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あの日、rock 'n' rollに「生きろ!」と言われたから

作者: 銀色商会
掲載日:2026/04/03

はじめての投稿です。

若いころに死にたいと思ったことはありますか?

誰かに出会って受けた衝撃はどうですか?

そんなお話しを4000文字以内で書いてます。

お気軽にどうぞ。

その日は朝から雨模様で、梅雨時期特有のじめっとした空気だったと思う。

楽器屋さんのインストアイベントに立ち寄ったのは、ただの偶然だった。

高校からの帰り道、家にまっすぐ帰りたくない僕は、雨を避けるのに便利な駅前の商店街のアーケードを目的もお金も無くふらふらと見て歩いてた。

「まもなく佐藤佑二さんのイベントが始まりまーす。学生さんは無料でーす」

佑二さんの名前は知ってた。

テレビに頻繁に出てくるほどの人気ではないが、確かな実力に基づいたギタープレイはそういうことが好きな人たちから圧倒的な支持を得ていた。

僕も動画サイトでしか見たことはなかったが、画面越しに流れるギターの音はカッコいいと思っていた。

別に楽器を習ったこともないし、学校で音楽の点数がいい訳でもないけど。

「入っていいですか?」

だから本当にたまたま気まぐれで、むしろ家に帰りたくなかったから時間つぶしになると思って入ってみることにしたんだと思う。

「はいっ、どうぞー。10分ぐらいではじまりますよー」

店の中は既に結構な人がいた。

結構な人がいるのにあまりじめっとしていないなと思った。

何か月が過ぎたころに楽器屋の店員さんに楽器に影響が出ないように空調をしっかりコントロールしていると聞いた。

見に来た人たちは少しでも近くで見たいのか前の方の席に集中していた。

僕は周りに人がいない一番後ろのパイプ椅子に座ってぼんやりと考えていた。

死にたいなぁ。

僕の家は、たぶん訳ありの家だったんだと思う。

記憶にある範囲で両親の仲が良かったことはない。

死なない程度にご飯は出てきたけど、みんな時間もバラバラに食事していた。

家族団らんなんてテレビでしか見たことないし、僕はずっと痩せてて、小さかった。

子供ながら「なんでみんなでご飯食べないの?」なんて聞いたこともない。

子供でも聞いてはいけないことは分かっていたんだと思う。

学校でも友達はいなかった。

どう話しをしていいか分からなかったし、周りも付き合っちゃいけない子だと認識していたんだろう。

特別いじめられてた訳ではないが、いない人扱いだった。

いつも心の底に黒くて重いものがあるような気がしていた。

笑ったことが無いわけじゃない。

スマホの画面に流れる動画で。クラスの雰囲気に合わせて。

でも、たぶん、本当に笑ったことはなかったと思う。

だから、僕は割と早いうちに気が付いてた。

僕に価値がないことを。

今にして思えば青臭く、気恥ずかしいのだけれど。

でも、家と学校しか世界に存在しなかった僕にとっては、それが真実だった。

誰かと合わせることもできなかったし、居場所なんてどこにもない。

夢とか希望とか将来なんて。

そんなものが存在することすら知らなかったよ。

心はカーテンがかかったようにぼやけていて、ずっと重くて苦しかった。

でも、自分自身で終わらせる覚悟も勇気もなかった。

ただぼんやりと死にたいと思っていた。

そんなことをパイプ椅子に座ってうつむきながら考えていると前の方から歓声が上がった。

その人はニコニコ笑って手を振りながら簡易的に作られた一段高いステージに歩いてきた。

「はい、こんにちは。こんな雨の中に来てくれてありがとねー」

スマホ越しにしか見たことない人がそこにいた。

今まであった人の誰よりも気さくな感じで話しをしているのに、誰よりも存在感があった。

カッコいい。

目が離せなかったし、見開いていたんだと思う。

佑二さんは楽器屋さんが用意してくれた何本かのギターの内一本を手にして椅子に座りながら話し続けてる。

「今日はご用意いただいたギターについてお話ししましょうね。話だけだとつまんないからだらだら弾きながらね」

笑いながらチューニングを確認して弾き始めた。

圧倒された。

生でエレキギターの爆音を聞いたのも初めてだったけど、魔法のように指が、手が動くのを初めてみた。

次々ギターを変えながら説明して、弾き続ける。

ギターが変わってるのにアンプから流れるトーンは変わらない。

じっくり佑二さんのギターを聞くのは初めてなのにこの人じゃないと出ない音だと分かる。

ギターについての説明は全然わからなかったけど、夢中で聞いた。

夢のような時間はきっと一時間くらいだったと思う。

「そんじゃ最後は古いbluesを俺なりにrock 'n' rollにアレンジした曲を」

曲名はしらなかった。

アメリカの30年代の曲を佑二さんは弾きながら歌い始めた。

英語なんて全然わからなかった。

でも、いつの間にか涙が出てた。

少しかっこつけてしまった。本当は号泣してた。

曲が終わって拍手と大歓声。

僕はその時はじめて泣いていることに気が付いて、走って店から逃げ出した。

