22.湖水浴と白ビキニ
ホテルを出て、京都の町へ、と言いたいところだが、初日は少し隣県に足を伸ばして、夏のレジャーを楽しむことにした。
「京都と言いたいところですが、先に、用事と、夏のレジャーを楽しむんでしたよね。」
僕の言葉に皆は頷く。
「ふふふっ、実は、初日は京都じゃないというね。」
咲姉ちゃんがニコニコ笑う。
「はい。でも、地図的にも凄く近いはずです。」
樹里さんがうんうんと頷く。
「みんな。ありがとう。私に付き合ってもらっちゃって。」
あすかさんは深々と頭を下げる。
僕たちは、それは想定内、ということで、首を横に振る。
何故なら、僕は、大人気グラドル糸崎あすかの、専属カメラマンであり、ここに居る面々は撮影スタッフでもある。
ということで、先ずは、あすかさんのグラビアの撮影と、夏のレジャーを兼ねて、京都ではなく、隣県のある場所へ向かう。
早速、京都駅に向かい、在来線のホームへ向かう。今回乗る電車は湖西線と呼ばれる路線。
文字通り、琵琶湖の西側を走る路線だ。
ホームへ降り立つと、早速、乗る車両が止まっている。
かつては、快速でも使用されていたが、現在は普通列車運用が大半となっている、221系電車。だが、この車両を見ると、改めて、関西に来たのだという感じがする。
「なんか、不思議な気分。いつも、関東で乗っている電車と違うから。」
樹里さんが、どこか興味津々な感じで車両を見ている。
「そうね。私も不思議。」
咲姉ちゃんも一緒にうんうんと頷いていた。
「さあ、ここからは、琵琶湖が良く見えると思います。といっても、これから、琵琶湖のほとりに向かうのですが。」
僕は皆にそう言うと、皆はうんうんと頷いていた。
そうして、僕たちを乗せた電車は京都駅のホームを離れ、これから滋賀県の方へと向かっていく。
先ずは一つ、大きなトンネルをくぐり、山科という駅へ。
「トンネルだ。結構長いね、新幹線乗ってても、感じてたけど。」
あすかさんは、うんうんと頷きながら、言う。
「はい。やっぱり、京都って、盆地なんですね。」
樹里さんの言葉に、一同は頷いていた。
そうして、山科を過ぎると、再び長いトンネル。色々な古典で知られる、逢坂の関を一気に抜けてしまう。
このトンネルで、東海道線と別れて、湖西線、つまり、琵琶湖の西側を走るように進路を切り替えていく。ちなみにだが、関西では東海道線とはあまり言わず、琵琶湖線、京都線、神戸線、と呼ばれている。
大津京、唐崎、の駅を停車し、次の停車駅は、湖西線での延暦寺の最寄、比叡山坂本。
比叡山の山々達を横に見ながら、北上していく。
そして、湖西線は全区間高架区間でもある。琵琶湖がはっきり見たり、建物で遮られて、見えなくなったりを繰り返している。
「すごい。奥は琵琶湖だね。」
あすかさんがニコニコ笑っている。
青い湖が車窓から映り始めている。
「本当だ、琵琶湖が綺麗。」
「はい。琵琶湖ですね。反対側は比叡山ですね。」
樹里さんがニコニコ笑いながら、車窓の両側を確認している。
そう、琵琶湖と、比叡山の間を列車は走行し、北上している。そして、高架区間だから、それぞれ景色も見やすい。
比叡山坂本の駅を過ぎると、高い建物も無くなり、常時、琵琶湖がハッキリ見えるようになる。
日本一大きな湖の琵琶湖。滋賀県を流れる、ほぼすべての川が、ここに注がれる。そして、この水が、湖の南の瀬田川へと流れて行き、京都、大阪の水源となる。
その大きさに、一瞬、海かと思うが、車窓のいちばん奥には、湖の対岸が見えるので、ここは琵琶湖であり、湖であるということが伺える。
引き続き電車は、琵琶湖を見ながら、高架線を進んでいく。
