2【人間は汚い生き物だ】
【人間は汚い生き物だ――――】
『1日ですむんです。ありがたく思いなさい』
【いや、人間だけじゃない】
(そもそも助けてなんて、言ってないし)
(………助けてなんて欲しくなかったのにな)
【この世界事態がぶっ壊れてる】
朝7頃、いつもこの時間に目が覚める
DOLLのほとんどがショートスリーパーだ
不眠症のやつも多い
それほど、精神が不安定で病んでいく奴が多い
寝るのも食べるのも少しだけで
身体は正常に生きていられる
俺達はなんて便利で都合の良い生き物だろうか
「……はぁ」
溜息が出た
愛玩としての仕事がある日は
いつも朝から憂鬱だ
今日は特に……
ガチャッ………
「……旭兔」
「おはようございまぁす」
俺が起きたのを察したのか旭兎が入ってきた
いつもと同じ軽い調子で
昨日の事は全く気にしていなさそうだった
こいつはいつもそう
俺とどんなに口喧嘩しようと
次の日にはケロッと忘れている
こちらは言われた嫌味もしっかり覚えている分
本当にタチの悪い男だ
「…奏斗、沙野嬢には貴方を拾って
助けてもらった恩があります。
DOLLを初めて使う人間なので
今日はそれなりにしっかりサービスして下さい
…それとー」
「なに?」
まだ何かあるのかと首を傾げる
「…明日、ロランス嬢に謝罪しにいきなさい」
淡々と話す旭兎は冷酷なのだろうか
「こっちも、もう隠せない」
いつものふざけている様子もなく
やけに真剣な旭兎
俺の管理者という立場でありながら
2日間俺を匿っては、いてくれたようだけど
でもそもそもDOLLと人間
ましてやこの国で地位のある貴族では
立場が違いすぎる
いくら向こうに非があっても
どうする事も出来ないのが今の世界の現状
「…分かった」
重く小さく返事をする
「じゃあ、あとは頼みましたよぉ」
ひらひら〜と俺を見ずに歩きながら
手を振る旭兎はやっぱり軽く見えた
本当に庇ってくれたのだろうかと
疑ってしまうほどに
(―――どんなに綺麗事を言ってもどの女も結局は俺を使うんだ…まぁ、1日無料のDOLLを
使わない方がおかしいけどね)
今はあのお嬢様の事より
頭の中はあの薬師の事だ
昨日あんなにもDOLLによせた意見で驚いたし
少し…ほんの少し嬉しかったのだが
1日無料で使えるDOLLと聞いて欲が出たのか
それとも旭兎のいつもの営業トークで流されたのか
どちらにせよそんな人間のコロッと変わった
態度を想像をすると人間なんてと
嫌気が差し今日の仕事は特に憂鬱でしかない
「あ、こんにち………ちっ」
こんにちわとにこやかに
挨拶をする予定だったのだろうが
俺の顔を見るなり昨日あの女の隣にいた
医師は俺を睨み舌打ちをされた
(なんで、睨まれたの?)
全くもって身に覚えがない
DOLLだから?
自分が好意を寄せている女性が俺を使うから?
昨日途中退場したせいでどうなったのか
わからないがあれから旭兎が
相当失礼な態度をとった?
