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十三話 道中、岡崎城なんです

また新キャラです。自分で書いておいてなんですが、物議を醸しそうなキャラで作者はちょっと心配。



信長様から家康殿への援軍を言い渡された俺は、奇妙丸と鶴千代、それから新助や嘉隆などの配下の武将と軍勢を引き連れて掛川へ向かっていた。


斥候の情報によれば、駿河へ侵攻を進めようとする武田軍と北条家は、興津・・・現在の静岡県静岡市の清水区東端辺りの町・・・で対陣する様子だという。

お互いに無視して素通りなどということは考えられないので、そこで両軍のぶつかり合いが発生するだろう。

つまり、我々としては時間的余裕が生まれたわけだ。


まぁ、だからと言って悠長にしていいわけではないが・・・。

そんなこんなで、俺達は掛川へ向かう道中、徳川家の城・岡崎城へと立ち寄っていた。


当然のことながら、遠征軍だというのに休みも取らず走りっぱなしというわけにいくはずがない。

どこかで休憩をとりつつ掛川を目指すのは当然であるが、この岡崎城に立ち寄ったのも勿論理由があるんだ・・・。




◇◇◇




「おにーーーーーさまーーーーー!!!!」


「うおっふ!! おぉ、五徳。元気であったか?」



吉田〇保里顔負けのタックルを奇妙丸が受け止める。

何度見ても凄い子だなぁ・・・この子は。



「いいえ!お兄様に会えないのが寂しくて夜も眠れませんでしたわ! 今日は一日中一緒に居てくださいませ!」


「と、言っておるのだが・・・」


「・・・まぁ一日くらい大丈夫だろ」



と、俺は肩を竦め、苦笑いしながら奇妙丸に返す。

何が何だかわからない鶴千代は、その少女を見て「いい突撃だ」とか言っていた。コイツは・・・。



突然の登場で誰をも驚かせたこの少女の名前は五徳。現在は岡崎殿と呼ばれているんだったかな。

五徳姫と呼ばれる場合もあるだろう。

彼女は信長様の長女・・・つまり奇妙丸の妹で、家康殿の長男・信康殿の妻である。

そして、あの「十二ヶ条の訴状」を書き認めて、夫・信康と姑・築山殿をこの世から葬ったという、

なんつーか・・・わかりやすく言うと「ちょっとヤバイ娘(ヤンデレ)」なのである!


俺は夫婦関係と嫁姑関係が悪かったことが原因で、武田との内通をでっち上げたという「不仲説」を推しているが、実際どうだったのかは俺も知らない。


だが、夫とその母親が殺される原因を作っておきながら、しれっとしていたのは事実だ。正直あんまり関わりたくない・・・。



「これは、滝川殿に義兄上。ようこそおいでなさった」



っと、五徳ちゃんが奇妙丸にスリスリと甘えてるのを眺めていたら、一人の人物がやってきた。

コイツがその例の人物・・・



「どうも、信康殿」

「おお、信康殿。妹が世話になっているな!」



松平信康。いや、生きているうちは徳川信康だな。彼が五徳ちゃんの夫で、非業の最期を遂げる家康の嫡男である。

俺よりいくつか年下だが体格の良い少年で・・・、疲れているのか? 若干やつれているような様子だ。


彼に関する逸話としては、領内の祭りの際に服装が貧相だとか踊りが下手だとかという理由だけで射殺したとか、鷹狩で僧侶に出会うと獲物が少なくなるという迷信に腹を立てて僧侶を縊り殺しただとか。

