二話 チャートなんです
この話から「久助」⇒「一益」と呼び名が変わります。新助とややこしいので。
ちなみに前話で書き忘れていましたが、主人公の本名は、生前も現在も「滝川久助」です。
今後久助と呼ばれることはあまり無いと思いますが、一応。
北条家と言えば有名なのは、北条早雲、北条氏康、北条氏政だ。
まず北条早雲、言わずと知れた下剋上の体現者にして戦国時代の祖である人物だ。
一代で戦国武将の地位を築き、北条家の基盤を作った戦国初期の梟雄である。
次に北条氏康、善政を敷き、民に愛された名君だ。俺も武士として見習いたい。
関東支配を賭けた河越夜戦での大勝は北条氏康の代名詞ともいえるだろう。
最後に北条氏政、氏康の跡継ぎで、武田・上杉・佐竹などの勢力に囲まれながらも、北条家の最大版図を築いた人物だ。
北条家は彼と息子の氏直の代で滅亡してしまうが、間違いなく名将と言える。
他にも地黄八幡で知られる猛将・北条綱成、生前の世界でも映画が大ヒットした忍城の城主・成田長親、戦国一の女傑・甲斐姫、謎多き北条の忍・風魔小太郎など・・・、北条家の魅力について語り尽くすにはどれだけの時間があっても足りないだろう。
うへぇ・・・考えただけでもヨダレが出てくる。既に亡き北条早雲や、史実通りなら4年後に死去する北条氏康には会えないだろうが、他の人物には会えるかもしれないのだ。これは歴オタとして冥利に尽きる。
ま、その為には戦国武将として、一軍を任される程度の地位には立たないといけないよな。
◇◇◇
「全く・・・。もし殿が織田家を裏切って北条に付こうというのなら、斬ってでも止めますからね」
「わーってるよ! 織田家を謀反しようだなんて一言も言ってねぇだろうよ!」
新助の呆れたような忠告に、わかってんだろ。と手をフリフリして答える。
こんな主従の会話は日常茶飯事だ。
新助は一益の謎の北条推しについては最早諦めている。
頭のおかしな主だが、北条愛を説いているだけで実害は無い。
謀反やクーデターを考えてる訳でもないようだし、家督を継げば嫌でも現実を見るから放っておこう。と新助は考えている。
実際、一益は本当に北条家に寝返ろうなんて考えていない。
余りにもリスクが高すぎるからだ。
『北条』『北条』と前話から煩いほど一益は口にしているが、実は「北条の天下を取る」とは一言も言っていない。
一益はこう見えて利口な人間だ。「滝川一益」という織田家の四天王とまで言われることとなる武将が、簡単にその地位を投げ捨てて他家に寝返ろうなどしたら、乱世にどれだけの影響があるか計り知れない。
それをすれば北条家の一員になれるかもしれないが、
そもそも訳の分からない理由で寝返ってきた他家の人間など、名君北条氏政が信用するわけがない。
それに、史実とかけ離れた世界では、一益の唯一の武器である知識も役に立たなくなる。
そんな不安定しか無い運命へ突き進むほど愚かではない。命あっての武士なのだ。
△△△
「別に、"織田の天下を取らない"とは言ってないし、"北条の天下を取る"とも言ってないぜ、新助クン」
勘違いで背中バッサリなんてされたら堪らねぇしな。ここで知将一益様プレゼンツ、"織田と北条で目指す・完璧な天下取りチャート"を説明せねばならんな。
「と、いいますと?」
「俺は北条家を味方につけて関東・東海・近畿を制覇し、天下を目指そうと思っているんだ」
つまりな、何度も言ってはいたが、"北条の天下を取る"のではなく"北条と天下を取る"だ。
俺が乱世を生きる上での目標は、
「北条家と敵対しないこと」
「北条家を滅亡させないこと」
それさえ叶えられれば俺は悔いなく死ねるだろう。仲良くなれればなお嬉しい。
実は敵対しないことは難しくない。むしろ、史実を忠実になぞるよう生きていけば、織田と北条は同盟関係であり続けることが出来るんだ。
しかし、そのままで行くと「本能寺の戦い」で全てが崩壊してしまうんだ。
史実通りのチャートでは信長様・信忠様討死の混乱の渦中に北条家に裏切られ、上野の地を失う失態を犯し、更に清須会議にも間に合わず、織田家中での立場は急落する。と、これが本来の生き様だ。
無論だが、そんな未来がわかっているのに大人しく従うつもりなんて無い。俺は俺なりの滝川一益を生きるぜ!!
ってことで、この12年間でコツコツと推考してきた"完璧な天下取りチャート"を要約するとこうだ。
「織田家中で盤石な地位を得る」
「北条家との仲を保つ」
「信忠様の討死を防ぐ」
「上野を死守する」
「北条家と共に東日本を制覇する」
大まかにだが、これを上手くこなせば目指す天下は揺るぎないはずなんだ。
〇〇〇
「意外にもまともで大きな理想を抱いているのですね」
「うっせーよ、意外は余計だ」
ともあれ、まずは結果を出して、織田家の一員として認められなければ始まらんな!
1567年、滝川一益の戦国統一への戦いが始まる・・・。




