三話 まずは謁見なんです
第一話で「滝川彦右衛門一益を名乗れ!」みたいなセリフを書きましたが、久助は「彦右衛門」ではないので修正しました。
その他細かいミスは気づき次第修正しますが、大きなミスは前書きで報告していきたいと思います。
新米当主となった俺には、まずしなければならないことがある。
軍事整備、領内視察・・・、武家としての力を蓄え領民の支持を得るための行動は、武士として非常に大事なことだ。
だがそれよりも先にすることだ。
新入社員が会社に入社して、まず最初にすることは仕事か?
違う。 入社式だろ?
◇◇◇
「この度、父上から家督を継ぎ、滝川家当主となりました。滝川久助一益です。」
というわけで、俺は信長様の居城である小牧山城に謁見に来ていた。
どの時代だって、目上の人に対しては挨拶から入るのが大事だな。
しっかりと礼儀正しく挨拶が出来る人間は印象が良く見える。
上を目指す者として、お偉い様に気に入られる努力を惜しんではいけない。うんうん。
・・・まぁ、家督相続の報告なんて当然っちゃ当然だけどな。
「おう、お主があのボンクラ一益の息子の久助・・・いや、もう一益と名乗るのだったな。見る度に大きくなるもんだな!!」
信長様がカカカっと笑いながら俺に言う。
世間一般的に織田信長といえば第六天魔王で知られる通り、「怒らせたらヤバい」「めっちゃ怖い」みたいなイメージがあるが、目の前でニヤニヤと俺を見つめる信長様はそんな印象は抱かせない、実に豪放磊落な人物だ。
若い頃は大胆で突拍子もない行動が目立つ「尾張のうつけ者」だったらしいが、今は万人を惹きつける魅力を感じさせる立派な大名といったカンジだ。
昔から親戚の叔父さんのように優しく接してくれる人で、主従関係を抜きにしても信長様の人間性が俺は好きだった。
「はい。これからは私が父上に代わり、信長様のご期待に沿えるよう努力してまいります」
俺は拳を畳につき、頭を下げた。
「それにしても、ボンクラ一益の一人息子がこんなに立派になるたぁな。お前本当にアイツの息子か? なぁ恒興」
「某も不思議に思います。あの賭博バカから、稀代の天才が生まれようとは、理解に苦しみますな」
信長様が肩を竦めて言い、俺から見て右側に座っていた人物が苦笑いしながらいう。
皮肉の籠った言い方だが、これは俺ではなく父上に対しての皮肉なのは十分承知しているので、俺も苦笑いで答える。
その苦笑いした人物の名は池田恒興様。幼少の頃から信長様と共に育ち仕えていた側近で、我が父の従弟であるらしい人物だ。
らしいっていうのは、このご時世出生がよくわからんなんてザラなので・・・。よくあるこった、気にすんな!ってことのようだ。
「親の才能全部掻っ攫って生まれて来たんだろ!! 全く欲張りなボウズたぜ」
信長様は立ち上がり、俺の頭を撫でてくる。ちょっと恥ずかしい。
まだ12歳の若輩者の俺が、ここまで織田家中で期待されているのには理由がある。
一つはさっきの恒興様の皮肉の通り、父上との対比故だな。
俺のこの世での父親である彦右衛門・・・一益の名を譲ったため、紛らわしいので彦右衛門と名乗るようになった・・・は、腕っぷしと鉄砲の腕前こそ一流の武士であるものの、大酒飲みの呑兵衛で、博打に溺れるギャンブラーという、ちょっと残念な人だったのだ。
まぁ仕事はちゃんとするし面白い人で、周囲からボンクラと呼ばれてはいるのは一種のイジリというかあだ名のようなもので、それなりに愛されてるし信頼されていたようだ。
俺自身としてもしっかりと愛情を持って育ててくれたので、父上のことは嫌いではないしむしろ好きだ。酒臭いのは勘弁してほしいが。
そんなこんなで、優等生な俺がボンクラ親父と比較され、面白がられたって訳だ。
・・・ちょっと父には申し訳ないな。
二つ目は俺が見せた驚異的な成長の速さだ。
そんな父上から生まれた俺は、生後半年過ぎくらいでスクッと立ち上がり、ヨタヨタと歩いて見せた。
その数ヶ月後に喋るようになると、あっちゅうまに言葉や字を覚えてしまったのだ。
当時は天才だとか神童だとか、とにかく騒がれたらしい。
まぁ前世の記憶をそのまんま持ってきたから当然っちゃあ当然なんだけどな。肉体の成長さえ追いついてくれれば何でもできる。
剣術や馬術については流石にサッパリだったが、学問に関しては現代教育が400年前の教育に敗北するわけがないし、兵法や軍術については前世の趣味で触れていたのが功を奏した。
元々そういうのが好きだったこともあってか、水を吸うスポンジの如く勢いで知識を吸収した俺は、瞬く間に一流の武士としての能力を身に着け、この年齢での元服し、家督を相続するに至ったわけだ。
でも父上もまだまだ現役だし、流石に世代交代は早いと思ったんだけどな・・・。今更か。
そして最後の三つ目は・・・っと、
トトトト、と廊下を歩くことが聞こえ、一人の若い男子が部屋に入ってきた。
うん、この人物がこそが、俺が期待される三つ目の理由となる人物だ。
「失礼します! 父上! 奇妙丸、到着いたしました!」
彼こそが奇妙丸・・・後の、織田信忠様である。
1567年、岐阜城。 信長様・信忠様親子に謁見です。
謁見編、もう一話続きます。
次回は信忠様との関係性とこれからについてです。




