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1【あんたは所詮、人間だ】



ザアアアァァァァ―――――

「はぁ…はぁ…」タタタッ


【走っても】


ザアアアァァァァ――――――

「はぁ…はっ、…はぁ…………」


【走っても走っても走っても】


タタタッ!!!!!


「…っ」


【俺の逃げる道は】


「…はぁ、はぁっ…っ。」


サァァァア…


「っ―――――川?」

(大雨で流れが早い…落ちたら、絶対死ぬ…)


「やっと………死ねる……っ」



スッ――――

手すりに手をかけ

小柄な青年は静かに目をつぶる


「……………。」

覚悟は出来た。

もう後は柵を越え落ちるだけ


ガシャンッ…


「……はあ、はぁっ」


ーズキンッ!!―――――


覚悟を決め柵を登ろうとした瞬間

数時間前に負った傷が痛み目眩がする。


血が止まらない状態で雨の中あんなに走ったのだ。

当然傘も指していなかったので水で血が余計に流れて貧血になったのだろう


ドクドクッ…………

「ーっっっ……」フラッ


ガシャンッ………

流れる血を手で抑えこみ


「っ、はぁっ」

ギュゥゥゥゥゥゥ!!!


それでも、まだ、死ぬ事をあきらめられず

必死に手すりに捕まろうとする


「っ……………………………」

バタッ……


が、力尽き青年は倒れてしまった。



ザアアアァァァァー!!!!

この大雨だ。


このまま助けが来なければ

普通の人間なら命を絶てるだろう…


だが、青年は普通とはちょっと違っていた

青年は確信していた

自分は死ねないとまた明日がやってくると


ザァァァァァ―――――


運命なのか、そこに来たのは一人の女性


カツンッ

「……はぁ」

憂鬱そうにため息を吐き白い綺麗な手紙を見て

その女性は手で握りしめポケットに入れた


カサッ…


そして、一言。

その手紙の相手なのか誰かに向けて

別れの言葉を漏らす。

「―――さようなら」


カツンッ


先ほどの青年と同じように手すりに捕まり

ヒールを上手に使い柵の網を登っていった。


ザアアアァァァァ――――――!!!!!


(雨が…強い……)

急に強くなった雨に川の流れも早まる。


その流れの速さに落ちたらもう本当に戻っては

来れないと恐怖なのか彼女はおもわず

川から目をそむけるように横を向いた―――


「……?」

すると少し遠くの方で今、自分が登っているフェンスにもたれかかる人のような影を見つける。


(え、な、に?あれ………人?)

ザアアアァァァァ――――


雨が強く視界が悪いせいもあるが


ピクリとも動かない

その影にもしかして人では無いのでは?

と疑心暗鬼になる。


それでも目を凝らしてよく

見るとやはりアレは人だった。


「――――男の……子?」


【私が死んだら】

【このこはどうなる?】


私の中で痛いほど鳴り響くその言葉。

彼女が死のうとしていた時は

荒々しく強かった雨も


今では彼女と青年を惹き合わせるように

静かに優しく降り続ける。


カツンッカツンッ……


彼女はそんな事にも気づかずただ

彼が心配で登った柵を下ってゆく


「ーっゴホッー!ケホッ!!」


ザアアアァァァァー

「はぁ、はぁ…っ」


長時間雨に打たれてしまったせいか

身体が冷えそのせいで咳が止まらなくなる


そんな中、頭に鳴り響く言葉は止まることを知らず今もなおガンガンと私に問いかけてくる


【私は、いま―――――――】


重い足取りで一歩、一歩と彼に近づく


「寝てるの…?……大丈―――っ?!」

その彼に惹きつけられるかのように近くまで来て彼女はやっと青年の異変に気づく。



人ではない。が彼はモノでもない。


青年の頭には動物のような

耳と尻尾がついていた

そう、毎日子供たちに読み聞かせていた

あの絵本の登場人物。


絵本の表紙には


「…………DOLL」



私の頭に鳴り響く言葉は静かになり


そして一息ためると、最後にこう残した。


【私は、死んではいけない―――。】


――――――――――ーーーーーー

あぁ、入りたくない。


閉ざされた扉の前でドアをじっと見つめ考える

入りたくない。


いくらそう思っていてもやらなきゃ

終わらないのが仕事だ

自分の場合は、生きてくうえで必要な事


重い気持ちを押しのけて軽く2回ノックをする

コンコンッ

「……」


…ガチャ


本来は何か自分の名前やら所属する

会社やら一言失礼します。

など言ったほうが良いのだろう


だが無礼な行動とかどうでもいいくらい早く帰りたい気持ちがいっぱいでさっさと部屋の中へと足を進めた


「……っ、奏斗!!!!!!!」


ギュッ!!!!


そう自分の名前を呼びながら

恋人のように抱きついてくるのは、今日の客人


「……」

「……っ、会いたかった…奏斗…」


彼女はまるで数年ぶりの再会を果たした

恋人の様にそう、涙ながらに囁く。


俺は彼女を抱きしめ返すわけでもなく

会いたかったと言っている相手に合わせるでも

甘い言葉を囁くでもなくただただぼーっと考える。


こんな名家のお嬢様がたかがDOLLに

うつつを抜かしていて大丈夫なのだろうか


チュッ

「…」


小さなリップ音で思考は

そのお嬢様の元に戻り――――。


「可愛い可愛いわたしの奏斗『DOLL』」


あぁ、今日も……かぁ。

言葉ではちゃんと名前を呼ばれてるはずなのに

心に響く声はいつも違う言葉だ


ほんと、嫌気がさしてしょうがない



【汚い】

「ちっ…」


【汚い汚い】


チュッ、チュクッ…



ああ、舌打ちをしてもイヤらしく鳴り響く

リップ音と女の吐息でこのイカれた女には聞やしないらしい。


「―――貴方、本当に綺麗ね。目なんて、宝石みたい……」

うっとりとした目つきで女は囁く。


人間は何を言ってるのかさっぱりだ

君は綺麗なモノをちゃんと見たことあるの?


「さっ、この前の続きをしましょ?……今日は6時間もあるんだから…」

あの馬鹿みたいなセールのせいで今日はこの恋人気取りのお嬢様と6時間も一緒に居なければならない。


そう思うと憂鬱で嫌気がさして、

また何度目なのだろうという舌打ちをする。


「…………ちっ」


ああ、ほんとに

【汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い】


「…」

「ふふっ、ね、いつも見たいに触って?」


【人間も

ーーーーーーーーーー俺自身も】



「あ、…奏斗!!」

その滑るような白く細い足も

透き通るような肌も

甘ったるく俺を呼ぶその声も


(気持ち悪い…)


名前を呼ばれることがこんなに

気持ちの悪い事だなんて知らなかった。


この行為がこんなに汚い事だ

なんて知らなかった


…………俺は知りたくもなかった。


「はっ…やっ…」スルッー


【汚い…汚い………生き物だ。】

この女が喜べば喜ぶほど


自分がどんどん惨めになる――――――。



(キスマークどこにつけようかしら?)


