7.芦ノ湖にて
箱根湯本に到着した僕たち。
しかし、お目当ての宿は芦ノ湖の湖畔にある。
箱根湯本から芦ノ湖まではかなりの距離があり、ここから小一時間ほど、山を登っていく。
山を登る手段はいくつかある。有名なのが登山電車、ケーブルカー、さらにはロープウェイを乗り継いで、芦ノ湖を目指すもの。
鉄道ファンとしてはこちらのルートで行きたいが、今回は、あすかさんと樹里さんの二人を連れているので、鉄道ファンじゃなくても楽しめる、もっと馴染みのあるルートで
芦ノ湖へ行くことにした。
「さてと、ここから山を登って、芦ノ湖を目指しますね。」
僕は二人に向かってそう言うと、二人は大きく頷く。そして、駅の改札口を出る。
改札口を出る行為を見て、案の定、二人がこう尋ねてくる。
「あれ?登山電車じゃなくていいの?撮り鉄さんだから、そっちで行くのかなと」
あすかさんがそう言ってくるが。
「まあ、一人だったらそうしてたかもしれないですが、それは、明日、帰りにしましょう。今日は、もっと馴染みのある、有名なルートで、芦ノ湖を目指しますね。」
僕はそう言って、改札を出て、箱根湯本駅のバス停へ向かう。
そうして、バスが何台かやって来る。僕はバスの行き先表示板に掲示されてある、経由地と記載されている項目を確認して、バスに乗る。
「へえ。バスで行くんだ。」
あすかさんは興味津々に僕を見ている。
「はい。ここから先、箱根駅伝と同じルートで、芦ノ湖へ向かいます。丁度、ゴールする場所の傍のバス停で降りますので、往路のゴール地点、そして、復路のスタート地点へ行きましょう。」
「「ああっ!!」」
あすかさんと樹里さんの二人は、箱根駅伝と同じルートということで、さらに興味津々な表情になる。
「箱根駅伝。すごく知ってるわ。」
あすかさんはニコニコと笑い、大きく頷いている。
樹里さんも、うんうんと、頷き、これから、全く同じルートで、ゴールまで向かうことを考えると、ワクワクするようだ。
「良かったです。そっちの方が、正月もやってますし、馴染みがあるかなあ、と思って、往路は、駅伝と同じく、バスのルートで。」
僕はそう言いながら、バスに乗り込む。
バスの運転手のアナウンスも、出発と同時にその旨を、バスの乗客に告げる。
「この先、芦ノ湖まで、大学駅伝と同じルートで向かいます。」
と。
バスは走り出し、正月に映し出される全く同じ場所を、正確に通っていく。
「湯元のお土産屋の並びですね。明日また行こうと思います。」
僕は二人にそう言うと、二人はニコニコ笑う。
「ここら辺も、お正月は、色々な大学の旗でいっぱいだね。」
あすかさんが辺りを見回しながら、バスの車窓を見ていく。
「ハルさんの、通っている学校は、箱根駅伝にも出ている、付属校ですよね。今から、応援行くのかな?」
樹里さんは僕の方を見てそう言うが。
「まあ。行けたら行くかなぁって言う感じかな。それに行けたとしても、家から近い、一区や、二区の所で応援してそう。」
僕がそう応えると、二人は笑っていた。そうだよね。と言いながら。
箱根湯本のお土産物屋や温泉街を過ぎていくと、バスは一気に山の中という雰囲気の場所に進んでいく。
函嶺洞門を横目に見て、小川に沿って、バスは坂道を上がって行く。
昔は、この函嶺洞門のトンネルの方の道を通っていたのだが、今は付け替えられて、横に迂回するような道を通っていく。
そして、勿論だが、箱根湯本駅から、バスはずっと上り坂を上がっている。平坦な道は限りなくゼロに近い。
そうして、上り坂を登り続けること、十分ほど経過したところで、箱根駅伝の有名な箇所でもあり、給水ポイント。大平台のヘアピンカーブを曲がっていく。
「ここも、テレビで、正月映りますよね。」
僕はそう言いながら、二人に説明する。
「本当だね。実際に見るとこんな感じなんだ。」
「うんうん。テレビでしか私も、今まで見たことが無かった。」
あすかさんと樹里さんは興味津々で、先ほどから、大学駅伝のコースである、バスの車窓を見ている。
そこからもバスは、宮ノ下の温泉街、小涌園と続いて行くが、ずっとずっと上り坂。
