二十二話 南伊勢攻めの方針なんです
前話で書き忘れましたが、地図を広げてくれた小姓は一応、堀秀政のつもりです。
とくに意味はありません。
信長様は小姓に地図を広げさせ、今回の戦の方針を俺達に説明し始めた。
「今回の目標は、伊勢の国で未だに反織田の構えを見せる、伊勢大河内城の北畠家の征伐だ。
以前、一益の活躍で伊勢北部は織田家が抑えたが、南部は未だに反抗が続いている」
と言い、信長様は地図上の大河内城を指す。
南伊勢の大河内城は、当主・北畠具房と、その父で実質的に実権を握る北畠具教が守る、伊勢の国一の勢力だ。
鎌倉時代から皇族と深い関わりのある、由緒ある家柄なんだったかな、確か。
北畠家で有名なのは、なんといっても剣豪・北畠具教だろう。
塚原卜伝や上泉信綱といった戦国時代を代表する大剣豪達から剣を学んだ猛将だ。
最期は暗殺されるのだが、その際に襲撃者十九人を斬り殺し、百人に傷を負わせたという伝説が残っている。
まさに鬼、伊勢の鬼人である。
「北畠具教は侮れん猛将だが、息子で当主の具房はポンコツだから恐れるに足らん。
更に、敵方の木造城の城主・木造具政が織田家に寝返って北畠に抗戦している」
と、信長様は続けて言う。
その通り、父親の猛将ぶりに大して、息子の具房は無能として知られている。
極度の肥満体で馬に乗ることすら出来ず、『大腹御所の餅喰らい』なんて呼ばれたともいわれている。
生前に見ていた戦国アニメでも、大食いキャラでモチと呼ばれていたっけなぁ・・・。
そして織田に服従の意を見せる木造具政は、北畠具教の実弟にあたる人物だ。
身内も身内、兄弟関係だというのに、真っ先に兄を見捨てて織田に裏切ってしまうのだ。
弟にまで裏切られて、何とも不憫な具教である。
まぁ、実はこの裏切りは、俺の調略によるモノなんだけどね・・・。
俺は信長様の命で木造城下に忍び込み、
「織田家が再び大群で伊勢を攻めようとしている」
とそれとなく噂を流し、その後に何度か木造具政に使者を送って降伏を促していたのだ。
昨年の高岡城侵攻を間近で知っていた木造具政にとっては、織田家の攻めに到底耐えられないと思ったのだろう。
早々と織田家に帰順し、神戸家の軍勢と共に、北畠家への抵抗を開始していたのだった。
そういえば説明していなかったが、俺・久助に忍の能力があることは信長様は知っている。
信忠や氏郷は恐らく知らないだろうと思うが、そのうち教えようとは思っているぞ。
「北畠家は現在、木造城を攻撃している。神戸の援軍もあり充分に持ちこたえているが、長く放置するわけにもいかん。
そこで、織田軍本体が支城を落としつつ木造城へ進軍。そのまま北畠を大河内城へ追い込み、逆に籠城に追い込むわけだ」
織田家は圧倒的な兵力で支城や村を潰しながら南下し、敵勢力を纏めて大河内城へ追い込む。
追い立てられた農民や兵士で飽和した状態の大河内城に籠城させ、短期での決着を望むというのが今回の南伊勢攻めの作戦となる。
「敵軍で恐れるべきは、大将・北畠具教と天険の要害・大河内城だけだ。あとは大したことは無い。
信忠と氏郷は、この戦で戦果を上げ、初陣を華々しく飾ってこい!」
信長様は手に持つ扇子をバッと広げ、そう締めくくった。
俺達三人は
「はい、父上!」
「了解だぜ!」
「わかりました、信長様」
と、頭を下げて口々に告げた。
若き新星達の門出に、信長様は満足そうに笑っていた。
〇〇〇
「ところで、あの『鉄甲船』や『鳴神』は出すのか? 一益」
「おぉ! 俺もアレが動くところを見たいぞ!」
出陣の準備を進めている時、ふと思いついたのだろうか、信忠と氏郷がそんなことを言い出した。
「あ~、それなぁ・・・。いや、今回は出さないな」
「なんだよ、兵器は使ってナンボだろ? こういうのを宝の持ち腐れって言うんだぜ?」
俺がそういうと、氏郷はつまらなさそうに文句を言う。
「確かに支城なんかを攻めるのに、鉄甲船の海上砲撃は有効かもしれんが・・・、
今回は包囲戦だ。味方の部隊との足並みをきっちり揃えて南下するのに、俺達の部隊だけあんなものを投入していたら足並みが崩れてしまう。」
と、俺は言い返す。
鉄甲船も『鳴神』も強力な兵器に間違いはないが、どちらも足回りの悪さに難がある。
味方部隊と足並みを揃えながら軍を南下させて、敵勢力を大河内城に追い込まなければならないのに、そんなものを引っ提げて進軍したら、包囲が崩れる穴を作ってしまう。
「それに、今回の主役は俺の新兵器じゃなくて、信忠。氏郷。お前たちだろう。
折角の晴れ舞台を横取りしてもいいのかよ」
そう、今回の俺は行ってしまえばただのお守役。
二人の晴れ舞台をお膳立てする脇役に過ぎないのだ。
そんな二人を差し置いて砲弾ぶちかました日には、周囲にどんな目をされるか想像したくも無い。
「確かに・・・、それもそうだ」
「だろ? それに予想される戦力は、織田方七万に対して北畠方八千だ。
いくら侵攻側だとはいえ、これだけの戦力差で兵器まで導入する必要はないのさ」
氏郷と信忠はウンウン、と納得したご様子。
実際のところ、俺が作った(作っている)新兵器たちは、完成と概要の報告をして有用性を信長様に認められれば、自由に運用していいと許可を受けている。
が、正直に言うと、こんな優位な戦で、秘蔵の『鉄甲船』や『鳴神・改』、更にはまだ誰にも秘密で開発を進めている秘密兵器たちの情報を漏らしたくないのが本音。
うっかり他国に情報が漏れて、マネなんかされたら大変だしな。
あれらは木津川口や長篠みたいな、もっと大事な場面で切りたいのだ。
「そーいう訳だ。だからこの伊勢攻めでは俺がお膳立てするから、お前らはちゃんと自分の手で戦果を挙げるんだ。いいな?」
「「ああ、任せとけ!」」
二人とも元気よく答え、再び張り切って準備に戻っていった。
その様子を眺めながら、俺も俺の準備を再開するのだった・・・。
1569年、初夏。 未だ織田家に抵抗を続ける北畠家征伐へ、いよいよ出陣なんです。
解説回は書いてると結構楽しいですが、調べものに時間がかかるのが難点です。
次回は進軍開始です。
ブックマーク・評価が作者のモチベーションになります。よろしくお願いします。




