十一話 その瞳に秘めたる物なんです
この回の話は簡単に終わらせようと思っていたんですが、会話が多めだからか結構な長さになりました。
※ギャグ回です。こういうのもあってもいいのかなって・・・。
「うちのバカ息子が、とんだご無礼を!!」
「「「申し訳ございませんでしたッ!!!!!」」」
「はぁ・・・。取り合えずこちらに被害も無かったですし、頭を上げて貰えますか・・・」
なんだかなぁ。と呆れた表情で言う俺の前には、四人のゴツい男・・・蒲生賢秀とその家臣が必死の表情で土下座し、その隣で少年が簀巻きにされて暴れていた。
陸に揚げられた魚のようなコミカルな動きに若干笑いそうになるのを抑えて、俺は周囲を見る。
新助は俺の隣に立ち、光を失った、ゴミを見るかのような眼で彼らを見下す。
相手は主人に突如切りかかった狼藉だ。当然の対応といえば当然なのだが・・・。
俺がいいって言ってるんだから、先ずは刀を抜こうとするのをやめてくれ!
落ち着け! そんなキャラじゃ無かったろお前は!?
信長様はこの騒ぎの報告を受けて、面白見たさにやってきた。
椅子にドッカリと座り、クハハと大笑いしながら成り行きを見守ってる。ていうかただの野次馬だ。
奇妙丸は、相変わらず喚き散らしながら簀巻きで暴れる鶴千代の前にしゃがみ込み、何が面白いのかじーっと彼を観察している。
危ないから近づかないでくださいねーとか、手を出すと噛みますよとか、良い子は見ちゃいけませんよとか言っておいたが、奇妙丸は大丈夫大丈夫といって聞かなかった。
いや、どうみても大丈夫じゃないよソイツ。狂犬だよ。
そして当の鶴千代本人は、縄で肩から足首までぐるぐる巻きの簀巻き状にされて身動きが取れず、ぐにゃぐにゃと芋虫のようにもがきながらも「放せコラァ!!」と騒いでは暴れ、その度に父・賢秀の容赦のない拳骨が降り注ぐ。
ようやく大人しくなってきたかと思えば、目の前に座り込む奇妙丸に対してフシャーッと威嚇している。
猫かコイツは。いや、獅子だから、あながち間違いではない・・・?
「はぁ・・・。頭が痛くなってきた」
俺は額に手を当てて天を仰ぐ。
嗚呼、月よ。願わくば我を七難八苦から救いたまへ・・・。
なんて他力本願な望みを、日中なので見えもしない月に祈りつつ、俺は数刻前のことの発端を想起することにした。
◇◇◇
「滝川一益! 勝負だァ! 俺は蒲生賢秀が息子、鶴千代だァ!!」
馬から跳んだ鶴千代は、鶴の字の如く宙に飛び上がり、勢いそのままに俺に斬りかかってくる。
が、馬鹿正直に打ち合ってやる意味などない。
飛んでいる相手は動けない。これはバトル漫画の常識だ。
俺は鞘に収まる刀に手を当てた構えのまま、ススッと二歩ほど右に体をずらす。
当然、空中から真っ直ぐ向かってくる鶴千代はそれに対応出来ない。
「なっ・・・ぶへらっ!!」
悲しいかな、元は俺が立っていた・・・誰もいない地面に顔から突っ込み、鶴千代は見事な顔面ヘッドスライディングを決めた。
俺の背後に控えていた配下達がこの隙にと一斉に飛び掛かって取り押さえ、暴れる鶴千代をあっと言う間に簀巻きにしてしまった。
「何だったんだ・・・コイツ・・・」
当事者である俺も唖然とする。真正面から、あんな直線的で隙の大きい攻撃を仕掛けて来て、避けないとでも思ったのか。
「汚いぞ! 滝川! 武士ならば刀を抜け!!」
「はぁ。それでは遠慮なく・・・斬首刑ということで」
鶴千代がぐるぐる巻きの状態でも性懲り無く挑発するので、俺は彼の言う通りに刀を抜き、身動きの取れない鶴千代の首を狙って刀を振り上げる。
「わーっ!! 待った待った! そういう意味じゃない!」
「冗談だよ、全く・・・。でも、どうしようかねぇ。新助」
はぁ。と、ため息をついて刀を収め、奇妙丸の護衛を解いた新助に助けを乞う。
「斬首ですね。斬首でいいでしょう」
「ちょぉッ!?」
容赦のない新助の言葉に、鶴千代が驚愕の声を上げる。奇妙丸は何故か、鶴千代を面白そうに黙ってみている。
「大国、織田家の一将である滝川一益を急襲し、殺意を持って斬りかかったのです。貴方の首どころか、貴方の一族や家臣の首を並べても良いような事案なのですよ? わかっていますか?」
「なっ・・・そんなの嘘に・・・ヒィッ!?」
「・・・黙れ」
うつ伏せの姿勢で口答えをする鶴千代の目の前の地面に、新助がドスッと刀を勢いよく突き立て、鶴千代を黙らせる。
やー、おっかねぇわ。新助も丹羽殿もそうだけど、普段から笑顔で優しそうな人ほど怒ると怖いよね。
いつもの敬語も消え失せて、小声で「・・・黙れ」なんて言っちゃうレアな新助君頂きました!