「………はぁ」

「ふふっ、………」


自分の物だと言う印がつけれる

その幸福感からつい笑みがもれる。


彼女はお嬢様と言うだけあってプライドも高く

一人娘ということで散々甘やかされて育った。

そんな彼女は強欲で傲慢な性格のヒトになった


どうやら自分のモノにはしっかり印を

つけておきたいタチなのだ

それが、新しい玩具なら、なおさら。


「?」ビクッ

彼女のその激しい吐息に反応したくないのに

彼の正直な身体はつい反応してしまう。


自分の行動でビクッと小さく反応した彼

一喜一憂する彼に一抹の嬉しさを覚える


が、それもすぐに消え去った


――――――自分がつけようとしていたその場所にもう別の女の印が刻まれていたからだ。



「――――っ!!!!」


その印を見ては常識な判断なんてもの

この女には到底出来ない

独占欲や嫉妬で埋まっていく心


カーッと頭に血が登りもの凄いスピードで護身用のナイフであろうそれを自分の着ていた衣類から取り出し

油断していた彼の腹の右下部分に―――――


―――――――――――ザクッ!!



刺された彼はあまりに突然な出来事に


驚く暇もなく痛みでそのまま

ベットに倒れこんだ



「ーっ」ドサッ!


ベットにはすぐ溢れ出てきた血が

色鮮やかに滲んでいく



『お客人のベットを汚してしまう』なんて普段なら即処分だ

だが、今はそんな事気にしてる場合ではない


急に怒り出し刺してきた女ーーーー

返答を間違えれば殺されてここで人生終わりだ


「奏斗!!何よこれ!!!?」


(はぁ………っ?)


おもいっきり刺された挙句ヒステリックを起こしてる彼女にもはや何も言えず


この女、本当に頭おかしいんじゃないかと考える


大丈夫。

俺はまだ、冷静だ、だけど


「キスマーク!どこの女につけられたの?!!ねぇ?!!」


女の口からでてきた

あまりにしょうもない理由に


「ちっ…」

つい、癖になった舌打ちをしてしまった


変な汗が出る

いつも平気な舌打ちも今は訳が違う


いつもの激しい吐息が聞こえないこの場所での

舌打ちはさすがにあのイカれたお嬢様の耳にも通っただろう


(俺は、、、、)

不意にお嬢様の顔を見ると、ギラリと目の色が変わった


背筋が一気にヒヤッとする

「っはぁ、あんたに、…関係ある?」


今更取り繕った所で意味がないのを理解して

わざと強気な口調で反発した


が、頭の中では早く逃げろ逃げろと

危険信号がなりっぱなしだ


「……」

(静かになった…?)


今の俺の言葉で逆上するかと思ったが

女は黙り込んで一点を見つめる。


この隙にドアに近づこうと足を動かそうとするが、ベットから身体を起こしただけで体重を支えられずフラフラだ

これじゃあ到底逃げることはできない


万が一ドアにたどり着けたとしても

この部屋に鍵がかかっていたら俺は…


(……っ、やばい、クラクラする

……お腹刺されたのはまずかった)


血が出続ける傷口をこれ以上血が出ないようぎゅっと握りしめる


大丈夫。大丈夫だから。

まだ、冷静に考えられる

が、どうやら、身体は限界らしい

痛みで視界が歪む


今すぐにでもこの部屋を飛び出して

行きたいところだけど


さっきまであんなにヒステリックを起こして

おいて急に静かになった彼女を不審に思う


入口の扉が開いていればまだ希望はあるのがだ

あれだけ大騒ぎになって使用人は誰一人と部屋を訪れてこない。


きっと、この女のヒステリックは

今日だけの事では無いからなのだろう

【どうせ、俺は逃げれない】


頭の中で嫌な文字が浮かんだ

ドクンドクン…とまた、心臓が脈をうつ


「……分かった」

「ー?」


だんまりだった女がやっと口を開いた

お願いだから、まともな事を言ってくれ……

そんな願いも虚しく………


「……貴方を殺せばいいんだ」


一番最悪な事態になってしまった。



「!!?!」ガタッ!!


驚きや恐怖のあまり、起きるのもやっとだったベットから転げ落ちた。 

心臓が痛くうるさいくらい脈打っている


身体はもう限界だ。


ベットや床が血まみれで

これが全部自分の血なのだと思うとゾッとする。


もうここから走って逃げるなんて………


コトンッ……

小さい小さい音がした

顔をあげるとすぐそのに俺が入ってきたドア


「ふふっ、逃げないで。ね?

奏斗…私に殺されるなんて嬉しいでしょ??」


女がこう言った瞬間

プツンッ自分の中で何かが切れた


考えるより先に動いてた


「はぁっはぁっ……っ、!!!!」

もう限界だった身体を起こして

一か八かでドアに手をかける


鍵がかかっていると思われた

ドアは簡単に開いた


廊下を出ると外に小さな鍵が

転がってるのが見えた気がした。


【このまま一生をこの女に捧げ】

【逃げられないと言うのなら――――――。】


ーーーーーダッ!!!!!

一瞬部屋の中であの女の驚いた顔が

見えた気がした


【今日この女に殺されてしまう】

【人生なのならば――――――】


「奏斗!!!!!!」

女が俺の名前を呼んだ気がした

この時は初めてちゃんと奏斗と呼ばれた気がした



血が止まらない

身体が鉛の様に重たい

でも、捕まってしまうくらいなら


【それならー】


屋敷をでても無我夢中で走り続けた

雨が降っていることも気にしない


そのせいで血がいくらでも

流れている事も気にしない


自分が売り物だという事も、もう気にしない。


「はぁっ……はぁはぁ…っ」


もう、いいでしょ?


【最後くらい自分の好きな場所で死にたい】


そう思ったんだ。


――――――――――ーーーーーー


「…んっ」

パチッ…


目がさめると真っ白な部屋のベットで寝ていた


「…」

(生きてる……?)

あまりの白さに、静かさに、ここはまさか天国なんじゃ?と不安になる。


(ここ…どこ?)

が、こうゆう部屋は何回か来たことがある。


この無機質な白さには覚えがあった


そう


(病院だ…………。)


【俺は死ぬ事も出来ない。】

一瞬脳内をよぎった言葉のせいで頭が痛くなる

下を見れば、刺され血が止まらなかった腹の傷は丁寧にぐるぐると何重も包帯が巻かれていた


(よくあの血の量を止めた医師がいたな…)

不意に横にある鏡を見ると点滴をうっているにもかかわらずまだ、血が足りてないのか真っ白な顔の俺がいた。


その顔を見て、だんだん冷静さを取り戻す

そして、冷静になってある事が気になった。


ここが病院である事と

自分が死んでいない事がわかったが


一体、今日が何日なのか

俺は何日眠っていたのか

想像できるわけがない。


俺があの部屋を飛び出してから

お嬢様もギルドの関係者も自分を探しているはずだ。


そして、ここは病院

ここがギルドの病院なら、あのお嬢様が来た時点で俺はまた引き渡されることになるだろう


そんなの………ごめんだ



ブチッ!!!!