やがて、高架線と琵琶湖が最も近づいてくる部分に近づく。琵琶湖の対岸も、湖の幅が広くなっているのか、だんだんと見えなくなり、うっすらと、遠くに山が見える程度になった。
「本当、日本一大きな湖ね。」
咲姉ちゃんがうんうんと頷いている。
「はい。地理では勉強しましたが、こうしてみると、すごいです。」
樹里さんがニコニコと笑っている。
そうして、電車はしばらく北上し、近江舞子と呼ばれる駅で僕たちは降りる。
しばらく歩くと、琵琶湖の砂浜に到着。
本当にまるで海のようだった。
「おっ、迷わず来れて、安心したぞ。流石、鉄オタさんだ。」
こちらに向かって、大きく手を振っている人物が琵琶湖の浜辺に立っていた。
先日の北海道旅行でもご一緒した、あすかさんのマネージャーの宮川さんだ。
「申し訳ないね。東京から同行できず、現地入りからの参加で。」
宮川さんは深々と頭を下げる。宮川さんは、昨日まで、別の担当の芸能関係の人と仕事をしていたらしい。あすかさんの所属している事務所は、比較的規模が小さいので、一人で二、三人のタレントを担当することが多いのだという。
それ故に、あすかさんのように、人気になってくると、複数のマネージャーやスタッフがあすかさんを担当する場合もあるのだとか。
そして、宮川さん曰く、僕たちも、写真撮影の時のみ限定ではあるが、その一人として戦力に加えてくれているらしい。本当にありがたいことだった。
「そういうわけで、全部、君に任せても良かったんだが、一応、チェックしたいので、一瞬ではあるが、顔を出させてもらったし、今後もそうしたいので、よろしくね。」
宮川さんはうんうんと頷きながら、僕を見た。
「はい。こちらとしては、身に余ることですので、今後ともよろしくお願いします。」
僕はそう言って、頭を下げ、樹里さんと、咲姉ちゃんも同じように頭を下げた。
早速、更衣室の場所を指示され、各々水着に着替える僕たち。
男性用の更衣室ではあるが、この後のことを考えてしまうと、少しドキドキする。
自分を落ち着かせながら、水着に着替えて行く僕。
落ち着けよ、確かに、撮影が終われば、皆と遊べるが、一応はカメラマンなんだからな。と、自分に言い聞かせる。
そうして、僕は着替えを終えて、浜辺に出る。待つこと数分。
「お待たせしました。」
声がした方向を見るとドキッとする。
白ビキニに身を包んだ、三人の美少女。その美少女たちがこちらに向かって、手を振って近づいてきた。
白ビキニを着ている、美少女たちは、勿論知っている。あすかさん、樹里さん、そして、咲姉ちゃんだ。
そして、白ビキニといっても、全員が、同じタイプの白ビキニを着ているわけではなく、デザインの形が少しずつ違ってきている。
あすかさんは、グラビアアイドルということで、ド定番の白ビキニである。
勿論、自慢の巨乳も健在で、ビキニから飛び出るか、飛び出ないかのギリギリの状態で、胸の谷間が露になっていた。
一方で、樹里さんが着ている白ビキニは。
「ちょっと、外だと、まだ慣れていないので、上下フリル付きのものを用意してもらいました。」
樹里さんも、あすかさんに匹敵するような胸の大きさ。そして、眼鏡を取れば超絶美少女。ということで、素材の原石としては素晴らしいのだが、まだまだ、こういうのにはなれていないのだろう、良い判断だと思う。しかしながら、樹里さんの胸の谷間も、ドーンとビキニから現れていた。
そして、咲姉ちゃんは。
「ふふふっ、大人っぽい、パレオ付きよ。」
咲姉ちゃんはニコニコ笑いながら、その場で一回転する。
言わずもがな、咲姉ちゃんの胸の谷間も、ビキニからはち切れそうだった。