…それが1番あり得そうだけど
ガチャッ…
舌打ちをしたきり俺を居ない者として扱う
医師に声をかけれるはずもなく
当然案内もされず入口付近でどうやって
あの女を呼んでもらえるのかアレコレ考えているとカウンターより奥の扉が開いた
「あら、おはようございます」
昨日の女が出てきた
そして俺の顔を見て平然と挨拶をしてくる
「おはよう!!!沙野ちゃん!!」
「はい、おはようございます」
医師は馬鹿デカい声で女に挨拶してアピールするもサラッと流され女はスタスタと俺の前まできて
「こんな、朝早くにすいません…」
申し訳なさそうに謝罪された謝るくらいならじゃあ頼むなよっと心の中でつい毒吐いてしまう
「…いいよ。うちは時間とかは決まってないから」
まあ大体は夜なんだけど
「それは……大変ですね
えーとじゃあ、とりあえず部屋に来てもらっていいかしら」
「…分かった」
短く重く返事をした
部屋に案内する女の後ろをついて歩きながら
こんな朝早くからなのか……と気が重くて仕方がない
(人間なんかと1日中一緒になんていれない)
部屋に入るとベットと勉強机と本が並んでいる棚
必要なものしかなくあまりごちゃごちゃして
いないシンプルな部屋だ
女は先に部屋に入り電気をつけて
少し散らかっていた勉強机の紙を
整理しながら俺を見る
「あ、ちょっとそこ座っててくれますか?」
指示された場所はベット
さっそくベットに座れとの指示に嫌気が差し
自然と眉間にシワがより心の中でまた溜息をつく
そんな指示を無視して俺は女に近づく
黙って近づいてくる俺に気づいて女は
何かあった?と不思議そうな顔をしている
その人間の表情すらも
演技とすら見えてしまうのは
多分重度の人間嫌いのせいだ
「?…か、なとくん?」
名前を呼ばれた時には
もう壁ギリギリまで追い詰めて
簡単に逃げられない様に顔の
両サイドの壁に手をついている
顔はもういつでもキスできる距離ほど近い
相当驚いたのだろう目をパチパチして
焦っている様にも見えた
そんな事を無視して目を閉じ
スッ――――と口をさらに近づけた
「ちょ、ちょっと待って!!」
キスしようとした俺に
女はギョッとしてすぐに押し退けてきた
「…なに?」
今日は丸一日の契約だ
ダラダラとするのは嫌でとっとと
終わらせたくて急かしたのに予想外に拒否されて
ついイラっとした態度が声に出てしまう
「お、お茶…お茶!持ってくるからっ
座って待ってて!!」
そんな俺には見向きもせず女は顔を真っ赤にしてダラダラと冷や汗をかきながら
大慌てで逃げる様に部屋を出ていった
…何を考えているかわからない
(――勿体ぶってるの?どうせやる事は変わらないのに)
その為に俺を連れて来たんでしょ?
パタンッ―――
「―――ごめんね、今ミルクを切らしてて
普通の紅茶でいいかしら?」
数十分後、女は自分の部屋なのに
すごく気まづそうに入ってきた
えらく時間をかけてお茶を入れたからか
真っ赤だった顔は少し収まっていて
状況を理解した様で先程よりも落ち着いていた
「…別に、DOLLなんだから気なんて使わなくていいよ。」
さっさと疲れさせようと思ったのに
変な気遣いをまだ続行しようとする女に
イライラして冷たく言ってしまう
女は一瞬昨日とはあまりにも違う俺の態度に
びっくりした顔をしてから黙って少し考え込んで
「あら?部屋に来てくれたお客様に
お茶を出すのは当然だわ」
ふふっと柔らかく笑った
「え…」
その笑顔を見てびっくりしてしまい
毒気を抜かれる
「はい、暖かいうちにどうぞ?」一応熱々にはしてないけど大丈夫?
やっぱりDOLLの俺を本当に
人みたいに扱ってくる
ついついまた勘違いしそうになる
丁寧にコップに入れられたそれを見て
何か変な薬でも入れたのか?