自分につけられている点滴を雑に抜き取り

一刻も早くここから出ようとした時


聞き慣れた声がした。


「まぁ、そんなに慌てなくてもいいですよ隊長?」


それは、

「…………旭兔【アサト】」

俺をあの女の所にやった張本人だ。


朝だからなのだろうか?


それとも大切な仕事が入っていないからなのだろうか


男は伸びた髭をそっておらず

そのせいで折角の綺麗な顔が小汚く見える。


そんな男がいつものように

胡散臭い笑みを浮かべ

軽く、あまりにも軽く挨拶をする。


「よ、奏斗」


(旭兔がいるってことは

ここはやっぱりギルドの医務室?)


自分の居場所を徐々に把握していき

旭兔が居るとわかり少し安堵する

…が、隣で今だに、

にやにや笑っている男をジロリッと睨む。


…………この男はわかっているのだろうか?


分かっていてそういう態度なのなら

タチが悪すぎる。

いや、この男はそういう男なのだ


俺はこの男、旭兔のせいで―――――


「殺されかけたらしいですねぇ。

…ロランス嬢に」ハハッ


俺が黙っているのを良いことに

男はとうとう口に出して笑った


「……うるさい。あんたがあんな女の仕事を

とってきたせいでしょ」

ジトッと睨むようにして

溜まりに溜まった不満を男にぶつける


―――――――するとさっきまでにやにやとイヤらしく笑ってた男が急に黙り込む

だが、沈黙だったのは一瞬で男は義務のように

ポツリと言葉を漏らした


「…………今朝方、第七のギルドに怒り狂ってお前を探しに来ましたよ……」


驚き、自然と目を見開いた俺の顔を見て


男は伸びた髭を触りながらお気楽そうな口調や雰囲気には似合わない眉間のシワを濃くする


「ロランス嬢はお前を気に入ってるんです

一生一緒に居るかもしれない相手なんだからもっとなついたらどーです?」


その言葉を聞いてため息が出る。

ついしまったと思いチラッと旭兔と盗み見ると

やっぱり俺の態度が良く無かったのか


さっきより難しい顔をして俺を見……


…睨んでいた。


なついたら?は、もはやこいつの口癖だ

色んなお客を相手にして来たが仕事終わりに必ず旭兔はこの言葉を使う


ひとを猫かなんかだと思ってるのだろうか…

まあ……あながち間違ってはいないけどさ。


「に、してもあの怒りっぷり何したんだか…」


殺されかけたんだよ。ばか。


「なにもしてない。」

少々不貞腐れて答えた

どうせ、本当の事話しても無駄だろう


第一、あんた俺の刺された傷見たじゃないか

殺されかけたらしいねって笑ったじゃないか


それでも知らないふりして見てないふりをして

生きていくことが

大人の生き方だと言うのだろうか?


「嘘はつかない方がいいですよ。」


こいつのこの言葉は、上手に嘘をつけって意味だ

長い付き合いになるからわかる

こいつの言っていることが


「とにかく、謝る事です。

―――――本当に殺されたくなかったらな」


DOLLなんだから、殺されかけたくらい

笑って流せるようになれ

俺の取ってきた仕事にケチつける

暇があんなら頭使って賢くなれ

上手に懐いてる嘘(演技)でもして

無闇に相手を怒らせるな

人間に隙なんて見せた全部テメェの自業自得だ



………………クソガキ。



「……………」

まわりくどい

そう思っているのなら口で言えばいいのに

流して見て見ぬ振りをして嘘をついて

そんな面倒くさくまわりくどい

生き方をしているのが

大人なのだろう


でも、でも……俺は

「やだ」

そんな生き方をしたくて生まれたんじゃない

DOLLだからって意味のわからない理由で

謝りにいくなんて絶対に嫌だ



カチンッ……………


「……あ"?」

俺のワガママに我慢の限界がきたのだろう

容姿にあった口調、表情に戻ったと思いきや


ガチャッーーー


俺達だけの空間だった場所に第三者

他人が入ってきた。



「……あら?起きてる」


俺が起きていた事に女は目を開き驚いていた

DOLLの回復力を知らないからだろう


それもそうだ

ーーーーーーー彼女は人間なのだから



「?!」

(なんで、人間がここに?!)

確かにエンヴィにはDOLL以外に人間も居たが

それはDOLLの管理者とか

そう言った立場だけだ


なんで、DOLLの医務室なんかに人間が?

医師…なのか?………いや、違う……


基本的な身体の構造は同じだけどDOLLの事を分かろうともしない人間がみたって意味がないはず……しかも女


そもそもこの国で女の医師は珍しく

そう簡単になれるものじゃない


「おはようございまぁす。お嬢さん」


色々驚き固まってる俺を他所に

さっきまでヤクザみたいな顔をしてブチ切れそうになってた旭兔はさっそく女好きを発揮して


いつもの似非紳士の旭兔に戻っていた


「……おはようございます。あの……それ」

そんな旭兔に挨拶を返すと言いづらそうに

女がある物を指差す


指をさした方向を目でたどっていくと俺がさっき逃げるためにとブチ抜いた点滴だった


「……貴方が?」


チラッと、旭兔を見ながら聞く女

冷たくなった女の雰囲気に一瞬で部屋が

凍りつくように感じた


自分が抜いてしまったのだが何故か冷たい視線を向けられ続けてる旭兔を見るとなかなか自分がやりました


と言いづらい状況になってしまっている


(え、これ抜いちゃダメなやつなの?)

だんだん自分がした事の重大さに

不安になっていく。


すると旭兔がニヤリと笑い平然そうに答える。


「俺じゃないですよ?いくら綺麗どころでも

男を襲う趣味ないですからねぇ」


「……そう、ですか……」


セクハラ紛いで下品な答えに

女は歯切れが悪そうに納得すると

こっちに向き直った


「……なに」

素直に俺がやったと言うには何故か尺で

ついついぶっきらぼうに答えてしまう


だが子供が怒られる前に

不機嫌そうに振舞っているように


見えるそれは、俺がしたって

言ってる様なものだ


(だいたい、これを外して

俺が死んだとしてもこの人に害はないでしょ?

