こいつは男みたいな奴だからって言われた女騎士のお話
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私は女だが学院では騎士課に所属している。
兄と弟に囲まれて育ったため、剣を握って暴れまわるのが普通になってしまったからだ。
「せめて貴族学院の騎士課で最低限のマナーを身に着けさせ、女性王族の警護ができるようになってくれ」
父から懇願されたから、マナーとか教養とかも頑張ったのだよ。
騎士課は男ばっかりだったから同性の友人は少なかったけど、異性の友人もできたので問題ない。
学生時代を満喫していると、思う。
「なあブライア、ちょっといいか?」
ある日1人でいると、同じ学科の男子に声をかけられた。
こいつはいつもからかってくる侯爵家の次男か三男だ。
今日は普段と違い、取り巻きもいないしどこか真面目な表情をしている。
「どうした? ケビン」
「ちょっと一緒に、オレの婚約者に会って欲しいんだ」
別につきあう義理はなかったが、断る理由もなかった。
喫茶室に同行すると、婚約者のお嬢さんはもう到着ずみ。
「やあ、マリア、こいつがいつもつるんでいる友人のブライアだよ」
「マリア・ララバイですわ。お噂はかねがね」
「ブライア・センタリオンです。初めまして」
そんなにいつも一緒ではないのだが、一応話を合わせておく。
「マリアはさ、オレが騎士課の女生徒と仲良くしているからヤキモチ焼いているんだぜ。浮気だって」
マリアさんの表情は思いつめたように固まっている。
これヤキモチってレベルじゃないな。
「男友達みたいなもんだって言っても納得してくれなくてさ。男同士だったら普通だろ? 肩組んだり手を握り合ったりするくらい」
それはそうだが、ケビンと私は仲が良いわけではないぞ?
「こいつなんて、本当に男みたいな奴でさ。見てみろよこの筋肉。男子学生をしょっちゅうなぎ倒してるんだぜ!」
ケビンは私の腕に了解もなくさわってくる。
「マリアも触さわってみろよ。分かるから」
「そんな不躾なこと、できません。ケビン様も、女性に対して失礼ですよ」
だよね。まったくだ。
しかしケビンは人の嫌悪感など気にしない。
「無理無理、こんなの、女として見れやしないって」
イラッとした。
そりゃあ私は背も高いし筋肉質だし、女性らしい体形とは言いがたい。
だけど本当は男だろとからかわれるのは、いい加減うんざりしていた所だった。
そしてケビンの目論見にも気がついたので、私はマリア嬢に一礼する。
「確かに私も、仲の良い男子生徒と慣れ慣れしすぎてしまうことはあります。しかし婚約者のいる友には気をつけておりますよ」
「え、では、ではなぜ? 昨日はお二人で見つめ合っていたと聞きました。とても近すぎる距離だったと」
おどろくマリア嬢。
「ええ、昨日のケビンは私を数人で取り囲み、がさつな男だと笑ってきたので、襟首をつかんでにらみつけてしまいました。もうしわけありません」
学院で面倒事はおこすなと父に念を押されていたから、そのていどで我慢してやった。
「そんな! ブライア様の優雅さは淑女課でも有名ですのに。ケビン様、ひどいわ」
「素敵なレディにほめられるなんて光栄ですね。次回からはきっちり腹をけり倒すだけにいたします」
ケビンの顔がこわばる。
「な、何を言っているんだブライア。あんなのただの友情表現じゃないか」
「私が嫌がるのをニヤニヤ見るのが友情表現なのか? 教材を壊すのも、石を投げるのも? それは知らなかった」
大体は男性の友人がすぐ止めてくれるのだが、昨日は1人だったから自分で対処しただけ。
「そ、それは明確に嫌がらせじゃないですか。教官は何をしているのです」
マリアさん、いい子だね。
「教官には騎士課の男は粗雑だから、少しぐらい我慢するのが普通だと言われましたね」
まあ私の身分が高ければ、もっと対応するのだろうが。
「それから、普段こいつとベタベタしているのは私ではなく、別の女生徒です」
ケビンは目を泳がせた。
そう、私は冤罪である。
「おそらく、噂になっているのはカーマイン子爵家のご令嬢ですね」
あいさつくらいしかしないから、名前は覚えていない。
騎士課には私の他にも数人の女子がいる。
カーマイン家の令嬢は、剣の腕はそこそこなのに髪が乱れるとか言って鍛錬をサボりまくっていた。
だからまだ親交が少ない。
騎士課の女生徒はほとんど化粧っ気がないので、メイクバッチリの彼女だけ男子学生からの人気が高いっぽい。
嫌がらせを受けている女生徒は他にもいるが、あの子がされているのは見たことがなかったからね。
「カーマインさんとケビンはよく同じタイミングでいなくなっていましたよ」
それ以外でも、意味深な目くばせをしあっていたから、つき合っているだろうことは用意に想像できる。
「おそらくこいつは、私を男の様だとおとしめながら、マリア嬢の追求をごまかそうとしていたのでしょう」
こんなにかわいい婚約者がいながら浮気するなんて、と私はケビンをにらむ。
「そ、そんなことは‥アマンダとはそりゃ仲がいいけど、彼女とだってただの友達で‥」
へーアマンダって言うんだ、彼女。
「そうですか? あなたのおっしゃる友情表現をカーマインさんだけにはしなかったので、友人として見ていないとばかり」
マリアさんが軽蔑したようにケビンを見る。
あせりまくるケビン。
「違うんだマリア、ブライアはただの悪ふざけを深刻に取りすぎて、オレをはめようとしてるんだぜ。ブライアもそれぐらいのこと気にするなよ」
何が違う? それぐらいのこと?
