表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/26

3.入部テスト

ご覧いただき、ありがとうございます。

ざまあ要素も入れたいので、ここは胸糞悪い話になってます。

この話以降は、楽しいラブコメをお届けして行きます。


少しでも面白いと思った方は、是非、下の☆マークから高評価と、ブックマーク登録をよろしくお願いいたします。

 

 翌日の放課後、僕、野田真晴は写真部の部室を訪れた。この部室になんとか一人で行くことができた。

 入学したばかりで、校内も少し複雑な構造だったが迷わず行くことができたことに感謝したい。


 部室に入り、

「こんにちは。」

 と挨拶をする僕。そして、空いている席に着く。すると。


「待っていたよ。野田君。早川先輩に変わって、今日は僕たち二人が君をサポートします。えっと、写真部で部長をしている、高校二年の馬場剛です。」

「同じく、副部長で、会計をしています。高校二年の鹿山栄作です。」

 ガタイの良い、馬場部長と、眼鏡をかけて、真面目そうな印象のある、鹿山副部長が僕に声をかけてくれた。


「あの、よろしくお願いします。」

 僕は二人に頭を下げる。


「うん。よろしく。ちなみに、写真部では、年度の始めに、部長が交代して、高校二年が通年で役職についています。昨日、早川先輩から、高校三年の活動は、進路のこともあるし、既に展示会用の写真も撮り終えている場合が多く、受験や内部進学に向けた課題を優先することが多いから、来る日が限られてくるという連絡があったよね。そういう事もあって、この部活では、高校二年が役職を色々とやっています。」

 鹿山副部長の話に僕は頷く。


「うんうん。理解が早くて助かるよ。」

 鹿山副部長は大きく頷いた。

「それではさっそくだけど、これからキミに活動して欲しいことを、鹿山から説明するね。」

 このやり取りを見ていた、馬場部長は、ニコニコと頷いて、鹿山副部長に説明するように促す。


「では、君の四月の活動は、ズバリ、二つ。一つは君に、“入部テスト”を受けてもらいます。」

 入部テスト。鹿山副部長の言葉に、すごく緊張する。

「こちらが指示した写真を、五枚、ゴールデンウィークが始まるまでに、撮影して提出してもらいます。お題は、五枚とも、“人をモデルにした写真”でお願いします。ああっ、モデルとなる人も、五枚とも違う人でよろしくね。そして、早川先輩や、高校三年生は、忙しいので、出来れば、高三の人以外でね。」

 馬場部長と鹿山副部長が出した入部テストの課題に戸惑う僕。


「えっ。えっと‥‥。」

 僕は今まで鉄道の写真しか撮っていないため、思わず、うろたえてしまう僕が居た。


「嫌なら、嫌で、他の部活に行ってもらって、良いんだよ。」

 馬場部長がそう言って、ニヤニヤ笑う。

 鹿山副部長もうんうんと頷いて、馬場部長と同じ表情をしている。


「まあ。キミは鉄道の写真があれば、それなりに無双できるかもしれないけど‥‥。」

 馬場部長は、うんうんと、笑って、さらに続ける。


「うちの高校の写真部は、人をモデルにした写真を撮ることが、基本的な活動方針なわけ。ちょっとモデルを人に依頼すればいいんだよ。そういうコミュニケーションを取れないと、生きていけないよ。」

 馬場部長は、僕に歩み寄り、僕の肩をポンポンと叩いて、にやにやと笑う。


「あっ、言い忘れてたけど、写真部員たちも、そのモデルの対象外だから。」

 馬場部長はさらに念を押した。


「そ、そんなぁ‥‥。」

 僕は思わずつぶやく。それを見逃さなかった、馬場部長と、鹿山副部長。


「嫌なら、この部活に入らなくていいんだよ。どうするの?」

 馬場部長が僕を見る。


「わ、わかりました。やります。」

 僕は頷く。


「そう。そう。それでいいんだよ。」

 馬場部長はニコニコと笑った。


「そしたら、続けて、鹿山からやって欲しいことの二つ目を説明してもらおうかな。」

 馬場部長はそうして、再び、鹿山副部長の方を見て、彼に、僕の四月の二つ目の活動について説明するように促した。


「そしたら、二つ目の活動について、説明するね。二つ目は、入部テストに合格したことを前提として、キミにはゴールデンウィーク初日と二日目に行われる、写真部の新入生歓迎合宿の幹事をお願いしたい。」