何びくびくしてたんだろ……)


「寝てる間に外れちゃったんだね。大丈夫かな?寝てる間どこか他のとこ刺さっちゃったとかない?」

予想外の言葉を言われ、つい俯いてた顔を上げた。


すると女が近寄ってきていたのか

意外と至近距離で目が合ってしまった


急にこんな近くに人が居たら動揺しないわけがない


動揺を悟られないように俺は

プイッと横を向いてボソッと呟くように答える


「………大丈夫。」

そんな聞き取りにくい小さな声だったが

女はしっかりと聞き取り


さっきまでとはまるで別人のように

冷たさなんて知らないかのように

優しく微笑んだ


「そう、良かった。あ、あとこれはただの栄養取るための点滴だから心配しなくても大丈夫よ。

………ただ、貴方が抜いちゃったなら

問題あると思っただけなの」


そう、言うと彼女は呆気にとられていた奏斗ではなく


今も余裕の笑みで笑ってる男

旭兔のほうを見てこう続けた


「疑ってごめんなさいね」


旭兔に負けないくらいの余裕の笑み付きで




「……………ぷっ、はははっ!!!!!」


その言葉にいきなり笑い出した旭兔


普段から笑わない奴では無いのだが

いつもの嫌らしい笑みに比べて

こんなに声を出して笑ってる旭兔は久々に見た


と密かに驚きながら隣を見ると、

女が目をまん丸にして旭兔を見ていた


(そりゃいきなり笑い始めたら

そーなるでしょ)

すると、ようやく笑い終わったのか

目に涙を溜めながら旭兔が話し出した


「はははっ!!はーーーっ。


あー、笑い疲れた……あんたおもしろいなあ!

お嬢さん、こんなに笑ったのは久しぶりだよ」


いつもの下手くそな敬語を忘れてしまうぐらい

素で笑っていたらしい。


なにがそんなに面白かったのか……

昔からこいつの笑いのツボはよく分からない。


「お嬢さん」


そう、また旭兔が言いかけた時

女の綺麗に整った眉がピクッと動く


女は旭兔をじっと見据えると

言いづらそうに躊躇いながら


「……あの、嬢って柄じゃありませんって何度も」

お嬢さんと呼ばれるのに抵抗があるらしい

…………あーぁ。

こいつに何度も言った所で無駄なのに


「俺は、女性全員につけるんですよ~」


そう言った旭兔の顔は

いつもの偽物に戻っていた

こいつの昔からの悪い癖の一つだ


色んな事にこだわりが強い旭兔は

言ったことを曲げない

本当に全員の女につけてそう呼ぶ


呼ぶと大概の女は喜んでるのに

それを嫌がる彼女は、どうやら鋭いらしい


そう旭兔のこの呼び方は皮肉だ。


女には全員この呼び方だが

DOLLの同僚の女には普通に呼んでいた


つまりこの呼び方は人間の女だけ――

旭兔は人間とDOLLを区別している

「……はぁ…そーですか。」


彼女は諦めると言うより

呆れたようにため息をつく


ふと、また奏斗と目が合いある事を思い出し

軽い気持ちでスッと手を伸ばすと


「?!」ビクッ!

大袈裟………いや、人がいきなり

自分に手を出したらビックリするのだろう


―――――DOLLならば


人とDOLLには種族を超え壁があるのだから

この反応は当たり前の事なのか

それなら自分の軽率な行動が申し訳なくなり

辞めようかと考えたが


今やめたら意味の分からない行動をしたと

思わせ余計に彼を不安にさせてしまう


一瞬止めた手をまた、動かす


「……」

――――――――――ピタッ


その手を彼のおでこに乗せ出来るだけ優しく

不安にならないようにと彼の体温を測る


「ーっ」

私の手が冷たかったのか

彼は困ったように目をギュッと閉じていた


つい、その仕草が可愛くて

このまま髪を撫でたいという衝動にかられるが


これ以上不安にさせるような

行動はしないでおこうと止まった


「…熱は、もう無いわね。

キミ、具合の方は大丈夫?」

熱を測るために仕方なく触ったと

ずるい大人の口回し


本当は何も考えずに

いつもの癖で触っちゃっただけなのに


それなのに彼は、


「……だ、大丈夫。」


頑張って返事を貸してくれてるみたいだ

(全然、大丈夫そうじゃないけど…


人間に触られていい気するわけないわよね

次からは気安く触らないようにしなきゃ…)


今改めて彼を見ていると、やっぱり

あの時自分がしたい事を諦めてでも

助けることか出来て良かったとおもってしまう


スッー…と彼女は腰をあげると

この場から立ち去ろうとする


「熱もありませんし、

傷口も治ってきてるので安心ですが


念のため先生をつれてくるから

待っててください」


早々と事務のように喋った後彼女は手慣れたように奏斗が抜いてしまった点滴を片付け

部屋から出ていってしまった。


ーーーーーーーーーーーーー


パタン

その扉の音を聞きながら

さっきの医師を連れていってくると言った


彼女を思い出していた

あの女……医者じゃないの?

(じゃあ一体なんなんだ?)


そう思ってると

さっきまで黙って見ていた旭兔が

あの女が出て言ったドアを見つめながら話す


「可愛い方ですねぇ」美しい美しい…


確かに、スラッとした少し華奢な体つき

色白い肌、髪は腰まで長くて頭の上に一つに縛っていた、その髪は色素が薄いのか透明感のある綺麗な薄いミルクティー色だ


透き通るような色の瞳や赤く塗っていた口紅

化粧っ気が無くてもそれだけで

大丈夫な顔立ちだ

清楚で儚い感じが旭兔にとって

ドンピシャだったのだろう


昔っから女ならDOLLも人間も全般好きだった

が、こういった雰囲気の女には本当目がなかっ


そこまで考えて一つの結論に達した

DOLLの医務室にこの女が居るのは

誰かの女だからか……そして、その誰かが……


「旭兔……あの女、お前の女なの?」

「俺の女なら今頃こんなことしてないですよ」


結構自信があったのに否定され

疑問は増えるばっかり


そんな俺を旭兔はこいつ嘘だろって目で見る

「……まさか、なにも覚えてないんですか?」



そのすごく馬鹿にしてる様な態度に

イラっとして俺は今まで考えていた事を話す


「覚えてって……俺は、殺されそうになって走ってるうちに倒れて、第七のギルドに運ばれたんじゃないの……」


それを聞いて唖然とする旭兔

それから眉間に皺を寄せ

大きなため息をはぁぁぁあとついた


「ーーーここがギルドなら、お前は朝ロランス嬢が来た時点で引き渡されてますよ」


「!」

そうか……

あのお嬢様が朝早くに怒り狂って来たんだった

こいつが俺を庇ってくれるはずがない…

じゃあ、ここはどこだ?

……


まさか本当に天…「普通の街の病院です。」

天国じゃなく、やっぱり病院………?


「―――あの美しいお嬢さんがお前を拾ってくれて、ここに連れて来てくれたそうですよ」


「ちなみに俺はロランス嬢が第七に朝怒鳴り込んで来てからここに来たんで」


ここが、街の病院なら人間の女が働いてる事や

俺が捕まっていない事全ての辻褄があう


だが、その前に……そんな事より

「……あの女が俺を?」


人間がDOLLを助けた……?


