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紫崎  作者: 涼原 一生
5/5

5話

 元生徒会メンバーである倒炎街羽、海原トウマ、真栄城ハイク、彼らの襲来があった日…。


「ようは好き勝手していた訳だ」

「ぐっ」


 龍織が指摘すると真栄城は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「まさか!ハっさんは南や丹辺とつるんで俺達よりも」

「海原くん黙ってください」


 彼らの仲は良さそうだと分かった。


「私の伝えたいことは2つ」

「ひとぉつ!!」


 倒炎さんが殴り飛ばされた。頭から打って流血しているように見えるが…まぁ大丈夫だろう。


 真栄城さんは宵華兎並のフィジカルを持っていると確信した。


「…活動を再開するなら我々にも協力、及び監視させること」

「監視?」

「帳簿を付けるのは得意なので」


 いまいち意図が汲み取れない。まあ不安要素があるのは分からなくもない。


「私は几帳面なので、仕事を取られるのが嫌なだけです。その他の意図はございません」


 どうやら違ったようだ。栓をするように思い違いを咎められた。


 会話をしていたのは俺だが、宵華兎がその言葉を如何ように受けとったのか気になるーーー



 それにしても…


「山中さんみたいだったね!」

「確かに、私似でした」


 日は土日を挟んで月曜日。


 思えば容姿だけでなく語り口まで似ていた。十人十色と言うが似た色という訳ではない。


 問題は……


『2つ目は素質』

『生徒の代表として?』

『そうだ』


 宵華兎の思考と…


「そうだ涼原!今日は3-Bに行こう!」

「真栄城さんのいるクラスか…」


 行動原理だ。

 


 3-Bに向かう途中。宵華兎が用を足してくると席を外したので廊下で待っていた時のこと。


 とある生徒が声をかけてきた。


「噂のウサギの尻尾…ですか」

「は?」


 思わず声が出た。ウサギの尻尾?


「失礼しました、自分1-A所属、一ノ宮闇無と言います」


 なんだ、丁寧な後輩じゃないか。


 相応の返事をすると、宵華兎の噂を聞き同胞かもしれないと言う要件で尋ねてきた。


 うん、まるで意味が分からない。3年の階に1年生がいるのも、言っている意味も。


「どうしたの一ノ宮さん」

「神門殿」


 ん?どういう関係なのだろう。


「あれ、もしかしてウサギ先輩ってやつの?」


 俺が声をかける前にあちらから反応してくれた。それが不幸か幸運か、当時の俺には分からなかった。


 ただ分かるのは、1つ変わることの無い未来への道を進み始めたことだ。


「如何にも、知り合いでなさいましたか?」

「宵華兎が前に…」


 以前彼女を追っていた時の宵華兎は、どこか様子がおかしかった。真に迫るような、渇望していたものを見つけたような。


「いや、何でもない」


 できる限り忌避すべき未来は予想している。何よりも宵華兎の手がつけられなくなることだ。人として。


 俺の知っている限りこの学園は問題児だらけ、宵華兎がより生徒と関われば、余計な知識を得てしまうことを既に体験している。


 昨日やってきた妙な色仕掛けは明らかに恋糸さんの受け売りだし、山中姉妹と関われば民族儀式のような組体操を披露する。


 現段階でまともなのは龍織さんだが、それもいつまで持つか…。昨日似た心境を共有していたのを皆確認している。龍織さん側が距離を取ってくれればいいのだが、そう上手くいかない気がしてならない。



