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お義父さん、クラちゃんをアタシに下さ……

ドラゴン一匹引っ提げてプロポーズにやってきた、犬耳グラマー美女カルーさんは、ただいま柄にもなく緊張でカッチコッチになっている。



「ほう、このドでかい飛竜をお嬢さんが一人でしとめたのかい?さすがS級ランクの冒険者だねぇ」


「本当、元気のいいお嬢さんなのねぇ」



いや、マーサばあちゃん、言っとくけど元気いいとかいう表現で済むレベルじゃないから。



「ハ、ハイっ!アタシ元気だけが取り柄なんで!」



カルーさんも頭回ってない癖に頑張って答えなくていいから。



「そうねぇ、クラウドにはこれくらい元気な方のほうがいいのかも知れないわねぇ」


「そうだね、奥手で遠慮がちな子だからねぇ、嫁さんにグイグイ引っ張って貰うのもいいかも知れないねぇ」



優しい笑顔で頷きあう老夫婦は、俺の育ての親だ。

まだガキの頃、物心ついた頃からストリートチルドレンだった俺は、パン屋で物乞いしていたところをギルじいちゃんに拾われて、以後この優しい老夫婦に成人まで育てて貰ったのだ。


今でこそ店が持てるほどになった俺だが、ギルじいちゃんに拾われてなかったら今生きているかどうかさえ怪しい。そして口に入りゃなんでも良かった俺が、食べ物が美味しくてあったかくて、幸せになる物なんだと理解したのはマーサばあちゃんの手料理のおかげだ。


結果それを生業にして、あまつさえカルーさんの胃袋も掴んだわけだから、どこまでも二人にはお世話になっている。全く頭が上がらない。



「それにしても恋人もいないみたいで心配していたのにいきなり結婚とは、クラウドもやるねぇ」


「本当に。こんな美人のお嬢さん、どうやって見つけてきたの?」



プロポーズにドラゴン狩ってきた人を前にして、二人は既にごく普通の会話に入っている。俺の養父母は優しくておっとりしているように見えるが、懐が深い上にちょっとやそっとじゃ動じない、肝の据わった人達なのだ。


実際カルーさんを連れていきなり二人の家に行っても、結婚したいと報告しても「おやおや」「まぁまぁ」程度で動じていなかった。プロポーズで貰ったドラゴンの話をすれば「ほぅ、それは見てみたいねぇ」と喜ばれ、結果俺の居酒屋『クラ』に戻ってきたのがつい先程の話だ。


ドラゴンを見終わったら、今度は二人してカルーさんにやんわりとあれこれ聞き始めたもんだから、カルーさんは緊張全開で必死に受け答えしているわけだけど。



「いやっ、アタシがずっと一方的にクラちゃんの事大好きだったんで!」


「まぁ、嬉しい。クラウドのどこが好きなの?」


「あの、あの……すごくご飯が美味しくて……心がポカポカあったかくなるんです」



手をモジモジさせながら、カルーさんは一生懸命に答えている。犬の獣人である彼女の耳は、さっきからもうピーン!と立ったりヘニャッと垂れたりでそりゃあもう忙しない。しっぽもピーン!かヘニャッ……の二択、緊張してるか弛緩してるかのデカい感情の波をサーフィンしているらしい。


ギルじいちゃん、マーサばあちゃん、もうそれくらいにしてやって。顔真っ赤だしカルーさんの血管切れそうで怖いから。



「あら、まぁ。素敵ね」


「ただいまって帰って、あんな美味しくって優しいご飯があって。クラちゃんが嬉しそうな顔で居てくれたら、それだけでもう毎日幸せだろうなぁって思ったんです」



ああそれ確か、酔っぱらって俺にプロポーズした時に言ってたな。やっぱり今聞いてもかなり恥ずかしい。養父母の前でそんな話とか何の精神的修行だ、これ。


恥ずかしさに若干俯いた俺とは真逆に、養父母達は嬉しそうに互いに顔を見合わせている。



「ああ、分かるねぇそれ」


「ふふ、まるで貴方のプロポーズの言葉みたいですねぇ」



ええ⁉そんな話、初めて聞いたけど!



「私もマーサに胃袋を掴まれてねぇ」


「ふふ、この人もS級ランクの冒険者だったのよ?」



ええ⁉それも初めて聞いたけど!

既に俺を拾ってくれた時にはゆったりと老後を楽しむ老夫婦で、冒険者のイメージなんか一切なかったが……ああでも通りで肝が太いと思った。



「え?この街でS級?……確かさっきお名前、ギルって……ええ⁉まさか、ギルグレイオス様⁉」


「おやおや、さすがにギルド関係者には今でも分かるものなんだねぇ」


「ご、ご無礼つかまつりましたぁ!」



何語だ。


飛び上がって土下座したカルーさんは一気に青ざめてフルフルと身体を震わせている。どうした、豪快なカルーさんらしくもない。



「え、そんな凄いの」


「伝説レベルなんだよぉ!おんなじS級でも格が違うから!」



半泣きでピルピルと震える犬耳が可愛い……って言ってる場合じゃないか。よく分からないまま取りなそうとした俺は、ついに滝のように暴涙するカルーさんの絶叫に遮られた。



「ギルグレイオス様ぁ!奥様ぁ!一生大事にします!食材で苦労はさせないと誓います!だから……だから、クラちゃんと結婚させてください!‼」



あまりの悲壮感に三人顔を見合せて唖然とする。どうしちゃったんだカルーさん。




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