九十七話 反撃の狼煙なんです
しゅーかつ!(挨拶)
5000文字くらい書いたので褒めてください。
褒められたらまた頑張って書きます……多分。
瞬間、鶚の中で時間が止まった。
当然本当に時間が止まったわけではない。自身の真横で絶対に守らなければならない存在が倒れる映像が、まるでスロー再生のようにゆっくりと流れていたからだ。
「(あっ……)」
夜鷹隊で最も冷静沈着で冷酷無情な仕事ぶりを買われて隊長となった鶚であったが、この瞬間だけは頭の中が真っ白になり、指の一つも動かすことが出来なかった。
敵の狙撃に反応できなかったこと。狙撃を許す隙を作ってしまったこと。狙撃に至るまでに敵を発見できなかったこと。故に起きた、最優先護衛対象の氏郷を失うという大失態。
何が失敗だった? どうすればよかった? どうすればいい? どうすればいい? どうすればいい?
混乱を極めた脳内には次々と疑問が浮かび、そして泥沼に沈んで消えていく。
ガシャンと一人の鎧武者が地に伏せる音が響いてもなお、鎖で縛られたように固まった彼は動くことが出来なかった。
が、瞬間。
「正面! 壱時の方向だァ!!」
鼓膜ごと脳を貫くような怒号にも似た声が、蒲生軍の隊列に響き渡る。その声でハッと鶚は我に返った。
その声の主が……凶弾に倒れたハズの氏郷のものであったからだ。
◇◇◇
それは偶然であったのか? 否、氏郷が天才であるからこそ成せた、第六感の超反応による芸当であった。
氏郷が直前に感じ取った「カチンッ」という異音。それは敵狙撃兵のコンパウンドボウが発した、ごく僅かな音であった。
本来なら気にするほどでもない程の僅かな音、それでも氏郷は「狙われるとすればまず自分だろう」という戦略から見た予測を頭の片隅に残していたこと。そして敵の狙撃武器は未知なる得物であるという警戒心から、彼は本能的に一瞬で回避運動を行っていたのだ。
その上、ピンポイントで首を狙ってくるということがわかっていたのも大きかった。ずらすことが出来たのはごく僅かであったが、その僅かなズレが氏郷の命運を分けたのであった。
朝倉の狙撃兵が放った合金の矢は、氏郷の予想通り、彼の首を狙って放たれた。
その射撃は余りにも正確で寸分の狂いも無かった。だからこそ、僅かに体を捻ったことで生じたズレにより、誤差が生じたのだ。
矢は首の左を掠め、兜の緒を切断し、兜の錣の内側に着弾した。
その衝撃によって兜は吹き飛び氏郷も倒れたものの、脳震盪を起こしただけで致命傷を受けるまでには至らなかったのだ。
そしてその状況下で冷静さを失っていなかった氏郷は、グワングワンと揺れるように頭が痛むのを堪えながら、即座に行うべき行動を起こす。それがあの『正面! 壱時の方向だァ!!』の声であった。
狙撃兵撃破の最大のチャンスは、敵の射撃直後である――。
勝ち取った千載一遇の好機を逃すまいと、氏郷は反撃の狼煙を上げた。
◇◇◇
真っ先に飛び出したのは、金帯隊の戦闘員たち、そして隊列前方に位置する長可の部隊であった。
これは事前の作戦会議で、もし敵の狙撃兵を遠方に発見した場合、鶚率いる金帯隊が狙撃兵の排除に向かい、それを阻止しようと出てくるであろう敵兵の掃討を長可隊が受け持つと決めていたからだ。
氏郷が倒れた瞬間は誰もが動揺を見せたが、彼の一喝の後の動き出しは実に素早かった。
中でも先頭を駆ける鶚の勢いは、正しく鬼気迫ると言うべきものだった。ここまでの失態を返上するにはここで活躍するしかないと、彼のプライドに火がついていた。
「三方から囲い込め! 決して逃すな!」
最短距離を最速で駆けつつ、金帯隊の部下へ指示を出す。冷静で言葉数が少ない上司が、珍しく声を荒げるのに驚きつつも、部下たちは細かい指示を聞くまでも無く均等に三手に分かれ、三方から標的に迫る。