 月毎の定例会議があるという話を聞いたのは月曜日、3-Bで真栄城さんと会った日だ。そして今週末金曜日に会議があると教えてもらった。


「なにそれおいしいの?」


 宵華兎はよく分からない。と言った顔で生気が抜けていた。


「各委員長と顧問が集まり、大まかな資金や今後の方針など、情報共有を計る場です。参加しない生徒の方が多いですが」

「ふぅん」


 あの日の宵華兎も様子がおかしかった、神門さんを追っていた日と同じ感じ。


 歯の間に食べカスでも挟まっているのかと聞いたら晩に歯磨きをさせられた。やはり羞恥心が消えていると感じた。



 そしてどういう訳か宵華兎の代理で会議に参加した。場所はいつもと変わらず空き教室だった。


 どうやら元々生徒会室だったようで、全く目をやってなかったが、後ろの方で埃を被った布の下にはいくつかの鉄製の棚や細長い机、パイプ椅子が並んであった。


 教室の中央にそれっぽく準備すると、以外と生徒会室らしくなった。


 一応真栄城さんに宵華兎不在の旨を伝えると、心配ですから。と言われ出席してくれた。正直頼もしかった。


 俺と真栄城さんが扉の近い隅の席で待っていると、知らない顔が何人も入ってきた。


 まあ、いくら宵華兎に振り回されていると言えど、会ったことのない人はいるよな。


 出席してくれた人の名前は記録した。


 美化委員会委員長の護藤サイ、顧問は洛南ホツ。

 園芸委員会委員長の花園ユカリ、欠席した顧問の代理では無いだろうが、副委員長の花園ジュリが出席した。

 図書委員会委員長の馬叶ミツコ、顧問は馬叶さんに背負われてきた烏丸アキ。

 風紀委員会委員長は、同クラスの王葉宮レイカさんだった。顧問はいないそうだ。


 新生徒会が初回というのもあり、軽い自己紹介と今後のため会議の手ほどきをしてくれた。


 特に護藤サイ。唯一同じ空間にいた男性というのもあり、先輩後輩気にせず接してくれた。


「それでは、本日の会議はここまでにします」


 そう告げた真栄城さんはまとめてくれた資料を渡すなり退席した。彼女も忙しいのだろう。


 誠意というやつか?自然と体は扉の脇に立ち、退室する方々に「またよろしくお願いします!」と言いながらお辞儀をしていた。


 それにしても宵華兎、今回が初回だと言うのに、あいつは何を考えているんだ…?


 若干の苛立ちと共に押印が必要な書類に目を通し、月額予算などの記載されている資料を確認しながら手を動かす。


 やってみると意外と目が疲れると感じながら作業を進めていると扉が開く音がした。


「…凉原くんお疲れ様です」


 いや、考えても無駄か。宵華兎の思考を読むことは難しい。俺は賢いから、この考えは破棄する。


「凉原先輩お疲れ様です!肩凝ってませんか!?」


 だとしても、今回俺を抜擢したのは少なからず信頼されているということか…?俺が?宵華兎に?


「おい凉原ー、先程の資料を」

「嘘をつけ」

「んぇ?」

「…護藤か」


 自分の中で1つ変わったことがある。この座に着いてから厳格な雰囲気を纏っている気がしてならない。


 この紫崎においては悪いことでは無いと思う。上級生だからと気を張る必要もなく、ただ"舐められない"ように振舞った方がよりそれっぽい。そう思ったのは元生徒会の方々と会った日からだ。