「うん、良さそうね。みんな揃ったので、先ずは撮影と行きましょう。」
宮川さんの言葉に僕たちは頷き。早速、僕のカメラで、写真をたくさん撮っていく。
あすかさんはこちらの指示通りにポーズを決めて行き、撮影がスムーズに進んでいく。
色気たっぷりの、あすかさんの写真、本当に、こちらまで、ドキドキしている。
「ハルさん、ちゃんと撮ってる?」
あすかさんがニコニコ笑いながら、こちらに向かって言ってくる。
「勿論、撮影してるよ。大丈夫。」
僕はそうニコニコ、いや、心の中では、ニヤニヤ笑って、合図をする。
そして、あすかさんほどではないが、樹里さんと、咲姉ちゃんの写真も、僕のカメラに収めて行く。
「ふふふっ、可愛く取ってね。」
咲姉ちゃんはニコニコ笑っている。
「き、緊張してますが、頑張ります。」
樹里さんも、少し緊張しているが、こちらの指示通り、様々なポーズをして、終始、撮影に対応してくれていた。
琵琶湖の砂浜を利用して、木の陰に隠れたり、寄りかかっている写真、そして、砂浜で、寝転んでいる写真。さらには、小道具で用意してもらった浮き輪を使い、水の中に入って、遊んでいる、そんな写真を僕のカメラに収めいく。勿論、三人並んでいる写真も撮っていく。
一通りの写真を撮り終えて、宮川さんにチェックしてもらう。
「うん。良さそうね。流石です。」
宮川さんはニコニコと笑っていた。
そうして、宮川さんのチェックが終わり、撮影を終えた僕たちは、改めて、琵琶湖での海水浴、ならぬ、湖水浴を楽しむことになった。
湖水浴の魅力は何といっても、海水ではなく、淡水ということだ。塩分が無く、身体もべたつき感が無く、水から出た後はさっぱりしていている、という事。さらには、波も穏やかで、泳ぎやすいという事だろう。つまりは、ほぼほぼ、プールと同じである。
そう。この時期の琵琶湖は、大自然のプールだ。
比叡の山を見ながら、湖水浴を楽しむ僕たち。
「水が冷たくて気持ちいぃ。」
あすかさんが改めて、水の感触を確かめながら、身体を水に預け、その場で、少し泳いで見せる。
「本当。海水じゃないから、プールみたい。泳ぎなら、負けないわよ。」
咲姉ちゃんはそう言って、パレオを脱ぎ捨て、あすかさんと同じ、白ビキニ姿になる。そうして、あすかさんよりもさらに湖の深い所へ行く彼女。
得意げに、自由形、平泳ぎ、バタフライ、背泳ぎと、簡単な個人メドレーを披露して見せた。
「皆さん凄いです。」
あすかさんと、咲姉ちゃんが泳いでいるのを、羨ましそうに、そして、憧れながら眺めている樹里さん。
そんな樹里さんに声をかける僕。
「大丈夫ですよ。一緒に行きましょう。」
僕はそう言って、樹里さんの手を取り、湖の中へと促していく。勿論、浮き輪も忘れず持っていく。
「あっ、ありがとうございます。ハルさん。」
一瞬、顔を赤くする、樹里さん。
水の深さが僕たちの胸とほぼ同じくらいの高さになる場所まで、僕は樹里さんを誘導する。
思えば、鎌倉でサーフィンをやった時も、僕たちに必死について行こうとしていた樹里さん。ということは、泳ぎを一通りやって見せれば、樹里さんもやれそうかなと思う僕。
というわけで、胸くらいの高さまで水が来る場所に行き、一通り、泳ぎを見せる僕。
僕も、咲姉ちゃんと一緒にスイミングスクールに通っていた仲である。個人メドレーに使われる四種目の泳法は、マスターしているつもりだ。
「すごい。」
樹里さんは、目を丸くし、早速、僕の真似をする。
やはり、鎌倉で、一度、海に入った影響だろうか。少しぎこちなさそうだが、確実に泳げている。