と疑ったか少し盗み見た女はさっきと変わらず
柔らかく優しく笑ってる
「…あり、がと…」
耳を傾けないと聞こえないくらい
静かに小さくお礼を言った
変な事ばかり口にして
俺を人間と同様に扱う女に
いつもの自分の調子が狂ってしまう
「さて…と、誤解をとこうかな」
お茶を飲んで落ち着いた頃
なにやら困った顔をしながら
女が話を切り出した
「その前にまず、自己紹介をした方がいいわね」
「えっとあらためて、雪村沙野です
薬師と言う仕事をしていて、名前で分かると思うけど私はここの国の人間ではないのよ。」
ロランス、アルフォンス……
思い返してみると確かに
この国の人間の名ではない
この女の名前…東の国だったかな
DOLLの誕生したのも確か
東のある国からだった
だからDOLLの名は皆漢字を使う
人間に興味がない俺はこうゆうのに疎くて
気づけないが旭兎はきっと気づいていたはず
わざわざ何も言わなかったのは
東のDOLL関係と深く関わるのは面倒だと
思ったからだろうなと1人で納得する
「それで旅をして今ここの国に
居させてもらっているの
ただ一つの国に長くはとどまれなくて
そろそろ違う街に行くんだけど
今日はその引っ越しのお手伝いを
貴方にお願いしたかったのよ」
「…え?」
ごちゃごちゃ考え事をしていた思考も
この部屋の時間も全て止まる
「昨日、旭兔さんにそう伝えたんだけど
聞き違いがあったらしいわね…
……だから、あの、そうゆう方向で……
今日1日お願いします」
ペコっとDOLLなんかに頭を下げる女は
まだほんの少しだけほんのり赤くなっていた
のに対して
(俺の、勘違い?)
自分の顔が一気に赤くなった気がした
自覚すると自分の行動も考えていた事も
恥ずかしくて今すぐにでも
部屋を出ていきたくなる
(思っていた事を一言でも口に
していなくて良かった…っ)
口にしていたらしていたで
誤解は早く解けたかもしれないが
恥ずかしさでどうにかなってしまう所だった
『サービスして下さいよ』
何がサービスなんだよ……
この女はそんなこと望んでないじゃん!
いや確かになんのサービスとかは
言われてないけどさ…
旭兎の奴わざと俺に引っ越しの手伝いだって
教えなかったな
本当に一体何がしたいんだアイツは
ムカつきすぎて今すぐにでも
文句を言ってやりたい気分だったが
チラッと隣を見ると勘違いされて
失礼な態度をとられ
自分が襲われそうになったにも関わらず
もう解決だと言わんばかりに警戒心もなさそうにニコニコしている人間の女
DOLLなんかにぞんざいな
扱いを受けても笑っていられる女
「………………変な人…」ボソッ
失礼な事をしてしまったにも関わらず
本音が溢れた
あ、これはヤバイっと手を口に当て横目で
チラッと見ると不思議そうに首を傾げていた
どうやら聞こえてなかったらしい
そうゆう事が無し……引っ越しの手伝いだけで1日ももつか?そう疑問に思う
DOLLを珍しい使い方する女に普段では絶対
自分から聞かないが何をすればいいのか
女に尋ねる事にした
「…ねぇ、俺何すればいいの?」
「あっ私これから仕事なの。だからその間部屋で休んでもらおうと思って連れてきたんだけど」
引っ越しの準備は私の仕事が終わってから
手伝ってほしくて、その間この部屋でゆっくりしていてね
とこれまたにこやかにあり得ない事を言う女に
とうとう空いた口が塞がらない
もう失礼な事は出来ないと思っていたが何もせず休んでいてなんて馬鹿みたいな事を言う女にさすがに訳がわからなくて
「は?」
この一言しか出てこなかった
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「で?僕の所に連れてきたって訳?」
眉をピクピクとさせて
今にもブチ切れてきそうな医師
さっき2人で部屋に上がっていった時もすごい目付きで睨まれて刺すような視線を感じていたのに
医師は沙野が1人で仕事場に戻ってくると思っていたのか俺もセットで来たのが相当気に食わない様に見えた
「……私の職場でもあります」
医師の目の圧が強すぎて変に絡まれては面倒臭いのでそっぽを向く俺と色々気まづいのか沙野は若干目線を下に下げ俯きつつ小さな反論をする
「あー、はいはい。
じゃあ今日はせいぜい仲良く頑張って」
もっと愚痴愚痴と言われるかと思ったが案外あっさりと俺が立ち入る事を認め面白くなさそうにフイッと不貞腐れて仕事が始まると言うのに自分の部屋に閉じこもってしまった
よほど俺と同じ空間には居たくないんだろう
「奏斗くん!」
拗ねるのはいつもの事だからなのだろうか
部屋に閉じこもってしまった医師をほったらかして自分の仕事を始めようとする女は笑顔でこっちこっちと手招きして俺を呼ぶ
(―――変な人。やっぱり人間は分からないな)
自分の名誉や欲の為に動いている
ただそれだけだと思ってたのに
この人は何故
なんで、こんな何の価値も無いものばかりに
俺みたいなDOLLに
優しく笑うのだろうか
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「昔、昔、あるところに……」
「つぎは白雪姫ね!」
「ふふっ、分かったわ」
仕事がひと段落してお昼休憩に差し掛かった頃
沙野ちゃーん!!