「えっと?」

 鹿山副部長の言葉に反応する僕。


「そう。ゴールデンウィークの初日と二日目に、一泊二日で、写真部の新入生歓迎会を兼ねた、合宿をするのが毎年恒例なんだ。キミ、鉄道好きだよね?是非、幹事として、往復の電車の切符を全員分予約してきてほしいんだよね。そして、その切符代、可能な限りで良いんだけど、キミが立替出来るかな?鉄道フォトコンテストの賞金とか、雑誌の掲載料とかでいくらかもらってるよね。それでさ。ね。」

 鹿山副部長が僕の肩をポンポンと叩いて、そして、両手を合わせて、僕に懇願して来た。


 この作業ならば、僕の得意分野だ。予約のやり方もわかるし、そんなに難しくはない。確かに、費用面はかなり使うことになるが、鹿山副部長のいう通り、今までの鉄道フォトコンテストの賞金と、副賞の鉄道雑誌の掲載料で、普通の高校生よりも、多めにお金は持っていることは事実だ。

 おそらく、高校生になると、部活の合宿とかの費用も要るのだろう。基本的には、立替て領収書をもらうというのが基本の流れだし、中学時代の部活の備品もその流れで購入して、領収書を顧問に提出していた。

 そういう事なら、大丈夫だろうと思い、僕は二人の先輩に向かって、頷いた。


「はい。わかりました。鉄道の予約に関しては得意なので、任せてください。」

 僕はそう言って頷く。


「いやぁ。助かるよ~。ゴメンネ。本当は会計担当である僕がやらないといけないんだけど、どうも、切符の買い方とか、そこら辺の予約の仕方とかわからなくてさ。立て替えてもらったお金は、領収書を出してもらって、後で返すから、心配しないでくれたまえ。ああっ、宿泊施設の予約はすでにしてあるから、電車の予約だけしてくれればいいからね。場所は、千葉の鴨川。だから、安房鴨川までの、特急の指定席と、切符の手配。歓迎会合宿の幹事として、ヨロシクね。」

 鹿山先輩は、僕の肩をポンポンと叩いて、深々と申し訳なさそうに、頭を下げた。


 僕もなんだか、嬉しい気分になる。撮り鉄、鉄道ファンとして、先輩方の期待に応えたいと。そう思った。


「はい。大丈夫です。任せてください。」

 僕は元気よくそう言うと。

「うん。ありがとう。そしたら、野田君は、しばらく部室には来なくて大丈夫。部室に来る暇があるなら、入部テストを頑張ってね。歓迎会の合宿の初日、集合場所の東京駅で、入部テストの課題の写真を僕たちに見せてね。ああ。切符の予約も忘れずにね。」

 馬場部長は、ニコニコと笑い、僕の肩をポンポンと強く叩き、僕に合宿の集合時間と、東京駅のどの場所に集合するかの連絡をする。そして、何時の電車を予約して欲しいかも伝えてくれた。


 そして。質問はないかということを僕に伝えてくれる。僕は首を横に振って、質問は特にないことを伝えた。


「そしたら、入部テスト課題の写真撮影に行ってらっしゃーいっ!!」

 僕は二人の先輩に送り出され、部室をあとにし、入部テストに行くのだった。


 しかし、僕の足取りはとても重かった。


「入部テストかぁ。しかも、人をモデルにした写真。まあ、頑張ってみよう。」

 事実、これまで鉄道しか撮ったことが無い僕にとって、これはかなりのハードルの高さだったが、深呼吸して、精一杯頑張ってみようと思った。


 そして、頑張っては見たが。入部テストの初日。声を掛けられそうな人は見つからなかった。

 やはり、新入生である僕。やはり誰かに声はかけづらい。

 しかも、言い忘れていたが、この高校は有名大学の付属校ということもあり、中等部、つまり、付属の中学校もある。

 僕みたいに、高校から入ってきた人も一定数いるが、中学から入学してきた人も居る。そう言った人は、大体、仲のいい友達と、四人、五人の集団でいる。

 そうなるとますます声がかけづらかった。


 そうして、下校鈴が鳴り、帰宅することになった僕。トボトボと校門を出る僕がそこには居た。


「ふうっ、とりあえず、電車の予約をしてしまおう。」

 そう思って、少し寄り道をし、学校から最寄りのJRの駅に行って、切符を購入するのだった。馬場部長と、鹿山先輩に指示された人数分の、東京から安房鴨川までの乗車券と特急券。

