二十九話 鯰尾兜の雄姿なんです
すみません、諸事情あって短めです。
魔虫谷強襲戦。
史実に置いては、大河内城を攻めあぐねた織田信長が滝川一益に命じ、魔虫谷と呼ばれる場所から大河内城本丸を強襲しようとしたとされる合戦である。
魔虫谷というのは、丘陵の北端に築かれた大河内城の西の丸と本丸の間に切り込むように存在する谷である。急な斜面ではあるものの、登ってさえしまえば本丸は目の前であった。
詳しい情報は残されていないのだが、魔虫谷の攻防があったにも関わらず大河内城が健在であった歴史を踏まえると、史実の滝川一益は魔虫谷からの強襲に失敗し、北畠軍に敗北したのだろう。
それだけに北畠軍は強力で、一筋縄ではいかない相手だったんだ。
俺達は史実とは違い、この魔虫谷を夜間に奇襲しようと考えた。「秀吉殿が到着してから総攻撃を開始する」という噂が流れていたが、実はコレ、信長様が仕込んでいた虚報であった。
そういった噂を流しておけば、それを聞いた大河内城の城兵は「少なくとも木下秀吉が到達するまでは大きな攻撃は無いだろう」と考えることを予想し、油断を誘ったうえで秀吉殿が到着する前に、夜襲にて本丸を強襲する作戦だ。
この作戦の目的は、敵大将を討ち取り本丸を攻略することではなく、あくまでも敵軍の籠城態勢に打撃を与えることだ。城下に火を放ち、兵糧庫を潰したりなんかできれば万々歳。とにかく一日でも早くこの持久戦に決着をつけるべくダメージを与えるのが今回の作戦の本分なのだ。
夜襲部隊の総指揮を務めるのは、後に今弁慶の名で知られる稲葉一鉄殿だ。本来なら俺、滝川一益が収まるハズのポジションだが、俺は氏郷と共に先陣に立つため、その代わりというカタチである。
一鉄殿は信長様に大いに信頼された勇将で、稲葉山城の戦いの後から信長様を支え続けた人物である。誠実で頑固な人物であったとされ、『頑固一徹』という言葉の語源になった人物であるとも言われている。
そして俺は最前線に立って先頭部隊を指揮する。・・・という名目だが、実際には氏郷の護衛・お目付け役だ。氏郷の強さは誰よりも俺がよく知っている。初陣とはいえ一般兵如きに遅れをとる男ではないのだが、なにせあの突撃グセのせいで何が起きるかはわからない。氏郷の背中は俺が守るのだ。
「今より、大河内城本丸へ奇襲を仕掛ける! 全軍、出撃!」
一鉄殿の号令が全軍に響き渡る。闇夜の侵攻が今、開始された。
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「蒲生隊! 弓矢を恐れず進むんだ! 一気に崖を駆けあがれェ!! 」
織田軍の先陣を切る部隊の中で、一際派手な燕尾形の兜を被った若武者が味方を鼓舞する。
本来、武将は兵を後方から指揮し、自身は安全な場所にいるのが普通である。こういう言い方は何だが、そこらの雑兵と名のある武将では同じ一人でも命の重さが違う。銃弾や弓矢が飛び交う戦場に立つにはリスクが大きいのだ。
しかし、この蒲生氏郷という男は違う。自らが誰よりも先頭に立ち、我の後に続けと味方を叱咤激励する。味方は銀鯰尾兜を目印に果敢に戦う。これが蒲生軍の強さの理由であり、そんな軍が成り立つのは、蒲生氏郷が誰よりも強く、「自分の後ろに居れば安全だ」という絶対的な信頼を家臣に与えることが出来たからなのだ。
敵城からの弓矢や投石といった妨害攻撃が織田軍を襲うが、蒲生隊の勢いは全く止まらない。
「織田の歴戦の武者達よ! 若造に後れを取ったままで構わぬのか!? 誇りを示すのならば、あの銀鯰尾兜に続け!!」
俺も味方部隊に檄を飛ばす。氏郷に続かんと、味方の士気も大いに盛り上がり、凄まじい勢いで攻めあがっている。上に立つ者が先陣を切るということが、これほどにも大きな影響を味方に及ぼすのだ。
敵城兵が堪らず迎撃に出てくる。が、氏郷は止まらない。これが初陣だとは思わせないような気迫で敵兵を斬り倒し、更に猛進する。
俺が氏郷の為に特注した長柄刀と言う武器と太刀を器用に使い分け敵をなぎ倒していく姿は、正に獅子奮迅の活躍と言える。堂々たる戦いぶりに、思わず見惚れる程だ。
「道は開かれた! 本丸へ一気に攻めあがれっ!!」
何十人もの敵を討ち取った氏郷は、味方に総攻撃の号令をかける。自軍の士気は十分。この勢いのままに本丸を強襲し大打撃を与えるべく、織田軍夜襲部隊は怒涛の勢いでなだれ込むのであった。
だが、そう簡単には戦は終わらない。
城内へ到達した蒲生隊を待ち構えていたのは、北畠軍総大将にして、伊勢最強の剣豪。
剣鬼・北畠具教はゆっくりと腰を上げ、若き獅子を討ち果たすべく、その刀を抜いたのであった。
1569年、秋。
織田軍の若き荒獅子・蒲生氏郷と北畠軍の最強の剣豪・北畠具教は大河内城本丸にて両者相搏つ。
伊勢侵攻にて最大の決戦の火蓋が今、切って落とされようとしているのです。
明日に資格試験を控えているため、執筆時間がとれず、短めの文章になりました。
話が進まなくて申し訳ないです。
明日以降は時間がとれるはずなので頑張ります。
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