十四話 闇夜に舞う者達なんです
前話の次回予告で迷っていたのですが、
もう一話挟む方向で進めていきます。今後出したいキャラの伏線回その2。
岡崎城を後にした滝川軍は、再び掛川城に向けて軍を進めていた。
その道中、道中の村に立ち寄っていた時の事だった。
「ふむ・・・、この辺りは商売が盛んなのだな」
「ああ、岡崎と浜松の間の宿場にあたる村だからな。行商人なんかの出入りが多いんだろう」
「へぇ~、見たことないモンがいっぱいで面白れぇな!」
奇妙丸、俺、鶴千代が街道沿いに立ち並ぶ商店や行商をキョロキョロと眺めて言う。
こうやって商売に活気溢れた街並みが広がる光景はなんとなく江戸時代を想像していたが、戦国時代にもこんな光景がみられていたんだな。
紐や針、油を売る行商に、煎餅や団子、おはぎなんかを売る茶屋が見られる。
なんかいいなぁ・・・。生前に行った伊勢神宮のおかげ横丁とか、なんとか時代村とかを思い出す。
こういう雰囲気は大好きだ。自分の立場を忘れてついつい買い食いしたくなるな。
戦国時代において、こういう行商の仕事は物を運んで売る以上に重要な仕事だったらしい。
この時代には油売りの行商がよく見られるのだが、油は粘性が強く容器の移し替えに時間がかかるようで、客と話なんかして間を取り繕っていたらしい。
それが現代の「油を売る」の語源らしいんだが、まぁそういった情報交換も行商人の大きな役割だったんだ。
勇名な話で言えば、信長様の奥方である濃姫様の父、斎藤道三は、油売りから戦国武将まで身を立てた人物として知られているし、
ウチの秀吉殿だって織田家に仕官する前は針売りなんかして、各国の情報を集めていたとか。
「つまり、農民や武士以外にも、商人は違った土俵で戦国の世を支えているわけなんです」
「そうなのか、知らなかったなぁ~」
なんてうろ覚えの知識を鶴千代に説明してやる。その空っぽの脳味噌にどんどん知識を詰め込むがいい。
「それにしても、団子美味そうだな~。ちょっと買ってくるわ!」
「あっ、おい阿呆! 軍列を乱すな! 上に立つ者としての自覚を持て!」
「すぐ戻るから気にすんなって~細けぇなぁ!」
と、鶴千代はバッと馬を飛び降り、近くの茶屋に団子を買いに行こうとした。
これが厳格な性格で軍規に厳しかったと言われる蒲生氏郷なのか・・・!?
思わず頭を抱える。・・・成長したら俺の知ってる蒲生氏郷になってくれると願うよ・・・。
まぁちょうど休憩にはいいか。と思い、逃げ去る鶴千代の背中に「俺と奇妙丸の分も買えよ!」と叫び、少々の休憩とした。
◇◇◇
馬を休め、二人と共に団子を食べていると、ふと俺の目が一人の行商の者に留まった。
少し離れた位置で織物を売る商人であったが、それは若い女性の商人であったのだ。
この時代、女性の行商人は販女と呼ばれ、男の行商人と比べればそれは数が少なかったが、特段珍しい物ではないらしい。
だが、俺には彼女に気になるところがあり、ついジッと見つめてしまったのだ。
おっと。目が合ってしまった。
怪訝そうな顔をする俺に、彼女は微笑みを浮かべて会釈してきた。俺もついクセで会釈を返す。
「おっ? どうした久助。あの女に惚れたのか~?」
「いや、そうじゃないんだが・・・」
ニタニタと笑って肘で突いてくる鶴千代を適当にあしらう。
俺が思うに、アレは多分・・・まぁいいか。
「よし、そろそろ出発するぞ!」
俺は配下に号令し、進軍を再開させた。
〇〇〇
その日の夜だった。
良く晴れた日だったので、開けた平原で野営して一夜を過ごすことにした俺達は軍議を終え、
野営地の端の、林の傍の静かな場所で、奇妙丸と夜空を眺めながら雑談していた。
護衛に鶴千代と新助を連れて来ていたが、鶴千代は少々おねむなようでうつらうつらしている。
開発中の新兵器の話なんかの話で盛り上がっていた時だ。
「それで、鳴神の砲身を・・・」
「どうかしたか? 久助」
俺は話を途中で止め、林の中を静かに見つめる。やはり昼間のアレは間違いないな。気のせいでは無かった。
「・・・鶴千代、奇妙丸を頼む。新助・・・」
「・・・はっ」
「おっ? おう・・・。」
鶴千代は困惑しているが、新助は遅れて、俺と同じ気配に気づいたようだ。
「よし、行くぞ」
それだけ言い、俺は軽装のまま林の中へ向かって駆けだした。
1569年。 掛川を目指す道中、僅かに感じた怪しい気配を確かめに、久助は闇の世界へ駆けるのです。
すみません。
執筆中に急用が入ったため、途中ですが二話に分けたいと思います。
短めで申し訳ありませんが、続きの更新と感想等の返信は翌日までお待ちください。
今回の話の中の行商の件とか、ネット知識だけじゃイマイチわからないことが多かったです。
そのうち図書館で資料集めをしなければならないですね・・・。
あと、この時期に野営は寒いでしょって言われそうですが、書き終わった後に気づきました。許してください!