「はめるなんて、そんな陰湿なことはしませんが」
私はニッコリ笑いながら彼に向かい合った。
「私って、男っぽくってサバサバした性格ですから‥そうですねぇ、20発殴らせてくれたら忘れますよ?」
右手と左手で10ずつ。
その程度で許して上げると言ったのに、なぜかケビンはその場から走り去ってしまった。
「かっこいい‥」
マリア嬢が私に釘付けになってしまったのも予想外だ。
***
後日、ケビンはマリア嬢の家に婿入りする話が立ち消え、しかも停学処分になった。
マリア嬢から私への仕打ちを学校に抗議してくれたようだ。
教官が別人に替わり、男子学生からの嫌がらせも激減する。
これ以上続ける気なら拳で語り合う気マンマンだったから、ちょっと肩透かしだけどね。
ま、どうせ次の演習でボッコボコにする予定だし。いっか♪
「きゃー、ブライア様!」
「お姉様ぁ、こっち見て下さい♡」
「これ、私が刺繍したハンカチです。どうぞ」
「ブライア様、お疲れでしょう、クッキーをどうぞ」
マリアさんが広めたのか、淑女課の間で私の人気が高まってしまい、公開演習の場は女生徒であふれかえるようになってしまった。
「セシリア、素敵ですわぁ!」
他の女性騎士人気も急上昇中。
「とうとう女までライバルになりやがった」
友人のロアルドが隣で苦笑している。
確かに今まで人気があったのは筋骨たくましい男子学生の方だったからね。
「食べる?」
クッキーの袋をさし出すと、ごっそりつかみだしていた。
まあ、嫌がらせを止めてくれるのは大体こいつなので、それくらいはしょうがないか。
そして今回の騒動で、注意された生徒がもう1人。
「あんたのせいで私まで叱られたし、ケビンが停学になっちゃったじゃないの」
後ろから怒鳴られてしまった。カーマイン子爵令嬢だ。
たぶん八つ当たりだろう。
「自業自得。ねらうなら婚約者のいない男にすればいいのに」
私が首をかしげると、彼女は憤慨した。
「見た目が良くて侯爵家の令息よ、欲しくなっちゃうのはしょうがないじゃない!」
あまり意味が分からない。
私は女性には丁寧に話しかけることを心がけている。
しかし同じ騎士課の生徒には敬語を使う気にもなれなかった。
「侯爵家ったって嫡男じゃないだろ。将来的にどう考えていたんだ? 2人で働くとか?」
カーマイン嬢の目が見開かれる。
どうやら‥何も考えていなかったらしい。
「ケヴィンの見た目だって、たいした筋肉はついていないし、今のままじゃ近衛兵にだってなれないはず。あんただって王宮に勤められる成績じゃないし」
「そこまでにしてやれって」
ロアルドがあきれたように止めに来た。
彼は私を助けてくれるだけでなく、無茶をしていると注意もしてくれる。
涙目のカーマイン嬢を見て私はハッとした。
「ゴメン、まだ気をぬくと思っていた事が口から出ちゃうんだよね。気をつけなきゃ」
「とっとと直せ」
頭をロアルドにはたかれる。
「く、自分ばっかり男に囲まれて! 覚えていなさいよ!」
捨て台詞をはいて、カーマイン嬢は私の前から逃げて行った。
(カーマインさんにだけは言われる筋合いないんじゃない?)
いや、そう言えば最近の男子生徒たちは見学に来る女の子たちが増えたので、そっちに夢中になっていたか。
今までのマドンナなど目もくれないで。
薄情な。
しかしそれでも腑に落ちない。
「確かに私は男友達が多いけど、みんなただの友達じゃん」
恋愛対象としてなんて、誰も見ていない。
「だよなー俺たちタダのトモダチだもんなー」
ロアルドの腕が肩にかかった。
こいつはなぜか時々、妙に距離が近すぎる。
まあまだ婚約者もいないようだし、別に良いのかなぁ?
サバ女と言うより脳筋ヒロインでした。
主人公には作者の願望がつめこまれることが良くありますよね。
私の場合は美少女と言うより、健康マッチョです。