「(見えた!)」
そして二百メートルほど距離を詰めたところで遂に、森の木々に紛れるように逃走を図っている狙撃手の背を捉えた。
その背には見たことも無いような形状の銀色の弓を背負っていた。あれが織田軍を苦しめた謎の狙撃兵器の正体だと、鶚は判断した。
久助手製の飛刀を両手に構え、標的に向かって更に距離を詰めようと足に力を込める。
その時であった。
「なっ……!?」
彼らの前方でガサガサと落ち葉を掻きわける音がしたと思えば、まるで地面から這い出すように、朝倉軍の兵が這い出てきたのだ。
それも一人や二人ではない。逃げる狙撃兵を追跡していた鶚たちを取り囲む様に、まるで始めから追手が来るのを待ち伏せていたかのような布陣で、落ち葉の山から這い出てきた五十人程の兵は、あっという間に鶚たちを取り囲んでしまった。
「(……厄介な)」
鶚たちからすれば、五十の雑兵など脅威でもなんでもなく、難なく処理できる数ではある。
しかし、追撃戦の足止めとして、彼らの足を止めさせるのには十分な数であった。この突如現れた増援の相手をすれば、狙撃兵をみすみす逃してしまう可能性がある。だからといって無視して進むには、いささか危険すぎる数であった。
「(これも、計算通りか。しかし何処に兵を隠していたのか……)」
これだけの兵をどうやって潜伏させていたかなんて皆目見当もつかないが、ありとあるゆる場面で織田家の一枚上手を行く朝倉軍の策略に唇を噛みしめた。しかし、鶚が決断を下すのは早かった。
「……突破する」
元より危険など承知の上だ。いや、例え命に代えようとも、敵を討たねば帰れないだろうとも思っている彼らに、最初から選択の必要などなかった。
鶚たちは一丸となり、包囲網の突破を図る。前方の比較的兵が薄い所を目がけて飛び込んだ。
◇◇◇
しかし鶚たちが決死の覚悟で突破を図るとはいえ、防ぐ側だって必死に防ぐのだ。しかも、相手はただの烏合の衆だと思っていたが、見た目の装備の粗悪っぷりの割には、どうにも腕の立つ者が多いように思える。
しかも奴ら、傷つくことを恐れないというか、そもそも痛みを感じていないような……そういう気味の悪い戦いをする。被弾上等、相打ち覚悟で来るというのは、味方にもそれ相応の痛手を与えてくる。
いくら金帯隊が戦闘特化の暗殺集団とはいえ、奴らを突破するのは容易ではなく、追うべき敵狙撃兵はその間にもぐんぐんと距離を開かせていた。
しかし、その状況を打破する者が漸く追いついた。
「オラァ! 鶚ォ! ソイツらは俺達の獲物だ!」
相変わらず戦場では驚くほど人が変わる、滝川隊の鉄砲玉・森長可だ。
金帯隊が苦戦する所へ雪崩れ込み、次々と敵兵を斬り伏せていく。強兵を誇る朝倉兵も、戦力の差には成す術も無く討ち取られていく。
痛みを感じないような素振りを見せ、深手を負いながら尚戦おうとする朝倉兵も、脚の筋を斬られたり、腕を断ち切られれば、流石にそれ以上は戦えないようであった。……それでもなお立ち上がろうとするのは、最早戦意などではなく、即知れない狂気を感じさせられて恐ろしいものであった。
「こんなところで立ち止まってる場合かぁ?」
「……救援、遅い」
「うるせぇ! とっとと首取ってこいや!」
元はと言えば、雑兵処理は長可の役割だろうと言いたい鶚であったが、ごちゃごちゃと言い争っている場合ではない。
随分と時間を喰ってしまったが、今から追えばまだ捕捉できるだろう。
ある程度の敵兵を処理したところで、鶚たちは再び駆けだした。
◇◇◇
――数刻後。
金帯隊の捜索により、朝倉の狙撃兵は"発見"された。
"捕縛"や"抹殺"ではなく"発見"なのは、奴が既に死んだ状態で見つかったからだ。