と大きな声で呼びこの町外れの病院に
人間の子供が3.4人ほど入ってきた
俺は一応、帽子を深く被り耳が出ないように尻尾は服の中に隠していてパッと見では人間に見えるようにして仕事を手伝っていた
子供なら尚更俺がDOLLかどうかなんて
判断できないだろう
俺の顔を見ても新人さん?
程度にしか思っていなさそうだった
沙野はちょうどいいから少し休憩にしましょ?
それだったらもらってくれる?と俺に休憩をとらせ人間と関わらないでいいように
カウンターの裏に椅子を置いてくれた
またしてもDOLLに気を遣ってくれている
純粋な子供だから俺がDOLLだと言う事は簡単
に騙せるが純粋な子供だからこそ
もし不用意に近づかれて帽子が取れた時を思うと怖くて素直に休憩をもらった
もし、DOLLの俺を雇っているなんて事を言われたらこの病院の評判を地に落としてしまう
普段は人間の事情まで考えたことも無かったが
あの女の人に迷惑はかけたくないと思った
(俺には、休憩って言ってたのに自分は人間の子供にずっと絵本読んでる……この人朝からずっと働いてるな)
もう何冊目になるんだろ
人間の書いた絵本を俺も子供には見られない様に棚の影で座りながら聞いていた
子供に聞かせるその声は普段話す声よりも優しく物語りを紡ぐ不思議とその声が少し心地くて
眠ってしまいそうになる
(DOLL相手に気を使ったり、休憩入れたり)
【本当に変な人】
少し、ほんの少し口元が緩んで笑ってしまっていた事は自分でも気づいていない。
『ロランス様!!!!!』
暖かい気持ちが急激に冷めた気がした
ビクッ!!!
「―――っっ!!」
その名前を聞いただけでビクッと肩が跳ねる
元々人間から見えない位置に身を置いていたが
更に奥へと隠れて聞き耳を立てた
「奏斗は見つかったの?」
あの女の声だ―――――――――――
(何?なんで?
旭兎が客逃すのが嫌で謝りに行けと
言ってるんだと思ってたけど。
…本当にまだ俺の事探してるの?)
「い、いえ、…それよりも、
一人で出歩かれては困ります!
家に戻りましょう!!旦那様も心配されます!!」
「嫌よ!!!
奏斗を見つけて連れて帰るまでは戻らない!!
あなた達も、もっと必死に探しなさいよ!」
言い合いになってる……
周りを見ている暇も無いはずと思い
少し顔を出すと、ロランスとあと3人ほどの兵士が道の真ん中で堂々と話していた。
「は、はい!!!!」
勢いよく返事をした兵士3人は俺を探す為に
それぞれ走って行くように聞こえた
離れていく音を聞きながら少しホッとする
が、全く変わらず俺に執着している女を見て
心臓はまだドクドクと脈打っている
『分かった…貴方を殺せばいいんだ』
あの日の俺の血で赤く染まったベットに
狂った様に幸せそうに笑うロランスの顔と
俺を殺す殺す事を楽しむ様な笑声が
頭の中をぐるぐるとまわり続けて離れない
「っ、ハハッ…次捕まったら
本当に殺されるかな……………」
先程の夢の様な時間とは真逆の
どうしようもない現実に
ハハッと乾いた笑みが出る
【俺は殺されるのかな――。】
「…もう、やだよ…………」ボソッ
呟いた声は誰に届くはずもなく消えてなくなった
ガシャアアアアンンンン!!!
