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10.中山道の関所へと

 

 ネトゲのパーティー、第一回オフ会、箱根温泉旅行から、三週間後の、五月最後の週末。

 再び新宿駅へと集合する、僕と、樹里さん、そして、あすかさんの三人。


「おはよう。そして、みんな、中間テストお疲れ様。」

 あすかさんの挨拶。


 そう、この三週間の間に行われた大きなイベントは、学校の中間試験だろうか。僕のテストの結果はそこまで悪くなく、上から数えた方が早い方の順位に収まっていた。

 それも、第一回のオフ会のお陰だろう。それが無ければ、入部テストの一件をいつまでも引きずり、高校入学後の最初のテストはものすごく悪い結果でスタートしていたに違いなかった。


 そして、この中間試験は樹里さん、あすかさんの通う高校でも行われたようで、その試験が終わった五月最後の週末に再びオフ会、兼、鉄道旅行をすることになった。


 テストの結果を共有する僕たち。あすかさんはどうやら、成績は下から数えた方が早い方の順位にいるらしく、悩んでいるらしい。

 そして、樹里さんはというと。勉強家なのだろう、英語、数学の二教科で満点、学年で三番という順出だそう。

 これには僕とあすかさんも驚き。


「すごいわね。樹里ちゃん。」

「すごいですね。」

 あすかさんと僕はものすごく驚いていた。


「まあ。一度のめり込んだら楽しいので。勉強もつい。」

 樹里さんは顔を赤くしながら笑っていた。


 そんな会話をしながら、新宿駅のJRの改札をくぐり、湘南新宿ラインの乗り場へ。この週末の行き先は、北関東の方へ足を向ける。

 前回が箱根ということもあり、今回は、東海道ではなく、中山道の関所跡の方へ向かう。


 碓氷峠を抜け、行き先は軽井沢だ。上皇ご夫妻が出会ったというテニスコートを予約し、テニスをしに行こうというものだ。

 現に、あすかさんの手元には、僕たち全員分のテニスラケットが入っているケースがある。


 勿論、軽井沢に行くまでの道中の計画は僕が練った。

 先ずは、一日目、横川の鉄道文化むらを訪問して、そこから、バスに乗り、軽井沢を観光しつつ、宿泊し、明日、テニスを楽しもうという予定だ。


 そして、往路に関しては、新幹線を使わず、横川まで、各駅停車で旅をしてみようという計画である。

 というわけで、早速、群馬県へ行く、高崎線直通の湘南新宿ラインに乗り込む僕たち。


 但し、乗り込む前に、ホーム上で、それぞれのICカードに、普通列車のグリーン券の情報を書き込んでいく。


「へえ。ものすごく便利、何だろう、普通列車のグリーン車の話は聞いていたんだけど、乗り方がイマイチわからなかったのよね。」

 あすかさんは僕に向かって、そう言って頷いている。


「はい。私も、気軽に乗って良いのかな、なんて、迷ってました。短い区間でも、普通列車のグリーン車に乗っている人居ますので。よく、そんな気軽に乗れるなぁなんて。他人事みたいに思ってました。」

 それは樹里さんも同じのようだ。


「僕も、最初は判らなかったし、ハードル高かったですけど、慣れてしまえば、便利です。むしろ、新幹線より、北関東、群馬とか、栃木とかに行くなら、これが一番便利だし、一番いい方法だと思ってます。」

 僕はそう言って、二人に同情して頷いた。


 そうして、僕たちは、高崎線直通の湘南新宿ライン、そのグリーン車の車両に乗り込む。


 東海道線、横須賀線、そして、北関東へ向かう普通列車には、全てグリーン車が増結されている。

 最近は中央線にもグリーン車が導入され、快適性や、着席需要というのだろうか、そういうものが一気に高まっている気がする。


 そして、普通列車のグリーン車は、二階建て構造の車両が二両連結されている。


 東京近郊を走る、普通列車のグリーン車は、グリーン券を購入すると、座席が指定されるというわけでではなく、好きな所に座れる仕組みなのだが、二階部分は途中駅から乗ると大体満席に近い状態だ。