「ああ、準備不足だったなすまない」

「いや、謝ることはない。うん、確かに受け取った」

「それじゃ、俺はこれで」


 護藤はすぐに退室した。


 先程の会議での資料か。後で確認しよう。


「先輩、それは?」

「美化委員の資料、委員会の時忘れていたようで」


 いや、今目を通しておこう。定期報告の処理は早めに武南先生に通しておきたい。


「東棟前期中等部側花壇、Aまる。Bまる。Cさんかく。Dにじゅうまる」

「…読み上げなくていいよ?」


 先程から居たのは恋糸さんだった。何を考えているのか分からないことが多々ある。妨げというほどではないが、なんというかむず痒い感覚だ。


「恋糸さん、お手が空いてましたら備品整理を手伝っていただけませんか?」


 山中さんも気づいたらそこにいた。


 埃まみれだったこの部屋を放課後通いつめて清掃してくれていた。もちろん俺もやっていたが、彼女はかなり積極的に生徒会役員として活動してくれている。


 妹さんは部活動がメインだからと、今週は火曜と木曜に顔を出してくれただけだった。


「まだ来てないよ?」

「青黄さんも時期に戻られるはずです。脚立の準備をお願いします」

「はーい」


 恋糸さんは物置に姿を消した。同時に廊下側の扉を叩くような音がした。


「なんだ?」

「見てきます」


 山中さんはすぐに扉を開いた。


「うわっ!」


 それがいけなかったのか、青黄さんが荷物を抱えたまま倒れてきた。


「危ない!」


 ふにっ、とした感触が掌に乗る。非常に小さいが。

 そこそこ重なっていた荷物が床に散乱し、脚立を持った恋糸が戻ってくる。


「何の音ですか!?…て」


 恋糸が見たのは、転倒しそうな青黄の体を支える凉原、出遅れて変な体制で固まった山中。が動き出した所だった。


「大丈夫?」

「は、はい。それよりも…」


 テキパキと行動再開した山中が生徒会室の風紀を規定値に戻す。


「凉原くん、早くしてください」

「はい」


 散らばった備品を回収しようと青黄も手伝おうとするが…。


「あおぎざぁああん!」

「こ、恋糸、どうしたの?」

「ずるいよおおお!」


 一瞬、何のことか分からなくなったが、先日の恋糸の発言を思い出す。


「つ、次の備品運びの時やる?」

「う"ん"」


 今できる精一杯の気使いはこれくらいだった。



 資料を整理すべく、コピーした紙を携えて凉原は残業をするためファミレスに入った。


「はい先輩!あ〜ん♡」

「………………」


 無言で執筆や署名を続ける。勿論、宵華兎の印鑑を借りている。


「あ〜ん♡♡」

「………………」

「仕方ないなぁ…はいあげる」

「えへへ、仕事中なのに食べちゃった」

「てっ、宵華兎ぉ!何してんだぁ!!」

「アルバイト」

「恋糸さん!何与えたの!」

「ハンバーグ♡」

「その溶けたチーズみたいな語尾やめない?」

「え〜」

「…宵華兎、何時までだ?」

「あと7分34秒で終わるよ」

「細けぇこたぁ聞いてねぇんだよ」

「じゃ、後でごゆっくりどうぞ〜」


 別の従業員が様子を見に来たからか、一瞬で接客態度が豹変した。最初からやれ。


「なんで去り際だけまともなんだ…」

「先輩♡あ〜ん♡」


 食べればやめてくれるかもしれない。そう観念して差し出されたスプーンに乗ったハンバーグの欠片を頬張った。


 恋糸さんは嬉しそうに微笑んだ後資料に向き直ってくれた。



 武南姉妹には連絡した。多分、これから頻度も増える。カヨさんは心配するかもしれないが、この方が捗るという意見を尊重してくれている。


 週何回とか約束した方が安心してくれるよな…。


 なんて考えながら作業していると宵華兎が合流した。


「ウサギ先輩!私聞いてないですよ!」

「誰にも言ってないもの!」

「…バイトのことか」

「明日言う予定だったのよ、今日初日だし」

「は?お前ふざけんなよ」

「ん?」


 やば、素が出てしまった。


「聞かなかったことにしてくれ…」

「きゃ〜、ウサギ先輩!凉原先輩怖いです!」

「やめさせるね」

「マジトーン怖いから勘弁して…」


 3人で作業を進め、夕飯を済ませた時には21時を回っていた。



 帰宅してから冷静になった。正確には大浴場に浸かっていた時だ。


「今日初日って言っていたよな…」


 いつバイトの面接をした?そもそも話されていないよな?