きっとあの日道に倒れていても俺は死ねずに

朝を迎えただろう


俺の目がさめるより早くあのお嬢様は

俺を探す為に動く、きっとあのまま川で寝ていたら見つかって連れ戻されていた


もし俺が先に目覚めても行く所なんて

第七しか知らないから戻ってしまい

あの女に出くわしていた


彼女がこの町外れの病院まで

運んでくれなかったら、

俺はきっと今生きていなかった。


チラッとベットの上に飾られている時計を見る


時刻は夜の7時刻

まぎれもなく、俺は彼女のおかげで

今日という1日を生きて過ごせた


そう同じDOLLでも神様でもなく

嫌っている人間に助けられたのだ



ガラッーーーーーー


彼女が入って来た?!と思い身構える……が

入って来たの若い男だった


するとさっそく隣に座る

旭兔が嫌そうな顔をする

もう一度部屋に入ってきた目の前の男を見る

……なんとなく


旭兔が嫌な顔をする理由がわかる気がする

両者共そこそこ女性に好かれそうな顔立ちだが


ガタイの良い筋肉質な腕、高伸長

ヒゲを伸ばしっぱなしにして自分にあまり手を

かけずワイルドな感じなのに甘い言葉や紳士的な態度を取り女を落とす旭兔と


髪も肌も女より時間をかけているんじゃないかと思わずような華奢で色白い肌

清潔感たっぷりの身なりに

これまた清潔そうな真っ白の白衣を身に纏った姿は彼が黙っていてもどんな性格でも女が寄ってきて仕方が無いのだろうと感じさせるこの男



一目見て思った

そう、この二人は対照的すぎる



白衣を着た男が俺たちを見て数秒固まり

「……!沙野ちゃん!!!」


病院だと言うのにあまりに大きな声で

呼んだのはおそらく彼女の名前だろう


「……何ですか?アルフォンス先生」


そんな男に、またか……と

いったような眼差しを向けながら

呆れている感じだった


それでも声は宥めように聞いていた

医師は、うっとつまりモゴモゴと喋りだした

きっと俺たちの前で言いにくいのだろう


何を言いたいのか、大体検討はつくけど……

「……DOLLって事初めて知ったんだけど?」しかも、何あの美形


やっぱり、その事か………


普通の病院でDOLLなんかを連れてこられたら

迷惑になるのは当たり前。

この事が街に知れたら大騒ぎになるし印象も悪いこの病院に普通の人間の客は二度とこないだろう


普通の感覚を持っていれば

DOLLをこんな所に連れてきたりしない


この医師の反応が普通………

「……怪我をしている人に対してどういった人物なのかは関係ない事だと思ったので、わざわざ言いませんでした。」


静かに、ゆっくりと芯の通った声で言った

しっかりと真っ直ぐ医師を見つめている。


「ぷぶっ」

また、俺の隣で旭兔が笑った

きっと彼女の突拍子のない答えが

旭兔にとってツボだったのだろう


……彼女は普通の人間の考えとは

少しズレているの?


「………」

俺は驚いて何も言えずただただ

彼女とその医師のやりとりを眺めていた


「君ってこはほんと…………」

医師の男がため息をつきながら話し出した


言葉を途中で止め

チラッとこちらを見たと思ったら

またすぐに視線を彼女の方へと戻した


「子供とか動物とか色々、拾って持ってくるのはいいけど……DOLLって……」

(これは、もう気を使わなくていいと思われたんだろうな…)


彼女の拾い物は

今日に始まった事ではないらしい

それでもDOLLは初めてだったのか

医師は頑として俺の傷を見ようとしない


グダグダ話し始める医師に

黙って聞いている彼女の機嫌が悪くなる

(もう傷もふさがったし、ここにいる理由も無い……とっとと、ここから出よう)


横目で旭兔を見ると旭兔もこちらを

見ていて静かに頷く


どうやら旭兔も

そろそろ出て行こうと思っていたようだ


俺が立ち上がろうとした時

医師の後ろに立っていたはずの女が

少々不機嫌そうな顔をしながら医師を避け

俺達に近寄りながら早々にこう言った


「ーーーー分かりました。

先生が見れないと仰るなら、私が見ます」


(え"……)


(ちょっ、えっ待って)

また、先ほどのように彼女の手が近づいてくる


(ーーーーっ!!!)

もうどうして良いのか分からず

ギュッと目を固く閉じた。するとーーーー


パシッ!!

乾いた音が聞こえ、そろっと目を開く


さっきからドアの前で立ち

俺達に近づこうともしなかった医師が

俺から阻むように彼女の手を掴んでいた


そして、慌てたように喋り出す


「分かった、分かった、僕が見るから!

と言うか君じゃあ見ても解らないよね?」

俺はそんな事を余所に触られずにすんだ

と安堵する


(よ、よかった……)

その光景を見ながら行きが来てから

黙り込んでいた旭兔が面白そうに話し出す


「さっきからなんですかぁ?

アンタお嬢さんの彼氏ですか?」


「なっ!!、な」

ニヤニヤと面白がって聞いている旭兔に

医師はバッと手を離し顔を真っ赤にして慌てるが


「……違いますよ。」

もう冷静になってしまった彼女が

キッパリと否定した


その彼女の言葉を聞いて医師はまた別の意味で

顔を赤くし、旭兔を睨みツカツカと

俺の近くまで来て

少し乱暴にシーツを剥いで傷口を見た


「ーっ!!……何だ、もう

大分と治ってるじゃないか…すごい回復力だな」

まじまじと見ながら

DOLLの回復力の良さに感心している


ナイフで刺された傷が一晩で治るほど

DOLLは回復力が高い


…いや、彼がちょっと

特別だったのもあるのだが

「良かった、顔色も良くなってますね」


医師が俺を見る気になってもう怒っていないのか彼女は医師の隣でニコニコ笑っている


「……」

「うん、大丈夫そーだ。あとはちゃんと傷を治して回復するのを待つだけだ」


あんなに俺の診察を渋っていたのに

今はキッチリと傷を見ている


旭兔が金を渡してるにしたって

嫌がっていた事をすんなり了承したのは何故だ?

やっぱり人間は訳がわからない。


「薬はこれをどうぞ。

1日に2回塗ってくださいね?


