20.動物たち
旭川市内のホテルで目覚める僕。
この日は日曜日ということで、翌日は月曜、つまりは、今日の午後の飛行機に乗って、羽田に戻り、明日からは、再び学校に通うことになる。
弾丸の北海道での撮影旅行ではあったが、とても綺麗な花々に囲まれ、ものすごく充実したものであった。
朝食の会場に移動すると、もう既に皆が起きてきており。
「おはよう、マー君、よく眠れた?」
咲姉ちゃんがニコニコと笑って、声をかけてくれる。
「おはようございます。ハルさん。」
樹里さんも緊張気味だが、はっきりと挨拶をする。
「おはよう。」
あすかさんも昨日の撮影が充実していたのだろう、元気いっぱいだった。
「おはようございます。午後の飛行機までは時間がありますので、ホテルをチェックアウトしたら、旭川市の、人気スポット、動物園に行きましょう。」
マネージャーの宮川さんは今日の予定を提案してくれる。
旭川市の動物園、そう、旭山動物園だ。とても人気で、色々な動物と触れ合える場所だ。
宮川さんの提案に反対する者はおらず、そのまま朝食を済ませ、荷物をまとめ、旭山動物園へ移動することになった。
旭川市にある、旭山動物園。その名の通り、少し小高い丘の上にある。
旭川の駅から、バスに乗ると、平坦で広い道を進むのだが、旭山動物園が近づくと、急に坂を登る形になる。
「なるほど、だから、旭山なんですね。」
樹里さんも、急に坂を登っていることに気付く。
「本当だ。旭川の街が見渡せるね。」
あすかさんも樹里さんの言葉に気付き、バスの景色を見る。
「そうね。動物園が近づいているみたいで、少し楽しみ。」
咲姉ちゃんも、ニコニコ笑っている。
そうして、旭川駅での路線バスの終着、旭山動物園にたどり着いた。
早速、受付で入場料を払い、動物園の中へ。
「とりあえず、午前中はもぐもぐタイムのイベントがいくつかあるので、それを見ましょう。後は、飛行機までの時間の許す限り、色々な動物たちをパパっと見ましょうか。」
僕は皆にそう言うと、皆はうんうんと頷き、その予定で行くことにした。
携帯で、行われているイベントを調べつつ、どういう順番で回るか、計画を立てる僕。
海の生き物たちのもぐもぐタイムを見て、その後は、少し早めの昼食を食べつつ、園内を一周して、少し早めにここを出て、空港へ向かうことにした。
もぐもぐタイム。つまり、動物たちが餌を食べるところを見られるということだ。
この動物園のもぐもぐタイムが人気なのは、飼育員さんが、その都度説明をしてくれるということだろう。
早速、最初のもぐもぐタイムのイベントが行われるという、ペンギン館へ。
「かわいい。ペンギンさんだ。」
あすかさんがニコニコ笑って、ペンギンたちを見ている。
「本当ね。可愛いわ。」
咲姉ちゃんもうんうんと笑って、ペンギンたちを見ている。
「沢山の種類が居ますね。」
樹里さんは、動物園に居るペンギンを見ながら、色々と種類を数えている。
確かに、色々な種類のペンギンが居る。首もとが黄色くて、少し大きめなもの。
黒くて、目の下の毛の色が白いペンギン、また、目元にトサカのようなものがあるペンギン。
色々な種類のペンギンがここに居る。
そうして、飼育員さんがやって来て、もぐもぐタイムのイベントが始まると。
よちよち歩きで、餌を持っている飼育員さんの元に、集まって来た。
「よちよち歩きが、また可愛いのよね。」
咲姉ちゃんは、歩いてくるペンギンたちを指さす。
樹里さん、あすかさんもうんうんと頷きながら、笑っている。
そんなペンギンたちを写真に収める僕。咲姉ちゃんも、一緒に、写真を撮っていく。
ペンギンのもぐもぐタイムのスタートだ。
小魚をペンギンの口元に渡して、仲良く食べて行く、ペンギンたち。
それを写真に撮っていく僕たち。
飼育員さんは、ペンギンについて説明していく。
飼育されているペンギンの中で、いちばん大きいペンギンが、キングペンギン、王様ペンギンという。首もとが黄色い、種類のものだ。
いちばん体調の大きい、皇帝ペンギンと見間違いやすいが、体の大きさ以外にも、背中の羽毛の色だったりと違いがあるらしい。
その他にも、イワトビペンギン、フンボルトペンギンと色々な種類のペンギンの説明がなされた。
もぐもぐタイムが終わり、ペンギンたちは満足し終えると、今度は水の中へと泳いでいく様子が見られる。
僕たちも、移動し、今度は、ペンギン館の水中トンネルでその様子を見ていた。
水中を泳ぐペンギンの姿。
「自由で良いわね。」
「本当だね。」
咲姉ちゃんの言葉に頷く僕。
あすかさんと、樹里さんも、上を見上げて、うっとりしている。ペンギンたちの自由さに心を踊らされたのだろう。
続いてのもぐもぐタイムは、アザラシだ。
ここでも有名な、円柱のような水槽があり、アザラシの泳ぐ姿が、観察できる。
「こっちのアザラシちゃんたちも、自由に泳いでるね。」
あすかさんはニコニコ笑いながら、円柱の水槽を指さす。
「はい。有名な水槽ですね。動物園の紹介映像にも、ここが映ってました。」
樹里さんがうんうんと頷きながら、円柱の水槽を上下に泳ぐアザラシの姿に、感動している。