「宵華兎、いるだろー?」


 無駄に広い大浴場には上が吹き抜けになっているコンクリの仕切りがあり、その向こうから宵華兎の声が返ってきた。


「んぁーーー」


 気の抜けた猫みたいな声だ。


「バイトの面接いつしたんだー」

「きのーー」

「昨日!?」


 翌日出勤ってマジか。いや、色々おかしい。


「今日会議って知っていたよな!?」

「涼原いるからいいかなーーって」


 こ、この野郎…。


「俺は穴埋めしないからな!絶対しないからな!」

「えーーーーー」


 先に荘へ戻った。



 さて、土曜日だ。


 時計など何も確認せず、顔を洗うため階段を降りると管理人の武南カヨさんの時報が響く。


「おはようクロワッサン!」

「…おはようございます」


 彼女は毎朝6時から7時までリビングの前で仁王立ちしている。


 廊下を真っ直ぐ進めば彼女の胸に飛び込むことになるが、目的地は右に曲がればある。


「おはようと言っているだろう?」


 でた、コレだ。


 カヨさんは声が小さいとハグしてくる。なんでこうも年頃の男子を刺激してくるのだ。


 正直五月蝿いくらいだが、彼女のお陰で朝に強くなれている節がある。


 それと、お世辞にも豊満とは言えない体つきで、小学生高学年位の身長だから許せる……。口が裂けても言えないが。


 食事の席に着いても眠気が抜けないのは、さすが自分だと褒めることが多い。


「どうしたクロワッサン?失礼なことを考えている顔をしている気がするぞっ?」

「いえ、宵華兎と昨日少しあって」

「ふーん?」


 危ない危ない。食事を頬張っていると気が緩んでしまう。


 外室することで難を逃れた。



 紫崎学園は土日も解放されている。生徒教師、なんなら他校の生徒が遊びに来ることもある。


 大した理由はないだろうが、はっきり分かることは…


「オフサイドォ!」

「そんな訳ないだろ!」

「目腐ってんだろこのタコ!!」


 サッカー…。


「盗塁だ!!」

「ピッチャー何してんだ!」


 野球…。


「パス!パスパス!!おいいいい!!!」

「何やってんだ辛街ぃぃぃ!!」


 バスケ…。


「おい見えねぇぞ!」

「反復横跳びしてるだけじゃねぇのか!?」


 卓球…。


「ぐはあ!!」

「ボールじゃなくてスイカ投げてるバカはどこのどいつだ!?」


 プール…。


「やっぱ面白いねー」

「正直、維持費を考える方で恐怖する」

「涼原いつもそれじゃん」


 あらゆるスポーツが出来て観戦席が用意できるだけの施設、それだけの敷地を有しているのが強みだろう。休日は近所の人々が集まり自由に遊んでいる。


 暴言と共にゴミなどを投げられる程度の治安の悪さ、これに目を瞑れば平和と解釈できる。俺はできない人種だ。


 観戦席ではっきり分かることは紫崎教員も羽を伸ばしているのを何度か見たことがある。


 サッカー観戦でもしようと思っていたが、宵華兎に遭遇したのが運の尽きだった。


「今日はどれに参加するんだ?」


 宵華兎は決まって何かで遊ぶ。この前はバトミントンのトーナメントで優勝していた。


 小学生も参加していたりで手を抜くかと思ったがそんなことは無かった。


 今日はサッカーにしたようだ。折角なので俺はベンチに座らせて貰った。


「おいおいおいおい」

「何だこの子!?」


 大人グループで1人足りないところに勢いだけで参加した宵華兎は嫌でも目立つ。普段と違い髪をポニーテールにまとめている姿は少しかっこよく見える。


 ぶかぶかのユニフォームが風を受けながら、1人敵陣にドリブルで入っていく。


「あまいね」


 糸目で細い体つきな男がカバーに入った。宵華兎はパスをせず1人で突っ切ろうと、必死にボールをキープする。


「こっち空いてるぞ!」


 左サイドに入った仲間がフリーだ。絶好のチャンスだが…。


「くっ…」

「大人しくっ、パスしな!」


 意地でも貫こうとする宵華兎のプレーは段々と上達しているように見えた。