俺も新助君は怒らせないようにしよう。心の中でそう誓った。
「に、しても。取り合えずは信長様の判断に任せますかねぇ・・・ん?」
ふと顔を上げると、先ほどのように、日野城から四騎の騎馬が此方へ向かってきていた。
なんかデジャヴ・・・。そう思っていたが、近づいてくる馬に乗る四人は、真っ青な顔で焦りの顔を浮かべている。戦意があるようには思えない。
四人の騎馬は俺の元へ近づくと、馬から飛び降り、それは見事なジャンピング土下座を決めて、こう言ったのだ。
「「「「すみませんでしたーっ!!!!」」」」
・・・回想終了。
◇◇◇
「これは父である某の責任にございます! この首は差し出しますので、どうか息子の命はお助けください!!」
「だ、そうですが。どうしましょうか? 信長様」
「俺はこの件には何も関係あるまい。被害者であるお前が奴らに対する罪を決めるといい」
信長様は傍観者を貫くらしい。茶を飲み笑っている。助けてくれよォ・・・。
「・・・奇妙丸はどうしたい?」
「ん? あぁ、久助がこやつに怒りを覚えておるのなら無理は言わんが、俺はこやつを生かしたいと思うのだ」
おっ? 意外な意見が出たな。奇妙丸は小太刀の鞘の先でツンツンと鶴千代を突きながら言う。
鶴千代は観念したのか、それとも単に暴れ疲れたのか。グッタリとしている。
「こやつはきっと将来、必ずや大きなことを成すだろう。俺はそう確信を持てるのだ」
「ほう・・・、奇妙よ、何故そう思う?」
奇妙丸が発した言葉に、信長様が打って変わって興味を持ったように尋ねる。
「"眼"です」
「眼?」
俺は奇妙丸の回答に疑問を感じつつ、鶴千代の目を覗く。疲れ果てたそ表情には涙すら浮かんでるように感じるが・・・うわっ! 噛もうとすんな!
「この男の瞳からは常人とは違うものを感じます。只者ではないでしょう。この男を生かして我が家臣とすれば、必ず織田の家に良き結果をもたらす。俺はそう思うのです」
奇妙丸は父親・信長を見つめてそう言い切った。その眼に曇りは無く、一切の迷いも感じさせられなかった。
「"眼"かぁ・・・」
俺は関心していた。奇妙丸が発したこの言葉は、史実で信長が鶴千代を見て言った言葉
『蒲生が子息目付常ならず、只者にては有るべからず。』
にそっくりなのである。
「クッ、クアッハッハッハ!! そうか! お前もこやつから只ならぬ物を感じていたか!! いやぁ結構! これなら織田家の未来も安泰であるな!」
信長様は大笑いして、奇妙丸の肩をポンポンと叩いた。
奇妙丸も信長様も、鶴千代・・・蒲生氏郷の才能を眼を見ただけで見抜いたってことか。
これが天下を統べる者の慧眼ってものなのかな。流石、やっぱり二人は親子なんだなと思った。
「して、蒲生の息子よ。貴様の望みを言ってみろ」
「はっ・・・! お、俺は、もっと強い奴と戦いたい! 同い年でもう戦場に出てる滝川一益って奴の噂を聞いて、我慢できなかったんだ・・・。許してくれるなら、一益と、織田家の為に戦いてぇ! もっと強くなりてェ!!」
「で、あるか」
鶴千代の必死の懇願に、信長様は満足そうに頷き、俺に向かって「良いな?」と言った。
俺はニッと笑い、無言で頷いた。
信長様は刀を抜き、鶴千代を巻いていた縄を切り落とした。
「蒲生の子、鶴千代よ。貴様の罰は、生涯をかけて我が息子・奇妙の征く道を傍で支え、一益と共にその武を天下に轟かせることだ! 一切の妥協は許さん。心して参れ。良いな!」
「ははっ!! ありがたき幸せにございます! 必ずや、この力を織田家の為に奮って見せます!」
鶴千代は信長様に頭を下げた。そしてそのままの姿勢でチラッと俺を見ると、ドヤ顔しやがった。
コイツ・・・! 信長様と奇妙丸に才能を見出されたからって調子に乗ってんな!?
さっきまで殺されるかって状況だったのに、なんてメンタルが強いのか、それともやっぱりバカなのか・・・。
どちらにせよ、大物には違いない。俺は一層頭痛を感じるのであった。
「尚、鶴千代の父・蒲生賢秀とその家臣、ならびに日野城の城兵に関しては、織田家に従うのであれば一切の罪を不問とする!」
「ははーっ! ありがたき幸せにございまする!」
蒲生殿は涙を流しながら頭を下げた。
信長様は陣羽織を翻し、「さぁ、いよいよ上洛じゃ!」と織田軍全体に号令をかけ、日野城周辺一帯に鬨の声が響いたのであった。
〇〇〇
これにて、『観音寺城の戦い』の一件を終えた久助は、鶴千代という新たな仲間を加えた。
京までの敵勢力を全て排除した信長は、遂に上洛を果たしたのであった。
1568年、秋。 久助は鶴千代を新たな友として迎え、時代は安土桃山へと移り変わるのです。
ちなみに、上洛・京都滞在編は今はやりませんが、いずれ番外編という形で、
京のグルメ食べ歩き編みたいな小話をやるかもしれません。
今はそれよりも北条編を皆さんは待ち望んでいると思いますので・・・。
ところで、頭痛って「感じる」んですかね? 「覚える」んですかね?
次回より新章突入。ついに久助が東方に派遣されます。お楽しみに。