その瞬間何かが割れる音が聞こえた
その音に即座に反応し身をかがめて隠れる
(まさか居場所がバレた?)
先ほどよりさらに
ドクンドクンと鳴る心臓の音がうるさい
耳をすましてみたが誰かの近づいてくる足音や
ロランス達の声も全く聞こえない
もう何処かに行ってしまったのか?
じゃあさっきの音は――――――?
ふと、全く反応が無かった沙野が気になった
さっきからあんなに大声で
俺の名前を呼び話していたのに
それよりも人間の子供や沙野の声の方が
近いはずなのに一言も聞いていない
そう言えば動揺して頭に全く無かったけど
ロランスを覗き込んだ時誰も居なかった
子供たちは帰ったの?
もしかして――――――
あの女達が来て騒ぐ前まで俺はかなり眠ってた?
(嘘でしょ…)
チラッと病院にかけてある時計を見ると昼休憩をもらった時間から1時間ほど経っていた
完全に沙野と子供達の声を聞いて
眠っていたみたいだ
普段なら絶対あり得ない最悪だ
と隠れていたカウンターから表に出る
――――――目の前の光景に愕然とする
「ケホケホッ、…っはぁ、ゴホッ」
自分の胸を握りしめてとても苦しそうに
倒れている沙野
慌ててすぐに沙野に駆け寄る
沙野のすぐ近くにはちいさなガラスが散らばっていた。小瓶が数個割れたようだ
まだ上に残っていた瓶をもうこれ以上落とさないように机の中心に寄せる
先程の大きな音は瓶に入っていた薬を
落としてしまったのだろう
「はぁっ…………奏斗くん…」
俺が起きて来た事に気づく
俺の名を呼ぶその声はとても小さく辛そうで
声も出せず誰にも近くにいた俺にも助けを
呼べなかったのかと思うと今まで気づかずに
眠ってしまっていた事にひどく後悔する
「ーっはぁはぁ、ケホケホッごめん、
起こしちゃったね…」
「――――っ」
まだ俺なんかを気遣っている
沙野に呆れを通り越すそんな事より自分の心配をしたらいいのに
「そんな事いいから…早く先生呼んで『ギュッ』
すぐにあの医師を呼んで来ないと死んでしまうかも知れない柄にもなく焦っていた
俺が冷静じゃないのが分かったのか
あの医師に知られたくないのか
腕を掴んで立とうとしたのを止められた
「…ごめ、ん。………はぁ、大丈夫…だから――っ!!!」
(ーっ、全然大丈夫じゃない。)
自分のせいだ
あんなにも優しくしてもらったのに
倒れてしまった時に気づけなかった
ロランス達が近くに居ると分かってからは
この人がどうしてるかなんて頭を過らないくらい
自分の事だけしか全く考える余裕が無かった
「もう、いいから、座ってて。
先生呼んでく「沙野ちゃん!!!!!!」
カウンターの棚に楽な姿勢になる様に腰掛けさせあの医師を呼ぼうと立ち上がった時、
バタンと大慌てで医師が出てきてくれた
「沙野ちゃん――――大丈夫。落ち着いて」
「っ、あ、アルフォンス先生…?」
「うん、今薬用意するからね……」
慣れた手つきで薬を沙野に飲ませる医師を見てほっと安心する
「はぁ、すい、ま…せん」
額に汗をかいている沙野は
申し訳なさそうに医師に謝る
用意された薬を飲んで多少マシになったのか
発作の様な咳はすぐに止まった
「今日はもう、休んだら?」
部外者の俺が言える事ではないけど
これ以上仕事をできる様子でも無いし
ましてや引っ越しの準備なんて
とてもじゃないけど出来なさそうだ
「――――か、なと、くん」
「指示さえくれれば大きな荷物くらいなら
運んでおくからゆっくり休んだ方がいいんじゃない?」
普段ならこんな面倒事自分から言うわけない
病気や怪我を契約中にされても
自業自得の自己責任として放っていたと思う
でもこの人はDOLLの俺なんかに対して
休憩だったり色々気遣ってくれたり
俺が失礼な態度を取っても優しく笑ってくれた
俺が嫌いな人間達とは少し違うこの人には
返さなければならないと思いそう提案した
とりあいず自分のベットで
横になっていた方がいい
歩けなさそうなら運んだ方がいいな
とそんな事を考え部屋に誘導しようと手を伸ばす
パシッ!
