二十七話 堅牢な大河内城なんです
本編再開、ここから氏郷くん編です。
「信忠・滝川隊、阿坂城を攻略して参りました!」
「うむ、大儀であったぞ、信忠、一益!」
1569年秋、俺達は阿坂城を攻略した後、大河内城を攻める織田軍本隊と合流し、信長様に戦果の報告を行っていた。
信忠が張り巡らせた策で完勝した旨を詳しく伝えると、信長様はとても嬉しそうに「織田家の未来も安泰だな」と笑っていた。
あの織田信長だって一人の父親なのだ。息子の信忠を褒める時の信長様親子の姿はいつ見ても微笑ましい。
「それで、信長様。大河内城攻めの戦況はいかがなのですか?」
「あぁ、それがだな・・・」
俺が信長様に尋ねると、信長様は困ったような表情で戦況を教えてくれた。
〇〇〇
木造城から出撃した織田軍本隊は、予定通りに道中の村々や砦に放火し、民を追い立てながら南下していった。そして織田軍に追いやられた南伊勢の民は大河内城に逃げ込むため、大河内城は多くの難民を抱えることになる。
そして織田軍は全軍で大河内城を囲い、城の周囲を鹿垣で二重三重に囲って厳重に固め、徹底的な兵糧攻めの構えを敷いた。
城を守る城兵に加えて逃げ込んだ民をも城内に抱えた大河内城は、外部からの補給も期待できないため持久戦は有効だろう。関係のない民を戦に巻き込んでしまうことになるが、これが戦国時代だ。民が飢えて犠牲になる前に降伏して欲しいものだ。
「で、籠城戦に持ち込むところまでは良かったんだがな、その後がな・・・」
と、信長様は続ける。
織田軍が有利な籠城戦に持ち込んだとはいえ、悠長にのんびりと持久戦を続けることは出来ない。自軍の兵糧を賄う費用が馬鹿にならないというのもあるが、それよりも甲斐の武田信玄の存在である。
武田信玄は駿河を奪い合うために北条とぶつかり合った後、甲斐に撤退していた。
織田家と武田家は同盟関係であったのだが、その織田家と、対立していた徳川家・北条家が手を結んだことにより、武田家は織田家に対して敵対を宣言した。
北条と徳川という抑えがいる以上、すぐさま背後を取られることは無いが、だからといってものんびりと攻めていられる状況ではない。
故に織田軍は、兵糧攻めをしながらも敵城へ攻撃を仕掛け、戦の早期決着を狙わなければならないのであった。
だが相手は剣豪・北畠具教が率いる強力な軍勢だ。大河内城の守備も固く、幾度か攻撃を仕掛けたが防がれ続けているらしい。
「長秀や恒興、一鉄に攻めさせたんだが、雨で鉄砲がやられてな・・・中々攻めが上手くいかないのだ。お前たちや、到着次第秀吉の部隊も城攻めに参加して欲しい。頼むぞ」
「承知しました」
「わかりました。父上。」
ということで、膠着した戦況を打開すべく、俺達も大河内城攻めに加わることとなったのだ。
◇◇◇
「・・・とはいえ、丹羽や池田、稲葉が攻撃してもダメであったところに我々が加わったところで、劇的に変わる訳ではないものだが」
と信忠がいい、俺はまぁなと苦笑する。確かに言ってしまえばその通りである。
五万近い軍勢で城を囲んでいたところに、一戦終えて疲弊している別動隊、それも秀吉様の部隊を除いたおよそ半数の軍勢が加わったところで、増加する戦力は雀の涙といった程である。
しかも、今回は有力な攻城兵器である『鳴神』などといったものは持ち込んでいない。つまり本当に俺達が加わったところで、これといって出来ることが無いのだ。
「まぁ、居ないよりマシってことじゃないですかね。戦は数が多いほど有利ですし」
お茶を啜りながら俺は言う。
敵軍はガッチリと守りを固めてしまって城から出てこないし、こちらも無暗に攻めたところで戦果を挙げられていない。膠着状態は相変わらずなのだ。
どうこうすることも無いので、俺は大好きなお茶を再びズズズっと啜る。美味い。
「攻城戦が得意な秀吉殿が合流してから総攻撃を仕掛けるか、それとも兵糧が枯渇した敵方が痺れを切らして打って出るところを迎撃するか・・・。なんにしても、今は待つしかなさそうだな」
「そうだな・・・。仕方あるまい」
織田全軍の方針としては、一先ず秀吉隊が合流するまでは待機ということで指示されている。俺達としても当然異論は無いのでそれに従い、のんびりと布陣しているのだった。
だが、そんな中に唯一、その方針に納得していない者がいたのだ。
「むむむ・・・、俺の出番、俺の出番はまだなのかよ!」
蒲生氏郷だ。
氏郷は先の阿坂城攻めでは本陣の守りについていたために出番がなく、初陣で戦果を挙げる機会はこの大河内城攻めに繰り越しになっていた。
なので相当張り切っていたのだが、いざ来てみれば、敵方は城に籠って出てこなく、戦果を挙げるどころか敵兵の一人も見当たらない始末。
氏郷としては、張り切ってきたところにすっかり肩透かしを喰らった気分なのだ。
「仕方ないだろ・・・、相手方も強固に守りを固めてる以上、強引に戦線を切り開くことも出来ないんだ。いずれ均衡が破れる瞬間は来るから、もう少し待つんだ」
「うむむ・・・」
狂犬氏郷の手綱を引っ張るのも大変だ。放っておいたら何をしでかすかわかったものではないので、こうして宥めておくほかない。
「必ずお前の活躍の場は作ってやるから、それまで辛抱してろよ」
と、俺は氏郷に言い、なんとかこの戦局を打開できないものかと、頭を働かせるのであった。
△△△
その夜。
皆が寝静まった滝川隊の陣内で、蝋燭の火に照らされた一人の影があった。
その影は大河内城の地図を広げ、暫くうーむと悩んだ後、答えを見つけたかのようにこういった。
「・・・魔虫谷、奇襲するならここだな」
ニヤニヤしながら彼は言う。
「ようは敵大将の首を取れば勝ちだ。俺の相手に・・・不足はねぇ!」
そういって蝋燭の火を消し、彼は自身の寝床へ戻っていった。
1569年、秋。籠城を決め込む北畠軍に対して攻めあぐねる織田軍。そんな中、若侍が一人、何かよからぬことを企んでいるんです。
「」
前回あれだけやりましたが、千代女が今作品のメインヒロインになる予定はありません。あしからず。
次回は突撃バカが膠着状態をぶち壊します。多分。
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