そうして、水中でのアザラシの姿を見終わると、今度は、陸に上がっているアザラシたちのもぐもぐタイム。ここでも、飼育員さんの説明があり、それを聞く僕たち。
ペンギンと同じく、アザラシの好物も小魚だ。
嬉しそうな表情で、食べて行く、アザラシ。
「いいわね。江ノ島の時も、アザラシは見たけど、こっちも、元気そうね。」
咲姉ちゃんはうんうんと頷き、にっこりと笑う。
「そうですね。江ノ島の時も、見ましたね。」
樹里さんも咲姉ちゃんの言葉に、うんうんと頷く。
しかしながら、餌を食べる瞬間は、この旭山が初めてだろう。興味津々で、飼育員さんの説明を聞いていた。
そうして、海の生き物のもぐもぐタイム、最後を飾るのは、白クマだ。
白クマこと、ホッキョクグマ。白くて大きな巨体が、僕たちを出迎える。
動物園で飼育されている、ホッキョクグマは比較的おとなしい個体が多いのだろうか。おとなしい目で迎えてくれる。
ここでも、飼育員さんの説明がなされる。
やはり、普段は肉食で、襲われたら怖いらしいが、ここに居るクマは比較的おとなしい性格であることが伝えられる。
しかしながら、巨大な身体で、豪快に食事をする彼ら。もぐもぐタイムには、魚が何匹も配られるのだが、魚は全て、水中に投げ入れて配られる。そしてそれを。
バッシャーン!!と大きな音を立てて、豪快に水中にダイブして、食事をするホッキョクグマたち。
「すごい!!」
目を丸くして驚く、あすかさん。
「うわぁっ。」
樹里さんは水しぶきに少し驚く。
「きゃあ!!」
咲姉ちゃんも、樹里さんと同じく、その様子に驚いていた。
海の生き物中心に、もぐもぐタイムのイベントを見た僕たち。
他にもあるのだが、時間が差し迫っているため、イベントじっくり見るのはここまでにして、後は、園内を一周する形で楽しんだ。
先ずは、エゾシカの森と、オオカミの森という施設。放し飼いに近い形で、エゾシカと狼を飼育しているのだそう。
木陰で水浴びをしている様子、親子と休んでいる様子が観察できた。
「自然体に近い形ですね。こうやって生息しているんですね。」
樹里さんはニコニコと笑って、その様子を見ていた。
確かに、ここは北海道の森のような形をしており、自然体に近い形で飼育されていた。
他にも、トナカイやチンパンジー、そして、猿山で元気にたむろしている猿たちを見て、園内を回る。そして、何といっても皆で楽しめたのは、こども牧場と呼ばれるところだろう。
牧場。ということで、うさぎやモルモット、ヤギ、ヒツジと、牧場と言えばこの子たちという動物たちを展示されているのだが。
実際に触れることもできるのだ。
「可愛い。」
樹里さんが顔を赤くして、ニコニコ笑っている。
「ふふふっ、樹里ちゃんも、もふもふに目覚めちゃったわね。この子たち、可愛いわね。」
咲姉ちゃんもそんな樹里さんを見て、一匹のうさぎを抱きかかえて、嬉しそうに笑っている。
「ふふふっ、みんな可愛いので、私も。さあ、ハルさん、写真撮って。」
あすかさんも負けじと、一匹野うさぎを抱き寄せて、こちらに向かって、写真を撮るように合図を送る。
それを逃さないで、シャッターを押す僕。
ニコニコ笑いながら、動物たちに囲まれる、三人の姿があった。
そうして、おそらく、いちばん長い時間、この場所に立ち寄った後、アフリカのサバンナに生息している動物たち、キリンや、カバを見て、旭山動物園を短い時間ではあるが、一周することができた。
「ふふふっ、動物たち、みんな可愛かったわね。」
咲姉ちゃんが笑顔で言う。勿論、咲姉ちゃんのカメラにも、動物たちの写真がしっかり納められていた。
「はい。また来たいです。」
樹里さんがうんうんと、頷いていた。
「私も、また北海道に来てみたいな。」
あすかさんがそう言って、ニコニコ笑っていた。
「皆さん、楽しんで頂いたみたいで、何よりです。」
同行してくれた、あすかさんのマネージャーの宮川さん。改めて、宮川さんにお礼を言って、動物園を出る。
その後は、簡単に昼食を済ませて、旭川空港へ。
「ふうっ、楽しかったわね。」
咲姉ちゃんがニコニコ笑っている。
「はい。北の大地は魅力がいっぱいでした、他の所も行ってみたいです。」
樹里さんも終始笑顔だった。
「皆さん、本当に、ありがとうございました。撮影旅行が皆さんと一緒にできて、嬉しかったです。」
あすかさんは、同行してくれた、僕たちに感謝の言葉を言う。
「こちらこそ、本当に、ありがとうございました。」
僕は改めて、あすかさんと、マネージャーの宮川さんにお礼を言った。
「お礼を言うのはこちらです。今後とも、糸崎あすかの撮影スタッフとして、お手伝いいただくと思いますので、どうぞ、よろしくお願いします。」
宮川さんはニコニコ笑って、僕たちに頭を下げるのだった。
そうして、空港のカウンターで、帰りの飛行機をチェックインする僕。
荷物を預け、保安検査場をくぐり、飛行機に乗り込む。
滑走路から離陸する飛行機。
こうして、僕たちは北の大地に別れを告げて、東京の羽田空港へと戻って行くのだった。