9.ロープウェイと登山電車
オフ会箱根旅行二日目の朝。
僕はホテルのベッドで目が覚める。大人気グラドルと、美少女ネトゲ嫁と知り合い、夢のような一日を過ごした昨日。
そのお陰もあってか、心身ともに癒されて、身体が大幅に回復した僕が居た。
朝の光が一気に差し、僕が目覚めたと同時に、その美少女二人も目が覚め、ベッドから起きかがる。
さすがに一緒のベッドでは寝なかったが、この部屋で過ごした時間は夢を見ているかのようだった。
「おはよう。ハルさん。」
「おはようございます。ハルさん。」
大人気グラドル、糸崎あすかが挨拶をする。そして、丁寧に頭を下げたのが、ネトゲ嫁である美少女、藤山樹里。
「おはようございます。皆さん。」
僕はそう言って、挨拶をする。そうして、お互い、身支度を整え、朝食を済ませる。
このホテルの朝食もとても美味しく、全て平らげてしまう僕たち。
「美味しかったですね。ホテルの食事。」
僕はそう言うと。
「はい。」
樹里さんは大きく頷いたが、ものすごく満ち足りた表情をする。
「そうね。私も大満足よ。」
あすかさんも元気いっぱいに頷き、自然と笑顔がこぼれていた。
再びホテルの部屋に戻り、荷物をまとめる僕たち。
少し休憩を取り、ゆっくりして、ホテルをチェックアウトする僕たち。
芦ノ湖周辺の散策は昨日終えたので、今日はロープウェイや登山電車を乗り継ぎながら、湯本の方へと下る。
先ずは、芦ノ湖を縦断する形をとる僕たち。
元箱根港から芦ノ湖を縦断する船、通称、箱根海賊船に乗って、ロープウェイのある桃源台港へ。
早速、海賊船をモチーフにした、見た目が豪華な船に乗り込む。
もちろん、今日も好天に恵まれ、芦ノ湖からは富士山が見渡せる。というわけで、船が出港後すぐに、船室ではなく、外の甲板に出る僕たち。
追加で、特別船室の料金を支払い、特別船室用のデッキ、つまり、海賊船の最上部のデッキに出る。そよ風を感じながら芦ノ湖をかけていく海賊船。
「そよ風が気持ちいぃ~。」
あすかさんは大きく両手を広げて、湖から受けるそよ風を感じている。
「はい。天気の良い日はこうして、外に出るのもいいですね。」
樹里さんは大きく頷きながら、甲板の手すりにつかまって、景色を見ている。
二人のいう通り、五月の湖の風を感じて富士山を見る。
芦ノ湖の周りの木々は、新緑の若葉でいっぱいだ。
「とても綺麗です。新緑の木々もいいですね。」
僕はそう言いながら二人に声をかける。二人は大きく頷いている。
そうして、僕は自然とカメラを回す。
昨日の部屋での、特別な撮影会があったからだろうか。
富士山をバックにここでも撮影するのだが、その撮影に二つ返事で応じてくれる、あすかさんと樹里さん。
順番に撮影をする。
「ハルさんもどうぞ。私がシャッターを押しますね。」
樹里さんはそう言って、僕に持っているカメラを渡すように促す。
僕は頷き、樹里さんの前に出る。そうして、樹里さんがシャッターを押してくれる。
僕は二人の、ハイチーズの声掛けに、笑顔でピースサインをしていた。
そうしてそよ風を感じながら、海賊船は芦ノ湖の北側、桃源台港へたどり着く。
特別室のチケットを購入したにもかかわらず、終始、甲板の外にいた僕たち。
「まあ。特別室専用の甲板ですから。」
「そうね。元は取れているわよね。」
僕とあすかさんはそんな会話をする。勿論、樹里さんもうんうんと頷いている。
桃源台港から、僕たちはすぐにロープウェイに乗る。
芦ノ湖の湖畔とはここでお別れ。最後は、ロープウェイで一気に上昇して、芦ノ湖を上から見下ろす形となった。
「楽しかったわね。芦ノ湖。」
あすかさんがニコニコ笑って言う。
「ええ。また行きましょう。ここなら近いのでいつでもいけます。」
僕はそう言いながら笑っている。
「うん。リピーターも多そう。」
樹里さんの言葉に僕は頷き、東京から近いこともあり、現にリピーターがものすごく多いことを説明した。
ロープウェイが上昇していくと、今度は富士山の山肌がよりはっきり見える。
「うん。いつ見ても富士山は綺麗ね。二日ともよく見れて良かったわ。」
あすかさんがニコニコ笑っている。
当然ここでも、僕はカメラを回す。
そうして、ロープウェイは、乗り換え地点でもある、大涌谷の駅に到着する。
かすかに香る、温泉の硫黄の香り。
「なんか、ここで初めて、温泉に来た気がする」
そんなことを言う、あすかさん。樹里さんもあすかさんの言葉に頷き。
「本当だ。温泉の濃いにおいがする。」
という、樹里さんの言葉。
「まあ。それもそのはずです。」
僕はそう言って、大涌谷の展望台へ案内する。
「うわぁ~。」
「すごい。」
あすかさんと樹里さんは言葉にならないくらい目を丸くする。