 やはり、次の撮影旅行の旅費として貯めていた、フォトコンテストの入賞賞金と、雑誌の掲載料、そして、その他、今までもらっていたお年玉やお小遣いの大半を使ってしまったが、領収書を提出すれば、すぐに部費を徴収してくれ、全額を返してくれると先輩は言っていたので、気にはしなかったが、そのお金が返されるまで、色々と少し我慢しなければならないなぁと、そう思う自分が居た。


 しかし、どこか達成感と安心感に浸る僕が居た。

 当たり前ではあるが、こちらの、電車の予約の作業については、すんなり実行できたためだ。


 その達成感があったのか、明日以降も、入部テストを頑張ってみようと、そう思った。


 しかし、翌日以降も、校内を歩き回ってみるが、写真のモデルになってくれそうな人はなかなか見つからなかった。

 やはり、入学して早々、自分から無理なお願いをしに、声を掛けるのは流石にしんどい。

 誰かいないだろうか。と思っても、どこか、躊躇ってしまう自分が居た。


 そうして、来る日も、来る日も、モデルになってくれそうな人物を探したが、やはり、そのような人物が僕の前に現れることはなかった。

 そして、あっという間に入部テスト締切である、ゴールデンウィークの直前になってしまった。


 もう写真を撮らないと流石にまずいと思った僕は、あることを思いついた。


「そうだ。これなら誰にも迷惑が掛からない。」

 そう思って、僕は、最寄りの二子玉川で電車を下車し、大井町線に乗り換えて、等々力へ。

 等々力の駅で下車し、最寄りの踏切へ向かう僕。その踏切で、シャッターチャンスを狙った。

 そう、踏切で待っている人の後姿を撮影すればいいんだ。そして、上手く、電車が来たところを狙う。何千回とやった作業。電車を待ち、慣れた手つきでシャッターを押す。

 そうして、僕は、誰にも邪魔されずに、踏切の電車を待っている人々の後姿を撮った。


 その後は東急線に再び乗って、自宅最寄りの二子玉川まで戻る、ということはせず、多摩川沿いへ向かい、多摩川の土手から、ジョギングしている人の影、自転車に乗っている人の影、そして、川の上にある、二子玉川のホームから電車を待つ人々の写真を撮って、家に帰った。


「うん。これで良いだろう。おそらく先輩も許してくれるだろうし、入部テストはギリギリ合格だろう。ギリギリ合格さえすれば、今後の写真部の活動で、挽回できる。こういう感じで、人をモデルにした写真を最低限撮ってれば、後は、何回でも、鉄道フォトコンテストの結果で挽回できる。」

 僕はそう気合を入れて、大きく頷いた。


 そうして、写真を印刷し、合宿の準備をしながら、ゴールデンウィークの初日を迎えた。

 この日は、先輩に言われた通り、新入生歓迎合宿の初日である。久しぶりに咲姉ちゃんにも会える。そうワクワクしながら、僕は、電車に乗り東京駅の丸の内地下改札へ向かった。


 先輩から指示された通りの集合時刻に、時間通りに到着した僕。

 既に、馬場部長と、鹿山先輩の二人が待っていた。しかし、待っていたのはその二人だけだった。

 他の写真部員の人達は後から来るのだろうか。そう思いながら、僕は二人の先輩に声をかける。


「おはよう、野田君。」

 馬場部長はニヤニヤしながら、挨拶した。

「お、おはようございます。」

 僕はその態度に、若干緊張してしまう。


「さてと。それじゃあ。まず、切符をもらおうかな。」

 鹿山先輩は、手を出す。僕は鹿山先輩に切符を渡す。切符の内容を確認する鹿山先輩。


「うん。確かに。それじゃあ、入部テストの課題を見せてもらおう。」

 僕は二人の先輩に入部テストで課された写真を見せる。

 それを見たとたん、二人はニヤニヤ頷く。そして。


「野田真晴君。残念だけど、テスト結果は不合格!!」

 牡馬先輩がニヤニヤ笑いながら大声で言う。鹿山先輩も同じように頷く。


「あ、あのっ、す、すみません。確かに人は、後姿かも知れませんが、その、確かに人は写してます。」

 僕はそう言うが。


「ううん。やっぱり、君は電車がメインのようだね。撮る写真は。でも、もう一回言うね。ウチの部活の活動方針は、“人の写真”なの。つまり、“人の写真が撮れない人”は写真部員じゃないんだよ。」

