昌胤が守り堅城で知られる駿河大宮城は、北条家の若き参謀・北条三郎の策と勝鬨戦法により僅か二日で攻略。城主・原昌胤の首と引き換えに兵を見逃し、駿河大宮城は開城した。
その後連合軍は、武田軍の進軍経路上にある稲子(現在の富士宮市の西方、富士川沿いの県境付近)の地で決戦に挑んだ。
連合軍は蒲生・本多・酒井隊を先鋒に配置、対する武田軍は山県・小山田隊を先鋒部隊とした。蒲生隊は久助が対赤備えとして準備していた切り札『動く砦』によって山県隊に大打撃を与えることに成功するも、猛反撃を見せる山県隊と救援に駆け付けた内藤隊と激しく交戦した。
同じ頃。後方に位置する連合軍本陣に、武田軍の別動隊・秋山信友が奇襲を仕掛ける。が、それは連合軍には察知されており、北条軍の三郎と北条綱成は逆手にとって罠にかける。
総大将・北条氏政を狙って深入りした秋山隊は、三郎の策『十面埋伏の計』により壊滅。秋山信友は北条赤備え・北条綱高によって討ち取られた。
また表沙汰にはなっていないが、水面下では滝川・服部・風魔の誇る連合軍の忍衆と、武田の素破が激突。数でも能力でも勝る連合軍の忍衆が武田勢を圧倒した。
秋山隊の奇襲失敗と素破の壊滅によって旗色が悪くなった山県・内藤隊は撤退を決意。しかしそれを読んでいた久助が崖路を爆破。崖崩れによって道を塞ぎ、彼らの退路を塞いだ。遂に動き出した武田軍本隊も、久助に雇われた狙撃手・杉谷善住坊の銃撃により妨害された。
漸く瓦礫を撤去するも救援は間に合わず、そこで武田軍は撤退。大勢は連合軍の勝利に終わった。
連合軍の被害状況としては、最前線で武田赤備えの猛攻を受け止めた蒲生隊や、秋山隊を引き付けた北条綱成隊に負傷者や戦死者が多くみられるものの、全体としての損害は少ないほうだろう。指揮官クラスの人員に戦死者は出ていない。
対する武田軍は、駿河大宮城城主・原昌胤、別動隊・秋山信友、先鋒部隊・小山田信茂、そして武田四名臣が一人・内藤昌豊を失う痛手を負った。山県昌景は負傷するも生還したようだ。
武田軍はそのまま甲斐まで後退し、駿河領は連合軍が獲得した。その領地は織田・徳川と北条で山分けということで、富士川で隔てて西側が織田・徳川領、東側が北条領となった。
父親である徳川家康の謀反によって立場が悪化した徳川家であったが、混乱の最中でも家臣を纏め上げ、此度の戦で戦果を挙げた功績によって、徳川家は三河・遠江・駿河領を安堵されることとなり、徳川家の当主は家康の嫡男・徳川信康が正式に継承することとなった。
大名家としては存続しているものの、信康は久助に対して無条件降伏を宣言したために実質的に徳川家は織田家に服従した形になっている。中にはそれを良しとしない家臣もいるようで、信康は家臣を纏めるために奔走しているようだ。
上記二つの戦は勝利に終わったが、そうでない戦もある。
織田信長本隊や松永久秀、雑賀・根来衆の軍勢と、三好勢や雑賀衆が激突した野田城・福島城の戦いだ。
五万を超える大軍勢で三好勢を根絶やしにすべく決戦を挑んだ信長であったが、序盤こそ優勢に戦を運んでいたものの、野田・福島城が地の利に恵まれた堅城であり、また石山本願寺勢の参戦もあって中々決定打を与えられなかった。
戦況は平行線であったが、徳川家康の反乱、大軍勢に包囲された京の玄関口・宇佐山城、そして迫りくる上杉家の脅威と、相次いで告げられる報告。とてもではないが信長は三好勢を相手に戦を継続している場合ではなくなってしまったのだ。
このまま持久戦を展開できれば勝利できる可能性は充分にあったのだが、信長は仕方なく攻略を断念。朝廷の権力を利用して和睦が成立させ、戦は引き分け……攻城戦で城を攻略出来ていないという意味では敗北であるが、両者共に手を引かせて京の守りに専念することとしたのだ。
そして各所の戦の中で、最も織田軍が被害を受ける戦となったのが、北近江・塩津浜の戦いである。
