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四十話 好敵手との出会いなんです

うぅ……。二十四時に間に合わない……。


申し訳ねぇ……。申し訳ねぇ…………。


 磯野隊の快進撃は止まらなかった。


 坂井尚恒の奮戦虚しく、第一段部隊・坂井隊が壊滅した後、続く第二段の池田恒興隊も簡単に突破された。

 第三段部隊の木下隊では、木下秀吉の与力である蜂須賀正勝が奮戦し一時は磯野隊の勢いを抑えるが、それでも猛将・磯野員昌を止めるには至らなかった。


 そして第四段の柴田勝家隊までもが突き破られ、織田家中の名だたる将達が撤退し、織田軍は大混乱であった。


 磯野隊に続いて浅井政澄隊などの後続までもがなだれ込み、織田軍の十三段の陣は成すすべもなく崩れていく。

 このまま信長本隊まで突破され、織田軍が敗北するのでは……。

 敗戦の雰囲気が漂う中、遂に十一段目を突破し、織田信長まで目の前とした磯野員昌の前に、一人の男が立ちはだかる。


 森可成。『攻めの三左』と呼ばれ、織田家中最強の猛将と呼ばれた男が織田軍最後の砦として、浅井家最強の猛将と衝突した。




◇◇◇




 信忠には、懸念を抱くことが一つあった。

 それは信忠・滝川軍の兵士たちの戦闘経験の無さである。


 高岡城の戦いから始まり、観音寺城の戦い、掛川遠征、阿坂・大河内城の戦い、短期間で様々な戦場において連戦連勝を飾ってきた信忠・滝川軍が経験不足なのか? と思うかもしれない。


 が、今までの戦と姉川の戦いには決定的な違いがある。

 今までの戦はいずれも攻城戦であり、それも戦力差のある包囲戦であった。

 だが、姉川の戦いは多少数に優位があるものの、ほぼ互角同士の野戦である。


 信忠が率いる兵には野戦の経験が無かったのだ。



「(まともにぶつかっては、戦闘力の差で我が軍が劣ってしまうな……)」



 信忠はその弱点を十分に理解していた。だからこそ、信忠は指示を出す。



「氏郷。お前は騎馬隊のみを率いて、自軍を脅かす磯野隊を奇襲してくれ。磯野隊の勢いを殺せば勝機はある」


「騎馬隊だけなのか? とにかく突っ込めってことだな!」


「ああ、難しいことは考えなくていい。森殿が足止めをしている隙に、浅井兵を掻きまわすんだ」



 今、信長本隊の窮地を救えるのは遊軍の信忠隊しかいない。大切なのは磯野員昌を討ち取ることではなく、総大将(信長)を守りきることなのだ。



「森殿が奮戦している今が最後の好機だ。氏郷、頼むぞ」


「わかった、任せておけよ!」



 氏郷はヒラリと馬に跨る。

 難しいことは出来ない男だが、だからこそ純粋に強いのがこの氏郷なのだ。



「いくぞ蒲生隊! 俺の後ろに付いて来い!」



 将自らが先頭に立って兵を先導する、これが強いのは磯野隊が証明した通り。

 先陣を駆ける猛将は磯野員昌だけでは無いのだ。


 

「(上手くやってくれよ……、氏郷……)」



 友を信じて送り出した信忠は、自らの策を成す為、残った歩兵を引き連れて軍を動かし始めるのであった。




◇◇◇




 磯野隊と森隊のぶつかり合いは壮絶なものであった。


 これまで十一段もの陣を突き破ってきた磯野隊の士気は上がりに上がり、その勢い最早最高潮、向かう所敵なしといった勢いである。

 対する森軍は、後ろに控えるのは総大将の信長隊で後が無く、何としてでも止めなくてはいけない状況、背水の陣であり、決死の覚悟で迎え撃つ。



「突き進めェ! 織田信長は目と鼻の先ぞ!」


「ここを通すわけにはいかぬ、貴様の相手はこの森可成が致す!」



 雑兵を蹴散らしながら猛進する員昌の槍に、可成の大槍がぶつかり合う。

 


「『攻めの三左』森可成殿か! 相手に不足は無い!」



 員昌もそれに応じ、再び激しく打ち合う。

 両者の実力はほぼ互角というべきもので、他者には横槍を入れる隙も無いほどに壮絶な戦いであった。


 が、周りの兵はそうではなかった。

 浅井軍の兵は精鋭と言えど、十一段もの陣を突き破って来ているのだ。高揚した士気によって奮闘しているものの、その体には確実に疲労が蓄積していた。


 遂に磯野隊の勢いに衰えが見え始める。織田軍に遂に訪れた好機であった。

 

