11.テニスコート
いくつものカーブがある峠道を越え、バスは群馬と長野の県境を越え、全国有数の避暑地、軽井沢へとやって来た。
碓氷峠を登り、標高は大分上がったため、五月の最後の週末でも少し肌寒く感じる。
「かなり気温が激しいわね。流石は避暑地と、高級別荘地ね。」
あすかさんは持っていた上着を鞄から取り出して羽織る。
同じく樹里さんも、少し寒いのか、リュックから上着を取り出す。
僕は、上着を着るまでではなさそうと判断し、長袖のシャツのボタンをしっかり閉めた。
軽井沢の到着は夕方ということで、周辺散策とテニスは明日実施することにして、今日は、全国でも有数の、駅前のアウトレットにやって来た。
「すごい。有名なので、噂では聞いてたけど。いろいろありそう。」
樹里さんがうんうんと笑って頷きながらこちらを見る。
「はい。僕も見るのは初めてですけど、かなり広くて、色々ありますね。」
僕はそう言いながら、アウトレットの敷地内を見回す。
実際にアウトレットの敷地はかなり広く、色々なものがありそうだ。しかも、あすかさんと樹里さんの、女性二人が同行しているので、色々なお店を楽しんで、見て回れそうだった。
あすかさんと樹里さんは、早速、私服が売っている可愛らしいお店を片っ端から覗いている。
しかし、お店を案内しているのはあすかさんのようで、樹里さんはあすかさんの説明に興味津々に聞いている。時々、樹里さんの好みに合いそうな服が出てきたときは、目の色をキラキラさせて。
「この服、可愛いです。」
と喜んでいた。
「良かった。このお店にも樹里ちゃんの喜んでもらえそうなものがあって。」
あすかさんはニコニコ笑いながら、樹里さんに、色々な洋服、色々なお店の品ぞろえに関して、説明していた。
流石は、大人気グラドル。ファッションに関しても、敏感なのだろう。
勿論、あすかさんは、僕の、男性用の服に関しても説明してくれる。
「ハルさんも、こういうの似合うんじゃない?」
あすかさんはそう言いながら、いくつか商品の服を見せてくれる。
僕はニコニコ笑いながら頷く。
「皆と知り合って、色々な所に行くから、動きやすそうな服があればなぁ。」
僕はそう言いながら、あすかさんに提案すると、彼女は、そう言う服をいくつか見繕って持ってきてくれるのだった。
勿論、ショッピングに来たわけではないので、特に買わずに見るだけだったが、アウトレットでの散策を大いに楽しんだし、あすかさんの説明はものすごく参考になった。
そうして、アウトレットの散策を終え、今日のホテルにチェックインして、今日一日の疲れをいやす僕たち。
さすがに、今回は、ホテルの部屋で水着撮影会、というわけではなかったが、流石は軽井沢。ホテルにある中庭もどこかオシャレな雰囲気で、その背景をバックに、色々なポーズをして、写真を撮らせてくれる、あすかさんと、それにつられて、一緒に色々なポーズを真似して、僕の写真に入ってくれる樹里さんの姿があった。
「まあ、本格的なグラビアの撮影は、明日、テニスコートの中で。ねっ。」
あすかさんの言葉にドキッとしてしまう。
確かにスポーツウェアで、色々な撮影をしている、グラドルを見たことがある。勿論、あすかさんの動画でもだ。
その言葉に期待を膨らませながら、湯船につかり、ベッドの中で眠りにつく僕。
そうして、朝になり、朝食を済ませて、本格的に軽井沢の散策へと出かけていく僕たち。
先ずは、午前中のうちに、軽井沢の奥の方の自然のエリアへ。
軽井沢駅から、バスに乗って、一気に山の中へと入っていく。
バスの車窓には、本州では標高の高い場所に多く生息している、白樺の木が見える。
白い樹皮が特徴の木で、その白樺の木が至るところに生息しているようだ。