とにかく乱暴で素行が悪いという話が残っている。


しかし、武勇に優れた勇将だったとか、弟想いの兄であったとか、切腹の際には殉死者が出るほどの人望があっただとか、そういう良い逸話も多く残されている。


まぁ謎の多い人物ではあるのだ。彼は。

こうやって見て話す分には、根っからのクソガキにはとても見えないがね。



「それにしても、義兄上には敵いませんなぁ。こんな五徳の笑顔、見たことがありませんぞ」


「それはもう、兄様がこの世で一番ですから」


「はは・・・。五徳よ、信康殿とも仲良くしてやってくれよ」


「それなりにはしてますよ。それなりには」


「はっはっは・・・」



信康君と奇妙丸の気の利いたトークも、五徳ちゃんの空気の読めない返しに場が凍り付く。

うわぁ・・・、信康君いたたまれないわぁ・・・。



これ以上彼の哀れな姿を見たくないので、奇妙丸と五徳ちゃんには一時退室してもらい、改めて信康くんと向き直る。



「見苦しいところをお見せして申し訳ない・・・」


「いえいえ、ああいう子なのはわかっていますから・・・。

それはそうと、此度はこの岡崎城で休ませて頂きありがとうございます」


「いいや、気にしないでください。滝川殿に援軍に来てもらうよう要請したのは我が父なので、むしろ此方が礼を言わなければなりませぬ。一泊の宿を提供することくらい、なんてこともありませぬ」



そういって信康は笑う。気が弱そうだが、礼儀もしっかりしている。勇猛果敢な猛将には見えないが、残虐非道な暴君にも見えん。史実も食い違うことはあるんだなぁと改めて思う。



「ならば五徳様と奇妙丸もあのような状態ですし・・・、お言葉に甘えさせて頂き、今日はこの城で休ませて頂くとしましょう」


「わかりました。・・・それにしても、滝川殿は凄いですなぁ」


「?? 俺がどうかしましたか?」



信康君が急に俺を褒めだした。どした。褒めても何も出んぞ?



「滝川殿は十二歳にして戦場に出てご活躍し、既に一軍を任される、正に神の子とも思わしき存在。この噂は各国に広がり、私のような武士の子らの憧れなのですよ。」



マジでか? 俺そんなに注目されてんのか?

・・・それもそうか、そうだよな。12歳で元服してるのでさえ早いのに、それから一年で一軍を任される人間なんて異常だわ。

信長様は変で大胆な人だからって織田家中ではあんまり気にしてなかったが、世間的にはやっぱそうなんだなぁ・・・。



「私も、早く大きくなって、滝川殿のように戦場で戦果を挙げたいのです。父が目指す世の為、その力になりたい・・・」



なんだ、本当に真面目な子なんじゃないか。これは先輩としてアドバイスしなきゃだな。



「いいですか、信康殿。自分の信じる道を貫いてください。己の正義を信じてください。そうすれば、必ず味方は付いてきてくれます。徳川の嫡男である貴方は、自身の力も大事ですが、それよりも皆を惹きつけ導く力が大事なのです。それを見誤ってはいけませんよ」



うぉぉぉぉぉぉぉ!!! 俺、すっげぇいいこと言った気がするぞ! クッソ恥ずかしいけど!



「・・・はい! ありがとうございます! 私は・・・俺は、俺の道を貫いて見せまする!」



どうやら俺の言葉は信康君の魂に響いたようだった。良かった良かった。




〇〇〇




その後、一晩を岡崎城で過ごした俺達は信康君と五徳ちゃんに別れを告げ、

再び掛川を目指して進軍を再開するのだった。



・・・ちなみに、一晩五徳ちゃんに付きっ切りだった奇妙丸は、心なしか痩せたように見えた・・・。








1569年、冬。 久助たちは岡崎城を立ち、再び掛川を目指して軍を進めるのであった。


・・・この時出会った信康が、後に久助達と同じ「新星世代」と呼ばれる者の一人になることは、まだ誰も知らないんです。

フラグ建築回。


というか、この第二章「久助、東国へ」は後々の物語のキーマンとなる東国の人物達の顔見せが主となります。

今回はその第一弾、信康君ということで・・・。


次回は道中にもう一つフラグ建築回を挟むか、とっとと掛川城に到達させるか悩んでいるところです。

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