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27.大きな地図

 

 その後、七月は各々、補習や学校の課題、更には、学校の夏休み研修を済ませて、あっという間に、夏休みの中盤、八月を迎えた。

 八月最初の週末。僕たちは再び集まり、次の撮影旅行へと向かうのだった。


 早速、今回の集合場所、羽田空港に集まる僕たち。


「ふふふっ。よろしくお願いします。」

 ニコニコと笑いながら、咲姉ちゃんは皆に手を振る。

「よろしくお願いします。今回も、ありがとうございます。」

 あすかさんがニコニコと笑って、こちらを見る。

「あの、よ、よろしくお願いします。」

 樹里さんは、少し緊張しつつ、僕たちに挨拶をした。


「早くから集まってもらってすみません。それじゃあ、行きましょう。」

 僕は皆に、そう、挨拶をすると、皆は拳を高く上げて、ニコニコ笑っていた。


「「「おーっ!!」」」

 と、笑顔で、声をそろえる僕たち。


 今回の撮影旅行も、あすかさんのグラビア撮影と、その他色々観光も兼ねて出かけることになった。

 八月の上旬、というわけで、今回の撮影旅行は、平和学習も兼ねて、長崎へ。


 早速、飛行機のチェックインカウンターへと向かう僕たち。手にしているのは福岡空港行の便のチケット。

 長崎へ行くのに、福岡で良いのかと思うかもしれないが、実は、九州へ行く際は、宮崎県以外は、福岡空港を経由して九州の各県に入った方が色々と都合が良い場合が多い。

 その理由は色々あるのだが、いちばんは羽田、または、成田と福岡を結ぶ飛行機は、本数がかなりあることだろう。そして、東京、福岡は、かなりのドル箱路線なので、色々な航空会社と競合しているせいか、費用も安く済む場合が多々あるのだ。


 羽田空港の出発ロビー、その北側、スカイマークのカウンターで、チェックインと荷物を預ける僕たち。

 今回は、日本航空や、全日空ではなく、スカイマークで福岡へと向かう。スカイマーク。MCC、ミドルコストキャリア、という価格帯のグループの航空会社に分類される。LCCの価格帯の航空会社よりもサービスの質が良く、例えば、大きな荷物は無料で預かってくれたりする。


 そして、スカイマークに乗るならば、是非、前方の座席を押さえておきたい。

 理由は勿論、外の景色を楽しむためだ。前方の席であれば、飛行機の翼に邪魔をされることなく、外の景色、つまりは下の景色、そう、いちばん大きな地図の景色を楽しむことができる。

 大手航空会社だと、前方の座席は、ファーストクラスなど、かなり割高な座席が多数を占めるので、普通席の場合だと、翼の上だったりで、景色が翼に遮られてしまう場合が多かったりする。


 その点、こうした、MCC、ミドルコストキャリアの航空会社は、座席は全て普通席に統一されている場合が多く、前方の席をゲット出来る場合が多いのだ。

 しかしながら、考えることは皆同じのようで、景色を楽しみたい場合だったり、前方の席の方が、早く飛行機を降りられるということから、座席は大体、前方の席から埋まってしまう。


 さて、僕たちはと言うと‥‥。


 早めに予約していたこともあって、前方の席をゲットすることができた。

 そして、今日は夏の日差しにギラギラ照らされている快晴の日。本当にラッキーである。


 早速、ワクワクした表情で、保安検査場へと向かう僕。


「なんか、マー君、すごく嬉しそう。」

 咲姉ちゃんがニコニコと笑っている。

「まあ、理由はすぐにわかるよ。」

 僕はうんうんと頷きながら、保安検査を済ませて、搭乗口へ。


「なんだろう。気になります。」

 樹里さんが不思議な表情をして、僕の方を見る。

「何だろう。でも、ハルさんがワクワクしている表情をしているということは、とってもいいことだよね。」

 あすかさんがうんうんと頷いて、僕の方を見ていた。


 そんなやり取りをしながら、保安検査場を抜け、搭乗口へと進む。搭乗口付近の椅子に座り、空港を離発着する飛行機を窓から見る僕たち。


「すごいわね。色々な飛行機がある。」

 咲姉ちゃんが窓の外を見ながら、ワクワクした表情をしている。

「まあ、ここは、色々な航空会社が集まるから。」

 僕がそう答えると、皆はああっ、という表情をして、窓の外を再び見る。


「本当。色々な色の飛行機があるね。」

「はい。よく見ると、大きさも違ってたりしますね。」

 あすかさん、樹里さんも窓の外を見て頷いている。


「ハルさんは、飛行機も詳しいのかな?」

 あすかさんがそう聞いてくると。

「まあ、乗り物なら。ただ、電車より、知っている知識は少ないですが。色々な場所に行くことは好きなので、多少は知ってます。」

 僕がそう答える。その答えに、皆はうんうんと頷き、笑っていた。


 そんなやり取りをしながら、搭乗の案内の放送が流れる。

 僕たちも、その放送の案内に従い、他の客とともに、搭乗口へと進んで行く。


 チケットを機械にかざして、いよいよ、飛行機の中へ。

 一つの通路を挟んで、座席が窓側、中央、通路側の三席が左右に並んでいる配置。


「この間の、旭川へ行ったときのものより、小型の飛行機ですね。」

 樹里さんが飛行機の中に入って、中を見回して言う。


「まあ、そうですね。スカイマークは、どの路線でも、この飛行機の機材になりますね。ただ、東京から福岡へ向かう飛行機なので、他の航空会社なら、もっと大きな飛行機が飛んでいることがあります。」