涙と嗚咽が止まらなかったから。

お店の裏の小さな公園の木の影に逃げ込んで泣き続けた。

心のカーテンは開いてしまって黒く重たいものは消えていた。

僕はrock 'n' rollに「生きろ!」と言われた気がした。

優しく生きてもいいって言われたんじゃない。

もっと強烈にバットでぶん殴られながら「生きろ!」って言われたんだと思う。

どのくらい泣いていたのか、がさがさと音がして振り返れば、そこに煙草をくわえた佑二さんが立ってた。

「おや、さっきの少年じゃない」

ニコニコしながら、でもさっきと同じ存在感でそこにいた。

「えっ?あ、覚えてるんですか?」

「ん?覚えてると言うか、一人だけ後ろの方にいたから目についてたんだよ。熱心に聞いててくれてたし」

穏やかに話しながらくわえてた煙草に火を点けた。

泣いているのを見られたかもと思って少し照れ隠しに焦ったように質問してた。

「最後の曲はなんていう曲ですか?」

「ん?気に入ってくれた?あれはね、cross roadって曲だよ。bluesの名曲でいろんな人がいろんな解釈とアレンジで演奏してるね。面白い伝説もあるから気が向いたら調べてみて」

煙を吐き出しながら佑二さんは続ける。

「そっか、あれが気に入ったか。」

「あの!どうしたらああいう風にギターが弾けますか?」

僕は食い気味に佑二さんに尋ねた。

「さてねぇ、どうすればいんだろうねぇ?俺はrockが大好きだからcross roadもrockにしちゃうしね」

煙草をポケット灰皿で消しながら

「自分がカッコいいと思うカッコをして、カッコいいと思うギターを持って、カッコいいと思う曲を弾きたい」

ポケット灰皿をタバコと一緒に革パンツのバックポケットにねじ込みながら

「rockは自由だよ、少年。自分がこうだと思うようにしていいんだよ。自分以外の誰かが決めたことに意味なんてないよ」

佑二さんは笑って手を振りながらこう言った。

「またね、少年」

「あ、ありがとうございました!」

大声で答えると佑二さんは笑いながら楽器屋さんの方に歩いていった。

僕はその日急いで家に帰った。

母さんはいつもより早く帰ってきた僕を面倒くさそうに見てたけど、そんなことはどうでも良かった。

自分の部屋に飛び込んだ僕は佑二さんに言われたcross roadの伝説を調べたり他のrockを狂ったように聞き続け、タオルケットの端を強く噛んで泣いた。

そんなことが数か月続いた後はhardrockを聞いた。

体中の血が沸騰するような感覚を知った後は人生が一変した。

親にも学校にも内緒で裏通りの古着屋でバイトした。

店長もギター弾く人で僕が聞いたことのない音楽を聞かせてくれた。

Blues、rock、punk、heavymetal。

分野なんか気にするな、お前がカッコいいと思うものを聞けと教えてくれた。

なんか佑二さんに少し似てると思った。

高校を卒業した日に家を出た。

両親は進路相談の時にすら来なかったから僕が何やってるかは知らないだろう。

僕も彼らが何してるかは知らない。

住み込みで働けるところを見つけて、安いギターを買った。

今はもう少しいいギターを使ってるけど、今でも宝物だ。

昼は仕事、夜はスタジオに入ってギターを弾きバンドの助っ人でライブをする生活を5年続けたらライブハウスに来てた人に声をかけてもらった。

プロミュージシャンのバックやレコーディングに参加してみないか?

僕はその話に飛びついた。

すげぇプロミュージシャンだ。

生活は楽にはならなかったし、他の仕事と掛け持ちだったけど辛いと思ったことは無かった。

そんな日々も3年が経ったある日レコーディングの現場で佑二さんと再会した。

「よぉ、少年。元気そうだな」

「えっ?覚えてるんですか?」

がっちり握手をしながら佑二さんはこう言った。

「覚えてるよぉ、cross roadの悪魔には会えたかい?」

「悪魔に会ったら1年で死んじゃうかも知れないじゃないですか」

笑いながら答えた。

「そうか、生きてるならそれで良し!それじゃぁ始めよう!」

気合を入れて初めて見る顔つきの佑二さんは、そりゃぁ恐ろしかった。

そして、やっぱり誰よりもカッコよかった。

自分のカッコいいに妥協がないのは相変わらずだった。

必死に食らいついた。

「お前のカッコいいはその音か?」

厳しい問いに迷い考え応え続けた。

いつのまにか僕は佑二さんバックバンドのメンバーになってた。

佑二さんのバックバンドは要求される水準が高くて長続きしないと言われている中、ずいぶん長く一緒に演奏するようになった。

最近は自分のトーンに迷いがなくなってきたけど、迷うと佑二さんが声をかけてくれる。

「rockは自由だよ、少年。お前のトーンで良いんだよ」

僕は何歳まで少年と呼ばれるんだろうか?

まぁ、しょうがないか。

あの日、rock 'n' rollに「生きろ!」と言われ、「rockは自由だ」と知ってしまったんだから。


いかがでしたでしょう?

ご批判は豆腐メンタルなのでほめていただけると喜びます。

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