沙野の横にいた医師に強く手を叩かれた
たかが人間のこんな非力そうな男に叩かれたくらい全然痛くはないけど訳がわからずついムッとした表情で医師を見る
向こうも俺を今まで以上に睨みつけていて
何も話そうとはしない
沙野も何が起こっているのか分からなそうに
俺と医師の顔を視線が行き来している
(俺のせいで倒れたって言いたいわけ?)
確かに寝てしまっていたし私情を優先してした
少なからず俺の責任だとは思う気付くのが遅れてしまって本当に申し訳ない事をしたとも思うがその前に
「……なにしてるの?
はやく部屋、連れて行かないの?」
早くこの人を安静な場所に連れて行きたい
説教なら後でいくらでも聞くし
クレームも付けてくれていい罰も受けるつもりだ
睨むだけで全く動こうとしない医師に腹が立って今度は沙野と同じ高さに座りまた手を沙野に貸そうとする
「……るな」ボソッ
「?」
あまりに小さな声で聞きとれなかった
それは俺より近くにいる沙野も同じようで何を
言ったのかわからず首を傾げている
「……汚いDOLLごときが沙野ちゃんに触るな」
今まで薄々感じていた敵意を剥き出しにして
本当に汚いモノを見るかのように
俺を蔑むように睨む
「……………」ピタッ
思わず再び伸ばしていた手も止める
グイッ
ベットまで沙野を運んで行く事も出来ないくらいか弱い人間だと思っていたのにすんなり沙野を抱き上げた
医師はまだ座ったままの俺を見下しながら
「――君はもう、帰っていいよ」
冷たく一言そう、吐き捨てた
パタン――――――
沙野の部屋に続く扉が閉まる音だけが
1人残されたこの場所で響いた――――。
「アルフォ、ゴホゴホッーっ、
アルフォンス先生下ろしてください!!」
急に話そうとしたせいか収まっていたと思ってた発作が止まらなくてうまく話せない
「は?なんで?まだ仕事するつもりなの?」
本当に何も分かっていないような医師に対して
有り得ないと眉を寄せる
「――違います!奏斗くんに謝って……っ
あんな言い方は「ふっ、クスクスッ」
「……っ、なにが、可笑しいんですか?」
こっちが必死に話しているのにヘラヘラとしてるアルフォンスにただ純粋に腹が立った
「ふふふふふっ、沙野ちゃん。」
今までで初めてと言っていいほど感情を表に
だして怒っているのに何故か楽しそうな医師に不信感がつのる
―――――――ガチャ
アルフォンスは器用に私を抱き抱えながら
部屋のドアを開け自室に入りゆっくりと私のベットの上に下ろしながら耳元で囁いた
「さっきから」
「わざと嫌がってるのがバレバレ」
全く訳が分からずその言葉の意味も理解できずそれでもヘラヘラと笑い続ける彼が急に怖くなった
「は?……な、に言ってるんですか?」
この人に対してこんなにも恐怖に感じたのは初めてだ
「さっき咳き込んだのも
あのDOLLから離れて僕と二人になりたかったからでしょ?」
「ーっ」
「はぁー。君はずっと困った子だったよDOLLを使って僕にやきもちやかせたり隣街なんて行く気もないのに行くって言って僕を不安にさせたり…もう、分かったから」
先程からもう全く意味がわかない言葉を並べ
見当違いな事をペラペラと話すアルフォンス
数ヶ月世話になったが
気持ち悪すぎて言葉が出ない