 鹿山先輩が言う。そして、馬場部長が満を持して、スマホを取り出してニヤニヤ笑う。


「いいかい。野田君。わかっていないようだから教えてあげよう。人をモデルにした写真というのはね。こういう写真なんだよ。こういう写真が撮れないとね。」

「‥‥‥‥っ。」

 馬場部長が勢いよく見せつけてきた写真に僕は絶句してしまう。

 それは二枚の写真。一枚は、下着姿の女性の写真。もう一枚は生まれたままの女性の写真だった。

 そして、その女性のモデルには見覚えがあった。そのモデルは早川咲。咲姉ちゃん本人だった。


「な、なんで‥‥。」

「撮ったからだよ。昨日。早川先輩に許可もらって。つまり、俺の彼女に許可もらって。昨日、俺の部屋のベッドの上で。」

 ニヤリと笑う馬場部長。この一言で僕は全てを察した。そんな。そんなことって‥‥。


「そう、つまり、早川先輩は、お前のお姉ちゃんじゃないってこと、俺のお姉ちゃんであり、俺の彼女なんだよ。いや、この写真部みんなのお姉ちゃんだな。残念だったな。というわけで、二度ともう、早川先輩に近寄るなよ。近寄ったら、俺がお前をぶっ殺す。」

 馬場部長は勢いよく僕の胸元をどつく。その痛さに、思わず、胸を押さえる。


「ああ。そうだ。その前に、お前は写真部から、入部テスト不合格と、皆のアイドル、早川先輩といきなり距離が近いということで、部活から、永久追放されてたんだ。それじゃあ。もう二度と先輩に近づけないな。」

 馬場部長はハハハッと笑う。


「と、言うわけで野田君。馬場部長のいう通り、君がここに居る理由はもうないから、とっとと、家にお帰りください。私たちはこれから電車に乗って、歓迎会の合宿に行きますので。人の写真を撮れた、新入部員たちと、そして、皆のアイドル、早川先輩と一緒にね。ああ、言い忘れてたけど、馬場部長と早川先輩は今日は、合宿のホテルで、同じ部屋に泊まる予定だよ。何を意味するか分かるよね。それじゃあ。そういう事で。」

 鹿山先輩は手を振って、にやにや笑いながら、馬場部長と一緒に、改札の方へと去っていく。


 それを見届ける僕だが、あることを思い出す。

「あの、待ってください。それならせめて、立て替えた。切符代のお金だけでも、お金の返金だけでも。」

 僕は去っていく、二人の先輩にそう、大きな声で言うが。


「切符代?それならすでに、君に渡したでしょ。変なこと聞かないでくださいよ。」

 鹿山先輩はにやにやと笑う。

「いえ、まだもらってませんよ。」

 僕はそう言うが。


「誤解されても困りますね。とにかく入部資格を満たさなかった人は、帰ってください。」

 鹿山先輩はそう言って、馬場部長を促し。

 馬場部長はさらに僕の胸元を掴む。


「帰れよ。帰らないともっと、痛い目にあわすぞ!!」

 馬場部長は、そう言って、僕の腹に一発殴る。痛みがズキズキする。


「‥‥。わかりました。」

 僕はそう言って、去っていく、二人の先輩を見ていた。

 二人の先輩は、僕が勝った切符を改札に通して、足早に改札の向こうに消えていった。


 ふと我に返り、追いかけようとしたが。ゴールデンウィーク初日の東京駅。人混みの中を見つけることはできず、やはりその場で立ち尽くしてしまう僕が居た。


 絶望しかなかった、咲姉ちゃん、鉄道、全てに裏切られてしまった。


 目には、ぽろぽろと涙がこぼれていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