あと、傷のせいで熱が出たときは

これを飲んでください」

そう、医師の隣でテキパキと動き薬を渡す彼女を医師は少し頬を赤くして見ていた


(あぁ、なるほどね。そうゆう事か)

(さっきは触られなくて良かった事しか頭になくて気がつかなかった。)


「いやいや、こんなに良くしてもらって

悪いですねぇ。…沙野嬢??」

すると薬を貰っていた旭兔が礼を言った

彼女は何故名前を知ってるのか?と言うような表情になるが


それを口に出す前に数分前

医師が自分の名前を呼んでいた事を思い出し


それでDOLLの保護者の彼が

知っているのかと納得する


それと同時に自己紹介がまだだったと

礼儀がなっていない自分の行動に

少し恥ずかしくなりつつ


彼女が改めて自分自身の名前を口にする


「あの自己紹介が遅れてすみません

雪村沙野【ゆきむら さや】です。

ここの病院で薬師をしています」


「へぇ薬師ですか……。本当にウチの馬鹿を

助けてくれてありがとうございます」


(……馬鹿だと言われたことは無視しよう。

薬師?ってなに?

聞いたことない職だ……医師とは違うの?)


薬師と言う単語が出てきてその言葉を知っている旭兔は意味ありげに笑いまた改めて礼を言った。

そんな旭兔に対してその言葉を

知らない俺は疑問だらけだ

彼女はまたお礼を言われにっこりと笑いそして

俺の目をじっと見つめる


急に見つめられると

どうして良いか分かないのだが


自分から目をそらしたくないと

変なプライドが邪魔をして俯けずただ黙って

彼女見ていた


すると彼女は旭兔と話しているはずなのに

俺に顔を向けたまま


「いえ、治りそうで良かったです

一生の傷が出来てしまった時…

人はきっと生きていられなくなりますから。」


「………」

また、意味のわからない言葉を残した


(??はあ?何言ってんの…

死のうと思ってたんだけど?)


俺を見ながら言った言葉

きっと自分に向けられたモノだろう。だが

大体、俺は人じゃない。


…人間は………訳がわからない


彼女と医師の彼を見る

彼女は相変わらず優しく笑っているが、

医師はそんな彼女を早く俺達から

離したいのか不機嫌そうに診察を終わったと

彼女に言っていた


(あの、医師は分かりやすいのに…。

何であの女はなに考えてるのか

分からないのかな)

一人自問自答と繰り返していると

旭兔が何か思い出したかのように話し出す


「…そう言えば、お嬢さん」

「なんですか?」


ニヤリと笑う旭兔は

何かを企んでる顔をしている


最高に嫌な予感しかしない

医師ももう女を連れて部屋を出れると

思っていたのだろう

話し始めてしまった旭兔を軽く睨む


どうやら旭兔が医師を苦手に思っているのと同時にDOLLという事を差し引いても

医師も旭兔の性格を嫌っているようだ


「我々、DOLLのどこまでを知っていますか?」


一気に医師の男の顔が強張る


女はキョトンとしてから少し黙って考えてから

答えようとすると旭兔を睨みつけていた医師が

顔を真っ赤にして声を荒げる


「沙野ちゃんに変な事聞かないで下さい!!

貴方、DOLLの【管理者】でしょう?!」

その管理者という言葉を聞いて

旭兔がまた笑った


「おやおや、そこの医師のお兄さんは

良くご存じで!使ったことがおありかな?」

「ーなっ!!!!」


医師はまた顔を真っ赤にして驚いている。

いつもは余裕の彼が動揺しているのは

権利の高い職についてるのに無礼な口の聞き方

をされたのは初めてだからだろう


今DOLLを使う理由なんて


国が使うなら兵士や囮スパイだけど

一般的には制欲処理か愛玩ペット…


使った事があるのか?

なんて失礼すぎる質問をしているのにも


関わらず旭兔はニヤニヤと医師を追い詰める。


(急に何を言い出すかと思えば……

こいつ一体なに考えてるんだか)

理由なしに動くような奴では無いのを知っているがこいつが今なにを企んでるのか全くわからない。


確かにこの医師が言った管理者と言う言葉


第七や他のDOLL機関に携わっていないと 分からないはずだけど、



あの医師がDOLLを使用してるか

そうじゃないかなんて今問い詰めたところで

こっちには何も利益はないのに


「〜っ!!!!あんた達「アルフォンス先生」


医師が怒りでフルフルと震えもう俺たちを

追い出しかねないと思ったその時

隣で女が医師の手を握り言葉止める


「大丈夫ですよ

失礼な事をするような人ではありません。

私の質問は私が答えます。」


その凜とした声に医師も反論できず

大人しく黙り込む


旭兔はやっと答えてくれそうな女を見ながら

満足そうに笑った


そんな旭兔を横目に十分失礼な事をしてるよね

と思っていると


女は医師から手を離し旭兔と俺を見て

恥じらうそぶりもなく自分がしってる


DOLLというモノを話し始めた


「どこまでと、言っても

私は一般的にしか知らないですよ。」


「構いません、沙野嬢の知識内で

お教え願いたい」


沙野はいつも子供達に

絵本を読んであげてる時の事を思い出す


本当は、本当はあの絵本が大嫌いだった

自分の言葉の自分の考えを言いたかった


子供には絵本の世界が

丁度いいのかも知れないけれど

でも、これからの未来は貴方達が作るのだから


今この世界の歪んでしまった現状を

しっかりと知って欲しかった


あんな嘘で出来た本を

私は真実だなんて思えない


「――貴方達は今、人の欲求を果たすための人形

………昔の奴隷と変わらない。

むしろ【DOLL】と言う名前で

人々から評価されてしまった。」


(罪悪感をもたない無い今の状況は―――)


「誇り高く戦わせてももらえない今に比べれば…昔の方がずっと………今この世界はこんなにも狂ってしまっているから。」


心の中に入っていく彼女自身の言葉


初めて人間の意見でこちらよりの言葉を

聞いたかも知れない


「――――っ」

言われた言葉があまりにも真っ直ぐで

彼女から目が離せない


【狂ってる】

かつてDOLL側がそう思っても

人間が思ってくれた事はあっただろうか?


人間に何度叫んでも伝わらなかったこの言葉

まさかこんな所で聞けるなんて思わなかった


「…随分変わった見方をする方ですね」


さすがに旭兔もあの言葉を聞いて驚いている


「………そんな事は無いわ。私は」

「所詮、人間だもの」


(何故?)

なんでだろう

なぜ彼女は、自分が人間である事にこんなにも

悲しそうなのだろう

人が嫌いなのか?

だから、DOLL側の意見ばかりを尊重するの?