「綺麗ね。これが白樺の木かぁ。」
あすかさんはうんうんと頷く。
「はい。私も、写真でしか見たことが無かったので。」
樹里さんも、バスの車窓から流れる、白樺林に興味津々のようだ。
そうして、白樺の木と、いくつかのブナの木、そう言った山の林を見ながら、三十分ほどで、白糸の滝、と呼ばれる場所に到着する。
「自然がいっぱいね。やっぱり、山の方に来たなら、こういう場所も楽しまなくちゃね。」
あすかさんが僕たちにそう微笑む。
「はい。山の中の、新緑の季節、すごく素敵です。」
樹里さんも、うんうんと笑う。
「はい。こうした、マイナスイオン浴、というのですか。それもいいですよね。」
僕はそう言って、山の中を、二人を先導するように歩く。
やって来た自然の中にある、白糸の滝。
横幅に長い、白糸の滝は、自然で出来た、水のカーテンだ。
「水のカーテンみたい。」
同じように思ったことを樹里さんは言う。
「本当ね。すごいわ。」
あすかさんもうんうんと頷き、笑っている。
少し山の中を散策し、再び、軽井沢駅行きのバス乗り場へ戻る。
再び、バスに乗って、次の目的地、軽井沢駅の少し北側、お店が立ち並ぶ、旧軽井沢へ。
いくつかお土産屋さんが沢山立ち並ぶが、先ずは、テニスコートが先だろう。
予約していた開始時間が迫ってきているので、そちらに向かう。
お土産屋さんが立ち並ぶ、メインストリートから、少し外れると、沢山のテニスコートが立ち並ぶ。
ここが噂の、上皇ご夫妻が出会った場所である。一時期は、それで、テニスがブームになった時代もある。
「少し待っててね。」
あすかさんはそう言って、テニスコートの事務室らしい場所に入っていく。
この場所は、上皇ご夫妻が出会った場所でもあるし、皇室の方もテニスを楽しむ場所。さらには、別荘地ということもあり、会員制ということだそうだ。
そして、どうやら、あすかさんのご両親、およびその親戚の何人かにテニスが好きな人が多く、ここの場所の会員であり、今回、あすかさんがその人たちのツテで予約をしたようだった。
それ故に、あすかさんが、テニスラケットを多めに持ってきて、僕たちに貸してくれたのだった。
あすかさんが大人気グラドルであるように、彼女の両親も、芸能関係の仕事をしているという。ただし、表立った仕事ではなく、裏方の衣装やメイク関係ということだそうだ。
だから、彼女もグラビアを目指すきっかけの一つがそれだったという。それを見て、可愛くなりたいと、先日の箱根でのロマンスカーの車内でそう語っていた、彼女の姿があったのだ。
因みにだが、ここのテニスコートは、オフシーズンや、大きなイベントのない日であれば、会員でなくても借りられるようで、今日も会員でなくても借りられる日のようだったが、念には念を入れて、あすかさんがツテを頼って予約してくれたようだった。
「さあ。お待たせ、確認できたわよ。更衣室はあっちね。着替えて、合流しましょう。」
あすかさんがニコニコ笑って、更衣室に案内してくれた。
そうして、僕は男性用の更衣室で、テニスのウェアに着替える。
白ベースのウェアだが、腰の両サイドに、黒いラインがプリントされているウェアだ。
そうして、更衣室を出て、待つこと数分。
「お待たせしました。ハルさん。」
「お待たせ。」
女性用の更衣室から、二人が出て来た。
その瞬間にドキッとしてしまう僕。
あすかさんは流石グラビアアイドル。撮影に使われるようなテニスウェアで、かなりセクシーな感じがする。
白ベースで、ピンクのラインが入っており、胸元も大きく開いており、少し角度を変えれば、谷間が見えてしまいそうな、そんな服だった。そして、勿論下は、ミニスカートで、少しドキドキしてしまう。