平坦な場所はいつ通ったのだろうかと思わせるくらい、感覚がなくなって行く。
流石は、天下の剣とも呼ばれた山々を抜けていくルートだ。
「ずっと上り。」
樹里さんは、車窓を見ながら、僕に向かってそういう。
「そうね。こうしてみると、箱根駅伝でここを走る人達のことを、山の神とか、山の何々、っていう人いるけど、本当にそうだと言いたくなるわね。」
あすかさんの言葉は最もだ。
僕もここまで登りが続くと、ここを登っていくランナーのことをそう思わざるを得ない。
「本当ですね。ここまで登り坂が続くとなると。」
僕は素直にあすかさんに言う。樹里さんもうんうんと笑っている。
バスはこのまま登りが続く道を走り続け、芦之湯と呼ばれる場所を抜け、国道一号の最高地点へたどり着く。
ここからは芦ノ湖まで緩やかに下っていく。
「やっと下りに入ったわね。」
あすかさんの言葉に、僕も樹里さんも大きく頷いた。
そうして、下りに入ってしばらくしたところで。
「うぁ~。きれい!!」
あすかさんが思わず声を上げる。
僕たちの視界に、芦ノ湖が見えてきた。手前の木々の奥に映る、大きな青い湖の姿。
それを目に焼き付ける僕たち。
そうして、芦ノ湖沿いの道に入り、箱根の大鳥居をバスは抜け、箱根駅伝のゴール地点のすぐ傍のバス停で降りる僕たち。
箱根駅伝のゴール地点へとそのまま向かう。
すぐ傍には芦ノ湖が広がっており本当に絶景が広がる。
「すごく綺麗。」
樹里さんは思わずうっとりしている。
「本当ね。」
あすかさんもうんうんと笑っている。
広く青々と澄み渡る、芦ノ湖の湖。何かが満たされていく、そんな気がする。
僕たちは、そのまま、箱根駅伝と同じルートを来たということもあり、そのまま芦ノ湖の湖畔に併設されている、箱根駅伝ミュージアムへ。
箱根駅伝の歴史それを見ることができるわけだが、本当に、ランナーと言い、昔の人は、この東海道の最大の難所を歩いてきたのだ。本当に頭が上がらない。
箱根駅伝ミュージアムを出て、そのまま僕たちは芦ノ湖の湖畔を散策しながら、今日の宿屋へ向かう。
途中には箱根の関所跡があり、それも見学する。
「すごいわね。関所跡だ。歴史の教科書でしか見たことないけど。」
あすかさんが目を丸くして関所跡を見る。
「はい。こうしてみると、本当にあるんだなと。」
樹里さんも同じく、目を丸くして関所跡を見る。
そうして、芦ノ湖付近を散策すると、お腹がすくころ。丁度、お昼のピーク時間を過ぎ、少し遅めの昼食を取れば、宿屋のチェックインの時刻になるという、そんな時間だ。
「どこか、お昼を食べる場所はないかしら?」
あすかさんが僕に向かって聞いてくる。
「そうですね。すみません、そこまでは僕はリサーチしてなくて。」
そんな会話をしていると。
「あのっ。」
樹里さんが僕たちに向かって声をかける。
「い、一応、私、高校で、料理部やってるので、皆さんの分、作って来たんですけど。その、皆さん、予約とか、お金とか、色々していただいているので、私だけ、何もしないのはと思いまして。」
樹里さんのこの言葉に目の色が変わる僕たち。
「すごい!!」
僕は両手を叩き樹里さんに拍手をする。
「すごいね。勿論、遠慮なくいただくわ。」
あすかさんもうんうんと頷く。
僕たちは、芦ノ湖が見渡せる広場へ行き、そこで樹里さんのお弁当の包みを開ける。
そこには、量は少し少なめだが、皆で食べれるように色々な料理が並んでいた。
樹里さんの料理はどれも美味しく、あっという間にすべてを平らげてしまった。
「す、すみません。量、少なくて足りなかったかもしれません。」
樹里さんは申し訳なさそうに言うが。
「ううん。とてもおいしかったよ。」
と僕は樹里さんに向かって言う。
「そうね。それに、この時間帯だから、後は宿屋に行って、温泉楽しむだけだから、宿屋で夕食も出るし、量が少なかった分は、それで補えばね。」
あすかさんは樹里さんに向かってウィンクして、樹里さんを安心させていた。
勿論、僕だって、同じだ。
そうして、僕たちは、芦ノ湖を見ながら、今日の宿屋へ向かって行った。