28.天神という場所
福岡空港から地下鉄で移動する僕たち。その地下鉄で二駅目が博多駅だ。
「すごい。博多ってこんなに近いの?空港から。」
あすかさんが驚いた顔をしてこちらを見る。
「まあ、福岡だからです。福岡空港は立地が一番良いんですね。おそらく、飛行機で東京へ行くことを想定して、立てたんだと思いますが。他の県ではそういうわけにはいきません。県庁所在地から、空港まで一時間近くかかる場合もあります。」
僕はそう説明すると。あすかさんはうんうんと頷く。
樹里さんも同じように目を丸くして頷いた。
「凄いですね。学校の勉強だと、何県がどこにあるかは教えてくれますが、空港がどこにあるかは習わないですから。これなら、九州各県へ行く場合だと、福岡から入った方が良いこともありますね。」
樹里さんがうんうんと僕を見て言う。
「まあ。今回はその方が良かったんでそうしましたが、九州各地の空港を利用したほうが良いこともあるので、そこは、一概に言えないですけどね。」
僕がニコニコと笑って、樹里さんに頷く。
「さてと、博多で降りようと言いたいところですが、お昼時でもあるので、先ずは博多を通過して、別の場所で昼食を食べましょう。」
僕は皆に向かってそう言うと。
「えっ?降りなくていいんですか?博多なら、ご飯食べれるところ、沢山ありそうなのに。」
樹里さんが僕の方を見る。
「まあ、大丈夫。福岡市は博多の他にもう一つ、有名な繁華街があるから。そっちに行きましょう。」
僕がそう説明する。皆もうんうんと頷きながら、地下鉄は博多駅を過ぎ、更に福岡市の西へと進んで行く。
そうして、地下鉄に乗りたどり着いた場所は、天神、という駅。
ここで降りる僕たち。
改札を出ると沢山の人込みに驚く女性陣。
「すごい。博多と変わらないくらい多いかも。」
あすかさんが周囲を見回して言う。
さらには、広々としたおしゃれな地下街が広がっており。
「すごい。地下街も奇麗。」
咲姉ちゃんが地下街の方を指さす。いくつかお店も見て回りたいようだ。
「すごい。これだけでも九州に来たという感じがします。」
樹里さんがうんうんと頷いている。
この間の北海道旅行が飛行機初体験という樹里さん。そうなると、九州も初上陸となる。
「この間の、北海道が飛行機初めてだから、九州は初めてかな?」
僕が樹里さんにそう聞くと。樹里さんはうんうんと頷く。
「そっか。ここは天神と呼ばれる場所で、簡単に言えば、福岡市の旧繁華街。博多の方が新繁華街、と言ったところかな。でも、実際は、両方ともものすごく栄えているし、何なら、天神の方が、大きな会社とか、役所とかそういうものがあるので、福岡市の中心部ですね。」
僕は樹里さんに今いる天神と呼ばれる場所を説明する。
「その証拠に。」
僕は西鉄電車の看板を指さす。
「今回は乗りませんが、天神は、西鉄のターミナルでもあります。九州で有名な私鉄会社ですね。」
僕がそう言うと。
「はい。西鉄、聞いたことあります。福岡の天神。すごいです。」
樹里さんがニコニコ笑って天神の地下街を見回している。
「へえ。西鉄はここから出るんだ。」
咲姉ちゃんがふんふんと頷く。どうやら、咲姉ちゃんの中では、博多に西鉄電車のターミナルがあると思っていたようだ。
そんな、少しレトロさを演出しつつも、本当に大人びたお洒落な天神の地下街を抜けて行く僕たち。
地下街の途中で、噴水のような場所に差し掛かる。
通称、河童の泉というものらしく、河童の像がいくつか置かれている。
「すごい。こんな場所があるんだ。」
あすかさんはそう言って、河童の泉に興味津々。
この泉は、階段のように構成され、上から水が湧きだし、下の方に水が音を立てて落ちて行く仕組みだ。
勿論、芸術的で、この地下街に買い物に来た客が癒されるようなそんなつくりをしている。
その河童の泉の脇にある階段を登って、商業施設の中へ。
この天神という場所は、本当に何でもあって、色々な飲食店も多数ある。
「ごめん、何で、わざわざ、博多を抜けて、ここまで来たかというと、いつも福岡来たときに必ず寄るお店があるから。そこで食べるのが本当に美味しくてね。」
僕がそう言うと、皆はうんうんと頷き、そのお店へと向かう。
そうして、天神の商業施設を歩くこと、数分。お目当てのお店がやって来る。
海に面した福岡県ということで、やって来たのは海鮮のお店。
「ここですね。九州は本当に食べ物がおいしくて、その中でも、ここは本当に素晴らしいです。皆さんにも一度食べて欲しくて。」
僕がそう言って、そのお店の看板を指さす。
「ふふふっ、そうなんだね。落ち着いた雰囲気でとても良さそう。」
咲姉ちゃんがニコニコと笑っている。
「はい。興味あります。」