いや、違う彼女は…………



「………」



人間である事が心底恥ずかしいんだ




『今だとこの価格でDOLLが手に入るよ〜愛玩DOLLいかがですか〜!』

『このDOLLは一ヶ月何も与えなくても大丈夫なモノなので世話には困りませんよ?旦那』

『3分だけ?いいですよいいですよ!普通の女じゃないんで無理矢理入れて気分晴らししたいですよねぇ!お手頃な価格にしときますので』


『ああ、もう使えないか…じゃあ要らないな

……処分しといて。』



【この世界のやり方が心底気に食わないんだ。】



「ーへぇ?」ニヤッ

今の彼女の言葉で彼女の想いを察したのか

旭兔の顔に戸惑いや疑問が消えた


「沙野ちゃん……?何言ってるの」

医師はそれとは逆に全く意味のわからない言葉を並べる部下に戸惑いが隠せなさそうだった。


と、旭兔の質問にせっかく答えたと言うのに

何も返事が返ってこず彼女が戸惑い始める


「?、あの?」

そんな彼女を見て、

ああ、と旭兔がこんな質問をした理由を話す


「では、沙野嬢は使った事もないから

内部の事を知りませんね?」

その単語を聞いて空気が凍りつく


(旭兔、一体何を………っ)


口を出そうとする前に旭兔に黙ってろと

目で牽制され思うように言葉が出ない


「内部?」

意味が分かっていない沙野はもう一度聞き直す

旭兔が嘘のはりついた笑顔で答えようとした時


バンッ!!!!!

医師がベットの隣にあった机を叩き

敵意むき出しで旭兔を睨みつける


机を叩いた音のあまりの大きさに

沙野は驚き目を見開いた


「沙野ちゃんに変な事を教えるな!」

冷静さのカケラもなく旭兔に向かって怒鳴った


「ぷっ…ハハッ!!

医師のお兄さんは、本当によくご存じで」


が、相手を苛立たせるのが得意なこいつは

そんな言葉聞く耳を持たない

わざと笑って相手の冷静さを奪う


「ーっ」

「…内部とはなんですか?」


医師の男が自分に聞いて欲しくないと

分かっていて、危険な事だと分かっていて

なお聞き返した


一般人が入り込んでしまったら危険な領域だ

もう戻れなくなる

そう知っている医師は必死に

沙野の好奇心を止める


「――――――沙野ちゃん!」

が、そんなに簡単に人の好奇心は無くならない


「アルフォンス先生

聞くだけですので、大丈夫です」

そう、少し聞くだけ

と思っていても知りたいと思う

純粋な気持ちは止まらない


せっかくの彼達を知れる機会を

貴方に邪魔されるなんて

こんな所でおあずけだなんてゴメンだ


「一言【DOLL】と言っても

その中でギルドと言って俺達を

区切る7つの組織があります。


昔王様が作ったギルドです」


旭兔は2人が話し合ったのを

見計らって内部の事を話し始めた。


「ギルド…」

(………ちょっと、)


何故、旭兔はこんな話を彼女にするのか


「ー俺達のギルドはここから近くでしてねぇ…

第七と言えばわかりますか?」


「第七?!

…ってあの隣街にある大きな

お屋敷の事ですか?」


「そうそう、今一部のDOLLは

あそこで生活をして働いてます」


第七の場所まで教えて一体なにを……

……………………まさか……っ


(ちょっと待って旭兔)


さっきまで平気だったのに冷や汗がでる

嫌な予感が止まらない


「まさか、あのお屋敷がそうだったなんて…」


「そして、DOLLの中にも

俺みたいな歳をくって客が中々入らないから

若いDOLLを管理する

【管理者】と言われる役職や


若い時から顔が商売にならないような

戦闘専門のDOLLがいたりと

まあ、いろんなDOLLや人が居て

暮らしてます。」


今までずっと人に聞けずに我慢していた事を

知れて嬉しいのやらDOLLはちゃんと

会社を作りこういった生き方を認めていて


悲しいのやら、、、少し


ほんの少しだけ複雑な感情が芽生える。


「そうなんですか………」


私は独りよがりだったのかな……………

世界は正常に機能してるって事?


DOLLの種類やら位置関係をペラペラと話す

旭兔に予感ではなく

ある事を確信してしまう


(これは、知ってる)


DOLLのいるギルドは俺たちが

暮らして生活するだけじゃない

人がDOLLを買い金を払う場所だ

人がDOLLに堕ちてゆく場所だ


旭兔はきっと次に俺の紹介にはいる


「お嬢さんが拾ったこいつは猫の愛玩DOLL

名は奏斗カナト」


「………か、なとくん?」


やっと知れた名前も本人の口からではなく

それはただの商品の紹介のよう


「そして、俺が奏斗の管理者

旭兔アサトです。

以後、お見知り置きを」


自分の名を名乗る時さえ

今まで何百回と繰り返してきた機械のよう


「?…よ、よろしくお願いします。旭兔さん」


(そう、これは………………)

ギュッと握られた握手は重く濃い契約だ


「ってことで沙野嬢は紛れもなく

奏斗を拾ってくれました。」


「っ!……………旭兔」


「――その事実はこいつの管理者として


知ったからには見逃せません

…こいつを、1日無料で使ってくれませか?」



(旭兔が俺の客を作る時の始めの手口)

血が通ってないその笑顔は

まるで人形のように綺麗に声もなく笑った




ーーーーーーーーーーーーーーーー



(勧誘を、されている………?)


何故?


医師ならわかる、地位もお金も持ってるから

でもこんな何もないただの薬師に?

しかも、1日無料なんて聞いたことがないと

眉を寄せ旭兔の事を疑い始める


「ーっ、旭兔!」ガタッ!!

とうとう我慢できなくなった奏斗が止めに入る。


今まで黙って耐えていたからか

初めて発する大きな声に

呼ばれた旭兔本人だけでなく


沙野、医師も目を向ける


(嫌なんだろう、な)

1日無料で売られるDOLLの辛さは

わからない……

でも、嫌に決まってるわ


白銀の髪はサラサラでそこには

可愛らしい人ではない大きな猫の耳

男の子だと疑ってしまいそうなほど

大きく青空のような色の目


肌は白くて透きとおっていて男の子にしては華奢な体付きに警戒してるのかフワフワの大きな尻尾がゆらゆら揺れている

その辺の人間や身なりにお金を

かけまくっている貴族よりも遥かに整っていて


綺麗な顔の彼の見た目ではDOLLの相場だと

1日だと数百万はくだらないだろう


(本当、なんでこんな世界なの…)


ーーーーーーーーーーーーーーーー

無料で自分が売られるのが嫌なんだと思い込んでる沙野達をよそに旭兔だけはじっと奏斗を見た


やめろ、やめろよ。


この人はこっち側の意見を

持ってくれてるひとなんだよ

そんな人めったに居ないんだよ

やめて旭兔……


そう言っている奏斗の本心を

同じDOLLの旭兔ならわかる


自分の価値なんてもんは

きっとどうでもいいのだろう


何円でもいい、何をさせられてもいい

どれほど大金を出されても

自分自身の価値が上がったりしないから

惨めだと言う事は何も変わらないからだ


でも、せっかくの数少ない


……いや

今後もう現れないかも知れない


DOLLの事を尊重してくれる沙野嬢を

自分の客にして自分の大嫌いな汚い人間に


なってしまうのが、たまらなく怖いんだ

これはDOLL側じゃないとわからない。


いくら沙野がDOLLの事を尊重しても

彼女は所詮―――――――


そこまで思って旭兔は止まった


じっと見つめた先にいた奏斗は

珍しくこっちの目を見て睨んでいる


俺は近づいて奏斗にしか聞こえない声で囁く


「奏斗、1日ですむんですありがたく思いなさい。」


(…ちっ………奏斗。何夢見てんだよ。)


いつも何に対しても無関心なのに

今日は珍しく食い下がらない奏斗に


別にイラついているわけじゃないが

心の中で舌打ちをする

そんなんだからお前いっつも傷ついちまうんだ


思い知ればいいどんなに善人面した人間も

欲望には逆らえない


「ーっっ!!!」

俺の最後の一声が決め手でとうとう

我慢できなくなったのか


勢いよく立ち上がりベットから降りた


よっぽど情けない顔をしていたのだろうか

誰にも顔を見られないように下を向きながら


出口の方に早歩きで歩いて


バタンッ!!!