 しかしながら、新宿からだと、丁度、客が入れ替わるらしく、僕たちは、運よく二階建て構造のグリーン車、その二階部分に着席することができた。

「良かったわ、二階部分が空いていて。本当にいい眺め。」

 あすかさんはそう言いながら、二階からの眺めを楽しんでいる。


「うん。いつもより少し景色が面白いかも。」

 樹里さんがうんうんと頷く。


 電車は新宿を発ち、北関東へ向けて一気に加速する。

 池袋、赤羽、そして、荒川の橋梁を渡り、埼玉へ。このあたりから、この電車は、湘南新宿ラインではなく、高崎線と呼ばれるようになり、終点の高崎まで各駅に停車していく。


 埼玉の街の中を抜ける、高崎線の下り列車。

 大宮辺りまでは大体、東京の通勤圏内。沿線には、マンションが多く立ち並んでいる。


 そうして、車窓の右も左も線路が増えてくる。この線路が増えてくると、大宮が近づいてくることがわかる。

 右の車窓には、上野方面へと抜ける電車だけに設置されている、さいたま新都心駅、そして、左の車窓にはさいたまスーパーアリーナが見えてくる。その間を抜け、電車は大宮へ。


 埼玉県の交通の要所、大宮、色々な電車が行き交う重要な拠点だ。

 その大宮を出ると、いよいよ高崎線へと入っていく、先ずは宇都宮線と別れ、鉄道博物館を横に見て、川越線と別れて、高崎線の区間へ。


 埼玉県のいくつかの街を抜け、やがて荒川の土手の壁が迫ってくるのが確認できると、埼玉県の北部の拠点。熊谷へ。


「聞いたことある。日本で一番暑い街って。」

 樹里さんがうんうんと頷く。

「そうね。プールとか入ってみたいわね。夏に。」

 あすかさんがニコニコ笑っている。


 プール。夏。それをあすかさんの口から出てきたことで、僕は思わずドキッとしてしまう。


「まあ、それはそうですけど、内陸は、夏と冬の気温差が大きいんです。冬はものすごく寒いですよ。」

 僕はそう言いながら、笑っている。


「あっ、確かに冬は、寒いかも‥‥。」

 少しドキッとしてしまうあすかさん。


 そんな感じで、日本一暑い町と言われる、熊谷を発車。

 列車は次の籠原で、前方の増結車両を切り離す。高崎線内はここから北は十両編成が基本。終点の高崎まで十五両で行きたいが、ホームの延長工事が難しい駅も存在することもあり、なかなか難しいのだ。