腕を見ると鳥肌が立ってきている
そういえば、この人とこの部屋でこんなにも
会話したのは初めて
ここでお世話になった時以来だ
苦手意識がずっとあったから極力
仕事以外での関わりがなかったが
こんなにも話が通じないとは思ってなかった
「さぁ、欲しい言葉をあげるね」
「ほ、しい言葉?」
まだ、何か言う気なのかと顔を歪めながら
聞いたが本心はもう聞きたくもなければ
顔も見たくない
ふふふっと上機嫌で笑ってベットに腰掛けているわたしの耳元まで顔を寄せて身体をかがめて囁き始めた
「…僕は君が好きだよ。
だから安心して君もここに居ればいい。
君からの告白は聞かなくても
分かってあげるからね」
勘違いの連発に最悪のタイミングでの告白
しかも私は彼をもう好きな前提
今までの私の態度で何をそう思ったのだろうか
スッ―――――
そう言ってさらに私に顔を近づける医師に
もう我慢できず声を荒げる
「ま、待ってください!!」
本当に止まって欲しくて自分でもびっくりする
ような声量で拒絶したつもりだったが
待てと言われた医師はやれやれといった態度で
呆れたように話し始める
「…ふっ、君はそうやってすぐじらす…
だから君からの好きは聞かなくても…「すいません!」
「私は、貴方の事が好きじゃありませんっ」
「…え」
今度はきっぱりと言葉にして拒絶した。
やっとニヤニヤ笑っていた医師の笑顔が消えた
「……お世話には、成りましたこんな一文なしの私なんかを住み込みで働かせてくれて感謝してもしきれません。
でも、私は貴方を医師として
尊敬したことはありません
……奏斗くん、彼に謝って下さい」
医師としては軽蔑すらしていた。そんな人を恋愛的な意味で好きになる事なんて絶対に有り得ない私の発言があまりにも意外だったのか。目をパチパチさせ驚いて後ずさったアルフォンス
私の拒否の言葉より奏斗への謝罪を要求した事に対して顔を歪ませた
「は?謝るだって?あのDOLLに?
なんでこの医師である僕が?」
貴方のその周りを全て見下した態度に
その自分だけが特別だと思っている傲慢さに
私はいつも嫌気が差してた軽蔑していた事を
この人はきっと気づいてもいないのだろう
「あなたはいつも自分しか見えていないから
患者さん達とも、疎遠になってしまったのね」
私はもちろんこの街の人達からも
軽蔑されているこの人は
「貴方は医師失格ですよ。アルフォンス先生」
私の尊敬する医師と言うのはいつも
患者の事を一番に見て自分を犠牲なんて顧みない目の前の患者に一意専心に尽くす
そうゆうヒトだった―――。
「…なめるなよ」
図星だったのか下を向き
フルフルと震えるアルフォンスの声は
あまりに小さくて何を言ったか聞き取れない
頭の上に?を浮かべながらでも相手の様子が
何やらおかしいと感じて
少し恐々と大丈夫か聞こうとしたその時
ガタッ!!!!
「?!」
いきなり無理矢理ベットに押し倒された
ギシッと木が軋む音がすると同時にいくら硬くはないベットと言えど頭をうちつけてしまい先程から体調が良くない事もあり視界がクラクラする
手は押さえつけられていてその力は女の私が相手だというのに一切手加減されてないため骨がミシミシと音を立て痛みで顔を歪める
「ただの薬師に何がわかるんだ?!