 その時である。



「蒲生氏郷、援軍に参上!! 浅井軍を蹴散らせェ!!」



 まさに窮地の一策。信忠の一手は織田軍にとって、最高の瞬間に駆け付ける一筋の光明となった。

 騎馬隊のみで編成された蒲生隊は側面から員昌隊に突撃する。増援の出現により、破竹の進撃を続けた磯野隊の勢いが遂に止まった。



「森殿、助太刀に参りましたぞ!」


「氏郷か! 助かった! このまま盛り返すぞ!」



 森隊は一気に盛り返し、逆に磯野隊に襲い掛かる。押され続けてきた織田軍が浅井軍を押し返し始めた。



「むぅ……、政澄殿の後続部隊の増援はまだか……!」



 一転して苦戦に追い込まれる磯野隊、彼らの望みは、先鋒部隊の後詰めとして控えている第二陣、浅井政澄隊の到着であった。こちらにも増援が到着すれば、戦況は再び五分以上に戻せる。そう思っていたのだが……。



「報告! 織田軍の増援があらわれ、政澄殿が鉄砲の狙撃により負傷! 第二陣はそのまま織田軍増援部隊と交戦を開始しました!」



 駆け込んできた浅井兵の突然の報告に動揺する浅井軍。

 員昌も可成相手に奮う槍の手を止め、後退する。



「なんと……! これでは我が軍が孤立するではないか!!」



 員昌にとっては一転して絶望的な状況となった。深入りした員昌隊は増援を絶たれることで敵陣に孤立することとなった。このまま更なる織田軍の増援が現れれば、員昌隊は完全に包囲される。それだけは回避せねばならなかった。



「仕方あるまい……、十分に武勇は示したか。員昌隊、撤退せよ!!」



 員昌は遂に撤退の指示を出した。

 十一段もの陣を突き破った磯野隊の、決死の撤退が始まった。


 

「この機を逃すな! 蒲生隊、突っ込めェ!」



 退却を始める磯野隊に、蒲生氏郷が突撃を仕掛ける。

 敵は疲弊した退却軍。獲物を横取りするようであったが、氏郷にとってはこれ以上と無い好機であるのだ。


 先頭を切って駆ける蒲生氏郷。その槍が逃げる敵軍に届く、その時であった。



「うおっと!?」



 氏郷に向けて槍が突き出される。寸の所で氏郷はそれを受けて躱すが、隙を突いた鋭い攻撃に思わず馬の足が止まり、勢いを殺されてしまった。

 突撃する騎馬武者に一人で立ち向かうなど、どれほどの剛の者なのかと氏郷はその相手に向き直る。


 が、その人物は……。



「……雑兵?」



 氏郷の前に立ちはだかるのは、見た目からして名のある将ではない、ただの足軽であった。



「其方は、今天下を騒がせる織田の若獅子、蒲生氏郷だな」


「ああ……、そうだけど、お前は何者だよ」



 一足軽程度がよくも立ちはだかるなと思ったが、どうもこの男、只者ではない雰囲気だと氏郷は感じていた。

 よく見ると男は非常に長身であったが、歳は氏郷とそう変わら無さそうな若者であった。

 氏郷の問いかけに、足軽の男は答える。



「まだ名乗れる程の身じゃないが、俺は必ず功を上げ、名を残す男になる。

これがその最初の一歩だ」



 そう言って、男はクルリと踵を返しこう言った。



「まだ死ぬわけにはいかないからな。ここは逃げさせて貰うが、俺が名を上げたら必ずまた会おう。

俺の名は高虎、---藤堂高虎(とうどうたかとら)だ」



 それだけ言い残し、高虎は他の浅井兵と共に撤退していった。



「(磯野員昌は取り逃しちまったけど、撤退させるのが目標だったしまぁいいか。それよりも……藤堂高虎か)」



 ただの雑兵とは思えない、強者の雰囲気を持つ男であったな……。

 氏郷はそう思い、新たな好敵手の予感に心を躍らせていた。




~~~




 こうして森隊・蒲生隊は磯野隊の猛攻を退け、磯野員昌を取り逃しはしたものの、形勢逆転の切っ掛けを作り出した。

 織田軍の反撃が、いよいよ始まる……。





1570年、夏。

遂に磯野隊を退けた織田軍。氏郷は新たな好敵手と出会ったのだが、この男こそ、やがて氏郷と共に乱世を駆け抜ける戦友となる新星、藤堂高虎であったのです。

これで初期プロットから計画していた主要な味方武将は出揃いました。

どうしてもこのタイミングで彼を登場させたかったので展開が強引ですが、ご了承ください。


ちなみに、「初期プロットで計画していた」味方武将が出揃っただけで、その時の気分で執筆する作者はきっとキャラをまだ増やすと思います。



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