樹里さんがうんうんと頷き。
「そうだね。ハルさんおすすめ。ということで入ってみようか。」
あすかさんも嬉しそうに笑いながらうんうんと頷いていた。
そうして、お店に入る僕たち。
店員さんに通されて、奥の席へと入る。
落ち着いた照明のお店だ。
お刺身定食と海鮮丼、そして、地元の食材を使ったおかずなどいろいろな種類の中からメニューを選ぶ。
僕を含めて、みんな全員、お刺身定食と、各々おかずのセットを注文する。
そうして待つこと数分、各々注文した料理が運ばれてくる。
「うわぁ~。」
咲姉ちゃんが歓喜の声を上げる。
「すごい。」
樹里さんも目の色を輝かせて笑う。
「見ているだけで美味しそう。」
あすかさんも、その両方、目の色をキラキラさせ、歓喜の声を上げながら、注文して頼んだ料理を見つめる。
九州という場所から厳選された食材がそこにはあった。
地元直送のお魚のお刺身、色とりどりの地元野菜。そのすべてが僕たちの心を躍らせる。
一斉に一口食べる僕たち。
「はぁ~。」
思わずため息が出る僕。
食事の味。心まで染みる九州の味。
「ふふふっ、マー君、思わずため息が出ちゃっているわね。」
咲姉ちゃんが僕の方を見てニコニコと笑っている。
そして、咲姉ちゃんも。
「本当に、心まで満たされていくわ。不思議な感覚。」
咲姉ちゃんが和んだ表情をする。
「凄いです。お刺身と、地元の温野菜、心の奥まで温まる。こんな感覚、初めて。」
あすかさんも、笑顔というよりかは、どこか安らぎの表情をしながら、九州の食材を食べる。
「ゆっくり味わいたいです。今日この時は。」
樹里さんも、うんうんと頷き、心まで染みる食材に満たされながら、一口、一口、よく噛んで丁寧に食べて行く。
海に近いということで、お刺身がやはり特徴的な味。
少し魚の身が固く、新鮮さが残っており、噛み応えがある。勿論、付け合わせのわかめや、ワサビもとても美味しい。ワサビに関しては、市販のチューブのものを使いまわしているわけではなく、実際にお店で、ワサビの根をすりおろして提供しているようだ。
だから普段、ワサビ、つまりは鼻に抜けるような辛さが苦手な僕でも、違和感なく食べられる。そして、九州の甘めの刺身醤油と絶妙にマッチする。
「すごい。マー君、お刺身好きだけど、ワサビは苦手じゃなかったっけ?」
幼馴染の咲姉ちゃん。すぐにそのこと、僕が、ワサビを醤油に混ぜていることに気付く。
「うん。でも、ここのお店が特別なんだよ。だから、僕がいつも九州に行くとき、必ず寄るお店なんだ。皆も、喜んでくれたみたいで良かった。」
僕はそう言うと、皆は大きく頷く。
そうして、天神のお店で、九州の食べ物を堪能した僕たち。
この後は博多に戻って、電車に乗って、長崎方面へと向かうわけだが、電車の時間まで少し時間があるので、九州の景色を少し見ることになり、地上へと出る。
福岡の天神という町。少し伝統的で歴史あるような建物が並んでいるが、それでも広々とした街並みの風景が僕たちを出迎える。ここが九州の中枢都市と呼ばれる場所だ。
福岡空港も近くにあるので、飛行機の進行の妨げになるような高い建物はあまりなく、それもあってか、青々とした空も澄み渡っていた。
「すごい。ここが九州。」
樹里さんは目を丸くして、天神の街並みを見ている。
「本当ね。九州に来たって感じ。」
あすかさんもうんうんと笑っている。
「まあ、これが九州ですね。」
僕が皆に向かってそう言うと、皆はうんうんと頷く。
そうして、近くのバス停まで移動し、博多まで移動する。折角なので、ここから博多へ戻る交通手段は、地下鉄ではなく、路線バスを使う。
バスは当然、西鉄の路線バス。白を基調とした車体だ。
その西鉄の路線バスに乗り、福岡市の街並みを窓から見る僕たち。
天神から博多までの区間の中で魅力的なのは、中州だろうか。
川の中州の細長い島に、繁華街が立ち並んでいる。
実際に川に架けられた橋を渡るバス。
「ここからが福岡で有名な中州ですね。お洒落な建物とかが見えてくるかもしれません。ただ、高級なお店が多くなりますが‥‥。」
僕がそう言うと、皆は窓から中州の風景を見る。
「本当だ、お洒落で、高そうなお店が結構ある‥‥。」
咲姉ちゃんがうんうんと頷く。
「すごいですね。建物もお洒落です。」
樹里さんも頷く。
「そうね。ここのあたりも、いつか、ゆっくり回れたらいいわね。」
あすかさんがニコニコ笑いながら、中州の街並みを見ている。
そうして、バスは博多駅に通じるメインの通りへ差し掛かる。
大都会ではあるが、どこか広々とした雰囲気の街並みが、九州らしさを感じさせる。
こうして、博多駅へと戻った僕たち。次の目的地までの乗車券と特急券を購入して、博多駅の改札口へと向かうのだった。