大涌谷の展望台には、火山の岩場が広がっていた。
「これが、大涌谷の名物ですね。今でも、火山地帯が広がっています。ここで、箱根の温泉が温められているという感じですね。」
僕はそう二人に説明する。
「うん。理科の授業を思い出す。こうしてみると、地球のマグマ、大地は生きているんだなぁと。」
樹里さんはうんうんと頷き、火山の岩場が広がる光景を見回している。
「ふふふっ、懐かしいわね。小学校でやったかな。」
あすかさんも同じのようだ。
大涌谷の展望台を一周し、再びロープウェイに乗り込む僕たち。
ロープウェイは、大涌谷の火山地帯を見下ろすように抜けていく。
「うわぁ~。火山地帯を歩いているみたい。」
あすかさんはずっと下を見つめている。
「うん、良く造ったよね。有毒なガスとかあるような場所なのに。」
樹里さんはロープウェイが通る場所に興味、関心を示している。
そうして、ロープウェイは大涌谷の火山地帯をあとにして、一気に山を駆け下りて行った。
「山を下りていくわね。少し寂しい気もするね。」
あすかさんは笑っているが、降りていく、眼下には箱根湯本方面の景色が広がっていた。
そうして、ロープウェイを降り、ケーブルカーを使って、強羅へ。
ここからは登山電車で山を下り、箱根湯本を目指す。
「登山電車だね。なんかごめんね。往路はバスで、大学駅伝のルートを言ったけど、鉄道好きなハルさんにとっては、登山電車で登ったほうが良かったんじゃない?」
あすかさんはそう言って僕の方を見るが。
僕は首を横に振る。
「いえいえ、乗れるだけでも嬉しいですよ。それに、実は電車は、山を登るときよりも、山を下るときの方が、エネルギーを使いますし、難しいのです。」
僕はそう二人に説明する。
下りの方が、ブレーキとか、スピードを制御するための設備とかにかなりのエネルギーを要するのだ。
事実、新幹線の実験も加速はすんなり成功するが、減速、つまり、止まるという実験に苦労したという。だから尚更、勾配を下る、減速するというのは鉄道にとってかなり、エネルギーを使っているのである。
僕がそう説明すると、二人は興味津々に頷いていた。
「へえ。一つ知識が増えたかも。」
元気よく笑うあすかさん。
「うん。確かにそうですね。止まること、安全面はとても重要ですね。」
樹里さんもうんうんと頷いている。
そうして、登山電車に乗り込む僕たち。
登山電車は、普通の車両と違って、山を登るため、つまり、小回りが利きやすいようにするため、普通の車両より少し小さめだ。
大きなモーターの音とともに、山を下りる登山電車。
電車に乗っていても山を下りている感覚がある。
そうして、電車はいくつものスイッチバックを繰り返して山を下りていく。
「行ったり来たりしますね。」
樹里さんが僕に話しかけてくる。
「こうやって山を登ったり下りたりしています。一回で山を登るとなると、鉄道にとっては急なので。」
僕はそう樹里さんに説明した。
そうして、スイッチバックを繰り返し、山を下っていることを肌で感じながら、登山電車は箱根の麓、箱根湯本に到着する。
一度改札を出て、箱根湯本を散策する僕たち。
箱根湯本のお土産屋さんをいくつか覗き、お土産と記念品をいくつか購入する。
温泉饅頭も売られており、熱々のまんじゅうを食べながら、箱根湯本を散策した。
そういう意味では、この日の昼食は、箱根湯本を散策しながら、いくつかのお店を食べ歩いたのだった。
温泉饅頭の他にも串焼きや、この時期から出始める冷やしキュウリ。それらを購入して、食べ歩きながらお土産を購入していったのだった。
そうして、昼過ぎとなり、帰りの電車の時刻に。
帰りもロマンスカー。ただし、車両はEXEという車両で、展望車を持たないものだった。
しかしながら、座席はゆったり座れるようで、僕を含め、あすかさんも樹里さんも終点の新宿駅まで寝入ってしまった。
ロマンスカーのEXEは僕たちが寝ている間にも走り抜け、新宿駅に到着。
眠そうな身体を起こして座席を立ち、電車を降りて、改札を出る。
「ふうっ、すごく楽しかった。ありがとう。ハルさん。」
あすかさんがニコニコ笑って、挨拶をする。
「私も、楽しかったです。本当にありがとうございました。」
樹里さんは深々と僕とあすかさんに頭を下げる。
「そんな、こちらこそ、楽しい時間、楽しい週末をありがとうございました。」
僕もあすかさん、樹里さんにお礼を言って、深々と頭を下げるのだった。
そうして、お互いに、手を振って、それぞれ帰路に就いた。
入部テストでどん底に落とされた僕。しかし、素敵なネトゲのオフ会で、撮り鉄をやってて良かったと思える。そんな週末だった。