…医師の僕が好いてやってるんだから……
大人しくしろよ!!!!」
普段の嫌みたらしく話す先生からは
想像もできない大きな声を荒げ私を罵倒する
その事に驚いて眼を見開いたが、私は
その言葉を聞いて思い出した。
そうだ
この人を尊敬できなくなった理由だ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
町のはずれにあるこの病院はとてもじゃないが
交通が不便で病院に訪れに来る人々にとっては
少し崖や山道もあるので険しいものだった。
この町のこの病院で働いて数日後1人の女の子が助けてと顔を真っ青にしてこの病院に訪れた
薬箱を持って急ぐ私の後ろをついてきてくれた
が、先生は手ぶらで何の用意もなかった
泣きそうな顔になりながら私達を案内してくれた女の子に大変な事が起こってるんだと全力疾走は出来ないから私なりに急いだ
事件の起こっていた場所は崖で男の子が2人
1人は崖の岩に頭をぶつけたのか血を流していて
2人でぶら下がっていて今にも落ちてしまいそうな状態だった
大慌てで子供達を引き上げ傷の具合を確認する
血はでていたがそれほど深い傷でもなければ
後も残らなさそうで安心した
些細な喧嘩をして押し合ってしまい
この状況に至ったそうだ
病院が近くて本当によかった
少し離れた場所なら間に合わなかったかも
しれないそう思うと本当によかったと安堵した
『無事でよかったね』
隣で尊敬していた医師が声をかけてくれた
先生がいた事を忘れていた
……ずっと隣に居たのに
この人は何をしていたんだろう
子供だったから私の力でも引き上げられた
崖の周りは手入れをされていなくて
私も子供達も腕や脚は擦り傷だらけだ
所々血も出ている
これを知ってて助けなかったのか?
……いや、一般成人の男性なら私よりも遥かに
早く走れるしここに辿り着けたはず
そもそも助けるつもりは無かったか?
金にならないから
どんな理由でも胸くそ悪くなり
『何故、手伝ってくれたかったんですか?』
聞かなければ良かったのに
地雷をわざわざ踏んでしまうのは
私の悪い癖かもしれない
『……僕が怪我をしてしまったら
多くの患者を助けられないでしょ?
たった2人の子供の命と僕の腕
価値がある方がどちらか
キミも薬師なら分かるだろう?』
ええ
沢山の人を助けなければならない
医師としての責任の重さその重圧から
手を重宝して守っていての行為なら納得できる
ただ、手荷物もなく急ぐわけでもない
ただ隣で鑑賞していただけの
医師という地位に居ているだけの
この人に腹が立った
その資格を取れずにいる
私が言える立場ではない事は分かってる
でも、いくら医師としての技術や腕があっても
人ひとり助ける気がないなら
それはただの無能だ
そう助ける意思も無いのに
医師を主張するだけの彼に
ひどく失望したんだ
――――――
―――――――――――
「や!!!!」
力を振り絞って最後の抵抗を試みる
体勢的にも跳ね返せる訳もなく
大きな声を出すしかないと
大声を出そうと決意した時
「がっ!!!!!」
ドタッ!!と音が聞こえて急に身体が軽くなった
恐る恐る眼を開けるとアルフォンス先生が部屋の床で倒れていた突然何が起こったのか全く状況が分からずドアの方を見たそこには
「か、…なとくん…?」
【人間は汚い生き物だ】
「…汚いなぁ」
そう、吐き捨てる様に呟いた彼は
真っ直ぐ私達人間を見て
怖いくらいキレイな笑みを浮かべ
静かに笑っていた
――――――――――――――
―――――――バンッ!!!
ノックもせずに大きな扉を豪快に開け
少し息を切らしながら
そこに居る人間を睨みつける
「奏斗の居場所が見つかったって?」
そう、言った彼女に
その場にいる人間に一気に緊張感が漂う
その中でも一番優秀そうな部下が
近づいていきこう伝えた
「写真からの推測ですが…
隣街だと言うことが分かりました」
「お嬢様、これがお写真です」
何枚か撮られた写真をロランスに渡す
彼女は少し震えながら写真を受け取る
「奏斗……どこ?」
そう悲しそうに呟く彼女は
DOLLである彼が少し写っている写真を
手にし自らの唇に持っていき
静かにキスを落とす―――――――
ピラッ
「あっ、奏斗の写真………………は?」
一枚の写真が落ちそれを拾おうとした時
その写真を見て急激に表情を落とす
「……なに、この女……」
2人で並んで歩いている写真はまるで
デートでもしているかの様で
その写真を即座に握りつぶした彼女の顔は
憎悪に満ちていた