自由形、クロールの手の動き、バタ足の動き、平泳ぎの手の動き、カエル脚の動き。それらすべてを、一度に習得しようと頑張っていた。
当然だが、浮き輪をビート板代わりに使いながらではあるが、確実に身に付いて来ていた。
「すごいです。」
僕は樹里さんにそう言うと。
「いえいえ、なんか、皆さんより、ぎこちなさそうな感じがします。」
「最初は、誰でも、そんなものですよ。」
僕がそう言うと、樹里さんは笑っていた。
「おっ、だんだんと、泳げて来た、すごいね。樹里ちゃん。」
あすかさんが駆け寄ってくる。
「マー君も、教え方、良い感じだぞ。」
咲姉ちゃんも、それを見てこちらに向かって来ていた。
そうして、あすかさんと、咲姉ちゃんは、僕と樹里さんが持っていた浮き輪を、貸したり、借りたりして、ニコニコと笑って、泳いで見せた。
樹里さんも、それに、負けないという、どこか闘志があるのだろうか。最後には、一緒になって、水の中で遊んでいた。おそらく、競泳というスポーツでは苦手かもしれないが、基本的な泳ぎ、ゆっくり進む動作であれば、樹里さんも対応できていた。
途中、昼休憩を挟みながら、写真撮影をしながら、湖水浴を満喫する僕たち。
昼休憩には、樹里さんが用意してくれたお弁当を皆で食べる。
「流石、樹里ちゃん。どれも美味しい。」
あすかさんはニコニコと笑っている。
「本当、すごく美味しい。ありがとう。」
咲姉ちゃんは樹里さんの方を向いて、ニコニコと笑っている。
「は、はい。ありがとうございます。」
顔を赤くしながら、樹里さんは頭を下げた。
お弁当の美味しさには、あすかさんのマネージャーの宮川さんも、太鼓判を押した。
「うん。これなら、一日、撮影が入っても大丈夫だね。スタッフさんとして、同行してもらって、正解。」
宮川さんはニコニコと笑っていた。
そうして、再び、湖水浴を楽しみ、日が少し、西に傾き始めるころ。
「そろそろ、終わりにしましょうか。」
宮川さんの一言で、浜辺に上がる僕たち。
「ふう。琵琶湖の水が気持ち良かった。」
あすかさんは何かをやり遂げたように、タオルで、身体の水を拭きとっている。
「本当ね。大自然のプールだわ。」
咲姉ちゃんも、うんうんと頷き、タオルを体に被る。
「すごく、楽しかったです。」
樹里さんはそうして、ニコニコ笑い、琵琶湖の水を大満足したような表情をする。
僕たちは、お互い、着替えを済ませ、再び、浜辺で落ち合う。
「うん、撮影もできたし、大満足。この調子なら、私が、出張とか、別の仕事で居なくても大丈夫そうね。そしたら。」
宮川さんはそう言って、僕に紙袋を手渡す。
「明日の衣装を渡しておきます。試しに、明日、一日、これを着てもらって、京都観光を楽しんで!!そして、その都度、写真の撮影をヨロシクね。で、一日終わったら、私に写真をデータで送ってもらえるかな。」
宮川さんはそう僕に説明する。
僕、あすかさん、そして、樹里さんと咲姉ちゃんはうんうんと頷く。
「はい。わかりました。よろしくお願いします。」
僕は宮川さんに頭を下げると。
「そんなにかしこまらなくても、夏休みだし、先ずは、観光を楽しんで。たまたま、関西の方に行くというから、少し、仕事をこなしてもらっただけだから。それに、この時間に京都に戻れば、一か所くらい、回れそうじゃない。」
宮川さんはそう言って、ニコニコ笑っていた。
僕たちは、宮川さんに改めて、お礼と、お疲れ様の挨拶をする。宮川さんもニコニコと笑って、挨拶を返してくれる。
そうして、宮川さんと別れ、僕たちは再び、湖西線に乗って京都へと戻る。
高架区間を走る湖西線。やはり、京都へ戻るときも、琵琶湖の水面がキラキラと太陽に照らされていた。