 僕がそう説明すると、樹里さんはうんうんと頷く。

 小型ジェット機の定番、ボーイングの737。確かに樹里さんのように、まだ数回しか飛行機に乗ったことがないひとから見れば少し小さく感じられるかもしれない。しかし。


「でも、この飛行機は、僕の知る限りですが、小型のジェット機の中では、いちばん多く、運用されているはずです。いちばん多く製造されていて、個数も多いと言いますか。」

 僕がさらに続けて、樹里さんに説明する。

「へえ。すごい。」

 樹里さんはニコニコ笑って、改めて、飛行機の中を見回すのだった。

 そんな樹里さんを窓際の席へ促して、僕はその隣の中央の席に座る。

 通路を挟んで、反対側の窓際の席へは、あすかさん、中央の席には、咲姉ちゃんが座っていた。


「すごい。ハルさんがワクワクしていた理由はこれだったんですね。」

 樹里さんが窓際の席に座り、窓から外を見た途端、彼女の表情は、一気にワクワクした表情に変わって行く。

「そうですね。前方の席なので、翼に遮られることなく、外が見れます。いちばん大きな地図が見れますよ。」

 僕がニコニコ笑って樹里さんにそう説明すると、彼女はさらに笑顔になっていた。


 通路を挟んで向かい側に座っている、あすかさんも、どこか嬉しそうな表情をしている。


「すごい。色々、見られそう。」

 あすかさんのワクワクした声がこちらまで聞き取れる。

 咲姉ちゃんも親指を立てて、ニコニコと笑っていた。


 そうして、全ての乗客が飛行機に乗り込み、駐機場をあとにして、滑走路へ向けて出発していく飛行機。客室乗務員の人達が、機内の安全について、説明している。


 一通りの説明が終わり、飛行機は、離陸する滑走路へ向け、地上での走行スピードをさらに上げて行く。

 羽田空港の敷地は当然広い、離陸迄の間も飛行機の窓からは、ターミナルの様子だったり、飛行機の格納庫の様子もうかがえる。


 そして。飛行機は、滑走路へとたどり着く。滑走路の一番端で停止する飛行機。それと同時に、シートベルトの着用サインのランプが点滅する。


 旭川へ行ったときと比べて、少し余裕の表情がある樹里さん。

 だんだんと慣れてきたのだろう。


 いちばんのスピードを上げて、離陸していく、飛行機。

 体がふわっと浮く感覚。その時に、隣の樹里さんを見るが大丈夫なようだ。


 飛行機はすぐに右へ、右へ、舵を切り、西の方へと進路を変えていく。

 眼下にはすぐに横浜の街並みが見えてくる。


「すごい。横浜。」

 樹里さんの言葉に、僕は頷く。まだまだ、上空低い位置。横浜の色々な建物が発見でき、どこを飛んでいるのか、分かるようだ。


 そして、前方の席に座っている僕たち、目線を少し前の方に目をやると、相模の山々の方へ向かって、一直線に飛んでいくのがわかる。そして、その向こうにはうっすら、富士山も見えてくる。


「すごい。海の上ではなく、陸の上を飛んでます。」

 樹里さんはものすごくドキドキした表情をする。

「そうですね。九州、福岡とか、九州の北側へ行く飛行機は、皆、陸の上を飛んでいきます。だから、色々と見れますよ。」

 僕はそう話しかけると、樹里さんはニコニコと笑っている。本当に、とても楽しそうな表情だ。

 通路を挟んで向こう側に目をやる。咲姉ちゃんは手を振って、ニコニコと笑っている。あすかさんは興味津々で、樹里さんと同じく、窓の外をひたすら見ていた。


 横浜の上空を抜け、神奈川県の山々、丹沢や箱根の山々が見えるようになるころ。飛行機はシートベルト着用のサインが消える。しかしながら、トイレに立たずに、引き続き景色を眺める樹里さんの姿がそこにあった。


「すごいです。富士山を上から見てます。」

 樹里さんは興奮しながら、僕に向かってニコニコと笑っている。

「そうですね。九州、特に福岡へ向かう飛行機の醍醐味ですね。」

 僕はそう言いながら、機内の窓から富士山の頂上を指さす。

 夏場ということで登山客の姿は‥‥。流石に確認できなかったが、富士山の頂上が飛行機から見渡せた。


 通路を挟んで、向こう側、つまり、咲姉ちゃんとあすかさんが座っている方向には、南アルプスの山々、ひょっとすると天気が良いので、北アルプスの山々も見えるだろうか。甲府、そして、長野県内の盆地が広がっていて、それをずっと見ているようだ。


