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最終章:渇きの街

 御影町は、もう地図にない。


 崩落によって行政区としての機能は完全に失われ、

 報道では「長年の土壌崩壊と老朽インフラの放置が招いた人災」とされた。


 でも、本当は違う。

 あれは、信仰の皮をかぶった“人の罪”が崩れ落ちた音だった。



 私はいま、「佐倉みのり」という名前で生きている。


 事件の後、県外の児童保護施設に保護され、

 その後、ある夫婦のもとで養子として迎えられた。


 あの夏を語ることはなかった。

 誰も、本当のことを信じてはくれなかった。


 けれど、ひとつだけ——

 蓮くんが配信した動画は、確かに残っていた。


 YouTubeのチャンネルごと削除されたあとも、誰かが保存し、別の動画サイトに転載していた。

 やがて「渇きの街事件」と呼ばれ、ドキュメンタリーにもなった。


「これはフィクションではないか?」

「地方の迷信が引き起こした悲劇」

「そもそも演出では?」


 様々な声があった。

 でも、それでよかった。


 真実は、もう私の中にしかない。

 それで十分だった。



 そして、私はある日、一冊の本を出版した。


『渇きの街 − 御影町事件録 −』


 著者名は「S.A.」

 誰もが忘れたがっている記憶を、私は“物語”として書いた。


 それは祈りであり、鎮魂であり、

 何より——蓮くんが残した、命の証だった。



 出版記念のインタビューのあと、

 私は小さな神社跡のそばで、

 そっと目を閉じ、手を合わせた。


「ねえ、蓮くん。わたしね、生きてるよ」


「水の中に沈まなくても、人はちゃんと“祈る”ことができるんだって、教えてくれたのは、あなたでした」


 ひとしきり手を合わせたあと、私は背を向けて歩き出す。


 空には青が広がっていた。

 雨は、もう降らない。


——だけど、足元の水たまりだけが、

 ほんの一瞬だけ、微かに笑ったように見えた。



最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


この物語は「信仰」「恐怖」「人間の無自覚な罪」をテーマにしながら、

一人の青年と少女の小さな勇気が、どれだけ世界に痕跡を残せるかを描いたものです。


主人公・瀬川蓮の死は“救い”ではなく、

“問いかけ”として物語に刻まれました。


そして、生き残った少女・みのりが歩んでいく人生は、

もう決して過去に囚われるものではありません。


それでも時折、

何もない街角で、雨の音が、誰かの名前を呼ぶかもしれません。


『渇きの街』——ここに完結です。


お読みくださったあなたへ、

深い感謝をこめて。


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