四十九話 関東王の号令なんです
―――駿河―――
凄まじい速度で武田軍の砦を攻略しながら進軍した滝川・徳川連合軍は、武田軍の迎撃の用意が整う前に駿河国の玄関口・駿河大宮城に到達した。
駿河大宮城は駿河国における攻防の要たる城だけあり、ここまでの城を守っていた有象無象とは違い、原昌胤という武田二十四将が一人の猛将が守護を務めている。
原昌胤は、合戦の陣形の決定や戦況報告を行う「陣馬奉行」という役職を務めた人物だ。
信玄の側近として絶大な信頼を置かれていた人物で、その戦術眼は確かなものだ。
武田軍本隊が到達する前に迅速にこの城を落とし、万全の状態で武田軍を迎え撃つための姿勢を整えたい滝川・徳川軍。
そんな彼らが駿河大宮城に到着するのとほぼ同時に現れたのは、相模からの援軍・北条氏政の大軍勢であった。
◇◇◇
「これはまた……すげぇな」
西から大宮城を包囲するように展開した俺達は、目の前の光景を見て言葉を失った。
城を挟んで反対側……東側を囲うように展開する北条軍、その圧倒的な兵力にだ。
「俺達の軍の数倍はいるんじゃないか?」
氏郷の言葉通り、一万あるかないかくらいの滝川・徳川軍に対し、北条軍はざっとその三倍……三万はいそうな大軍勢での参陣であったのだ。
圧巻な光景を眺めていると、一人の騎馬が北条方からこちらへ向かって駆けてきた。
「お久しぶりでございます、一益殿。援軍の要請に応じて頂き感謝します」
「いえ、こちらこそ。あれほどの軍勢での参戦、恐れ入ります」
その人物はかつて掛川城の交渉で北条方の使者を務めた人物、北条氏規殿であった。
改めて紹介すると、北条氏規殿は北条氏康の五男にあたる人物で、現北条家当主・氏政の弟になる。
主に外交官として手腕を発揮した人物であり、各国との同盟締結の交渉を北条の代表として行っていく人物だ。
「あの竹千代……いえ、家康がまさか織田方を裏切るとは。彼奴の目も狂ったのか……。
兎も角、このような時に一益殿の力を貸して頂けるのは非常にありがたいことです」
氏規殿は、相模まで伝わっていた俺や氏郷の武勇を聞いて再開を楽しみにしていたのと同時に、旧友である家康殿の裏切りを嘆いているようであった。
彼は幼少期に今川義元の人質として駿府に住んでいた時期があり、家康殿と顔馴染みであったのだ。
「いえ、家康殿はきっと……本心から織田家と北条家を裏切ったわけではないでしょう。その証拠に、家康殿は私に彼を預けてくれた」
俺は自分の隣に並ぶ人物を見る。彼は一歩前へ出て、氏規殿へ名乗った。
「初めまして。私は徳川家康の息子にして元徳川家当主・徳川信康です。今は一益様の配下として、力の限り尽くす所存でございます」
「信康……君が……。詳しく、話を聞かせてくれるか?」
氏規殿に対して「滝川一益の配下である徳川信康」と言い切った信康。
流石だと思うのは彼のこの大胆さだ。浜松城の際でもそうであったが、彼は他者の信頼を得る為、利の為であれば、立場もプライドも簡単に捨て去る決断力を持っている。
家康殿が国を捨てて反旗を返した以上、徳川家は信康のものであり、信康は一国の大名である。そんな彼が織田と北条に対して「我らは敵対の意志がない」ということを伝えるためだけに、国ごと滝川軍に降るということを即断してみせたのだ。
彼の決断に文句を言う家臣は誰も居なかった。あの大混乱を、家の危機をたった一言で沈めて見せたのだから。
史実では愚将というイメージのある彼だが、俺から見た彼は間違いなく人の上に立つべき者……名君というべき印象である。家康殿が彼に全てを託していったのも頷ける。
そんな彼の話を聞いて、氏規殿も徳川家のおかれた状況に納得がいった様子だった。
後で知ったのだが、この信康の話を聞くまで北条軍は徳川軍の動向を警戒していたらしい。まぁ話を知らなければ裏切りの軍勢だからな。無理もない。
「……それで、大宮城攻めの作戦はどうしましょう。指示があればそれに合わせますが」
「おっと、話に熱中し過ぎていました……。それについて伝えに来たのでした」
氏規殿はゴホンと咳払いして、脱線した話を元に戻す。
「氏政からの伝言なのですが、『まずはお前たちに北条家の戦を見せてやる! お前たちは武田との戦いに備えて休んでいるといい!』とのことです」
「は、はぁ……。でも、いいのですか? 我らも力を合わせた方が……」
「いえ、氏政は張り切って言っていたので、心配は無用でしょう」
そこまで言うのならお言葉に甘えて待たせてもらうことにしよう。
氏郷が若干つまらなさそうにしていたが、コイツはどーせ出番があるからちゃんと休ませる。
さて、戦国の世に転生して数年。だいぶ落ち着いて大人しくしていたとはいえ、久々に北条マニアたる心が滾る。
関東一の大勢力の戦、是非とも見学させて頂こう! 勿論、最前線で!
氏規殿が去った後、氏郷や信康、ミケたちにそのまま待機の旨を伝え、俺はウキウキしながら単身で大宮城へと向かって言った。
◇◇◇
その頃、北条軍の陣。
黄・赤・黒・青・白。甲冑に塗られた漆の色が五色に分かれていたことからその名が付いた、北条家最強の部隊・『北条五色備え』。
今か今かと開戦の刻を待ちわびる兵たちに熱気が籠る。
やがて先鋒を務める黄色の軍勢から「勝った! 勝った!」と勝鬨が聞こえてくる。
その声は黄備えの軍勢全体に広がり、五色備え全体に広がり、やがて北条軍全体に広がる。
「勝った! 勝った!」の大合唱は大地を揺らし、大気を震わせる。
異様なまでの高揚した空気が戦場全体に広がる。
さぁ、これが北条家の戦だ。 総大将・北条氏政は軍配を振り下ろす。
「行けぇい! 我が北条軍が誇る五色備えよ! 我らの戦を武田の兵共に、そしてあの『夜雀』にも見せつけてやれ!」
火蓋は切って落とされた。
開戦の号令と共に、今、北条の戦が始まる。
1570年、秋。
関東で覇権を握り続けてきた大勢力・北条家。
その圧倒的な戦が今、久助の目の前で披露されるのです。
東海組フェイズが暫し続きます。
明日Am○zonで購入戦争に勝ち抜いて入手したSw○tchとスプ○トゥーン2が届きます。楽しみだなぁ……()