胸当てやよくわからない眼鏡のような装備から、奴が件の狙撃兵であることは間違いないが、問題の狙撃兵器――コンパウンドボウは、その遺体の付近からは発見できなかった。
恐らく時間を稼がれていた間に弓をどこかへ隠し、口封じのために自害したか、処理されたのだろう。
敵の狙撃兵器を奪い取ること、そして狙撃兵を捕らえて情報を炙り出すことが敵わず、氏郷達としてはやはり朝倉軍にまた一枚上手を取られた気分であった。
だが得られた収穫も多々あった。
朝倉軍の攻撃を退けて以降、氏郷軍は山中の開けた場所で休息をとりつつ、氏郷軍の実質的な軍師・景虎は、配下を引き連れて戦闘跡地の調査をしていた。
突如地中から現れた敵兵、傷や死を恐れない狂兵、未知なる金属を利用した兵器。朝倉軍には不可解な点が多すぎる。だから少しでも謎を解明する答えに至るヒントを得ようと思ったのだ。
その結果、驚くべき事実が判明した。
朝倉軍は山中のありとあるゆる場所に穴を掘り、そこに空間を作って潜伏していたのだ。
しかも、大規模な場所では穴と穴を坑道のような道で繋ぎ、地中を移動できるような通路が造られていたのだ。
これによって朝倉軍は、何もない地面から突然湧き出したように見えたり、突如消えて捕捉出来なくなったりしていたのだろう。
こんな設備、一朝一夕の工事で造りだせるものではない。恐らく対織田のために長い年月をかけて造りだしたものなのだろう。景虎は驚きの表情を隠せなかった。
これらの通路は見つけた分だけでも埋めてしまおうか迷ったが、久助の指示を仰ぐために、位置だけ記録させてそのままにしておくことにした。
一部の穴には既に意図的に埋められた痕もあったので、敵兵は元々蒲生軍にここを突破されたら放棄する予定だったのだろう。特に問題は無いと判断した。
そしてもう一つ、長可隊によって殲滅された朝倉軍狂兵部隊のうち、一人を捕縛することに成功した。
だが、その捕虜から彼らの強さの秘密を聞き出そうと思ったのだが、どうにも彼の様子が変だったのだ。
戦いは終わったというのに、無用に抵抗するのを止めず、赤子のように奇声を上げて暴れ続けた。
こちらとしても雑兵一人の首を撥ねようが撥ねまいが大差ないので、おとなしく情報を喋ってくれれば無事に帰してやろうと交渉をした。しかし彼は一向に受け入れようとしなかった。……というより、まるで言葉が通じていないような、そんな状態が続き、取り調べは平行線を辿った。
しかししばらくすると、突然興奮していたのが嘘のように静まり返り、今度は一転しておとなしく体をちぢこませ、ガタガタと体を震えさせ始めたのだ。
漸く話が通じるかと思えば、またしても会話には一切答えず、目線すら合わせようとしない。その眼は朦朧として焦点も合っておらず、もはや正気といえる状態ではなかったという。
流石に変だと判断した景虎は、彼の症状を事細かに書き起こし、これも博識な久助の判断を仰ぐことにし、一旦乱心の捕虜は気絶させて連れ帰ることにした。
こうして、様々な思惑を交錯させながらも、復活した氏郷は金ヶ崎城へ辿り着き、信長本隊救援の任務を全うした。
景虎は途中で氏郷らと別れて横山城へ戻り、持ち帰った様々な情報を久助へと渡したのだった。
1572年、春。
朝倉軍にいいように踊らされながらも、なんとか無事に任をこなした氏郷。
そして景虎が持ち帰った情報により、織田朝倉情勢は、一気に加速していくんです。
後半急いで書いたので、おかしなところあったら教えて頂けるとありがたいです。
ところで書いたのを読んでて思ったのですが、「金帯隊」って語呂悪いですし、わかりにくいですかね?
滝川一益を象徴する3色、赤黒金から取ったのですが、正直微妙かなーと。
素直にそれぞれの隊長の名前をとって「三毛隊」「鶚隊」「鳶丸隊」の方がわかりやすいですか?
ついでにご意見お聞かせください