樹里さんの方も、白地に、水色のラインが入ったテニスウェア。眼鏡を外して、ものすごく美人顔の樹里さん。あすかさんと同じく、角度を変えて見れば、谷間が見えてしまいそうな感じだった。そして、勿論、彼女もミニスカートを履いていた。
「それじゃあ、思いっきり楽しみましょう。準備は良い?」
あすかさんの言葉に、僕と樹里さんは頷く。
そうして、予約したコートの中へ。
日曜日なのだが、どうやら他の客は、僕たちを除いて、二組くらいしかおらず、余裕をもってテニスがプレーできそうだった。
「折角来たし、先ずはね。」
そう言って、あすかさんは僕のカメラを指さす。撮影の準備は良いかを聞かれ、僕は頷く。
そうして、あすかさんはグラビア動画のスポーツシーンにあるようなポーズをいくつかとっていく。
そして、樹里さんもそれに加わるように促し、あすかさんに習って、ポーズを取っていく。
樹里さんの表情も笑っていた。
そうして、一通り、記念撮影ならぬ、グラビア撮影が終わると、いよいよ、テニスの練習と試合が始まる。
テニスのボールをよく見て、ラケットで打っていく僕。
「そうそう、うまいじゃん。」
あすかさんは、テニスの経験者である、ご家族が居るためか、以前からやったことがあるのだろう。動きが様になってきており、僕たちに色々教えてくれる。
そうして、試合なのか、ラリーなのかわからないが、テニスの打ち合い合戦で汗を流していく僕たち。
途中で交代を繰り返しながら、ボールを打っていく。
僕が休憩をしている時間は、カメラを回して、あすかさん、樹里さんのユニフォーム姿のグラビアを撮影していく。
テニスボールを追いかけ、コートを走り回る、あすかさんと樹里さん。
そんなひたむきに頑張る二人の姿を撮影していく。やはり、下半身部分がミニスカートだからだろうか。動く度に、スカートがひらひらと動いている。
そのひらひらしたスカートの動きも写真に収めないと思い、タイミングを狙いつつ、シャッターを押す僕。
そんなことをカメラに収められているとは気にしていなさそうな表情をする、あすかさんと樹里さん。彼女たちは、必死にボールを追いかけている。
そして、樹里さんも、あすかさんが教えてくれたおかげで、動きが段々と良くなってきた。
行ってみれば、ボールを追いかけて、ラケットで打つというシンプルなものだから、ルールも分かり易いのだろう。運動が苦手そうな樹里さんも、後半はニコニコと笑って、プレーが出来ていた。
そうして、あっという間に、三時間ほど時間が過ぎる。
そう、つまり、予約していた時間が終了しようとしていた。
「ふうっ、楽しかったね。」
あすかさんはニコニコ笑って、ラケットを片付けるん。
「予約、本当にありがとうございました。すごく僕も沢山、身体を動かすことができてよかったです。」
僕はあすかさんに頭を下げる。
「はい。私も。」
樹里さんもニコニコと笑って頷く。
「そう、よかった。私も、テニスはすごく久しぶりだったからよかった。皆と仲良くなった時、このコートを予約しようと思って、正解だった。」
あすかさんはニコニコと笑って、親指を立てていた。
樹里さんと、あすかさんの身体には、汗が染みこんでいる。そこも、カメラのシャッターを押すと、とても絵になった。
しかしながら、シャッターを押した絵で見るよりも、その汗が染みこんだ、身体を生で見る方が、何だろうか、今はドキドキする。そして、何よりも、一緒に楽しめた僕の姿がここにあった。
そうして、僕たちは着替えを済ませ、事務所にコートの使用が終了した連絡をして、旧軽井沢のメインのストリートへ向かった。
ここからは、お土産の購入の時間。
僕たちは、旧軽井沢の色々なお店を巡るのだった。