 変わらず相手している彼が、何度足を出してもボールは抑えている。背を向けて絶対に渡さないぞという意志を感じた。


 同じ光景を10秒ほど眺めていた。互いの靴、足が徐々に砂にまみれていた。


 それどころかフェイントを繰り返すうちに、彼の方が苦悶の表情を浮かべ始めた。


 彼がタックルに切り替えたのはすぐだった。容赦のない攻撃だが、宵華兎は負けじと肩をぶつけた。


 しかし大人相手、競り合いで負けそうになり彼の足がボールに触れたーー


「えっ?」


 そう見えたのは俺だけではないとすぐに分かった。


 彼がグラウンドに倒れそうになるところ、ギリギリ受け身体勢になっていたのも、宵華兎が一瞬でドリブルを再開していたのも、皆動揺していた。


「なんだ?」

「何が起きたの?」


 ボールは…宵華兎の元にある。


「来てるぞ!」


 キーパーの声でディフェンスラインが宵華兎に集中したが、流れるように軽々と突破した。


「おいおい、なんだこの子!?」

「シューーーーーートッ!!」


 宵華兎は左足でボールを蹴った。狙いは向かって右ポストの方ーー


「は?」


 強烈なカーブがかかっていたのか、ボールは左側のネットに入っていた。


「やったーー!」


 んなアホな。


「意地になったな?」

「…すまない」

「相手が誰だろうと、本気なのはいいと思うぞ」


 糸目の彼の仲間との会話を聞き、宵華兎にアイコンタクトしてからその場を後にした。



 ふらついていると既に昼下がりになっていた。


 何となく2-Bに行くといつメンがいた…。山中姉、龍織、宵華兎…。もう何も言うまい。


「お、涼原くん久しぶり〜」

「黒沢さん」


 黒沢ミヤコ。陸上部の彼女は練習中なのでは…と思ったが、校則に則って諸事情に首を突っ込むのは止めておこう。


「顔に何か諦めたって書いているよ?」

「…まさか」


 何だか、周囲に見透かしてくる人間が多い気がする。気のせいだろうか。


 先に帰ると言った黒沢を除いて雑談をしていた。


「鍵閉めとけよ」


 そう言って扉を閉めた龍織が1分もしない内に戻ってきた。


「山中…まだいるか?」

「いるよ?」


 廊下で誰かと話をしているようだ。


「この子と話をしてあげて」

「…?うん」


 山中は先に帰るかもと言い残し廊下へ向かった。


 少し不思議そうな顔をしていた。龍織の口調がおかしいからか?それとも、俺たち誰も、龍織が連れていた女子生徒の事を知らなかったからか。


 入れ替わる形で龍織がこちらへ来た。


「アタシに礼もなしか」

「本人に言えばいいのに」

「…。私は貸し借りが嫌いなんだ」


 なんだ、単純な話だ。宵華兎にはまだ理解出来ないかもしれない。


「山中さんのこと、友達として認めたんだ」

「ちが、そういうんじゃねぇよ」

「?」


 宵華兎の反応は至って普通だ。自分で言うのもだが、龍織の性格が妙に理解出来るのは俺自身も変な感覚だ。


 1呼吸挟んで宵華兎に説明を始める。


「龍織さん自身が借りを作るのは今までも良かったけれど、山中さん本人にそれを言えないのは、彼女から龍織さんの考えを認めて欲しいから」

「おい涼原!」

「山中さんに借りを返して貰って、同じ考えを共有したい。…という龍織さんの小さな望みを、素直になれない性格が邪魔しているんだ」

「やめろって!」

「まあ、この程度のお礼にこだわるのは器の小ささというか、痛っ!!」

「そこまで言うか!?」


 平手打ち。左頬が中々に痛いじゃないか。


「言い過ぎた?」

「お前の性格の悪さが十分に出ていたさ!」

「簡単に言えば、素直になれないわがままを他人に委ねているという。なんとまあ相手本意だと思うよ」

「なるほど理解した」


 パチンと右頬に音がした。瞬間的に虫歯が出来たかのように内側まで痛い。


「私は応援しているからね」

「…宵華兎」

「さ、帰るわよ」


 宵華兎がカギをかけ、その日は帰宅した。

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