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二十五話 天才の掌上なんです

味方視点と敵視点を交互に書いてみました。

どうでしょうか? 上手く表現できているだろうか・・・。


翌日。

俺の部隊は一丸となり、阿坂城を攻めようと山を登っていた。


降り注ぐ矢を防ぐ大盾を構えながら、慎重に、確実に前進していく。

決して強引に攻め切ろうとはせず、防御に徹した陣形を固めながら敵陣を目指す。

これが信忠が考えた策の一歩目であった。


敵勢の激しい弓矢や鉄砲の攻撃に晒されるが、堅い防御のお陰か、味方への被害は軽微のまま中腹付近まで進むことが出来た。


このまま山頂へ到達し、一角だけでも城の防御を崩すことが出来たら・・・。そう思っていた時だった。



「なっ!? 伏兵か!」



山中から突如敵の部隊が現れ、同時に阿坂城の城門が開いて敵兵が出てくるのが見える。


この密集した防御陣形は、弓矢などの遠距離攻撃には強いが、乱戦に持ち込まれると足回りが遅いため脆い。

しかも敵城から出てきた敵兵に追いつかれれば、あっというまに包囲され壊滅する未来が想像できた。



「不味い! 滝川隊、引け! 大将を守るのだ!」


急いで味方に指示を飛ばす。

敵軍の奇襲で混乱した部隊を何とか纏め、俺達の部隊は必死に逃げることしか出来なかった。




◇◇◇




時は前日に遡る。



「何? 織田軍の大将は、信長の嫡男の若造だと? ナメおって!」

そう言って怒りを顕わにするのは、阿坂城城主・大宮含仁斉だ。


「はい。斥候の調べによりますと、木造城を出陣した織田軍は、信長が率いる本隊が大河内城へ進軍し、我が阿坂城を囲むのは、嫡男・信忠が率いる、木下・滝川の軍勢とのことです。

更に敵兵の間で、この阿坂城攻めを指揮するのは、これが初陣となる信忠だと噂されているようです」


と答えるのは、その息子の大宮大之丞。

彼らは事前に斥候を放ち、織田軍の状況、そして別動隊の指揮官までもの情報を掴んでいたのだ。


「いくら多勢に無勢とはいえ、元服したての若造に劣るこの大宮ではない。これは好機だ。城に籠城し、織田の軍勢を迎え撃つ。

のこのこと山を登ってきたところを伏兵で奇襲し、若造の出鼻を挫いてやれ! ついでに、あの懲りない滝川の首を挙げるとしようか!!」


含仁斉は勝機を見出して笑いながら言う。

こうして阿坂城の兵たちは翌日からの攻撃に備えて、万全の準備を進めていたのであった・・・。




△△△




「報告! 味方伏兵部隊の奇襲を受けた、敵攻城部隊の滝川隊は撤退を開始した模様!」


伝令の声が城内に響き渡る。

それは敵軍の大将、信忠がまんまと罠にかかったという事実を明らかにするものだった。


「やはり所詮は若造、信長の息子とて恐れるに足らんな! 全軍! 最低限の守備兵を残し、撤退する敵兵を追撃せよ! この好機を逃さず、滝川の首を取れ!」


勝利を確信した含仁斉は思い切って攻勢の指示を出す。


いくら兵力差があるとは言えど、追撃戦は追う側が圧倒的に有利。そのうえ敵軍は奇襲を受け混乱しているのだからこれ以上とない好条件なのである。



故に、堅牢を誇っていた籠城の守備を解き、不利な攻勢に出てしまった。



これが、若造と侮っていた信忠の策略だと、含仁斉に気付けるわけがなかった。




〇〇〇




城から湧き出るようにして増加していく追撃部隊を遠目に見ながら、窮地に立つはずの俺はほくそ笑んでいた。


「決して追いつかれるな! 山中へ入ってしまえば敵もむやみに鉄砲や弓矢は使えん。自陣に向かって逃げるんだ!」


味方に檄を飛ばし、とにかく追いつかれないように逃げさせる。

必死に逃げれば、相手も必死に追ってくる。人間はそういうモノさ。


「これで策の仕掛け(・・・・・)は終わった。後は秀吉殿に託すのみ・・・」


俺はそう呟くと、両軍が山中を駆ける中、こっそりと林の中に姿を眩ませた。






追撃部隊を指揮する大之丞は、逃げる滝川隊を追って山の麓まで下って来ていた。

逃げる側も必死ならば、追う側も必死なのだ。


故に、自らが逆に誘い込まれ、深追いし過ぎている現実に気付くことが出来なかった。



「もうすぐ追いつくぞ! さぁ、敵軍に喰らいつけ・・・なっ!?」



いよいよ敵に追いつこうとした時には、既に自軍の部隊も山を下り終え、開けた場所に飛び出してしまった。

そこに待ち構えていたのは、木下秀吉が率いる鉄砲隊の隊列。

左右に二分するよう(十字砲火)に展開した鉄砲隊は、銃口をこちらに向け、狙いを澄ましていた。



「しまった! 罠だったか! 全軍退却・・・」


自身が釣りだされたことに気付き、急いで転身しようと指示をだそうとしたが既に手遅れ。

大之丞の号令は、秀吉の号令と鉄砲の一斉射(クロスファイア)の轟音にかき消され、大宮軍の追撃隊は信忠の策と鉛玉の餌食となった。




▽▽▽




「クソっ! 織田の若造にしてやられたのか・・・!」


命からがら逃げ帰った大之丞の報告を聞き、含仁斉は立ち上がって再び怒りを顕わにする。

城の守りの要であった守備兵の多くは追撃隊として出撃して壊滅的打撃を受けた。

最早半減以下となった兵力に城内の士気は大幅に低下していた。



しかし、信忠の策略はこれで終わりではなかったのだ。



「報告! 城内の味方兵が何名か謀反し、火薬庫に火を放って逃亡した模様! 火は鎮火しましたが、もう鉄砲は使えません・・・!」


「な、なんだと・・・」



絶望的な報告を受け、含仁斉はガックリと力を失ったように座り込んでしまう。


兵力を大幅に削られた上に、頼みの鉄砲を潰された阿坂城の軍に、最早織田軍に抵抗する術など残されていなかった。



こうして、織田軍が城を囲んでから僅かに二日。

信忠の策略の前に、難攻不落と呼ばれた阿坂城は、あっさりと降伏。陥落したのであった。







1569年、夏。

堅城・阿坂城を、初陣にして見事落城させた信忠は、信長の跡継ぎここにありと名を轟かせた。

全ては、信忠の掌の上で踊らされていたのです。


信忠「ようこそ、殺間へ・・・」


今回の信忠くんの策略は、とある漫画の明智光秀の戦術「殺し間」と、島津家の得意戦術・釣り野伏せをイメージして考えました。


阿坂城攻めに関しても中々資料が見つからず、ただの夜襲や火攻めでは観音寺城攻めと同じなので、どう攻めさせるか苦悩した結果、こうなりました()


次回は今回の戦を織田目線で解説する回が入るかな・・・? 氏郷の活躍はその後で。



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