 その後も山を飛び越えて行く飛行機、陸路だと山を回避してかなり時間がかかる場所でも、こうして飛行機に乗って、真下に見える景色を見ると、すぐにたどり着けそうな気がする。


 樹里さんの視線の先には、静岡県内の街並みが広がっている。遠くには、先日、新幹線で見ていた、浜名湖の形も良く見える。


 そうして、それを見ていると平野が広がって来た。その平野の中には大きな町が広がっている。

 中部地方の濃尾平野、その中心都市、名古屋の街が見渡せる。


「名古屋ですね。」

「はい。一気に街並みが広がってきました。」

 僕の言葉に、樹里さんはニコニコと笑っている。そして。


「すごいです。川の流れも、確認できます。」

 樹里さんの言葉、そして、指さした方向に、視線を向ける。

 濃尾平野を流れる三つの川、木曽川、長良川、揖斐川の川が確認できる。それぞれ、どこに向かって流れて行くのか、そして、その川の最終目的地。伊勢湾に注いでいく様子も確認できた。


 そうして、数分も立たないうちに、飛行機は再び山の上空へと差し掛かり、再び平野が広がったと思えば、大きな水たまりの上を飛ぶ。大きな水たまり、つまりは、大きな湖。琵琶湖だ。


「琵琶湖ですね。この間、行きましたね。」

 樹里さんの言葉に、僕は頷き、先日の記憶がよみがえる。琵琶湖の浜辺で、写真を撮り、皆、白ビキニ姿を披露してくれたんだよなと。


 琵琶湖は大きな湖。通路を挟んだ向こう側、あすかさんの方からも、琵琶湖の様子は確認できるようだ。

 ここも、ものの数分で、飛び越えてしまう、飛行機。再び山の上空を飛行すると。京都市の上空になる。

 京都の町も先日皆と出かけた場所。しかし。


「やっぱり、こうしてみると、碁盤のような街なんだなと。」

 樹里さんは飛行機の真下、京都市の様子を見て、笑っている。

 碁盤の目のような道路がハッキリと映し出されていた。


「そうですね。本当に、綺麗ですね。」

 僕はそう言いながら、京都の街並みを見る。


 続いて、淀川を中心とする、大阪の街並みも見ることができる。

 広大な、大阪の平野に、大きな街並みが広がっている。


「大阪ですね。こうしてみると、大きいです。」

 樹里さんはそう呟く。僕も頷きながら、大阪の街、そして、神戸の街並みの風景を見ていると、今度は、瀬戸内海が遠くに広がっている。その瀬戸内海の向こうには、四国の山々が綺麗に映っている。


「瀬戸内海。その向こうは四国ですね。」

「そうですね。綺麗に見えてますね。」

 樹里さんは瀬戸内海の向こうを指さす。


 飛行機は中国地方のど真ん中、つまりは、中国山地の上空を猛スピードで飛んでいる。

 岡山、そして、広島の街並みが良く見える。


 広島の街を流れる太田川が本当に綺麗に映る。

 これから行く、長崎と同じく平和の街。広島の方にも、行くことができればいいなと思う。


 そうして、この広島の街を見ながら、飛行機は徐々に高度を下げて行く。

 さらには着陸に備えシートベルト着用のサインが点灯する。


 本州最西端、山口県の上空を飛び、いよいよ、九州へ。

 前方には、海が見える。その海の向こうに、九州の陸地が見える。


 そうして、本州の上空から再び海の上へと飛行機は飛んでいく。

 ここまでくると、海の上を飛んでいる船の姿がはっきり確認できる。


 九州の北部、玄界灘と言われる場所。そこを行きかう船の数々。それをしっかり確認しながら、福岡空港へ向かう。

 飛行機の窓からは、福岡市の建物が確認できる。福岡タワーにPayPayドーム。そんな建物を確認出来る僕たち。


「すごい。九州の景色ですね。」

 樹里さんがうんうんと頷き、笑っている。

「そうですね。九州に来たなという感じがします。」

 僕もそう笑っていると、飛行機は最終の着陸態勢に入る。そして。


 町の中から、いきなり現れた、滑走路。その滑走路に着陸する飛行機。


 福岡空港は町の中にあって、博多までのアクセスもかなりいい。それもあって、九州の様々な場所に行くことができるのだ。

 僕たちのように、長崎へ行くときも、福岡を経由したほうが良い場合もあるのはそのためだ。


 そうして、飛行機は駐機場へと向かい、僕たちは、飛行機を降りる。


「すごい。いちばん大きな地図でした。」

 樹里さんがニコニコ笑って僕を見る。

「本当。私も、楽しめた。反対側の風景も最高だった。」

 あすかさんがニコニコと笑っている。

「ふふふっ、私も、飛行機の中でリラックスできたかな。」

 咲姉ちゃんはうんうんと頷きながら、ウィンクして笑っている。


 僕たちは預けた荷物を受け取って、到着ロビーへと向かう。

 飛行機で、大きな地図を見た僕たちは、胸をドキドキさせながら、九州の地へ降り立ったのだった。






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