 そうして、しばらく籠原に停車し、深谷市へ。渋沢栄一誕生の地、ということで旗が立っている。


「最近人気だよね。新しい一万円札もあって。」

 あすかさんが、その一万円札を広げニコニコと笑っている。

 見ているこっちも嬉しくなる。


 埼玉県の北部を抜け、埼玉、群馬の県境、神流川を渡る。この川はもう少し、東に進むと利根川と合流して、太平洋へ向かう。


 そうして、この電車の終点、北関東の交通の要所の一つ、高崎へ。

 山越えの準備の街。昔の人は、ここから、信濃へ行くにも、越後へ行くにも山越えは必須。ここで準備を整える。


「群馬県は、県庁所在地を間違えそうね。いつも、高崎で覚えてた。」

 あすかさんはニコニコ笑う。

「私もです。四十七都道府県で最後に県庁所在地を覚えた県が、群馬県でした。」

 樹里さんもうんうんと頷く。

「恥ずかしい話、僕もそうです。特に鉄道好きだと、高崎行、新幹線も高崎の停車がほとんどなので。」

 僕の言葉に樹里さんとあすかさんも、納得の表情。


「実は、県庁は昔、高崎にあったそうです。県庁に使用する用地が狭いと言うので隣の前橋になって。そのままという形だそうで。」

 僕は二人にそう説明する。二人もうんうんと頷いている。


 この高崎から信越本線に乗り換える。

 短めの編成の電車、しかし、車両はかつて、高崎線、東海道線を走っていた、211系車両。


「この電車も昔は、東京を走ってました。」

 僕はニコニコ笑いながら説明する。二人はうんうんと頷きながら、信越線の車両に乗り込む。

 列車は高崎を出発。高崎市内の小さな工場の群れを車窓に映りながら、鉄橋を二つ渡って、安中市へ。

 安中駅の目の前には巨大な工場が、山の上まで、広がる。東邦亜鉛の工場だ。

 信越線の撮影スポットはまさにここ、この東邦亜鉛の工場をバックに撮影をすることが多い。


「すごい工場。」

 あすかさんが、その要塞のように広がる工場を見て驚く。

「うん。私も凄く驚いてる。」

 樹里さんが大きく頷き、こちらも興味津々で、東邦亜鉛の工場を見ているようだ。


「これが信越線ですね。ここのあたりが、この線の撮影スポットの一つです。この工場をバックに電車を写します。」

 僕はそう説明する。二人は大きく頷く。確かに映えそうという表情だろうか。


 安中を発ち、東邦亜鉛の工場に別れを告げる、それは、今まで車窓に映って来た、群馬の中小企業の工場の群れに別れを告げることでもある。


 ここから一気に中山道の難所、碓氷峠に向けて、勾配を登っていく。

 群馬の温泉街の一つ、磯部を抜けると、車窓には、群馬の有名な三つの山の一つ、妙義山が現れる。


「なんか、岩山みたいな感じね。」

 あすかさんが僕にそう問いかけてくる。


「妙義山、上毛三山、群馬の有名な三つの山の一つですね。三つの山の中で一番標高は低いですが、登山はいちばん難しいと言われています。それが、この岩山ということでしょうか。鎖を持ちながら、大きな岩を登っていくことになりますので。」

 僕がそう説明すると、二人はうんうんと頷く。


 そうして、列車は終点の横川へ。

 そのまま改札を出て、この週末のオフ会、一日目のメインのスポット、鉄道文化むらへ。駅と直結しているのが嬉しい。


「色々、電車が展示されているわね。私たちも見てて、面白そう。」

 あすかさんがニコニコ笑いながら、辺りを見回している。

「本当、色々な電車があるね。ハルさん、楽しそう。」

 樹里さんが笑っている。


 僕たちは時間の許す限り、展示している車両をバックに写真撮影をした。

 勿論、樹里さんとあすかさんを写して。鉄道は勿論のこと、興味を示してくれる二人の表情はものすごく絵になった。


 その後、色々な体験をする僕たち。

 園内を一周する、あぷとくん、と呼ばれる蒸気機関車に乗車し、園内の景色を見渡す。

 その後は、信越線の旧線を使用したトロッコに乗って、日帰り温泉施設へ。

 風を感じながらのトロッコ列車の旅は、あすかさんと樹里さんにとって大満足だったようだ。

「外の風を感じながら、のんびりできて良いなぁ。」

 あすかさんはニコニコ笑いながら、直接触れることができる外の景色を楽しんでいた。

 同じように樹里さんもうんうんと笑っている。


 碓氷峠の山々を見ながら、温泉に浸かる僕たち。

 さすがに、男湯、女湯で別れていたが、お互いに温泉を満喫したようだった。


 そうして、次は、昼食を済ますわけだが、昼食は勿論、横川名物、峠の釜めし。全国で、もっともよく知られている駅弁の一つ。


 僕が横川駅であらかじめ買っており、群馬の自然を見ながら、温泉施設のラウンジで釜めしを食べるのだった。


「美味しいわね。」

「本当ですね。駅弁、久しぶりに食べたかもです。」

 あすかさんと樹里さんはそう言ってニコニコ笑っていた。


 そうして、再び、トロッコ列車に乗り、横川駅へと戻る僕たち。


「さあ、ここから本格的に山を越えて行きます。」

 僕の案内で、バスに乗る、僕たち三人。


 いよいよ、中山道の難所、碓氷峠を越え、避暑地、そして、高級別荘地として知られる軽井沢へと向かうのだった。








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