第17話 倒れる時は…
「『我が求めしは侵食する青の力、皮を溶かし肉を冒し骨を呑む沼を此処に』」
………おえっ!肉がしばらく食えそうに無いです…。
さっき使った魔法は毒属性―――水属性の派生魔法だ―――の魔法で簡単に言えば毒沼を造るだけなのだがその毒がヤバい。詠唱の時点で分かるだろうが皮に限らず、肉も骨も溶かす毒なのだ。これ毒じゃないよな!?と思って調べたら手を加えて無害にすると薬になることが分かった。しかもけっこー価値の高いヤツ。しかしそんなこと俺が出来るわけがないため、こういった使い方をしてる次第である。
ぶっちゃけ宝の持ち腐れです。
「まぁ、これでだいじょ………。なん……だと……!」
ばなかった。黄泉軍の数が減ってない。むしろ…。
「増えてないか、コレ!?」
と言うことだ。ちなみに詠唱するまでは計三千ぐらいだったのに今では計九千ぐらいまで増えてる。
これは余裕かましてる場合じゃない。
俺はすぐに切り札を切ることにした。
「『我が求めしは響く金色の力、魂に刻みし言の葉は我が言の葉の代わりに奇跡を起こす』」
詠唱が終わった瞬間俺の身体に変化が起きる。…と言っても見た目が変わるわけではなく、倦怠感を感じ始めるだけだが。
これは短期決戦で行かないとダメだな。
俺は詠唱を…
「代理詠唱『砂漠の狩人は牙を砥ぎ罠を張る』!」
しなかった。当然だ、コレはそういう魔法だからな。
この魔法の名前は代理詠唱の記憶。この魔法は「いかに時間をかけずに魔法を発動するか」と言う昔からある魔法研究の問いの一つの答えだ。この答えは他にも「複数人で分担する」―――俺はあまり長い詠唱が出来ないのでしないが本来はもっと長かったりする―――とか「早口で言う」―――ちなみにこれは愚答。コレすると基本的に不発か極端に威力が低くなる―――などだ。そして俺の答えは
「事前に詠唱を用意する」だ。
まぁ欠点もあるのだが実際
「ああaaAaあああaaああ!!」
「おaaaaああaaaあアアあaあ!!」
足止めできてるし。ちなみに「砂漠の狩人は牙を砥ぎ罠を張る」は敵の足場を底の深い砂地に動きを止める……まぁ底なし沼(砂漠版)みたいな感じ。もしくはアリジゴク。そのままだと砂地になった地面に埋まって終わりだけどそれだけで終わるとは思えないので
「代理詠唱『数多の天使の涙は地を穿つ』!」
さらに追撃。魔法名を唱えると上空から雨が降ってきた。ただし!
ドガガガガガガッ!!
音がシャレになってないが。「数多の天使の涙は地を穿つ」は「涙で穿つ」―――この魔法は水滴を弾丸にして放つ魔法だ―――の広域殲滅用に改良した魔法である。ただ元々「涙で穿つ」自体威力が笑い事で済まないので改悪とも言えるけど…。まぁ今回の場合うまく機能したので良しとしよう。数も計五千まで減ってるし。
そう思った、が現実が「そうは問屋がおろさねぇぜ!」と言ってきた。俺は立つことが出来なくなりひざを地に着ける。
「アレ?ちょっと早いな…」
まぁ要するに限界が近付いてきたと言うことだ。代理詠唱の記憶の欠点は三つあり
・基本の四属性である火・水・風・土しか代理詠唱を行えない
・一度魂に刻んだ―――代理詠唱を行えるようにした―――魔法は変更及び削除できない
・非常に燃費が悪い!
・非常に燃費が悪い!!
大事なことだから二回言いました。ぶっちゃけ俺以外使えないです、代理詠唱の記憶。もし普通の魔法使い、………訂正、有名な魔法使いでも使ったら戦闘以前に魔力が枯渇して下手したら死ぬだろう。どうも俺は転生特典で規格外の魔力を保有しているようだからこんな無茶なことが出来るのである。まぁだから切り札たり得るんだけど。
この分だとあと二回。それで仕留められなかったら…。死ぬね、うん。だから
「あと二回、前のめりに倒れるつもりで!」
そう、口に出して自分に宣言する。そして俺は魔法名を唱える。
「代理詠唱『際限無き憤怒は地から湧き出る』!」
すると砂地だった地面が徐々に赤くなっていき、そして最後には
「あっつ!こんな離れてるのに熱が来るのかよ!」
業火が大地を支配した。数はさらに減り俺は最後の魔法名を
「代理詠唱『螺旋を描き切り刻む風の刃』!」
唱えた。風が黄泉軍へ向かい朽ちた身体を切り刻む。そしてこれは狙ってやったわけじゃないんだが…。
ゴオォォォオオオォォォォォ!!!!!!
炎の竜巻も出来ていた。この現象を後日調べてみると「火災旋風」と言い広域の火災や山火事が起きた時に起きるものらしい。原理は簡単に言えば広域の火災や山火事によって起きる熱が「上昇気流」を作り、その熱に炎が乗り大きくなる、らしい。もし知ってたら起こさなかった。理由?それは
「あっっちゃぁぁぁぁああああぁぁあああ!!!」
俺はMじゃないから自傷行為はしたくないんだよ。………まぁでもとりあえずは
「俺の勝ち、か。………も、無理」
それだけ言って俺は宣言通り前のめりに倒れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…ユートォ」
あとで文句をたくさん言おう。それぐらいいいはず。………生きていたらだけど。
わたしはあまりの暑さにフラフラしながらそう思った。
チャンスは一度だけ。失敗したら…。こわいからやめよう。
覚悟を決めわたしは一直線にサムライに向かって走る。それに合わせてサムライは両手で剣を持つ。わたしはツメを使えるように指を立てる。
近付く、近づく。………そして
ズプリッ!
心臓に近いところを刺される。
痛い痛い痛いイタイイタイ!
初めて感じる強い痛さで泣きそうになる。
………でも
「や、ああぁぁぁああああ!!!」
そこで動きを止めずにそのままツメを使ってサムライを首を切った。首は飛びサムライのからだは動かなくなって剣から手を放す。そして後ろにたおれた。
「ゲホッ…これでわたしの勝ち、だよね?……ゴホッゴホッ!!」
魔法の補足
・際限無き憤怒は地から湧き出る
火属性。大地を燃やし炎の泉を作る。この魔法は相手が不浄であればあるほど、使用者が相手に対し憎悪を持つほど炎の火力が上がる。
・螺旋を描き切り刻む風の刃
風属性。目標に向けて全方位から風を集め切り刻む。本来はある程度制限をかけてあるので死に至らないが今回は制限を外してあるのでスプラッターなことになる。