織田信忠・丹羽長秀が率いる織田勢は寡兵であり戦力には不安があったが、上杉軍を素通りさせるわけにはいかないため決戦に挑むしかなかった。信忠は罠で上杉軍の進路を誘導したり「弩」という新兵器を携えて奇襲を仕掛けるが、悉く見抜かれた結果、塩津浜にて逆に待ち伏せを受けてしまう。そう、まるで史実の三方原における徳川軍のようにだ。
織田軍は奮戦するも上杉軍には敵わなかった。信忠に預けられた久助の側近・佐治新助によって、信忠は僅かな兵のみを引き連れ戦場を脱出。長秀は殿軍となって玉砕し討死。最期に敵本陣へ強襲を仕掛けた新助は消息不明……恐らく討死したのでは? と推測されている。
だがこの塩津浜の戦いには多くの謎が残っている。
先ず織田勢を完膚なきまでに叩きのめした上杉軍はそのまま南下し、坂本を攻める浅井・朝倉連合軍と合流するものだと思われていた。
しかし上杉軍はそこで足を止めたと思えば、何故かそこで撤退を開始。それ以上攻め込むこともなく越後へ軍を引いてしまったのだ。その転進の理由について様々な推測がされたが、結局どの説も推測の域を脱せず、真相を解明するには至らなかった。
だがそれでも得られた有力な情報はあった。それは新助に従った夜鷹の数少ない生き残りの者が持ち帰った「上杉謙信だと思われていた白頭巾の武将の正体は、上杉四天王が一人・甘粕景持であった」という情報だ。何故甘粕景持ほどの武将が上杉謙信に成りすましていたのかはわからない。だが結局その戦場で本物の上杉謙信の姿を見たものが居なかったことから、恐らく謙信の身に何かあったのか……という想像が織田家中では広がっていた。所詮それも推測でしかないのだが……。
新助の生死についても全くの不明である。戦後に信忠は久助に対し、大切な側近を死なせてしまったことを謝罪した。だがそれに対して久助はあっけらかんとした表情で「いや、なんとなくだけどアイツは生きてると思うぞ。そのうちしれっと帰ってくるさ」と言い放った。
なんとも薄情ないいっぷりであるが、信忠は自分に責任を感じないでほしいという久助の気遣いであったのだろうと解釈し涙ながらに感謝したというエピソードは、久助達のちょっとした美談として語り継がれることになるのだが……。本当は久助だけは、この時点で本当に新助の生還を信じて疑っていなかったのは誰にも知られていない。
◇◇◇
手痛い敗北を経験した信忠もすっかり気力を取り戻し、各地に散らばった仲間たちと大垣城で合流したあとは、そのまま大垣城主・並びに東海・関東方面の総司令官に任命され、信忠は実質的に織田家半分の指揮権を握ったこととなった。
織田家の領地も巨大になり、京に拠点を置かなければならない信長一人で管理が出来るのには限度がある。そうして各地への対応を遅らせたことが今回のような窮地を招いたので、東国方面に信長に準ずるほどの権限を任せられるような人員を置きたかったのだ。
その点を考えれば、信長の嫡男である信忠は適任であるし、久助・氏郷もセットで考えれば能力も十分だ。信忠の親友にして腹心の部下である久助にも同等の発言権を与えてしまうことになるが、久助にだってそれに見合う功績を挙げてきたことは織田家中の誰もが認めることであったし、名義的には信忠が東国総大将ということに異論を唱えられるものはいなかったようだ。
そんなこんなで、ここ数ヶ月は内政や外交に追われる日々を送っていたのだ……。
そんなある日のことだ。
またいつものように書類仕事に追われる久助たち一同のもとに、一人の信長からの使者が訪れたのであった。
それは彼らが戦国武将であるからにはいつかは必ず訪れるであろう……結婚に関する話であった。
1571年、初春。
久々の落ち着いた時期を迎えた久助たちの元に、また一波乱ありそうな騒動のタネが舞い込んできた。
信忠と久助の婚約相手……新キャラが続々と登場の予感なんです。




