番外編2 吾輩はミケである。なんですにゃ
100000文字記念ということで。番外編2です。
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。
・・・なんてにゃ。
◇◇◇
私の本名は禰々。上杉領のとある農村で、普通の百姓の一人娘として生まれた。
決して裕福な家庭では無かったが、両親の愛をたっぷり受けて育った。それだけで私は幸せだった。
しかし五歳くらいのある時、武田の軍勢が上杉に攻め込んできて、私の住んでいた村が戦火に巻き込まれた。
私は母親と共に逃がされて生き延びたが、父と家と畑を失ってしまった。
この戦乱の時代、住む場所と働き手を失った親子がどうやって生きて行けようか。
僅かに手に入る食料も子供であった私に分け与えた母は、あっというまに体を壊し、そして私は独りになった。
戦国の世は余りに残酷だった。私はもう死んでもいいと思った。
そんな絶望に呑まれそうになった時、出会ったんだ。 私の師匠に。
師匠は忍だった。上杉家に仕える忍で、その名は加藤段蔵。
歴史に関しては高校で習うレベルの知識しかない私にとっては知らないおじさんだったが、あの上杉謙信のお目にかかるっていうんだから、きっとスゴイんだと思った。
師匠は任務中に偶然見かけた戦争孤児の私を、思いつきで拾ったと言っていた。
そんな師匠と共に、私は十四、五歳くらいまで共に過ごしてきた。
師匠は「禰々が再び独りになっても生きていけるように」と、忍として生きる術を私に叩き込んだ。
器用なようで不器用に生きる人だったから、きっと忍の道以外に生きる道を知らなかったのだろう。
忍の術を教える時の師匠は厳しかったが、それでも私は楽しかったし、幸せだった。
全てを失った私が、もう一度誰かの愛を受けて生きていられる、それが何よりの喜びだったんだ。
後に、師匠は上杉を追い出され、私たちは甲斐の武田家へ逃げた。
師匠は私に「既に独り立ちできる技術はあるから」と、私についてこなくていいと言った。
不器用な師匠だから、きっと親の仇である武田に付いて来いと言いづらかったんだろう。
でも、私には関係なかった。確かに武田には親の恨みはあったけど、それ以上に師匠と一緒に居たかった。
それだけが私の生きる意味だったから。
武田家では、私は『歩き巫女』というくノ一部隊に入れられた。
師匠と別々の部隊なのが寂しかったが、上司の千代女様は、家族のいない私に対し、母のように親身に接してくれた。
自分の生きる場所があり、生きる意味がある。思えば、この頃が一番の幸せだったのかもしれない。
でも、師匠は殺された。
またしても、私は武田に大切なモノを奪われたんだ。
もう、死のうかと思った。
再び生きる理由を奪われて、もう何もしたくなくなった。唯一できることは、師匠の後を追うことだけだと思った。
どのみち加藤段蔵の弟子である私が放っておかれるハズもなく、私も殺されるだろう。そう思っていた・・・。
◇◇◇
「ところで、ミケはどうしてまた忍になろうと思ったんだ? 女中として生きようと思ってたんだろ?」
「う~ん、それはですねぇ。私の人生がそこにあるからにゃんですよぉ」
「人生?」
私の新しい主、一益サマは興味深そうに聞いてきた。
彼は現在十五歳という若さで、織田軍の一将として生きてきたヒトである。
その人生は私と似て付かないように見えて、とっても似ているヒトなんだ。
「師匠が殺された時にですね、私はそのまま死のうと思ってたんですぅ。
でも、千代女様が『逃げろ』って言ってくれたんですぅ。まだ生きるべきだって、幸せになれって」
「千代女が? アイツはお前のことを追っていたんじゃ・・・」
「建前としては抜け忍である私を追わないわけにはいかないですからねぇ。でも千代女様には私を捕まえて殺す気なんて無かったと思うにゃ」
「・・・」
「それで、私は南へ逃げました。一益様の噂を聞いて、この人の城でなら、私は平和に生きていけると思ったんです」
それから、私はただの女中見習いとして過ごした。命のやり取りのないとても平和な世界で、これはこれで充実していたのは事実だった。
でも、その生活には心にポッカリと穴が開いていた。
私が求めていた幸せはこれだったのだろうか、私はこれでいいのだろうか。そう思ってしまった。
私の噂話を聞いてしまった時、自然と体が動いてしまったのだ。
「でも、それじゃダメだって思ったんです。私の生きる意味・・・、両親と師匠の仇を討つために、武田と闘わなきゃって。刀を置いちゃダメだって思ったんです」
そう、私を生んでくれた両親に、生きる意味を教えてくれた師匠に笑って逢いに逝くため、この世でやり残したことがあるのだから。
「私は武田と闘います。それが今生きている意味だと思うから。・・・ですにゃ」
熱が籠り過ぎてキャラが外れたことに気付き、慌てて語尾を付ける。
それに気付いた一益サマがプッと笑った。
「ふふっ、そうか・・・。ならば今度こそは、お前に何も失わせやしないさ。改めてよろしくな、ミケ」
「・・・勿論ですにゃ。一益サマ!」
三度目・・・いや、四度目の人生で、この人と共に幸せを掴もう。
そう誓った禰々の物語は、再びここから始まるのであった。
ちなみに、禰々という名前に深い意味はありません。
武田信虎の三女とか、秀吉の妻とかは関係ないオリジナルキャラクターです。
彼女はもうちょっとエピソードを残していますが、取り合えず今はここまで。
次回、物語は朝倉征伐へ・・・。
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