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九十六話 金獅子に迫る凶弾なんです

就 活 (´・ω・`)


 翌日、近江と越前の国境付近の山中。


 信長本隊の救援へと出発した蒲生軍は、道中小谷城に寄り道して、戦後処理に勤しむ信忠と手短に情報交換を済ませた後、撤退した信長本隊が拠点としている金ヶ崎城を目指していた。


 金ヶ崎城と言えば、一昨年の第一次朝倉征伐の際に織田軍が攻略した後、浅井家の裏切りによって撤退を余儀なくされ、その際に放棄し、再び朝倉軍の城となっていた。

 それが此度の第二次朝倉征伐の際には再び織田軍に攻め落とされ、使われているのだ。中々に数奇な運命に翻弄されているものである。


 氏郷の任務は、関ケ原から信長の待つ金ヶ崎へ向かいつつ、道中に潜伏しているであろう敵軍の待ち伏せ部隊……特に謎の狙撃兵を処理し、近江までの撤退経路を確保するというものである。



 敵軍にプレッシャーを与えて、敵の進軍を遅らせる遅滞戦闘を目的とする狙撃任務――これを『カウンタースナイパー』と呼ぶそうなのだが、見えない敵に一方的に生殺与奪の権利を握られているというのは、指揮官にとって恐怖でしかない。

 加えて、現在の織田本隊にはカウンタースナイプ(敵狙撃兵の撃破を目的とした狙撃)が出来る兵や武器は無いし、狙撃兵に対して有効な戦術を取ることも出来ないのだ。



 ……現代における狙撃手の対処法といえば、

 1.敵狙撃手に銃撃を行わせる

 2.銃声や熱探知装置ゴーグル(サーマルスコープ)などで大まかに位置を特定する

 3.味方狙撃手によるカウンタースナイピング、又は空爆や迫撃砲による面制圧で処理する。


 といった方法がとられている。

 そりゃ第一射を撃たせる前に撃破出来るのがベストなのだろうが、敵だって見つからないように狙撃するのだ。ワンアクションを起こす前の狙撃兵を発見するなど不可能に等しい。

 ただ、狙撃兵の弱点は、銃の大きな射撃音と排熱だ。一度発砲してしまえば、熱探知による発見は案外容易らしい。

 見つけてしまえばこっちのものだ。逃げ出す前に大まかな位置を絞り出して爆撃してしまうも良し、歩兵を投入して人海戦術で炙り出しても良い。



 とまぁ、現代ではそれなりに確立されている狙撃兵への対処法であるのだが、当然この時代にはサーマルスコープなんて存在していないし、航空機による爆撃なんてもっての外だ。

 迫撃砲……のような物ならなんとか製造できるかもしれないが、生憎そのような物は現在の信長本隊にはなかった。



 信長本隊が狙撃対策が出来ていない以上、誰かが問題を解決しに行かなければ、信長は金ヶ崎に釘付けにされたまま動けなくなる。要は、その解決に氏郷が動いているという訳だ。



(みさご)、敵狙撃兵の姿は見えたか?」

「……否」


 雑兵に混じって徒歩で行軍する氏郷は、隣を歩く、これまた雑兵のフリをした鋭い目つきの男に話しかける。

 男はちらりと何かを確認するように周囲を見回した後、たった一言で否定の意を告げた。中々上手くいかない索敵の結果に、氏郷は顔を顰めた。



 氏郷を始め、忠勝や長可、景虎といった指揮官たちも皆、見通しの悪い山中では皆が下馬し、徒歩での進軍を行っていた。理由は単純に狙撃対策だ。

 どれだけ敵の狙撃武器が強力であっても、射線が通ってなければ狙撃のしようが無い。馬に乗っていれば狙ってくれと言っているようなものだし、実際に柴田と佐久間は騎乗中に狙撃されたという。

 雑兵に混じって歩けば、狙撃のリスクは幾分かマシになる。実際、ここまでの道中で敵方による狙撃は一度も無かった。


 そして、氏郷たちはただ受け身の対策だけをしている訳ではない。攻めなければ状況は好転しないからこそ、その策も用意していた。それが氏郷の隣を歩く、寡黙な男が指揮する部隊であった。



 この鶚という男、実は久助が組織する夜鷹衆の、主に戦闘・暗殺を担当する金帯隊の隊長なのである。

 表立って目立つことは無いが、その戦闘力は随一。あの稲子川の戦いでも、武田の素破との戦いで主力となり、多くの忍を討ち取った。忍び対忍びの戦闘のエキスパートでもある彼らは、久助の指示によって氏郷の部隊に同行していた。


 狙撃兵のもう一つの弱点として、小回りが利かないこと、接近戦に弱いことが挙げられる。

 その得物が銃であっても弓であっても、連射が効かないことに変わりはない。だから警戒を潜り抜けて接近さえしてしまえば、狙撃兵というものは歩兵に比べて非常に脆いのだ。


 その点、暗殺任務にも長けた金帯隊は適任と言えた。

 鶚は数十人の腕に覚えのある配下のを山中に放ち、敵狙撃兵の捜索、そして暗殺を行っていた。



「しかし、おかしいな。敵は居るのに、肝心の狙撃兵は見つからないなんて……」

「……」

「あ、いや。お前らを責めてるわけじゃねえって」


 額に流れる汗を拭いながら、氏郷がついつい言葉を漏らす。それをきっちり聞いていた鶚が、ポーカーフェイスにほんのりと悔しそうな色を滲ませたので、苦笑しつつ宥めた。


 実際、何人かの敵兵は山中で発見出来ているし、それらは皆、金帯隊によって仕留められている。

 だがその兵たちはただの偵察か、警備の雑兵であったのだろう。例の狙撃兵器と、それを扱う兵士は未だ見つけられずにいた。

 しかも、部隊の中でも比較的下っ端の連中が何人か戻ってこない。そりゃ犠牲が出ることなんて珍しくもないし、死ぬのは手前が弱かったことによる自己責任だから大した問題ではない。

 それよりも、少なからず被害を出しつつある状況で、なんの成果を得られていないことが問題だったのだ。


 確実に敵はいる。恐らく狙撃兵もどこかにいるはずだ。それなのに見つけ出すことが出来ないことで、戦国一の隠密衆としての高い誇り(プライド)と共に、鶚にプレッシャーと焦りを与えていた。



「気持ちはわかるけど、慎重にいけよ?」

「……御意」



 気を遣ってはみたものの、返答は芳しくないことは低い声のトーンが物語っている。


「(一旦、休憩でもさせようかなぁ)」


 進展が無いことに苛立っても仕方が無いしな、とそんなことを考えつつ、氏郷は視線を前方へと戻す。


 その瞬間であった。



 カチンッ。



「(カチンッ?)」


 聴きなれない金属音が耳に入ったのは、偶然であったのか、それとも彼の武人としての第六感の成せる技であったのか。その異音に気が付いた……その時。



 ビュン! っと風を切る音。そこで初めて異常に気付き振り向いた鶚が見たものは――。




 まるで鉄砲の発砲音のような、激しい金属と金属の衝突音。


 そしてその衝撃によって、守るべき主のもとを離れて宙を舞う兜と……。

 吹き飛ぶように仰向けに倒れゆく、氏郷の横顔であった。




今回は各回の終わりに書くやつありません


更新が遅くなってますけど、 就 活 と新作の準備をしてるので勘弁してください。

それでも頑張って更新する姿勢を褒めてくれてもいいんですよ?(チラッ


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