行き勢いよくドアを閉め部屋を出ていく


自分の発言でここまで余裕がなくなり

最終手段はお決まりの家出


まだまだ子供な奏斗に溜息をついた


沙野をチラッと見るとまだ傷が完治していない

奏斗を本当に心配してくれているようだった


まあでもクソガキが居なくなって

話がしやすくなった

奏斗が出て行ってこちらとしては好都合だ


さぁ、後は………


「すいませんね、どーも反抗期で」


「……」



「さぁ、沙野嬢。この話「お断りします」


……え」


え。




「―――せっかくですが、すいません。

お断りします

私にDOLLは必要ありません」


しっかりと芯の通った声で断る彼女


(ダメだ)


これじゃあ

あのバカ餓鬼奏斗がこの世界に期待しちまう


それじゃダメだ、ダメなんだよ


あいつには強くなって

もらわなきゃなんねぇんだから


「……すいません、旭兔さん。」


あんたが

いい人間じゃ困るんだ


奏斗の未来に希望なんてない

どっかのバカみたいな生き方しかできねぇ

クソな金持ちに飼われて終わる


一生をそうやって過ごしていくしか

もうあいつには選択肢はねぇんだよ


金も持ってない奴が奏斗に絶対叶わねぇ

夢見させんなよ

だから、少し悪い奴になってくれーーー


「…その日、一日中は何でも使えますよぉ?

奏斗みたいな綺麗な顔は

きっともう見れないと思いますが


そんな、奏斗が無料♪

本当は1日なんて数百万はするでしょうに

お嬢さんは夜の相手とか嫌でしたら

洗濯、掃除」


そう願いながら営業のプロのように話しまくる

旭兎に若干引きつつ断ろうと口を開けた時


「…結構で「荷物運びまで!」



ーーーーーーーーーーーーーーーー


「…………荷物運び?」


自分の中で最近で1番の悩みの種


「えぇ、奏斗はああ見えて強いから結構重たい

荷物でもすんなり持てるし

頑丈ですので大丈夫ですよぉ?」


(最近、次の街に行くって決めたのはいいけど

荷物どーしようかと思ってたのよね………)


この病院街から離れているし誰か訪ねてきても

病気だったり怪我だったりで

誰かに協力もなかなか頼めない


次の町でも新しい家具を新調するのは

経済的にきびしいし


(極力自分の物を持って行きたい……)


「にやっ」

沙野があからさまに揺らぎ出したのを

察して口角をあげる。旭兎と


「さ、沙野ちゃん?受けないよね?

断るって言ったもんね?

てか、そんくらい僕がするし?」


まずいまずいと冷汗を若干掻きつつ

止まるように宥めるアルフォンス


「では、一日使っていただけるということで!

ありがとうございます!また明日」


このままごちゃごちゃ言われてしまう前に

決めてしまえと強引に約束を

取り付けようとしようとした時


沙野嬢が手を握り立ち上がった俺を止めた

パシッ!!


「待ってください

まだそのお話をお受けするなんて言ってません

……彼は、嫌がってましたよ


第一彼は大怪我をしています

薬師として患者を無理に動かせるのは

賛成できません。」


なんとも甘い事を言い出す沙野に

さっきまで自分のペースに流せて絶好調に

ニコニコしていた旭兎は一気に凍りつくような

真顔になりそして


「………ただの怪我や嫌なのが理由で

無くなる仕事なら

DOLLももっと生きやすくなるでしょうね。」


初めて真顔のまま冷たい言葉をはいた


「――っ」


怖くなって後退りしてしまうと

スッとさっきとは逆に手を握られて


驚いてもう一度顔を見ると

さっきの真顔からにっこりと

いつもの胡散臭さを含んだ笑顔に戻っている


「………お嬢さんDOLLに肩入れするのはいいが

俺達の世界甘やかしてもらって生きていける世界じゃない…………貴方も言ってましたよね?」


アンタの話を聞いて

奏斗のやつ勘違いしちまっただろうが


俺も最初驚いたけど

あんな演説ガキにしか響かない


『誇り高く戦わせてももらえない今に比べれば…昔の方がずっと――』


昔の方がずっと?

なんだよ?

何を知ってて言ってやがるんだ


何もしらねぇだろだって


「――――あんたは所詮、人間だ…ってね」


そう言った旭兎は

今日1番胡散臭い笑顔で笑っていた



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


何も言えない。

何もできない。


きっと何も必要とされていない

私が人間だから


「………」


何も言えずに黙っていると旭兎さんが

やっと座っていた椅子から腰を上げる


「でわ、また明日お邪魔しまぁす」


そう張り付いた笑顔で部屋を出ていった

彼の背中をじっとただ黙って見た


「――――」


カランッ―

すると出て行ったのをしっかり確認した後


口喧嘩をしたら絶対負けると思っていたのか

ずっと黙っていた医師が口を開く


「………沙野ちゃんいいの?本当にあんなやつら使って荷造りなら僕手伝うよ?」


今まで重たい物も持った事が

なさそうな細い腕で名乗り出てきたが


この人は私が旅に出るのは反対だったはず

きっとまともに協力してくれない


「………大丈夫です」


そういって私も部屋を出た

冷たくしすぎたのか私が部屋を出た後


何か小さい声で文句を言われていたが

どうでもよかった



【―あんたは所詮、人間だ…ってね】


旭兎が言った言葉が頭からずっと離れない

その言葉を思い出すと胸が痛い


昔同じことを言われたから

早く何も考えなくなりたいのか

早歩きでこの病院内にある自室に戻る


「…っ」


【沙野―――】



ドクンッ!

頭の中で声がする――――――

その声に心臓が跳ね上がる


「――はぁはぁ…っ……」


【お前は所詮、人間なんだよ――――――】


旭兎の言葉ではない

懐かしい人の声だった

昔私がまだ幼かった頃に


初めてDOLLと出会った彼の声だ。


















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